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「音楽自身に人格がある」―映画『マエストロ!』小林聖太郎監督インタビュー

2015年1月30日(金) 17:07配信

小林聖太郎監督

小林聖太郎監督

さそうあきらの同名漫画を映画化した『マエストロ!』は、一度はバラバラになったオーケストラの復活を描く。しかし、よくある再結成ものとは趣がかなり違う。『毎日かあさん』では西原理恵子のコミックを、映画ならではの立体感で仕立て直した小林聖太郎監督は次のように語る。

「人間の集団の普遍化ができるんじゃないかと思ったんです。反目しあってるけど、ひとつの集団なのだという状態を、どう作れるのか。そこには普遍的な価値があるのではないか。考えてみると映画(作り)自体、集団作業なんですよね。似てるところがある、という面白さも感じて。たとえば、(映画の撮影現場における)美術部は美術部でクセがあるんですよ。そのクセのあり方は、オケ(の各パートの個性)に似てて。現場入ったらケンカもするけど、やはり、(表現者として)スゴい! と思う瞬間がある。そういう状況のなか、いちばんいいものを作らなければいけない。指揮者と監督も、自分が何もしないという意味でも似てるところがあります。ただ、いろんなお話を聞くと、指揮者のほうが怖いですねえ。近松もの200回目のリメイク、みたいなことを毎日やってるんですよ。映画でたとえれば(楽団員から)「溝口健二はそうしなかった」とか言われるわけでしょ。落語なら、常に志ん生と較べられるようなもの。指揮者には畏敬の念を抱いてます」

だからこそ、遠く離れたクラシック音楽の世界、ではない、当たり前の生活感が映画に根づく。人間の営みがそこにある。とりわけ、終盤のコンサートシーンは、それ自体が生命の躍動になっている。

「『音楽』が、松坂桃李君演じる(コンサートマスターの)香坂とW主役というか、音楽自身に人格がある。そこが原作漫画を読んだときに感じた面白さだったんです。難しいけど、映画で出来たらいいなあと思いましたね。演奏シーンをクライマックスにすると、何か同時進行的に物語が進む画を挟み込むことが多いですが、空間を舞台に限定することで映画の観客が、楽団の一員として「その場にいる」ように、経験を共有できないかなと思ってトライしてみました」

コンサートマスターを演じた松坂桃李

コンサートマスターを演じた松坂桃李

多様な楽団員たちは、ひとりの型破りな指揮者の存在によって一丸となっていく。指揮棒の代わりに大工道具を振り回し、大阪弁で楽団員たちを罵倒するこの天道は、西田敏行の快演なくしては画面に立ち現れなかった。日本映画の「巨木」、西田を前に、小林監督はどんな「指揮」をふるったのか。

指揮者・天道を演じた西田

指揮者・天道を演じた西田

「幸い僕は、井筒(和幸監督)さんの『ゲロッパ!』という作品にセカンド(助監督)兼方言指導でついていたんで、(西田が)大阪弁の耳がすごくいいというのはわかっていたんです。あのときはソウルダンスの練習もありましたが、すごく熱心にやってくれた。なので、この役は西田さんだなと。ただ、西田さんは辛かったみたいです。(動きの)縛りが多いので、自由がない。指揮って決まりがすごく多くて、「こんなことをしたい」と言っても「それだと音楽が変わってしまう」と。行動の制限もあれば、言葉も大阪弁ですからアドリブもできない。自分の感情を込めたら「アクセントが違う」と言われる。すごく、足かせ手かせがある状態の「キング・コング」だったんですよね。でも、「俺は自由になりたいんだ!」という欲求、そのストレスがいいかたちで出るんじゃないかなと(その様子を見ながら)はじめのほうから思ってました(笑)。「方言より、芝居を!」と西田さんが爆発しかけたときもあったんですけど、「それは両方やりましょう」と。ぐーっと不自由な(野球漫画/アニメの『巨人の星』における)大リーグ養成ギブスをつけたまま豪速球を投げてもらいました。打ち上げで、西田さんはこうおっしゃってました。「『植村直己物語』(1986年の西田主演作。極寒のエベレストでロケ撮影された)が肉体的にはいちばんキツかったけど、精神的にはそれに肩を張るくらいこれが辛かった」。え? それほど? ヒマラヤ並みだったのかと(笑)」

オーケストラの面々も豪華キャストを起用

オーケストラの面々も豪華キャストを起用

作品ごとに多様な職人たちが集まり、また別れることになる映画作りを小林監督は「かりそめのテントサーカス」と形容する。
「僕自身は映画監督というより、フリーター、プー太郎の感覚が強いですね。根無し草というか。それのほうがいいと思ってる。そのほうがニュートラルに世の中が見れるんじゃないかという気がしますね。表現者のあるべき特色としては、世の中から外れていること。パソコンって自分で自分のバグを発見できないじゃないですか。そんなふうに外枠にいないと見えないものを見つけることができるひとでありつづけないと意味がないんじゃないかなと思います。アナーキーかつ、軽くいたい」

(文:相田冬二)


映画『マエストロ』
2015年1月31日(土)全国ロードショー

原作:さそうあきら「マエストロ」(双葉社刊)漫画アクション連載
監督:小林聖太郎(『毎日かあさん』)
脚本:奥寺佐渡子(『八日目の蝉』)
出演:松坂桃李、miwa、古舘寛治、大石吾朗、濱田マリ、河井青葉、池田鉄洋、モロ師岡、村杉蝉之介、小林且弥、中村倫也、斉藤暁、嶋田久作/松重豊/西田敏行
指揮指導・指揮演技指導:佐渡裕
音楽:上野耕路
エンディングテーマ:辻井伸行「マエストロ!」(エイベックス・クラシックス)
配給:松竹、アスミック・エース
(C)2015『マエストロ!』製作委員会(C)さそうあきら/双葉社


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