三浦しをん、ネットの感想を受けて進んでネタバレ!? 『あの家に暮らす四人の女』トークイベント

2015.9.9 (水) 15:51

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杉並の洋館で暮らす4人の女性を描く小説『あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社)の刊行を記念し、同書の著者・三浦しをん氏のミニトーク&サイン会が2015年8月6日(木)に「代官山 蔦屋書店」(東京・猿楽町)にて開催された。聞き手は、中央公論新社文芸局第一編集部・石川由美子氏と、同じく中央公論新社「婦人公論」編集部・角谷(すみや)涼子氏。

『あの家に暮らす四人の女』は、“仕掛け”がある小説

あの家に暮らす四人の女』(中央公論新社)

角谷涼子氏(以下、角谷):会場のお客様で、『あの家に暮らす四人の女』をもうお読みくださった方は? あ、半分くらいいらっしゃいますね。

石川由美子氏(以下、石川):そうすると、ネタバレされたくないって方もいらっしゃいますね。

三浦しをん氏(以下、三浦):そうねえ。……でも、ネタバレしますね(笑)。

石川:『あの家に暮らす四人の女』はミステリー小説ではないのですが、ネタバレ注意というか、ちょっとびっくりするような所があるんですよね。

三浦:はい、ちょっと仕掛けがある小説です。でも、その仕掛けの意図が、私の書き方が悪かったのか、読者の皆さんにあまり伝わっていない感じがしまして(笑)。あの……、私、ネットのご感想を見るのが大好きなんですよ。新刊が出た直後はけっこう見るんですが、「視点がころころ変わって、わかりにくい」とか、「なんでこんなものが急に話し出すんだ」といったご感想がわりとあって、こちらの意図があまり伝わらなかったんだなと……。刊行から1カ月も経ってないのに、このヘコみよう。

そこで、今回は意図をちょっと説明した方が良いんじゃないかなと思いました。小説をどう解釈するかは、もちろんお読みになった方の自由ですが、書き手の意図を少し明らかにすることで、読み筋をさりげなく導けるのではないか、と姑息な手を考えた(笑)。なので、若干ネタバレしつつ進めさせていただきます。

角谷:本書の帯には「現代版『細雪』」とあります。谷崎潤一郎の『細雪』は前々から気になっていらっしゃったんですか?

三浦:そうですね。連載を開始する前の打ち合わせで、掲載誌が「婦人公論」なので、女の人たちの話がいいというご意向があった。同時に、中央公論新社さんが今度『谷崎潤一郎全集』を出し直す予定だと聞いて、「女の人たちの話ということは、『細雪』みたいな感じですか?」というところから話が盛り上がったんですよね。ちょうど私、その打ち合わせの時に『細雪』を読み返しているところだったので。それで『細雪』を脳内に留めつつ書こうと思いました。

谷崎潤一郎の「語り口」の妙について

三浦しをん

三浦しをん氏

三浦:『細雪』って、語り口がちょっと変というか。谷崎潤一郎は、物語をどう語るかということを作品によって使い分けた、語り口/語り方に非常に自覚的な作家だと思います。『細雪』の場合は、完全な三人称で描かれます。いわゆる「神の視点」ですね。あらゆる登場人物の行動、内面が、神の視点から等価/等分かつ客観的に描かれるんです。

もっと一人称寄りの三人称の場合は、例えば「三浦はここでこう思った」「こう動いた」、「一方、角谷はこういう風に思っている『ようだった』」という風に、三人称でありながらも視点は“三浦”に置かれるので、限りなく一人称に近くなります。“三浦”以外の人物にはそこまで踏み込まず、ほかの人がどう思っているのかは、あくまで“三浦”に視点を置きつつ、「三浦は、角谷が怒っているのではないかと感じた」と表現するわけです。この場合、「三浦は」を「私は」に置き換えて、一人称小説にすることも可能ということになります。

でも、『細雪』はそうではなくて、「三浦はぼんやりしていた」「その頃、角谷は怒っていた」「石川は腹が減っていた」と、誰だかわからない「神の視点」が、読者に向かっていろいろ解説してくれるというパターンです。

ところが、その「神の視点」が時々、姉妹が住んでいる部屋のふすまの陰にシュッと回り込む感じで、「……ということが進行している最中だが、私はこう思う」という感じで、まあ、“私”とまでは言っていないのだけど、どうも作者の一人称にすり替わってしまうんです。そのような視点のブレがけっこうあるんですよ。近代小説には割と散見されるのですが、作者らしき人物の声というかぼやきというかが、突然混じってくるのです。その語りが面白いな、と思ったんです。

『あの家に暮らす四人の女』は、「神の視点」の「神」とは誰なのかを考えてみたいと思って書きました。『細雪』の場合は、突然混じってくる一人称的なぼやきの主は、たぶん作者なのだろうと推測されます。では、『あの家に暮らす四人の女』の場合、物語を「神の視点」から見守るのは、はたして誰がふさわしいのか。三人称という小説のお約束、人工的な語りを、どうすれば「必然」として物語に組み込めるのか。そこを考えて書いた小説です。

物語のなかの多様な女性の関係性

左から、角谷涼子氏と石川由美子氏

石川:私がまず面白いと感じたのは、中心人物たちの関係性でした。鶴代、佐知、雪乃、多恵美の四人は仲良し四人組という設定ではなく、母と娘、会社の先輩後輩、街角で知り合った友人といった、年代も境遇も関係性の濃淡も皆バラバラ。ふつうなら別々に暮らしているはずの女四人がなぜか共同生活をしている、というところがすごく面白いと思いました。

