【「PACIFIC FURNITURE SERVICE」代表・石川容平氏インタビュー】「自分らしく生きる」がファッション化している? 部屋づくりの本質は“スタイル”ではない

2016.5.28 (土) 07:00

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ミッドセンチュリーやミリタリー、インダストリアルデザイン好きなら、「パシフィックファニチャーサービス(PACIFIC FURNITURE SERVICE、以下PFS)」「P.F.S. PARTS CENTER」(いずれも東京・恵比寿)を知っている人も多いだろう。家具や雑貨の数々、アメリカのジェネラルストアのように各種パーツと生活雑貨が所狭しと並ぶ様子には、心躍らずにはいられない。訪れるたびに部屋づくりのクリエイティビティを刺激される空間だ。

PFSのはじまりは、1988年、目黒区東山の5坪ほどの工房から。既成概念やマニュアル化された情報に左右されることなく、自由な価値観をもって感じ、表現するという姿勢を、誕生してから一貫、崩していない。

5月も後半。そろそろ新生活にも慣れ、自分の生活を見つめなおすことができるシーズン。「自分がこれからどんな暮らしをしたいのか」「どんな家具があると幸せになれるのか」「世間ではどんな暮らしが支持されているのか」。約30年間、発信する暮らしが支持されつづけているPFS代表の石川容平さんに話を聞いた。

欲しい家具がひとつもなかったから、自分で欲しいと思うものを作った

石川容平さん

――石川さんがPFSを立ち上げられたのは、今から28年前、バブル全盛期ですね。この時代に独立した経緯を教えて下さい。

単純に自分が欲しい家具が売っていなかったから、自分がいいと思う家具を自分で作ろうと思ったのが始まりです。大学時代にプロダクトデザインを専攻していたこともあり、当時は米軍基地に行って進駐軍が使っていた家具などを見たりしていたんです。それは、日本の百貨店に売っている“応接5点セット”や立派な鏡台、革張りのソファーなんかとはまるっきり異なるものでしたね。

日本では、家具に対する意識や価値観が一本化されているのが気に入らなかったんです。家具以外のことにも言えるのですが、とにかく家具でいうと“応接5点セット”や、そこらへんで売っているカラーボックスで済ませる、というふうに、選択肢がない状況に対して疑問を覚えていました。スチールパイプのラックがいいとかっていう考えが、当時はまったくなかったんです。

――立ち上げる前は何をされていたのでしょうか。

大学卒業後は就職活動をして、大手の家具屋も受かったけれど、ここで、いわゆる営業5年やって……っていう話になったんですね。営業をやっても、結局は大量生産の中に組み込まれてしまうし、5年後にデザインを始めたとしても、どうしても営業ベースで作るものを考えてしまうようになる。それだと結局、僕が疑問を抱いてきた価値観と同じだと思い、そこは辞退して、当時実験的な家具づくりをしていたサザビー(現:株式会社サザビーリーグ)に就職をしました。けれど、最初から独立するつもりだったので、サザビー(現:株式会社サザビーリーグ)にはテクニックを身につけるために入社したんです。

――それを経て、PFSを設立されたのですね。当初のお客さんの反応はいかがでしたか?

「待ってました!」といってくれるお客さんがたくさんいましたね。当時はカメラマンやミュージシャンなどのクリエイターの方がとても多かったです。

僕は特別な存在でもなんでもない。だから、それまで世の中にはなかったものでも、僕が欲しいと思うものを作れば、同じように欲しいと思ってくれる人は大勢いました。一回目に見える形でプロダクトを作って気付かせると、そのあとはダムが決壊したようにみんなの要望も高まってきたように感じましたね。

OPERATION A TABLE 199,800円(税込)
「シンプルな4人掛けのテーブルなのですが、ミリ単位までこだわって作った家具の一つです」と石川さん。普通のダイニングテーブルに比べて奥行きが浅めのため、デスクとしても使用することが可能。天板にはナラ無垢材を使用し、ニスの塗り方までこだわった一品。

