「失敗が成功を生む」とはこういうこと。話題作『未来をつくる起業家』のケイシー・ウォール×柿山丈博×Max Kinoshitaトークイベント

2015.8.17 (月) 01:17

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ケイシー・ウォール著『未来をつくる起業家』

ケイシー・ウォール著『未来をつくる起業家』

2015年3月に刊行されたケイシー・ウォール著『未来をつくる起業家』がAmazon Kindle Store総合1位を獲得した。本書はサブタイトルの「日本発スタートアップの失敗と成功 20ストーリー」にもある通り、日本人IT起業家20人が目の当たりにしたスタートアップ(起業)の現実について、インタビューを重ね、1冊にまとめ上げた本だ。

海外に比べてスタートアップの浸透が弱いと言われている日本。それは一体なぜなのか? 代官山 蔦屋書店では2015年7月17日に、20人のうちの1人として本書にも登場する柿山丈博氏(株式会社MONOCO代表取締役社長)と、投資家として活躍を続けるMax Kinoshitaこと木下慶彦氏(Skyland Ventyures代表パートナー)をゲストに迎え、トークショーを開催。本書には載らなかった「ここだけの話」などにケイシーが迫った。


スタートアップも投資も失敗は付き物

ケイシー・ウォール氏

ケイシー・ウォール(以下、ケイシー):今回のトークショーのきっかけになった書籍『未来をつくる起業家』が売れた理由は「これをやったから成功した」という話ばかりではなく、「失敗談が多かったから」だと僕は思っています。その中でも、柿山さんの話が一番面白かった。

柿山丈博(以下、柿山):じつは一度、全部書き換えてもらっているんですよね。昨年10月に本書の取材の話をいただいて、この件を共同創業者に任せたら内容が全くのデタラメで……(笑)。さらに、経理も彼に任せていたら帳簿も虚偽報告をされていて、数千万円の借金を背負ってしまい、11月には全員解雇しなければいけない状況にまで追い込まれました。今考えると、任せきりにした自分が全部悪いのですが。

ケイシー:あの頃は大変だったよね(笑)。インタビューを終えてゲラにしたものを確認用に送るんだけど、スタートアップは毎日何かしらの問題が起こるから、5人ぐらいから「内容を変えてください」「全部削除して載せないでください」と言われて。でも、そこを何とか乗り越えようと、1人ひとりに会って、取材を再度したりしてようやく1冊にまとまりました。

柿山:僕はその頃、人に対して疑心暗鬼になっていたけど、ケイシーだから素直に話したというところはあります。いつもニコニコ笑顔ということもあるけど、そもそも日本人は「失敗=美徳」という感覚があまりないので、失敗談をしても受け入れてもらえないと思っていました。その点、ケイシーは自分自身がスタートアップで失敗していることもあって、何でも話してしまいました。

木下慶彦(以下、木下):投資の世界も起業と同様に失敗は付き物です。アリババのジャック・マーですら「うまくいかないときのほうが楽しかった」と言っているぐらいですから(笑)。僕が投資で一番大事だと思っているのは、「約束を守ること」です。たとえば、投資家に対して「月にいくら使う」ということも約束の1つ。その額を守れないときは、事前に説明しなければいけません。約束を守れない、または約束をするというルールを設けていなくて、投資先がお金をドンドン使ってしまって失敗するというケースはたくさんあります。

柿山丈博氏

柿山:僕はある上場企業の社長のお知り合いの方から「信用」という言葉をいただきました。会社を再建するために頭を下げて、お金を借りに行ったら、「君には貸せない。君は今、商人として一番やってはいけないことをしている。商人は魂よりも信用が重要なのに、今の君には全くない。まずはそれを勝ち取ることが先だ」と。辛かったけど、「信用を勝ち取るには目の前のことを必死でやるしかない」と逆にポジティブになりました。

ケイシー:その後、柿山さんはピンチを乗り越えてMONOCOを再建したけど、もしもの話、ダメだったら自分の人生はどうなっていたと思う? 逃げてしまおうとかは考えなかった?

柿山:逃げるという選択肢は一切ありませんでした。実際のところ、創業時から投資していただいた4億円を全て溶かしてしまい、精神的には相当マイナスの状態だったことは確かです。でも、逃げたらどこにも居場所がなくなってしまう。それだったら、目の前のことを必死で取り組んだほうが楽しいんじゃないかと思うようになりましたね。

木下:投資先を見ていて思うのは「長く、誠実に頑張っていれば失敗しても次はある」ということ。知り合いでも会社は清算したけど、その後、新たに会社を立ち上げ、業績好調で六本木ヒルズにオフィスを構えている人もいます。それはスキルがあるのはもちろんとして、トライし続けているから。最近は、起業経験のある人を積極的に採用するなど、社会が少しずつ変わってきているように感じます。

スタートアップで一番大切なのは、アイデア? 人? お金?

