松浦弥太郎が一流品を好む理由、そして、クックパッド移籍の理由とは? 『くいしんぼう』『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』刊行記念トークショー

2015.11.9 (月) 15:10

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松浦弥太郎氏

中目黒にある書店「COW BOOKS」店主であり、文筆家でもある松浦弥太郎氏の最新刊『くいしんぼう』『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』が刊行された。松浦氏が長年愛用してきたもの、食べてきたものについて、自身の家庭環境や略歴などのエピソードとあわせて、それを愛する理由が丁寧で真摯に綴られている。

くいしんぼう

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松浦弥太郎の男の一流品カタログ

松浦弥太郎の男の一流品カタログ

発刊を記念し、「松浦弥太郎解体図鑑」と題されたトークイベントが、2015年9月20日に代官山 蔦屋書店で行われた。両書についてのことはもちろん、今春に大きな話題となった松浦氏のクックパッド移籍の話題など、松浦氏のいま、そして今後を読み解く貴重な夜となった。

※2016年12月にクックパッドを退職し、新たなステージへ
松浦弥太郎「結局、僕は何ひとつ成功していない」。「くらしのきほん」や新メディアで目指すもの ―新刊『「自分らしさ」はいらない』出版記念インタビュー

一流品に詰まっているのは“夢や希望”

一流品に詰まっているのは“夢や希望”

著書、トークショーで紹介された逸品

この日のトークイベントは、『くいしんぼう』『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』の話からスタートした。『くいしんぼう』は雑誌『anan』での連載をまとめた一冊。「自分くらいにくいしんぼうはいないだろうと思っていた」という松浦氏が、anan編集長からの「食べ物の話を書いてみませんか?」という依頼を受けたことが連載をするきっかけとなったという。松浦氏の著作は数あれど、意外なことに、食べ物の話はそんなに書いたことがなかったそう。

「僕はお酒を飲まないから、グループでお酒を飲みに行くことがないんですね。僕は早寝早起きで夜は眠くなっちゃうから、夜はあまり出かけられないんです。その代わりに、おやつやランチを人と食べに行くことが多い。だから、いわゆる昼のおいしいものをたくさん知ってるんです。小さい頃からそういうものは大好きでした。家族もみんな大好きなので、いつもお使いを頼まれたり。本には、その時のエピソードもたくさん書きました」

『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』は、雑誌『BRUTUS』2014年9月1日号の同名の特集を書籍化したカタログ&エッセイ。フード、ファッションアイテム、本、日用品、家具、車など松浦氏が惚れ込んだものが多数掲載されている。松浦氏は「欲しいものはいっぱいある」というが、その思いの根底にあるのは「確かめたい」という気持ちだそう。

「例えば、べらぼうに高いものでも、その高い理由が知りたいんです。それは買わないとわからない。買って確かめたい。若いときに外国に行ったりしましたけど、あれもよく考えたら結局はそこに何があるのか確かめたかったんですよね。自分の目で、肌で感じて、頭と心で確かめたものを自分の経験として蓄積していきたい。それはひとつひとつが感動だから、いつか形を変えて、仕事というアウトプットで必ず循環していくし、そういうインプットがないと、仕事という表現作業はおもしろくないと思うんです。一流品は、僕にとっては夢や希望など、自分にとっての励みなんですよ。一歩でも近づきたいという気持ちを持つだけでいろいろな出会いがあったり、なんとなく自分のまわりが動いたり、いろいろな学びがあったり、エピソードが生まれる。そういうことを遠回しにお伝えできたらうれしいなと思ったんです。僕は質素とかシンプルとかよく言っていますけど、もちろん質もある上でのシンプルっていうことなんだよともう一度言いたかったんです」


クックパッドへ移籍した理由とは?

クックパッドへ移籍した理由とは?

