建築は実物を楽しむだけにあらず。プロが選んだ、美しいブックデザインで楽しむ建築書5つ

2015.9.27 (日) 16:51

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『contact』Olafur Eliasson

『contact』Olafur Eliasson

建築家にとっての作品である建築物。建築作品を見に世界中を飛び回るとしても限度があるから、作品集や建築家の思想をまとめた建築書を読むことが、建築ファンのひとつの楽しみとなっているらしい。

建築ファンは建築のアートブックも愛でている

代官山 蔦屋書店で建築フロアを担当し、日々多くの建築書を扱う建築・デザインコンシェルジュ三條陽平氏もそのひとりだが、建築書で残念に思っている部分があるという。

「建築書はいわゆるアートブックの領域の本ではないので、文芸書のような一般的な体裁の本が多いわけです。アートブックのジャンルの中では、写真家の作品集におもしろい本が多いんですが、それは当然、写真家にとって写真集が自分の作品をダイレクトに伝える媒体だからだと思うんです。建築家にとっては建築物というのがアウトプットの頂点なので、建築家の本は、ブックデザインという視点からいうと、写真家やアーティストのアートブックなどに比べると見劣りするんです。建築は総合芸術なはずなのに、建築書がアートブックとして見劣りするのは建築書担当としては悔しいと思っているんです。

本と建築って似ている部分があると思うんですよ。デザイナーや著者がいて、出版社や印刷所がある。いろいろな人が関わって、プロセスを経て完成するじゃないですか。建築も、建築家や設計者がいて、工事や土木の人など、いろいろな人が関わって建築物ができあがる、つくりあげるプロセスが似ています。そういう意味で、建築書もアートブックとして楽しめる本が増えてもいいのにと常々思っているんです。建築家の著作は中身や文章は言うまでもなく素晴らしいものですが、ブックデザインまで考えるという人はあまりいないと思います。文章だけでなく、デザインで思想を伝えるということもできると思うので、ぜひ増えていってほしいですね」

徐々にではあるが、アートブックと呼ぶにふさわしい建築書も増えきているという。三條氏に、最近出た本の中で、アートブックとしても、建築家の作品集としても優れている5冊を紹介してもらった。

コレクションしたい! 美しい装丁の建築書5選

ペーター・ツムトア『空気感(アトモスフェア)』(みすず書房)

『空気感(アトモスフェア)』

ペーター・ツムトア(みすず書房)

スイス人建築の巨匠、ペーター・ツムトア(英語読みではピーター・ズントー)の講演集。

「彼が建築物を作るときの自分の身の回りで起こっているあらゆるものや事象、周辺環境などを話した講演記録集です。帯にヴィム・ヴェンダースがコメントが載っていますが、彼は、周辺環境を大切にして、そこに何のために建築が生まれるのか、なぜ建てるのか、使い手がどう使っていくのかなど、真摯に、よく考えている。まるで詩人のように建築と向き合っている人なんですよ。それを総称して、アトモスフェア=空気感という言葉を大事にして、常にその空気感を纏うような建築を作ろうとしているんです。葛西薫さんが手がけたブックデザインは、落ち着いた静かな佇まいが印象的。ミニマムな佇まいが彼の建築物っぽいですね。この本自体も『空気感』を纏っているようです」


『応答 漂うモダニズム』(左右社刊)

応答 漂うモダニズム

(編著:槇文彦真壁智治、左右社 刊)

2013年に発売された建築家・槇文彦さんの『漂うモダニズム』という本に対して、伊東豊雄塚本由晴藤村龍至らからの応答と、槇文彦からのさらなる回答を収録した書籍。

「この本はモダニズム建築の解釈としてとてもいい本ですね。松田行正さんがブックデザインを手がけていて、レイアウトも美しいし、表紙もきれいにまとめられている。奇をてらったことをしなくても、端正に、著者の意向をダイレクトに反映しただけでも、デザイン的な操作でここまで変わるよという、お手本のような本だと思います」


Olafur Eliasson『contact』(Flammarion刊)

『contact』

Olafur Eliasson(Flammarion刊)

2014年10月、パリにオープンした、LVMHグループのアートミュージアム「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」。そこで開催されたオラファー・エリアソンの展覧会「Contact」のカタログ。

