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「ちょっとずつ。ちょっとずつ。今日と明日をつないでいく」―映画『恋人たち』橋口亮輔監督インタビュー

2015年11月13日(金) 15:40配信

橋口亮輔監督

橋口亮輔監督が久しぶりに長編映画を撮った。タイトルは『恋人たち』。だが、決してロマンティックな作品ではない。

「いろんな『恋人たち』を置いて、それを俯瞰で見たら、いまの日本になっている。そういうものになればいいなと」

通り魔に妻の命を奪われた男。家庭のなかで孤立する主婦。完璧主義の仮面をかぶった同性愛者の弁護士。3人の物語が、群像劇やオムニバスとはまったく違う肌合いで送り届けられる。

「3つの話だけど、1本の映画を観てるような感覚。ひとりは下町、つまり現実感のある東京。もうひとりは春日部、田舎。そして、もうひとりは(新宿)二丁目とか六本木ヒルズ。(舞台の)目先がポンポン変わっていけば、観客も飽きずに、低予算(映画)なりに、観ていけるだろうと。(世界観だけでも)できるだけ広げて、いまの日本が後ろに見えてくれば」

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

橋口監督は一貫して現代の歪みにさらされる個人の営みを描いてきた。だが今回は、たとえば、俳優リリー・フランキーの真価を発掘し、多くの映画賞に輝いた前作『ぐるりのこと。』とは、日本を見つめる視線の積み重なりが違う。

「『ぐるり』の場合は、(クロニクル的な側面もあり)たとえばオウム(真理教)の事件があったら、それと微妙にシンクロするようにして、夫婦や家族を描いた。これはそういうものがないんですね」

社会的な事象が人物に影響を与えたり、連鎖したりという作劇ではない。それは、現代が、『ぐるりのこと。』の頃とは一変してしまったからだろうか。

「現代が変わったというより、僕が変わったんでしょうね。僕が変わったら、世の中ですごいことが起こって。その目で見たら、世の中のムードが、あ、これはこういうことなんだ、自分の身の上に起こったこともこういうことなんだと。それを盛り込むしかない、と思いました。僕の場合は、実人生と映画がシンクロしてるんで。だから、いまの自分のありようをそのまま出すしかない。でも、それを出すのが怖いなあと思って。ずいぶん足踏みしてた時間が長かったんですけど」

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

『ぐるりのこと。』が称賛される影で、橋口監督は「大きな裏切り」に遭遇した。色恋ではない。金銭トラブルと呼ぶにはあまりに過酷な出来事に、心底打ちのめされた。

「何が変わったかと言えば、信じているもの、だと思います。人生全部、失った。馬鹿馬鹿しくて映画なんてやってられなかったですからね。愛だ希望だなんて映画やっても馬鹿馬鹿しいやと思って。17歳で自主映画始めて。18、19歳で大阪芸大で映画撮って。自作自演で、自分のなかではものすごく心が動いてることを撮った。で、見せたら、みんな寝るわけですよね。あれ? こんな心が動いたことを、そのまま再現して見せてるのに、なんでそれが伝わらないんだろう? と思って。そこから、ただ悲しいと思ったことをそのまま撮っても、ひとには伝わらないんだ。どう悲しいのかを表現しないと、ひとには伝わらないんだって。この「他者との距離」、これが表現なんだということに気づいて。そこから、自分のなかにある個的なことをどう伝えるかということを、ずーっとやってきた人間が、『ぐるり』を撮って、46(歳)になって、伝えるってことは何にも意味がないんだなということになったんですよ」

彼は自分自身を伝えてきたつもりだった。作品づくりというものそれ自体がそういうものだった。表現者の核となるものを彼は喪失した。妻を亡くした男の設定には、橋口自身が投影されている。いちばん大切なものを彼は失ったのだ。裁判を起こすつもりだった。だが、肝心の弁護士たちは見事に堕落しきっていて、面倒な裁判などやる気のある者などいなかった。その経験も、『恋人たち』には織り込まれている。

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

「裁判もできないなんて、この国は法治国家でさえなかったのか。そう思ってるときに、震災があって。津波で(町が)流された風景があったでしょ。ああいう状態だった、僕の頭の中。それから3ヶ月くらいですかね。津波で被害に遭われて、体育館でずーっと寝られていた方たちと、もちろん『同じ』なんて言えないですけど、でも、気持ちがシンクロしました。自分もずーっとフローリングの上に横たわって、ただただYouTubeを見ていました。ただただ涙を流していました。何がいちばん辛いかというと、自分が最も憎んでいる悪があるとします。その悪と同質のものが、自分の身体を浸蝕していくような感覚があるんですね」

高校生のときから続けてきた「自分を伝える」行為に、意味を見出せなくなった。ある意味「寝たきり」のような状態だったという。

「ただ、そんな僕のところに足を運び、『橋口さん、映画やりましょう』と言ってくれるプロデューサーがいた。僕の口から出るのは恨み言ばかり。でも、そんな鬱陶しいヤツの部屋に、ずーっと通ってきてくれた。『橋口さん、映画やりましょうよ』と言い続けてくれた。僕はそのひとに救われたんです」

