【インタビュー】今、最も注目されるイラストレーター長場雄氏が描くカルチャー・アイコンの世界

2015.8.5 (水) 14:12

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『POPEYE』2014年9月号

シンプルな線で描かれた、表情らしい表情のない男性が、サンドイッチの前に佇んでいる。無駄な要素を省いたミニマルなイラストでありながら、見る人に何らかのストーリーを想起させるのは、むしろ余計な線が存在しないからだろうか。雑誌『POPEYE』2014年9月号『サンドイッチ特集』の表紙を飾った余白の多いイラストは、イラストレーター長場雄氏の存在を広く世間に知らしめることとなった。

シンプルな人物イラストを描き、パッケージデザインや装丁画、挿画、広告などのジャンルで活躍する長場雄氏(関連記事)は、2015年7月21日に初の作品集『I DRAW』を発表。代官山 蔦屋書店では作品集の発売を記念し、ドローイング作品50点を展示する個展を開催している。あわせて発売中のオリジナルTシャツは、代官山 蔦屋書店のイベント物販で過去最高の売れ行きを記録するほどの大盛況であり、毎日新しいイラストがアップされるInstagramのフォロワーは1万人にも迫ろうかとする勢いだ。


【連載】クリエイターの本棚 room.1:イラストレーター長場雄「迷ったとき、自分の本当に好きなことを見つめ直せるもの」

人が興味を持つのは人。それが人物を描く理由

長場雄氏

長場雄氏

2007年の作品

長場雄氏は1976年東京に生まれ、10歳の頃に父親の仕事の都合でトルコに渡る。トルコでは、油絵を描く現地のアーティストのもとで絵を学んだそうだ。そして2年後、長場氏は家族と共に日本に帰るが、それからしばらく絵を描くことから遠ざかった日々が過ぎる。

「何を描けばいいのか分からなくなったんです。大学進学を考える時期になってようやく、子供の頃から絵が好きだったから、その道に進んだ方がいいんじゃないかと。ですが美術大学に行っても、自分が何を表現したらいいのか分かりませんでした。ダラダラして就職も決まらずに卒業して、何がしたいんだろうと自分なりに考えたら、ふとTシャツを作りたいと思ったんです。それで、Tシャツを制作している会社に入って、絵柄を作ることになりました」

当時の長場氏の作風は、今のシンプルなイラストとは随分テイストが異なる。写実的であったり、タイポグラフィーであったり。イラストというよりもグラフィカルな表現だ。しかし表現は異なるとは言え、人物の絵を書き続けているのは今も昔も一貫している。

「会社の社長から売れるものを作れと言われて、自分にとっての軸というか、テーマが生まれました。人が一番興味を持つのは、人だと思うんです。それで、人物を描くことを選びました」


イラストの根底にはミニマルアートがあった

A PIECE FOR A DAY / drawing

A PIECE FOR A DAY / drawing

A PIECE FOR A DAY / drawing

長場氏の作品集『I DRAW』

今回発表された初の作品集『I DRAW』には、2014年1月の個展以降の作品約200点が収められていて、映画や音楽などのモチーフが多い。

「ひとりよがりなアートって、個人的には好きじゃなくて。それが人に伝わらないと絵として成立しないと思います。となると、見てすぐ分かるもの、共有できるもの、楽しめるものじゃないとあまり意味がありません。映画や音楽だったら、みんな知っていますから」

たしかに長場氏のイラストは、見てすぐにモチーフが理解できる。しかし不思議なのは、これだけ書き込みが少ないイラスト、似顔絵なのに、なぜそれが似ているように感じられるのか。顔なんて、ほとんど記号のような最小限の書き込みでしかないのに。

「シルエットで見せているというのはあります。意外と顔って、絵のパーツとしてそこまで重要ではないのかもしれません。だからこそ有名なモチーフを使いたいんです。特に映画だと、ワンシーンにこだわっているから、既に印象的な絵作りができているとも言えますね」