「オラファーは、自然現象を人工的に発生させてそれをアートに昇華しているアーティスト。建築のプロジェクトもすごく多いので、建築というジャンルでも扱いたいアーティストですね。本書のすごいところは、オラファーは作品の中で光を多様するんですけど、それがブックデザインに落とし込まれている。前半の紙は黒、後半の紙は白と紙面で光のコントラストを表現してます。前半は、黒の紙にわざわざフルカラーで印刷しているんですよ。高い印刷技術がないとこれだけ綺麗に色が出ません。ブックデザインは、世界的なブックデザイナー、イルマ・ボームが手がけています。 このルイ・ヴィトンの美術館は、フランク・ゲーリーの設計で話題になっていますが、加えてオラファーの展示を行って、イルマ・ボームが図録を作っている。すごくエッジーな美術館ですよね。これからの展示も楽しみですね」

Olafur Eliasson『contact』(Flammarion刊)
Olafur Eliasson『contact』(Flammarion刊)
Olafur Eliasson『contact』(Flammarion刊)

『Wiel Arets-Bas Princen』(Hatje Cantz刊)

『Wiel Arets-Bas Princen』

(Hatje Cantz刊)

オランダでは国家プロジェクトを多数手がけている世界的な建築家、ヴィール・アレッツの近作をまとめた作品集。

「モダニズムの流れにのった、いわゆるキューブでコンクリート、というような建築家なんですが、彼はテクスチャーの使い方が非常におもしろい。この本はそこを強調してデザインされています。 本書にも掲載されていますが、最近、東京に『A House of Tokyo』という住宅を設計して話題になりましたが、この作品は、ヴィール・アレッツ自身が東京中を歩きまわって東京の都市空間を自分なりに解釈し、設計に反映させているんです。僕が思うに、東京ってプライベートとパブリックな空間が隔絶されていて、住民同士のコミュニティが希薄ですよね。そのため外(都市空間)と中(居住空間)の境界が明確に分けられています。近いようで遠い、見えるようで見えない曖昧な東京のコミュニティをこの住宅で表現しているような気がします。 単純に建築のディティールをフォーカスした本は多いですが、この本はそうではない。彼の作品はテクスチャーが象徴的で、本全体を通してそれを伝えているし、写真がコンセプチュアルでとてもいいですね」

『Wiel Arets-Bas Princen』(Hatje Cantz刊)
『Wiel Arets-Bas Princen』(Hatje Cantz刊)
『Wiel Arets-Bas Princen』(Hatje Cantz刊)

『JEAN PROUVE ARCHITECTURE』(Galerie Patrick Seguin刊)

『JEAN PROUVE ARCHITECTURE』

(Galerie Patrick Seguin刊)

フランスの建築家で、近年は家具も人気があるジャン・プルーヴェ。1冊で販売されていたものがケース付きの5冊1セットになって再販された。ケースはなんと鉄製!

「プルーヴェは近年、椅子が人気で盛り上がっていますが、元々は鉄やガラスを駆使した工業化建築の先駆け的な存在。この本は、家具デザイナーではない建築家としてのプルーヴェを紹介していて、1冊につき1作品を紹介するというすごく贅沢な本です。彼の作品がこれほど細かく載っているのはなかなかないです。写真のアルバムのような本の佇まいも素敵だし、布張りなのもいい。 ケースが付いたBOX入りの本は今までもありましたが鉄製ケースは今まで見たことがありません。工業化を推し進めた建築家なので、作風にインスパイアされたところもあるかもしれません。鉄なのでめちゃくちゃ重たいです。この重さの本を日本で出版しようとしたら、書店取次ぎに「流通できません」と言われて出版を断念せざるを得ないでしょうね。そういう意味でもこの本はすごいです」


美しいブックデザインは、その本に込められたメッセージや作品をより引き立ててくれる。なかなか直接見ることのできない世界中の建築物を、美しいブックデザインとともに楽しめるとは、至福の時間を過ごせそうだ。

(文:岡崎咲子)

【代官山 蔦屋書店】
建築・デザインコンシェルジュ 三條陽平 氏

TSUTAYA TOKYO ROPPONGIで建築・デザインの担当をした後、2012年から代官山 蔦屋書店のコンシェルジュに。月に一度、建築物を見るために地方へ出かけることをライフワークとしている。今後は海外、特にニューヨークやスイスの建築を見に行くことが目標。

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