三浦:ありがとうございます。同居する全員が家族や友だちだと息苦しいかなと思ったんですよね。大人になってから出会った友だち同士なので、わりと適度な距離感。それくらいの人の方が、「結婚することになったからこの家出て行くわ」「同居解消するわ」となったときも、切り出しやすいかな、と思います。

角谷:なるほど。仲が良すぎると逆に気を使い合って……。

三浦:そうそう、そういうこともあると思うんですよ。長いつきあいの友だちだと、「あんたはいつも、肝心なことを言うタイミングが遅いんだよ」とか、「思い返せば中学3年の時もさあ……」「これまでつきあってきた男のタイプもひどいもんだった」なんて、過去にさかのぼって延々と糾弾されかねないので(笑)。

石川:付き合いの長い友人には人生の恥部も知られているから、ぐうの音もでない(笑)。

三浦:そう、来し方を知りつくされているから、逃げ場がないっていうのがありますよね。

石川:佐知と雪乃は、大人になってから偶然の出会いで仲良くなった二人です。学生時代の友だちと、成人してから知り合う友人はどこが違うと思いますか?

三浦:私は中学生くらいからの友だちが結構いるんですが、マジで容赦ないんですよね(笑)。大人になってからの友だちは、お互いにもうちょっと遠慮がある気がしますね。あー、でも大人になっての友だちのほうが趣味は似ているんですよ。学校時代の友だちって、席が近かったのをきっかけに親しくなった、というような関係の場合があるじゃないですか。大人になってからの友だちはほぼ全員マンガおたくですね(笑)。

石川:そんなご友人としをんさんがもし一緒に暮らしはじめたら、蔵書が大変なことに……。

三浦:そうですね。皆の蔵書を持ち寄って、マンガ図書館を作って。

角谷:引きこもりがますます(笑)。

三浦:うん。でもその図書館を開放すれば、近所の人とかが来てくれるかも知れないので、外の世界と触れられる(笑)。

もうひとりの重要人物・山田一郎

石川:牧田家の洋館に暮らす重要な人物がもうひとりいるんです。その名も山田一郎……謎の多い老人です。

三浦:メインの4人は古い洋館に住んでいるんですが、その敷地内に小さなおうちがもう一軒あって、そこに山田一郎というおじいさんが暮らしているという設定です。山田さんは親戚でも何でもなくて、どうしてなのかよくわからないけれど、ずっとそこに住みついている。

角谷:意外と、読者の方の感想には山田さんファンが多いんです。

三浦:それはうれしいですね。でも、登場人物の女性4人からは、超邪険に扱われています。もう80歳位なのに、庭の草むしりとかをさせられ、雨が降ると干してあった洗濯物をせっせと取り込んでくれて、水漏れが起きたら「山田さん、ちょっと直してくれる?」みたいな。そういう時にだけ呼びつけられる、かわいそうなおじいさんなんですが、山田さんは嬉々として、洋館に住んでいる4人の女の人のためにせっせせっせと働いている。……私は山田さんを、谷崎潤一郎だと思っているんです。

『細雪』は4姉妹の話とされていますが、実は長女はあまり出て来なくて、別の家に住んでいます。次女夫婦の家に、三女四女が転がり込んで一緒に住んでいるっていう設定。映画で言うと、次女の夫は石坂浩二ですね。原作の『細雪』では、きれいな奥さんとその妹に囲まれて鼻の下を延ばしている感じなんですよ。「兄さん」なんて頼りにされちゃって。それが、どう考えても谷崎潤一郎の化身。谷崎は自分を次女の夫のつもりで書いているんだと思うのですが、「ちょっと待って、タニジュン先生」と。女性陣に囲まれて暮らすのは、そんなにいいものじゃないですよ、と言いたい。でもタニジュン先生は、「そんなにいいものじゃない」ところがうれしかったのかもしれないけれど。ドMだから(笑)。

それで、『あの家に暮らす四人の女』では次女の夫(=タニジュン先生)ポジションが山田さんなんです。山田老人は高倉健に憧れているらしく、『網走番外地』シリーズを何回もレンタルしては繰り返し見ている。

石川:山田さんが登場すると、ふしぎと幸せな気持ちになるんです。ちょっとヘンなというか(笑)、特別な存在感がありましたね。

三浦:私も山田さんは好きですね。本当に健気でいい人なんですよ。だから、高倉健に憧れているっていう設定にしたんですよね。なんの思い入れもない登場人物だったら、健さんどうこうって、そんな素敵な設定というかエピソードを振らないので。やっぱり好きなんです、山田一郎のことが(笑)。


女性3人によるトークイベントは、三浦氏のトーク力の高さも手伝って、その“かしましさ”は物語さながらだった。語り手について、あるいは歳を重ねた女の友情について色々と考えをめぐらせながら、秋の夜長にじっくり読み込んでみたい。

(文:岸田祐佳)

三浦しをん(みうら・しをん)
1976年東京生まれ。2000年『格闘する者に○』でデビュー。06年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞を、12年『舟を編む』で本屋大賞を受賞。エッセイ集も多数。


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あの家に暮らす四人の女

あの家に暮らす四人の女

謎の老人の活躍としくじり。ストーカー男の闖入。いつしか重なりあう、生者と死者の声―古びた洋館に住む女四人の日常は、今日も豊かでかしましい。谷崎潤一郎メモリアル特別小説作品。ざんねんな女たちの、現代版『細雪』。

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細雪

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