エアロコンセプト・菅野敬一氏が語る、“ものづくりの真髄”/代官山 蔦屋書店3周年企画「WE RESPECT…」

2015.1.3 (土) 07:00

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世界に認められた

世界に認められたAERO CONCEPT(エアロコンセプト)

代官山 蔦屋書店のオープン3周年特別企画「WE RESPECT…」。代官山 蔦屋書店がリスペクトするクリエイター11名にそのクリエイティヴの源を探る企画だ。12月10日には、世界から注目を集めているブランドAERO CONCEPT(エアロコンセプト)の生みの親である菅野敬一氏が登場した。

航空機のパーツを製造してきた熟練工たちの手によるフルハンドメイド製品に支えられたブランドAERO CONCEPT(エアロコンセプト)。

高い精度で作られた、金属・革というふたつの素材が醸し出すプロダクトとしての美しさはもちろん、職人気質溢れる真摯なものづくりで多くのファンを虜にしている。

この日は、以前から菅野氏と親交のある経営コンサルタントでコメンテーターのショーン・K氏がインタビュアーを担当。菅野氏のものづくりの思考を探る濃密な夜となった。


ゼロからのスタート

トークショーは、AERO CONCEPT(エアロコンセプト)を語る上で欠かせないブランドの生い立ちからスタートした。菅野氏の実家は祖父の代から続く、精密鈑金加工の町工場「菅野製作所」。AERO CONCEPT(エアロコンセプト)は菅野製作所の倒産を経て生まれたという。

― 一度工場が倒産したのは何故ですか?

「バブルが崩壊する頃、1990年代初頭くらいに、私の知らない間に得意先が海外に合弁会社を作って、海外の労働賃金の安い国へアウトソージングをすることになって、その煽りを受けたんです。ほとんどの仕事がその1社の仕事だったので、2〜3ヶ月のうちに仕事がなくなって。銀行の借金ばかりが増えていって、全て失ってしまったんですよね」

―住む家もなにもかも持って行かれて。菅野さんはライカのカメラが大好きで集めていたのですが、それも全部持って行かれてしまったんです。手元に残ったのは、ライカのカメラのシャッター音だけだったんですよね。

「おっしゃる通り、カバンの閉まる音が古いライカのシャッター音に似せたいなあと思ったんです。それに半年もかかったんです」

何もなくなったときに残った”技術”と”音”。ここからAERO CONCEPT(エアロコンセプト)はスタートした。

”つくること”への使命感

倒産後も社員は残り、他の取引先企業からの要望を受け、菅野製作所は再建を図るが、菅野氏はAERO CONCEPT(エアロコンセプト)の製品を作り続けていく。

―経済的にも大変な中でやり続けたのはなぜですか?

「生きていれば、いずれは寿命がくることは誰でもわかっているとは思うんですが、実感することはないんですよね。倒産したときに、一度自殺を決意していて、その時にいろいろなことが見えてきたんです。そうしたら、死ぬまでの期間はそれほど長くはないことが分かったのですよね。人間が生きていくのにはお金を稼がないといけないんですけど、それとは別の、どうしてもやらなくてはいけないという使命を感じたんだと思うんです」

―その使命感というのは本当に大きかったんですね。

「大きかったですね。何もなくなったときの人間って、何が大事で何が要らないかということが嫌でもはっきりしちゃうんですよね。貯金通帳やら土地やらは全部なくしてしまったのですが、今まで”もの”を作って生きてきましたから、これから先も”もの”を作って生きていこうと。ただ、今までと同じものづくりをやると同じことになるから、死ぬまでに自分の欲しいものを作ってみようということだけなんです。今でも私が欲しいものしか作らないんです。初心を忘れてなんのために作っているかわからなくなると、私は作れなくなってしまうんですよ」

語ることで生まれ、つながっていくストーリー

AERO CONCEPT(エアロコンセプト)の代名詞とも言える、アタッシュケース。写真は、実際に菅野さんが使用しているもの

中身を見せていただいた

ものづくりへの使命感と”欲しいもの”からスタートしたAERO CONCEPT(エアロコンセプト)。

最初に作られた作品は、AERO CONCEPT(エアロコンセプト)の代名詞とも言えるアタッシュケース。菅野氏が実際に使っている商品を見た知人から、次第にオーダーが入るようになる。口コミで徐々に広がりを見せていくが、その口コミは海外にも波及する。

ジョージ・クルーニー、ユマ・サーマン、ジャン・アレジという海外セレブリティからのオーダーも入るようになった。

彼らにとってのAERO CONCEPT(エアロコンセプト)の魅力は、「見たことない」という人が多いという。

―菅野さんの手を離れた作品たちは、誰かの手に渡りますよね。その人がまたきっと自慢げに作品のことを話すんでしょうね。なんて言っているのでしょうね。

「僕もいつもそのことを考えています。私は作品を子どもたちだと思っていますから、子どもがひとり歩きをしながら親父の話をしたり、何かを喋っているんだと思うんですよ。それがうれしいですよね。持ってくれる方がいろいろな話をしてくださるわけですから。私はそのまま作っていけばいいわけです」

