窓、塀の“境界” を建築する。世界が注目する若手建築家ユニットのクリエイティブ思考とは

2015.6.30 (火) 12:37

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「躯体の窓」

東京オリンピック新国立競技場を手掛ける建築家が話題になり、都市のランドマークが有名建築家が手掛けるなど、建築家というと「空間のクリエイター」という印象を抱く人が多いかもしれない。

そんな建築家に対するイメージについて、「僕たちは空間を信じていないんです」と意外なコメントをしたのは建築家の増田信吾氏。同じく建築家の大坪克亘氏とタッグを組み、空間そのものではなく空間の「境界」を手掛ける異色の若手建築家ユニットだ。今、日本を含め、世界中の建築やデザインメディアから注目を集めている。

その自由なクリエイティブ思考を知るべく、増田氏にインタビューした。活動のスタイルや哲学を、彼が共感し、影響を受けた本や映画を通じて紐解いていく。

増田信吾+大坪克亘が、ユニットで活動する理由

右から、増田信吾氏、大坪克亘氏

二人は美術大学の予備校時代に出会い、2007年からユニットとして活動をしている。個人ではなく、ユニットで活動する、そのスタイルは実に独特だ。

「僕と大坪は“対極”なんです。性格などが正反対という意味ではなくて、対極なところを見つけて、個人の感覚や興味に偏っていない客観的な、一般性のある“価値”を作るために“対極の立ち位置をとっている”ということです。僕が見えないところは大坪が見えているし、逆もしかり、という状態ですね。僕達にとって一番いいのは、二人の“間”。一般的には、理解しあうことで仕事が進んでいくんでしょうけどね。

だから、アイディアを出すときも話し合いで決めるのではなく、あくまで別々に案を出して、お互いにプレゼンしあう。そこから精査して、形にしていくんです。ある意味、事務所内から外にアイディアを出すまでが、一番のハードルかも」

建築は空間ではなく環境を作ること。増田氏が考える「建築の意味」とは?

「ウチミチニワマチ」

「風がみえる小さな丘」

二人の代表作は、民家の塀でありながら透けて街に溶け込む、風通しのいい「ウチミチニワマチ」、建物の一面がすべてガラス張りになった「躯体の窓」など、作品はどれも、人が抱きがちな建築に対する固定概念を覆すものばかり。

「僕は、空間ではなく、“境界”で環境を生み出すことが重要だと思っています。

今、DIYが流行っていたり、雑誌やインターネットでいろんな物件が見られたり、小学生でもゲームで3D空間に馴染みがあったりしますし、もはや空間をイメージすることは、建築家の職能ではないと感じているんです。

また、マンション選びで判断基準になるのは、使い勝手ですよね。部屋自体の形は大体同じですし、唯一判断できるとしたら、窓の外に何があるかくらい。窓の先にどういう風景が広がっているか、どういう光が入ってくるか、窓先に軒(のき)があると雨の日も窓を開けられて気持ちがいい、とか……。

ということは、建物側と外側の、違うものがぶつかるところ、“境界”がどのようなことを引き起こせるかを考えることは、自然には作ることのできない、すごく知的な設計行為なのかな、と」

「リビングプール」

思考回路を本・映画で紐解く

増田氏の建築に対する考え方、クリエイティブな思考をさらに掘り下げるべく、オススメの本や映画を紹介してもらった。共感のポイントや影響も、実に増田氏らしいアンサーが返ってきた。その作品と理由とは。

「家」は家族のあり方と共に成長していくもの

『家族をつくった家』

芦原太郎 著、インデックスコミュニケーションズ 刊)

「大学生の時に著者である建築家の芦原太郎さんご本人からいただいたんです。はじめは小屋のような家が、どんどん増築されていく。子供が生まれて子供部屋ができ、子供が巣立った後は庭が広くなって、露天風呂ができて……っていう。

