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ありえないワンシーン・ワンカットがある映画に注目!

2015年1月14日(水) 07:00配信

物語に没頭する。俳優の演技を見る。美術や衣裳に注目する......。映画をどの観点から楽しむかは人それぞれ。作品によっても気になるポイントは異なるだろう。とはいえ、撮影技法に注意を払う人はそれほど多くないのでは?

「映画は技術で作るもの。作り手にとっては、何を撮るかだけでなく、どう撮るかも勝負のしどころなんです」と言うのは、代官山 蔦屋書店シネマ・コンシェルジュの上村敬氏。今回は監督の個性が出やすいという“ワンシーン・ワンカット”を切り口に、映画の楽しみ方を伝授してもらった。

ワンシーン・ワンカットの効果とは?

映像作品におけるワンシーン・ワンカットとは、その名の通り一つのシーンを一つのカットのみで表現すること。たとえば二人の男女が会話しながら歩くシーンなら、通常は男の顔のアップ、女の顔のアップ、二人の全身を捉えたカットなど、様々なカメラアングル・位置から複数のカットを撮影し、編集でつなぎ合わせて一つのシーンを作るが、ワンシーン・ワンカットではシーンの最初から最後まで一台のカメラを止めずに撮影する。その結果、臨場感やライブ感が生まれ、スクリーンの前の観客はまるでその場をリアルタイムで目撃しているかのような感覚を味わえるというわけだ。

このワンシーン・ワンカット撮影は俳優の演技はもちろん、カメラや照明、録音、美術、ロケーションなどのうち一つでもズレが生じると成立しないため、高度な技術が必要とされる。その分、成功した時の効果は絶大で、溝口健二、テオ・アンゲロプロス、相米慎二、タル・ベーラといった古今東西の巨匠もそれぞれの映画の重要な場面で多用してきた。

ワンシーン・ワンカットで嘘をつく監督たちの野心とは?

今回、数ある「ワンシーン・ワンカットの名場面が出てくる映画」から上村氏が映画ファンにオススメするのは「ありえないワンシーン・ワンカットがある映画」。編集のマジックを使えないワンシーン・ワンカットは、現実に起こりうる出来事や現象しか描けないかと思いきや、「嘘をつく監督がいるんです」と上村氏は言う。

「本来ならカットを割らないとできないはずの表現をノーカットでやって見せ、観客をアッと驚かせる監督たちがいます。嘘をつくために使っている技術や、そのシーンをワンカットで見せる狙いは監督や作品によって様々ですが、共通しているのは映画の限界を超えようとする強い意思。現実にはありえないようなワンシーン・ワンカットは、監督の野心を最も感じられる場面と言っても過言ではありません」(上村氏)

コンシェルジュが選ぶ、必見のワンシーン・ワンカットがある映画7本

存在しないはずの者がいるワンカット

『雨月物語』(1953年/日本)

監督:溝口健二 出演:京マチ子、水戸光子、田中絹代、森雅之

上田秋成による江戸時代の怪談をモチーフに、欲におぼれる男と、男に翻弄される女の業を描いた名作。終盤、放蕩生活を終えて故郷に戻ってきた男が朽ち果てた無人の自宅に驚き、妻の名を呼びながら家の外を一周して再び中に入ると、そこには妻がいてあたたかい食事の用意をしている、という幻想的なシーンがワンカットで描かれる。「田中絹代演じる妻は実は死んでいて幽霊なのですが、現れ方がとても印象的。画面に出てきた瞬間、ゾクッとさせられます」

時空を超越するワンカット

『白夜』(1957年イタリア・フランス)

監督:ルキノ・ヴィスコンティ 出演:マルチェロ・マストロヤンニ、マリア ・シェル

恋人の帰りを健気に待ち続ける女性と、彼女に恋をした青年の淡く切ないラブストーリー。映画の大半が二人のやりとりで構成されており、ヒロインが青年に恋人との出会いを語り始めるシーンでカメラがパンすると、過去のヒロインと恋人が現れ、出会いの場面が再現される。現在と過去が違和感なくシームレスにつながるのは、屋外のシーンも含めて全編セット撮影の作品ならでは。

