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【レビュー】『心が叫びたがってるんだ。』―『あの花』とは全く別の魅力を持った作品

2015年10月15日(木) 22:03配信

(C) KOKOSAKE PROJECT

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『あの花』を見ていなくても大丈夫! 爽やかな感動が観客を包み込む、良質な青春群像劇。

『あの日見た花の名前を、僕たちはまだ知らない。』のスタッフが贈る、という宣伝文句を聞いたときは、正直に言って不安だった。というのも、こういった宣伝のされ方は往々にして、宣伝文句に使われている作品(この場合は『あの花』)ありきの、商業的な宣伝だと思えてしまうからだ。しかし、この不安は筆者の杞憂に終わった。本作は、孤独と悲しみを抱えた若者たちが織り成す青春群像劇として、『あの花』とは全く別の魅力を持った作品として完成されている。今回は、公開から少し経っているということもあり、多少のネタバレを交えながら、脚本を務めた岡田麿里の作劇を中心に解説しよう。

本作の主人公は、女子高校生の成瀬順(水瀬いのり)。彼女は幼少の頃に父親の不貞を目撃し、その事実を意図せずして母に伝えてしまったことから、家族を崩壊させてしまい、そのショックから喋ることができなくなってしまった。年月を経ても他人との関わりを絶ち続けてきた彼女だったが、ある日、高校のクラスメートである坂上拓実(内山昂輝)、チアリーダー部の仁藤菜月(雨宮天)、野球部の田崎大樹(細谷佳正)と共に、地域ふれあい交流会(「ふれ交」)の実行委員に選出されてしまい…

本作は、「父親の不貞を目撃し、それを意図せずして母に伝えてしまったことに罪悪感を感じ、喋れなくなってしまった少女」というドギツイ導入がいきなりぶつけられるので、観客は多少面食らってしまうかもしれない。だが、脚本はあの岡田磨里である。思い返せば、『あの花』でも「めんま」という可憐な少女を、幼馴染にしか見ることができない幽霊として登場させるという作劇を披露していたので、「大胆な導入」はもはや彼女の作風と言える。

作劇に関して言えば、本作には観客を混乱させる設定がある。それは、順のおしゃべりを封印した「たまご」の存在だ。「たまご」はお喋りが祟って両親を離婚に追いやった順に囁く。「君の口にチャックをつけてあげよう」と。その結果、順は喋ろうとすると腹痛を起こしてしまうようになり、誰とも関わることなく孤独に暮らすことになってしまった。

なぜいきなり「たまご」なる不思議なキャラクターが出てくるのか疑問に思う人もいるだろうが、この「たまご」とは、欧米で言うところの「イマジナリー・フレンド」だ。「イマジナリー・フレンド」とは、子供が寂しさを紛らわせるために生む空想上の友達のこと。一般的に、欧米やヨーロッパの子供は一人で眠り始める時期が早いので、ベッドに親がいない「寂しさ」を紛らわせるために「イマジナリー・フレンド」を作り出すとされている。岡田はこの日本にはあまり馴染みのない文化を、両親からの愛を受けることができなくなってしまった、「寂しさ」に苛まれる順のバックボーンに組み込んだのだ。

(C) KOKOSAKE PROJECT

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そんな順にふとしたことから手を差しのべることになるのが、もう一人の主人公、坂上拓実だ。順と程度の差はあれど、拓実もまた「ある過去」によって自分自身を長きに渡って閉じ込めてきた。ふとしたことから順と「対話」したことをきっかけに、順の姿に共感を覚えた拓実が、順に問いかける。「成瀬さ…もしかして、ミュージカルやりたかったりする?」

その通りだった。こうして、「ふれ交」の演目候補にミュージカルが加わる。最初は拓実を「心の中を覗いている人」と感じていた順だったが、それからも交流を重ねるうちに、拓実は順にとっての「初めての理解者」に変わっていく。

ストーリーの中心にいるのはあくまで順と拓実だが、他の登場人物の心理描写も味わい深い。ミュージカルを提案する順と拓実だが、クラスメートは、「めんどくさい」「何でミュージカル?」と反対する。そして、名目上は実行委員である大樹が順に向かって、「(喋れないのに)歌とかミュージカルとか謎すぎんだろ!」と強烈な一言をぶつけてしまう。これを聞いた拓実は、たまたま聞いた「野球部の実情」を大樹に向かってぶつける。そして教室は一触即発に…。

クラスメートや大樹は、一見するとひどい奴らに見えるが、彼らの主張もリアルだ。ましてや大樹は野球部のエースでありながら、怪我によって戦列を離れ、苛々を重ねていた。ほかのクラスメートも、部活や塾などそれぞれの事情を抱えている。深く考えずに順を傷つけた大樹、大樹を傷つけた拓実、何もできなかった菜月…実行委員4人の関係性が完全に壊れたかのように見えたその瞬間、順が予期せぬ行動をとる。

この行動には思わず笑ってしまうが、彼女の勇気ある行動によって事態は収まる。そしてこれをきっかけに、自身の行いを反省した大樹も実行委員として、順、拓実、菜月との交流を重ねていくようになる。それに従い、やる気がなかったクラスメートたちの間にも、実行委員を手助けする意思が浸透していく。順がストーリーを書き、拓実がピアノで曲を付け、菜月と大樹がクラスの皆をまとめる。傷つけ合った者同士が許し合い、互の手を取り、共通の目標に向かって努力していく。これこそ青春だ。

…しかし、ミュージカルの完成が見えてきた頃、ここまで明らかにされてこなかった菜月の葛藤が明かされる。そして、その菜月の葛藤が拓実との過去に起因していることを知ってしまった結果、開かれかけていた順の心が、再び閉ざされていく。せっかく友達と呼べる存在ができた順が、その友達が抱える思いによって再び孤独な世界に閉じこもってしまうのが何とも切ない。迎えた「ふれ交」当日、ヒロイン役の順は姿を消してしまう。責任を感じた拓実は、順を探しに自転車で駆け出す。果たして「ふれ交」は成功を収めることができるのだろうか……その結末は、是非劇場で確かめて欲しい。

青春の爽やかさと切なさが折り重なった良質なストーリーに加えて、音楽にも拍手を贈りたい。特筆すべきは、ミュージカルで披露されるクラシックとミュージカルナンバーの二重奏。意外性のある組み合わせが見事に溶け合った美しい旋律には鳥肌が立った。そして、エンドクレジットを彩る乃木坂46の『今、話したい誰かがいる』の軽やかで美しいメロディと、青春を象徴するような歌詞も素晴らしい。同グループに全く興味がなかった筆者が、この一曲でファンになってしまったほどだ。

(C) KOKOSAKE PROJECT

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「観て損はない」なんて野暮なことは言わない。品質は筆者が保証する。まだ見ていない読者がいれば、今すぐにでも劇場へ走って欲しい。ラストに体を包み込む、あの爽やかな感動を、一人でも多くの映画ファンに味わってほしいものだ。

(文:岸豊)


映画『心が叫びたがってるんだ。』

全国大ヒット公開中

CAST

成瀬順:水瀬いのり/坂上拓実:内山昂輝/仁藤菜月:雨宮 天/田崎大樹:細谷佳正/城嶋一基:藤原啓治/成瀬泉:吉田羊

STAFF

監督:長井龍雪

脚本:岡田麿里

キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀

音楽:ミト(クラムボン)横山 克

原作:超平和バスターズ/制作:A-1 Pictures

配給:アニプレックス

製作:「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会

主題歌:乃木坂46 「今、話したい誰かがいる」 (ソニー・ミュージックレコーズ)


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