ここで僕が抱いた感想は、『家っていいな』ということよりも『家族っていいな』っていうこと。普通は新築を建てる時というのは、実際に生活をする前にお金を払って工事しなければならない。でも、本来の家のあり方というのは、過ごしてもいない生活を想定して家を作るのではなく、この本が示しているように、家族の変わり方、時間の経過にしたがって変わっていく方がフィットしている。家は作って終わり、ではなく、家族と一緒に成長していくもの。そこを再確認できた本ですね」

衣服がはらむ、機能面と装飾面の矛盾を問いかける

『モードの迷宮』

鷲田清一 著、筑摩書房 刊)

「本来、衣服は体を守るものですが、中世の女性たちは貴族のパーティーなどで、コルセットで体を変形するくらい縛り付けていました。体の形を変えてまで、魅せることを気にする。そういう、衣服という“境界”が持つ、葛藤、迷宮が描かれています。

でも、近年はファッションがモード(流行)とは別軸で発展していて。例えば、アウトドアブランドでも、ディテール面はすごく洗練されているのに、きちんと水を弾き、筋肉の稼働に沿った構造にするなど、機能面も考慮して作られている。このように衣服本来の機能面を守りつつ、見た目の良さも実現するためには、例えば、『“洗練されている”とはどういうことか』『どういう風にすれば実現できるか』を徹底的に考えないと達成できないんです。

つまり、“境界”を守りながら、どう戦うか。それを徹底したら、モードを超越して、違う世界に行けるんじゃないかって、こういうブランドが出てくることで勇気がもらえます。建築の設計でも、そういうことは起こせるんじゃないかな」

現実と非現実の境界が曖昧になっていく

『マルコビッチの穴』の監督・脚本家がタッグを組んだ作品です。主人公は、まさに『マルコビッチの穴』の脚本を手掛けたチャーリー・カウフマンが、次回作としてノンフィクションの映画『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』の脚本でスランプに陥り、葛藤する話。物語の場面と現実の場面がわからないくらい巧妙にストーリーが入り組んでいます。

僕が特に印象に残っているのは、『蘭という花は受粉をしていくハチを惹きつけるために花を咲かせているのではなく、ハチも(自分が)受粉をするから蘭が子孫繁栄をしていけると思っているわけではない。種の繁栄の仕組みをまったく知らなくても、なぜか世界で種は繁栄していく』というものです。

この感覚は、建築の設計にも近いものを感じます。例えば、エネルギーの効率化を突き詰めたとしても、別方面で問題を生むこともある、というような。

だから、僕はなるべく“解”をつくりたくないと思っています。むしろ“解”がないくらいの状態で、次々と新しいものをいれていくことで、そこから違う関係が生まれて、それがうまくいけばいいって。設計をすることで、どうやってバランスを生むことができるかを考えているんです。

お施主さんが植物がある空間を求めたとして、はじめから植物を用意したって、その植物が育たない環境なら意味がないんです。庭が暗かったり、建物の端が年中ジメジメしているなら、窓ガラスの反射する光で明るくしたり、光を与える状態を築けばいい。大事なのは、関係をうまく繋いであげることです」


物事の本質を見据えた、誠実な言葉の数々が印象的だった。答えをはじめから用意するのではなく、目的の変化に応じて、柔軟に形を変えていく。その思考回路は、我々の日常生活、別のものを作り上げるときにも参考になるはずだ。

関連イベント

建築家による選書棚シリーズ「BOOKS with ARCHITECT」 第九回 建築家・増田信吾+大坪克亘と「嘘」

2015年7月3日(金)19:00~21:00
代官山 蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース

【プロフィール】
増田信吾(ますだ・しんご)

1982年東京都生まれ、2007年武蔵野美術大学卒業。大坪克亘氏とユニットで活動している。代表作は、「小さな部屋」「ウチミチニワマチ」「風がみえる小さな丘」「躯体の窓」など。鹿島出版会SD Review2008、2009入選、AR Award 2009 commendation(UK)、JCDデザインアワード2011金賞、 ar+d Awards for Emerging Architecture 2011準大賞(UK)、JCDデザインアワード2014金賞、AR Award 2014 大賞(UK)ほか受賞歴、展覧会出展 多数。


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