P.F.S METAL FILE STORAGE 4,968円(税込)/写真右下
石川さん曰く、「一生と言わず3世代4世代先まで使えるボックスファイル」とのこと。ずっしり重みのある鉄製ボックスファイルは、ブックエンドにも。
P.F.S DOCUMENT BINDER 1,944円(税込)/写真左下
コピー用紙なら350枚挟むことができる機能性を持ちながら、見た目にもセンスの光るドキュメントバインダー。

“自分らしい”などとは、簡単には言えない

――「自分らしい生き方」や「自分らしい部屋作り」、「自分らしい空間」など、昨今、ライフスタイルでもファッションでも、トレンドに左右されないという意味の「自分らしい」という言葉がキーワードになっているように感じます。PFS設立時から同じスタンスを貫いてきた、“石川さんらしさ”とはどんなものでしょうか?

僕は、「自分らしく生きる」なんて簡単に言えないことだと思っています。本当に自分自身がどう生きようかって考えて、自分の価値観できちんと生きている人なんていうのは、今の時代も100年前もパーセンテージは変わらないんじゃないかな。今はそうやって、「自分らしく生きる」っていうのが、ひとつのファッションになってきていると思いますね。

――つまり「自分らしい」ということ自体がトレンドになっている、ということですか?

PFSだけじゃなくて、「TRUCK」などのブランドがやってきたことに対してフォロワーがたくさん増えたことで、「自分らしい」っていうのがスタイルになったんだと思うんだよね。その「自分らしいスタイル」が流行っているんだと思うんです。

例えばだけど、僕たちが始めた頃は天井を剥がして配管を見せるなんていう部屋作りは、まったくなかったんです。でも今は、「スケルトンスタイル」っていう言葉が生まれて流行っている。他にも、「うちの製品は無垢材を使っているので、ワックスがけをしながら使用してください」というと「ワックスがけか〜、面倒だな」というのに、「これもDIYですよ」というと「あ、DIYなんですね」といってやるようになる。こうやって言語化するとわかりやすくなるし、ビジネスとして商品化するときには絶対に必要なことなんだけど、それって結局は価値観の一本化なんだよね。「○○スタイル」っていうのはわかりやすいけど、「自分らしく」っていうのとは違う気がしますね。

石川さんは肌身離さずペンと紙を持ち歩き、思いついた時に家具やプロダクトの設計図を書き留めている。

――では、石川さんが思う「自分らしさ」とは?

僕が思う「自分らしさ」は、情報で操作されないことだと思います。自分らしさってスタイルじゃなくて、スタンスだと思う。結局、自分のスタンスをきちんと持っている人は、どんな家具を使っていてもかっこいいと思うんですよね。 でも、本当に自分らしいなんていうのは、僕だってわからないですけどね。

障害は、日本特有の「価値観の一本化」

――“スタンス”は、どうやって身に付けるものでしょうか。

スタンスは、視点だと思うんです。自分がどこの立ち位置で物事を見るか。ここに一度気付けば動くことはないし、保つことに努力は必要ないと思うんです。

僕について言えば、物事に対して、常に疑問を持ち続けていたことだと思うんです。疑問に思ったことを、きちんと疑問として持ち続けている。感受性って言えばいいのかな? それが大切だと思います。情報に左右されない自分の視点を磨くこと。これにつきます。

――その疑問というものは、いつ頃から持っていたものなのですか?