木下慶彦氏

ケイシー:会社をつくるときに必要なのは「アイデア」「人」「お金」の3つだと言われています。2人はこの中で、どれが一番大切だと思いますか?

木下:お金は後からついてくるので人かアイデアですね。アイデアを構成するのは人だから、そう考えると人が一番大切かな。

柿山:僕も同意見。投資家はアイデアに投資しているわけじゃない。なぜなら、アイデアはパクれるから(笑)。彼らが見ているのは人で、「こいつらは信用できるか」「このチームならうまくいくか」ということを見ています。だから、チームづくりがとても重要。僕が今、チームづくりをするうえで大切にしているのは、自分にないスキルを持っている人間と組むことで、今のメンバー3人は持っているスキルが全員違いますね。

木下:僕はグローバルなチームづくりを心掛けています。中国語、韓国語、ヒンドゥー語、英語と、さまざまな言語を話すメンバーで構成しています。少し厳しい言い方をすると、日本人は能力が似通っていて、差別化しづらい部分がある。あとは仕事が遅い(笑)! 海外の人が30分でやる仕事を平気で2日かけて提出してくる。そこは意識改革をしていかないと難しいなと思いますね。

柿山:スキルともう1つ大切にしているのは「話し合える関係であること」。僕は社長として理念を持っているけど、以前の共同創業者とはそれを共有することができずに失敗してしまいました。今の3人とは、最初の頃はそれこそ寝ずに夢や理念を語り合ったので変な方向に進むこともないし、誤解がないので仕事がとても早いですね。

木下:ミーティングもただやればいいというものではなくて、自分が考えていることが相手にちゃんと伝わっているか、認識されているかということを考えなければいけません。それが「約束をする」ということに繋がっていくと思います。

次の世代へ「失敗の共有」をすることが大切

ケイシー:この本を書いた一番の理由は「スタートアップの情報を自分自身が欲しい」と感じた経験があるからです。僕は日本で3つの会社を立ち上げ、3つとも失敗しています。その理由はさまざまですが、1つは「情報が少なかった」ということ。その経験から、次の時代の若い人達がスタートアップをしやすくなるようにと思って、この本をつくりました。

柿山:僕は創業前にシリコンバレーに行きましたが、彼らは「失敗の共有」を頻繁にしているんですよね。失敗のノウハウが蓄積されているから、成功しやすい環境になっている。成功した人はお返しを次の世代にするという感覚で、それには感銘を受けました。

木下:僕はもっとたくさんの人にスタートアップに触れてほしいという思いがあります。オフィスでイベントを開催したりして、広げる場をつくっていますが、少しでも興味があったら行ってみることが大切です。まずは行動を起こしてほしいと思いますね。

ケイシー:新しい仕事をつくるのは大企業じゃなくて、小さい会社だからね。ニュースを見てもわかるように大企業が苦しんでいる現在、これからの日本はますますスタートアップが必要になると思います。スタートアップは大変だし、辛いこともたくさんあるけど、僕たちの失敗経験が少しでもこれからはじめる人の役に立つといいですね。


登壇者の3人全員が「自らの失敗」を赤裸々に語った。それも家族や友人に対してではなく、当日、トークショーを聞きに来た「見知らぬ他人」に対して。逃げない、誠実、正直という言葉がトーク中に頻繁に出ていたが、それは隠してしまいたくなるような過去もオープンにさらけ出す彼らの姿勢にそのまま現れていた。スタートアップを成功させるためのヒントは、じつはそんなところに隠れているのかもしれない。

(文:廣田喜昭)

【プロフィール】

ケイシー・ウォール(Casey Wahl)
米国ニューヨーク州出身。エグゼクティブ人材に特化した人材紹介会社ウォール・アンド・ケースと東京を拠点としたエンジェル投資及びインターネット企業のインキュベーションを行うレッド・ブリック・ベンチャー社の2社を創業。現在も世界を舞台に活躍を続ける。

柿山 丈博(かきやま・たけひろ)
2010年3月に上智大学を卒業後、同年5月にスピンオフ創業。創業4カ月で「Asia's Top 10 Apps」を受賞する。2012年4月にデザイン雑貨・家具に特化したECサイトMONOCOをスタート。商品のストーリーを伝える「価値軸」による販売手法が話題に。

木下慶彦(キノシタ・ヨシヒコ) Skyland Ventures 代表パートナー
早稲田大学を卒業後、インキュベイトファンドなど2社のベンチャーキャピタルを経て、2012年に26歳でSkyland Venturesを創業。代表パートナーに就任。「渋谷にスタンフォード大学を創ること」を目指し、渋谷から世界に羽ばたくスタートアップを支援している。


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