人間が落下する戦慄のワンカット

『回路』(2001年/日本)

監督:黒沢清 出演:加藤晴彦、麻生久美子

インターネットにつながった世界で人が次々に消えていくサスペンス・ホラー。麻生久美子扮するヒロインが飛び降り自殺を目撃する場面で、観客も落下の一部始終を目撃することに。「垂直に落ちて地面に叩きつけられる様があまりにもリアルで、トラウマになること必至。黒沢監督の映画はヒッチコック同様、人を怖がらせようとする悪意が感じられます」。該当シーンはモーションコントロールカメラを使って撮影。黒沢作品では他に『叫』の落下シーンも必見。

『父、帰る』(2003年/ロシア)

監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ 出演:コンスタンチン・ラヴロネンコ 、 イワン・ドブロヌラヴォフ 、 ウラジーミル・ガーリン 、 ナタリヤ・ヴドヴィナ

12年ぶりに帰郷した父と旅に出ることになった兄弟の成長物語。カメラは高い塔によじ登る登場人物を至近距離で追うが、次の瞬間......。父性を寓話的に描いたこの作品の中で、ショッキングであると同時にシュールな美しさが際立つ落下シーンだ。

凄まじいアクションのワンカット

『トゥモロー・ワールド』(2006年/イギリス・アメリカ)

監督:アルフォンソ・キュアロン 出演:クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン

『ゼロ・グラビティ』で新時代の映像表現を切り開いたキュアロン監督による近未来 SF。内戦やテロで荒廃し、子供が生まれなくなった世界で人類存亡をかけて戦う人々を描く。主人公が銃弾や爆撃をかわしながら走る、クライマックスの6分強にわたる長回しの戦闘シーンが緊迫感満点。実際にはワンカットではなく複数のカットをつなぎ合わせているのだが、映像の差異を埋めるCGIの完成度が高く、つなぎ目を肉眼で判別するのは不可能。

『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012年/アメリカ)

監督:デレク・シアンフランス 出演:ライアン・ゴズリング、ブラッドリー・クーパー、エヴァ・メンデス

昔の女と子供のために犯罪に手を染めるバイク乗りと彼を追う警官の因果応報を描いたクライム・サスペンス。映画の冒頭、ゴズリング演じる一匹狼の天才ライダーが移動遊園地の控え室を出て、人混みを抜け、テントに入り、バイクにまたがり、危険な曲芸を行うまでを追う3分半ほどの長回しが不穏なムードをかき立てる。「実際は途中でスタントマンに入れ替わっているらしいのですが、カメラワークが巧みなのと、演技に惹きつけられて初見では気づきませんでした」

なんと全編がワンカット

『エルミタージュ幻想』(2002年/ロシア・ドイツ・日本)

監督:アレクサンドル・ソクーロフ 出演:セルゲイ・ドレイデン、マリア・クズネツォワ

歴代皇帝の宮殿であったエルミタージュ美術館を舞台に、ロシアの近世・近代 300年を 90分ワンカットで描く豪華絢爛な歴史絵巻。 2000人あまりのスタッフ・キャストが周到な準備を重ねてたった1日の撮影に挑んだ。最先端のデジタル技術なくして実現しなかった作品だが、ソクーロフの壮大なビジョンと演出力にも驚かされる。「何度見ても圧倒される作品。繰り返し見るうちに、群衆の中で転びそうになっている人に気づいたりするのも面白いです(笑)」


作り手がここぞという場面で採用する、こだわりのワンシーン・ワンカットの数々。撮り方の創意工夫に注目してみると、映画の楽しみ方も広がりそうだ。

(文:海田恭子)

【代官山 蔦屋書店】
シネマ・コンシェルジュ 上村敬氏

1978年東京生まれ。コロンビア・カレッジ・シカゴで映画製作を学び、代官山 蔦屋書店のシネマ・コンシェルジュとして、オープンから現職。現在、店頭に立つだけでなく、『日刊ゲンダイ』紙上にて新作レンタルDVDを紹介する連載や、断続的に最新公開映画の紹介などにも従事。

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生年月日 1898年5月16日(58歳)
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ルキノ・ヴィスコンティ

生年月日 1906年11月2日(69歳)
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