それはもう幼い頃から。子供の頃には、「戦争ってなんでするんだろう」ってずっと考えていましたね。これは、戦後に生まれた僕らは考えなくちゃいけないことだと思っていたんです。それで、いざ仕事をしようと思ったときに、こういった背景を無視して働くことができませんでした。

原爆のカラーフィルムや東京大空襲の記録映像などを見たものが強烈に残っていて、子供心に「なぜ人は集団でこんなことをやったのだろう」と思っていたのがずっと残っていたんです。それって結局、価値観が一本化されているところが根元にあるんじゃないか、と僕は思うようになりました。

――「価値観の一本化」、先ほどもおっしゃっていたことですね。

日本は島国という性質もあると思うのですが、価値観が偏っていると思うんです。ヨーロッパやアメリカは、さまざまな人種や文化の元に成り立っているから、それだけ多様な文化がある。けれど、日本の生活様式の理想形って2つ3つくらいしかないんです。それでは日本は面白くないな、と思っていました。

「P.F.S. PARTS CENTER」

「P.F.S. PARTS CENTER」

――今の日本は変わりましたか?

結局は変わっていないと思います。僕らがやってきたことも、ひとつのスタイルになってしまっただけで、根本は変わっていないですね。ただ変われるタイミングはあったと思います。「3.11」のあと、節電のために街中が暗くなったりして、一瞬世の中の価値観が変わるタイミングってあったんだと思うんです。けれど、日本は優しい国だから、変わらなくてもゆるやかに過ぎていってしまうんですよね。

――そんな日本という国で、今後PFSはどのようなものを売っていきたいと思っていますか?

今まで家具や店舗設計で培ってきたものを生かして、今後は建材や住宅で表現していきたいと思っていますね。家具と同じように、その人が住んでいくごとに味が出てくるようなものを造っていきたいです。

うちが他の家具屋に負けないと思うところは、“何が必要かについて考えている量”だと思うんです。本当に必要だと思うものを創業当初から作っているので、28年間やってきて今まで廃盤はありません。売れないからといってなくすことがないのは、僕らが良いか悪いかで判断しているからであって、そこは昔から変わっていないところです。

(文:戸塚真琴)

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■店舗の様子(「PACIFIC FURNITURE SERVICE」「P.F.S. PARTS CENTER」)


  • 「PACIFIC FURNITURE SERVICE」

  • 「P.F.S PARTS CENTER」

  • 車検証入れ。ダッシュボードに入れっぱなし、いざというときに必要な書類が見つからない……という心配もない。スタイリッシュで機能性にも優れた逸品。

■店舗情報

「PACIFIC FURNITURE SERVICE」

所在地/東京都渋谷区恵比寿南1-20-4
営業時間/11:00~20:00
定休日/火曜
TEL/03-3710-9865

「P.F.S. PARTS CENTER」

所在地/東京都渋谷区恵比寿南1-17-5
営業時間/11:00~20:00
定休日/火曜
TEL/03-3719-8935

公式サイト

ONLINE SHOP

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ENGLISH

PACIFIC FURNITURE SERVICE 代表取締役・チーフデザイナー
石川容平(いしかわ・ようへい)

デザインから製造、販売までを手掛けるインテリア&ファニチャーのパイオニア。サザビー(現:株式会社サザビーリーグ)より独立後、1988年にユナイテッドパシフィックスを設立。“開放する家具”をコンセプトに家具を製作。アパレルメーカーの什器作成、米軍駐留軍家具の復刻などを手がける。現在、東京恵比寿に直営店「パシフィックファニチャーサービス」「P.F.S. PARTS CENTER」を構える。

趣味はバイク。「オートバイに乗っているときは、頭の中がからっぽになって、降りたときにバーっとイマジネーションや感受性が入ってくるんです。人力を超えたスピードを体感することが新しいもの発想する源になります。そうやって、新しいものをアウトプットしていっています」。

PACIFIC FURNITURE SERVICE(パシフィック・ファニチャー・サービス)

東京・恵比寿にある、家具や雑貨を扱うショップ。家具を扱うショップの他に、各種パーツと生活雑貨を中心に扱う「P.F.S. PARTS CENTER」がある。個人邸・集合住宅・店舗・オフィス・ホテルの空間デザインも行っている。

PACIFIC FURNITURE SERVICE


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