これらの作品の多くはAce Hotelのメモ帳に描かれている。Ace Hotelと言えば、ポートランドやニューヨークなどにあり、現代アートやクリエイティブシーンに理解を持つ新興のホテルチェーンだ。「自分がAce Hotelに泊まって、そこで描いているというイメージ」と長場氏は語る。そうすると、イラストに物語が紐付いてくる。考えさせる余地が生まれる。実は長場氏は、人に想像させるようなアート、とりわけミニマルアートが好きなのだという。


A PIECE FOR A DAY / drawing

A PIECE FOR A DAY / drawing

A PIECE FOR A DAY / drawing

「河原温の有名な『Today』シリーズ(キャンバスに日付だけが描かれた作品)は、淡々と過ぎる1日1日がパーソナルな視点では重要な1日だったりもする、それを想像させるのはすごいなんじゃないかと思っています。河原温には『I READ』『I GOT UP』など、"I”から始まるシリーズがありますが、実は『I DRAW』というタイトルもそれを意識してつけたんです」

『POPEYE』表紙がゴールになってしまう危機感

長場氏にとって大きな転機になったのは、雑誌『POPEYE』の表紙を飾ったこと。この抜擢をきっかけに、長場氏の世間的な知名度は大きく上向くことになる。

「もともと『POPEYE』が好きだったところに声がかかって、最初はTシャツを作るという依頼だったのが、最終的にはイラストが表紙にもなることになりました。自分にとっては、自分が憧れていた雑誌の表紙なんて夢のような話ですから、有頂天になってしまって…」

ある種の危機感を覚えた長場氏は、自制のために毎日1枚はイラストを描くことを自分に課す。長場氏のInstagramでは毎日新しいイラストがアップされ、“いいね!”の数は優に500を超える。ジブリ映画など特に有名なモチーフの場合は、1000を超えることすらある。

「もともと自制のためにやっているものですから、意図的に“いいね!”を稼ごうとは思わないようにしています。好きなものを描くのが一番良いかなと。だけど一方で、分かる人にしか分からないようだと面白くない。やるなら、全世界の人が分かるものを描くべきだと思っています」

メモ帳から巨大作品へ。ゴールの先に見えてきたもの

2015年4月24日~5月7日にかけて開催された長場氏の展示
『A Piece for a day』

憧れの雑誌『POPEYE』で表紙を飾るという目標を達成し、現在もInstagramでイラストをアップし続けている長場氏だが、Ace Hotelの小さなメモ帳にイラストを描き続ける中で、ある意味では対極とも言えるような考えが浮かび始めている。

「すごく大きな絵が描きたいんです。ニューヨークに行った時にバリー・マッギーが描いた巨大な壁画を見て、圧倒されて。大きい物って、単純だけど圧倒されますよね。今は小さいメモ帳に描いているけど、どんどん巨大化させるというのも、やりたいことのひとつです」


長場氏のミニマルなイラストが巨大作品として目の前に立ち上がってくる時、私たちはそれをどう感じるのだろうか。その光景を想像で楽しみつつも、まず今は現在進行形のInstagamや展示など、小さくも親密で、周囲の人たちと気軽に共有できる長場氏のイラストを堪能することにしたい。

(文:玉田光史郎)

◆関連イベント

長場 雄 作品集発売記念 Exhibition『I DRAW』
~8月11日(火)(代官山 蔦屋書店)

長場 雄 Yu Nagaba
1976年東京生まれ。東京造形大学卒業。アパレルブランドへのデザインワーク提供をはじめ、広告、装丁画、挿画、パッケージデザインなど幅広く活動中。人物の特徴を捉えたシンプルな線画が持ち味で、Instagramに毎日1点作品をアップしている。主な仕事に、雑誌『POPEYE』表紙、SOFTBANK Lineスタンプ、Panasonic web 広告、PRONTOカップデザインなどがある。また、キャラクター「かえる先生」の生みの親としても知られている。

Yu Nagaba | TOKYO | ART | DESIGN | ILLUSTRATION |
Yu Nagaba - tumblr
Yu Nagaba - Instagram


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