作品を通して語られていくAERO CONCEPT(エアロコンセプト)のストーリー。宣伝を一切しないAERO CONCEPT(エアロコンセプト)にとって、お客様の口コミはもちろん、販売する店舗や販売代理店もそのストーリーの語部となる。

「はじめてデパートやセレクトショップから注文をいただいたときには飛び跳ねて喜んだんです。ただ、お付き合いしてみたら、販売員が作っている背景を話せないし、ビジネスライクに支払いや納期の話をしたりと、商品を大事にしてくれないのでお断りしたんです。私にとってみれば、エンドユーザーへの橋渡しの役目をしているわけですから、そこが一番大切なんですよね」

―最近、語部がいなくなったと思うんです。物語や文脈、人格、感じてほしい愛着を語る会社が少なくなった気がします。

「私もそう思います。無駄なことだと思うからやらないんだと思うんですよね。作る人の価値観、買う人の価値観があるように、伝えるほうも価値観があって、全部コストに関係しているから、コストから外されていくのでしょうね」

職人が語る”もの”の価値観

作ることと伝えること。双方に真摯な菅野氏にとって、”もの”とはなんだろうか?

-菅野さんにとって、作り手としての”もの”とは何ですか?

「都会にいると自然がほとんどなくて、全部人工物ですよね。例えば、グラスも人工物ですが、水などの飲み物を飲むためにあるわけでしょ。人間が作り出した中にある”もの”というのは、すごく大事だと思うんです。そこに価値観がある。それと同じように、私は私の価値観で”もの”を作っている。”もの”というのを、私はそういうふうに見ているんです。”もの”は人間が作ったものですから、どのような価値観をもっているかが大事。だから、ものづくり屋には責任があるので、いい加減に”もの”を作っちゃいけないんです。何か人間の役に立つ、どこか心が豊かになるようじゃないと、”もの”の価値はないと思っているんです」

-”もの”の価値というのは、役割とは違うものですよね?

「いわゆる”便利””効率的”というのもひとつの価値観ですよね。私にとって『心が豊かになるもの』というのがひとつの価値観なんです。『心が豊かになるもの=効率的なもの、便利なもの』とは言えないと思うんです。もちろん便利で効率的なものが心豊かになるものもあるでしょうし、逆もあるとは思いますが、私は心が豊かになるものが欲しいと思うんです。だから私は、私の持っている価値観の中でものを作って、私が作ったものに対して同じ価値観を持つ人がエンドユーザーになると思っているんです。よく『売りたくないの?』という質問も受けますが、そんなことはなくて。ただ、売り方や作り方をこだわりたいので、自分の価値観と共鳴してくれる方だけでいいという考え方なんです」


菅野氏のものづくりについての視点には、自身が職人であるがゆえのシビアさとピュアネスが共存する。一度は終わりを見据えた人間が話す”ものづくり”には、人間が生きていく上で忘れてはならないメッセージが込められている。「私なんかより素晴らしいストーリーがみんなにあると思う」と話す菅野氏の視線は、”もの”と”ひと”への愛情で溢れていた。

(文:岡崎咲子)

◆コラム「菅野さんが考える“かっこいい”とは」

AERO CONCEPT(エアロコンセプト)の商品はよく”かっこいい”といわれる。では、菅野氏の考える”かっこいい”を聞いてみた。

  

イベントの最後に、コンシェルジュ佐久間和子氏にプレゼントした菅野さん。自分が使っていたアタッシュケースに、真心と花をいっぱいに詰め込んだ。さり気ないのが「かっこいい」!

「自分の考える”かっこいい”というのは、そのもの自体をかっこよくするというよりも、その人自体がかっこよくするわけですね。僕の作るかばんにものがそんなに入らないというのも、ものが入らないというのではなく、ある十分なものだけは入るんですよ。いっぱい入れてしまうと『今日あなただけに会いにきたよ』って言えなくなるじゃないですか。『今日あなただけに会いにきたよ』ということが僕のなかでかっこよさになるわけです」


菅野敬一(すがの・けいいち)

1951年生まれ。早稲田実業高校を卒業後、祖父の時代から続く精密鈑金加工工場・菅野製作所の3代目社長を引き継ぐ。まもなくバブル崩壊の影響で菅野製作所が倒産したものの、周囲の協力を得て再建しエアロコンセプトを創業。航空機部品の技術を応用した鞄は世界から高い評価を得ている。


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