「生き物の命を食べる」ことに全力で向き合う。登山家・服部文祥が「アーバンサバイバル」で教えてくれたこと

2015.9.27 (日) 07:00

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『サバイバル登山入門』
登山家・服部文祥さん

登山家・服部文祥さん

いつも身ひとつで山と格闘している登山家・服部文祥さん。最低限の装備で、食料を現地調達するその独特のスタイルは、2010年10月31日放送のTBS『情熱大陸』で特集され、世間に衝撃を与えた。自ら名づけた「サバイバル登山」に魅了されるかたわら、ふだんの服部さんは横浜の住宅地に住み、東京に通う勤め人でもある。

代官山 蔦屋書店で2015年8月26日に開催されたトークイベントでは、そんな「サバイバル登山」と表裏一体を成している服部さんの日々の暮らし、「アーバンサバイバル」について存分に語ってもらった。


「アーバンサバイバル」な暮らしを拝見

横浜市内の住宅地で妻と子供3人で暮らす服部さん。120坪という広さの自宅は、服部さんいわく、「住める20坪に、30度以上の傾斜斜面の雑草地100坪がおまけについてきた」のだとか。自分でウッドデッキや家具を作り、野菜を育て、ニワトリを飼って卵を食すその生活ぶりは、まさに都会に住みながら、山で暮らしているような「アーバンサバイバル」。トークイベントで次々と映し出される刺激的な暮らしの写真に、会場の誰もが関心の眼差し。


「アーバンサバイバル」な暮らしを拝見
「アーバンサバイバル」な暮らしを拝見
「アーバンサバイバル」な暮らしを拝見

「サバイバル」に至った経緯とは? 命を食べるということ

「サバイバル」に至った経緯とは? 命を食べるということ

「まだ自分でもうまく説明できないのですが、サバイバル登山の体験を積み重ねる中で、結局、ふだんの自分の生活の延長でやらないと意味がないと思うようになったんですよね」という服部さんは話す。

もともと、自分の力だけで“フェア”に山登りするフリークライミングに夢中になり、「サバイバル登山」の考え方に至った。フリークライミングをはじめ、沢登り、山スキーのかたわら、魚突き、山菜・きのこ獲りなどの野遊びに目覚め、2005年からチャレンジし続けている鹿狩りが、服部さんの「生きる」生活に大きな影響を与えることになった。

「よりその山に近づくために、最低限の装備と食料で登ろうと思ったわけですが、最初の頃の重要なタンパク源はイワナ。これがまたうまくてね(笑)。日本人にとって魚を獲ってさばいて食べることは日常の感覚なのかもしれませんが、それでも僕にとっては自分の命を優先するために他の生き物を殺しているという複雑な感情がありました。でもその一方で、スーパーで売られている肉で焼肉することには抵抗感がない。それって、おかしいのではないか。イワナだけでなく、四足動物でも自分は同じ思索をすべきじゃないかと思い、鹿狩りを始めました」


「サバイバル」に至った経緯とは? 命を食べるということ
「サバイバル」に至った経緯とは? 命を食べるということ
「サバイバル」に至った経緯とは? 命を食べるということ

狩りを経て、自然と家畜を飼い始める

狩りを経て、自然と家畜を飼い始める

チームで狩りをするだけでなく、鹿を撃ち、解体し、運び、料理するサイクルすべてを一人でやってみたいと考えた服部さん。最初のシーズンは北海道や山梨などの自然の中で鹿に出会うだけで奇跡だったが、山村で飼われている犬に鹿を追い出してもらって撃ち、やがては自分で待ち伏せして撃てるようになった。

「山の中でひとり鹿を待ち伏せしていると、早く来ないかな、犬でも誰でもいいから追い出しくれないかなとかばっかり考えている。そのうち、自然の中へ狩りに出かけるよりも自分で飼ったほうが楽じゃないか。昔の人もそう考えて家畜が始まったのかなと思いましたね」

そんな思いから横浜の自宅でも飼うようになったのがニワトリ。襲って来るイタチから防ぐために網を買って小屋も自前で作った。最初に買い始めたのがメス6羽でもちろん放し飼い。後から加わったオスの“キング”はそれまで鶏舎で飼われていたためか、最初は弱々しくメスから相手にされなかったが、服部家に来てからどんどんワイルドになり、今やまさに“キング”だという。


狩りを経て、自然と家畜を飼い始める
狩りを経て、自然と家畜を飼い始める
狩りを経て、自然と家畜を飼い始める

カメ、ザリガニ、近所の生き物もありがたくいただく

すぐ近くに都会がある日々暮らしでも、近所の林で食べられるものは何でも採ってきて調理して食べる。時には、カメやザリガニなども食すそう。

「なかでもカメはアタリでした(笑)。僕の感覚では体が大きいほどうまい。近隣の鶴見川にたくさんいるので、先日も神社の池に迷い込んだカメを獲ってきてさばいて食べました。砂利を拾ってポチョンと池に落とすと、餌と間違えてやってくる。パン屑ならイチコロです。カメは泥臭いところもありますが、数日水にさらすときれいになりますよ。かむ力が強いので、首を切り落とす時は慎重にいきます。かわいそうですけどね」


カメ、ザリガニ、近所の生き物もありがたくいただく
カメ、ザリガニ、近所の生き物もありがたくいただく
カメ、ザリガニ、近所の生き物もありがたくいただく

次から次へと繰り出されるサバイバルな生活とそのスキルに会場の雰囲気も熱気にあふれた。サバイバル登山で得た死生観と狩猟観の哲学が、日々の生活へとつながり、家族とともに生きる服部さん。圧倒的に自由な生きざまに、これからも目が離せそうにない。

(文:野間麻衣子)

服部文祥(はっとり・ぶんしょう)

登山家、作家。山岳雑誌『岳人』編集者。1969年横浜生まれ、94年東京都立大フランス文学部卒。大学時代にワンダーフォーゲル部に入部したのを皮切りに、オールラウンドに高いレベルで登山を実践し、96年世界第2位の高峰K2(8611m)登頂。国内では劔岳八ツ峰北面、黒部別山東面などの初登攀が数本ある。99年から長期山行に装備と食料を極力持ち込まず、食料を現地調達する「サバイバル登山」を始める。妻と三児と横浜に在住。
著書に『サバイバル登山家』(みすず書房)、『サバイバル!』(ちくま書房)、『狩猟サバイバル』(みすず書房)、『百年前の山を旅する』(新潮文庫)、『ツンドラ・サバイバル』(みすず書房)、編著に『狩猟文学マスターピース』(みすず書房)、『富士の山旅』(河出文庫)がある。


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