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

すぐ映画にとりかかれる心身ではなかった。まず、誘われるまま、俳優志望のひとたちのためのワークショップを引き受けた。

「伝えるなんて意味がない。そう思ってる人間が、これからの役者さんに何を教えられるんだろうと思いましたけど。でも、お金もないし、よし、やろうと」

4日間のワークショップでは、恋愛劇を演じさせた。

「なぜ恋愛劇かと言えば、好きな人の前では『丸裸』になる感じがあるでしょ。身動き出来なくなって。情けない自分をさらけ出す。(恋愛には)丸裸になって、ジタバタする感じがある。真剣に恋愛劇を、ウソかもしれないけど、それを積み重ねて恋愛劇をやりましょうと。それをじーっと1時間ぐらい見てると、気持ちの動きとか、その役者さんの切実さとか、そういうものが見えてくる。ああ、美しいなあと思って。感動する瞬間があった。ああ、そうか。伝えるって意味があるんだ、と思ったんですよ、もう1回。そこからですね。もう1回、ゼロから。それから、いままで断っていた自主映画の審査みたいなものもやるようになったんです。そうすると、自主映画の表現自体は未熟なんだけど、強さみたいなものがあった。いま、これをやりたいんだ! これが俺なんだ! みたいな。言葉っ足らずで、技術もなかったりするんだけど、その強さみたいなことは絶対あってね」

それが「カンフル剤」になった。

「ちょっとずつ。ちょっとずつ。今日と明日をつないでいく。そんななかで自然と見えてきた『人間の姿』。(当時)僕はほとんどテレビも見てなかったですから。日本で何が起きていたか、そんな細かいことは知らないんです。でも、空気はわかるわけです。自分が7年ほどのたうち回っている間に出逢ったひとたちから『見えてきたもの』。その向こう側に、いまの日本の空気があった」

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

『恋人たち』には、次のような台詞がある。「腹いっぱい食べて、笑ってたら、人間なんとかなるよ」。シンプルな、あまりにシンプルな言葉だ。

「僕の実感なんですよ。そうやって生きていくしかない。嘘でもいいから、自分に『それでよし!』と言いながら生きていくしかない。いまの時点での僕の限界なんですよね。でも、これは、僕だけの個別な想いじゃないなっていうのを感じたんですよ。たとえば福島で家を追われたひとたち。何にも悪いことしてないのに、土地を追われる、家を失う、仕事を失う、人生を失うのと一緒ですよね。そっから、もう1回人生を立て直していくって、どんなに厳しいか。僕なんか、まだ立ち直ってない。生活すら元に戻ってないですから。撮ってるときも、まだ本調子じゃなかった。まだ、『全開で俺は自分の作品をやるんだ』と思って撮ってないんですよね」

なのに。どうしてだろう。この映画は、橋口が撮った作品のなかで、いちばん、やさしい。呪詛や糾弾がない。人間を、どんな人間をも、絶対に、断罪しない。

「僕、憎めないんです。酷い男の話を舞台でやり、その後、短編映画にしたことがあります。でも、その男のことを(作品のなかで)救っちゃうんですよ。ああ、これが俺の資質なんだなと思ったんです。絶望を描いた傑作もありますよ。ルイ・マルの『鬼火』とか。でも、僕は絶望を絶望として描けないんだなということがわかった」

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(C)松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

あえて普遍性を目指さなかった。未整理のまま、映し出した。

「吟味しないまま出した。でも、その強さはあるはずだから」

映画『恋人たち』には、橋口亮輔そのひとのやさしさが、剥き出しになっている。

「やさしさ……僕にはわからないです。可能性ありますかね? 僕、不安なんです。いま、ターニングポイントというか、これが分かれ目だなという気がしてるんです。映画監督なんか続けてるわけだから、僕も欲深い人間なんだと思います。業が深い。でも、いろんなことがあって、業界なんてクソだなと思いました。でも、これから、俺、(もう一度)映画やっていく上でどうしようか? と思ったときに、あ、クソの海を泳いでやる、って思ったんですよ。クソの海を泳ぎきってやる、と。そしたら、自分もクソまみれになるでしょう? でも、大丈夫。家に帰って、シャワーを浴びれば綺麗になる。いまはそう思っているんです。だって、クソじゃないひとはいるから。目の前の仕事だけ、一生懸命やろう、そう思うようになったら、とっても気持ちのいいひとたちに出逢うようになったんです。『ぐるり』のときに、ある植物を買ったんです。でも、僕自身にいろいろなことがあって、枯れた。でも、そのなかの1本だけかろうじて生きてたんです。だから、肥料とかやって『お前、がんばれよ』ってずっと声かけてたんです。『お前が枯れたら、俺は悲しいんだぞ』って。何年もそういう状態だった。夏も冬も。それが、自分の気持ちが変わった瞬間に、ばーっと花が咲いたんですよ。黄色い花が咲いた。『お前、花、咲くヤツだったの?』って。でも、その年しか咲かなかった。でも、いまも生きてます」

映画には、ほんとうの映画には、凍てついたこころを洗い流す力がある。花を咲かせる力がある。それを、わたしたちは、やさしさ、と呼んでいる。

(取材・文:相田冬二)


映画『恋人たち』
11月14日(土)テアトル新宿、テアトル梅田ほか全国ロードショー

監督・脚本:橋口亮輔(『ぐるりのこと。』『ハッシュ!』)
製作:松竹ブロードキャスティング
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良/安藤玉恵、黒田大輔、山中崇、内田慈、山中聡/リリー・フランキー、木野花、光石研
宣伝:シャントラパ/ビターズ・エンド
配給:松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ


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橋口亮輔

生年月日 1962年7月13日(55歳)
星座 かに座
出生地 長崎県

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