そして、司会の代官山 蔦屋書店の料理コンシェルジュ勝屋なつみ氏がずっと話を聞きたかったという、松浦氏の新たな挑戦の話へと話題は移っていく。『松浦弥太郎の男の一流品カタログ』の中でも書かれている通り、今年4月に発表となった松浦氏のクックパッドへの移籍。『COW BOOKS』店主として、『暮しの手帖』編集長として、本に深く関わってきた松浦氏のネットメディアへの移籍は、各所に大きなインパクトを与えた。松浦氏が『暮しの手帖』を辞めるきっかけは何だったのだろうか。

「2005年10月に暮しの手帖社に入社したんですけど、その時に5つくらいの約束をしたんですね。それに向かって自分が命をかけて仕事をするという約束をして、僕を信じてもらってやってきましたけど、心の中では、5年くらいで約束を果たせたら自分の役割も終わりだなと思っていたんです。でも、出版という業界自体が冷え込んでいたし、自分の力不足というのもあったし、5年でその約束を果たせなかったんですね。

そして、2013年に大橋鎭子さん(暮しの手帖社社主)が亡くなって、翌年2014年に妹の芳子さんが亡くなったんです。その時、僕と暮しの手帖社のつながっていたものが消えてなくなったような気がしました。はじめてため息をついたような時期でもあったんです」

そのような時期に松浦氏が考えたのは、「49歳を目前にして、50歳からの自分の人生は、何に対して一生懸命生きていこうか」ということだったという。

「もちろん暮しの手帖社での仕事もイメージしましたが、9年も編集長をやって、まだ暮しの手帖社にいてもいいのかと思ったんです。編集長を長くやっていると、緊張感も薄れて、何も困らない状態になってくるんですよ。慣れになってくるところもあって、そういう気持ちを持ちながら仕事をしていくのは不誠実だと思いました。それでふと、いろいろなことを犠牲にしてでも、もう一回なら何かを新しくはじめるわずかな力が自分の中に残っているなと思ったんです。

僕は、子どもの頃から幾度となく『今に見てろ』と思ってやったことっていくつもあるんだけど、それが最後の一個になった気がするんですよ。『暮しの手帖』も編集者経験のないところからはじめているし、本屋もそうですけど、ステップアップではなくて、自分がまったくやったことがないことをやりたい。ゼロ以下からやりたい。その「今に見てろ」がもう一回できると思ったんです。

それで、自分が悔しいと思ったり嫉妬するものを考えたとき、それはやはりインターネットだったんですね。僕は一番になりたいんです。『暮しの手帖』をやっていて、暮らしというテーマのメディア、印刷媒体としては一番になろうと思ったんです。一番になりたいとずっと思っていたんですけど、一番になれないと思ったんです。それはインターネットメディアがあるから。僕は、暮らしって料理だと思うんです。だって、料理をしようとするから買い物にも行くし、健康のことも考えるし、家族のことも考える。暮らしの中から料理がなくなったら、それは暮らしと言わないと思います」


これからの時代に必要なのは“いまに見てろよ精神”と“バランス感覚”

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クックパッドに入社後、松浦氏は「くらしのきほん」というメディアを、たった三カ月で立ち上げた。料理をはじめ、生活の基本を丁寧に綴ったメディアで、自ら原稿執筆はもちろん、写真・動画撮影、企画構成、サイト開発にも挑戦しているという。ネットメディアという新境地へと移籍したからこそ見えてくる、本屋や紙媒体の今後についてはどのように考えているのだろうか。

「紙媒体がゼロになることはないと思うけど、もうだめだと思っても諦めずに、それこそ『いまに見てろよ』的な感じでやっているところが残ると思います。何でもそうだと思うんです。僕は自分で何でもやっているけれど、それがすごいわけじゃないんです。やろうとしているだけなんです。最初から写真も撮れないし、文章も書けないし、動画も撮れないし、インターネットのこともわからないけれど、『いまに見てろよ』と思って死ぬほど練習してやるわけですよね。それで、なんとなくできるようになる。だから、うまくいくかだめかも自分次第ですよね。『絶対大丈夫、絶対やるんだ』って思えば大丈夫です」


最後に松浦氏は、「バランス感覚というのはこれからの時代とても必要だと思います。どういうバランス感覚がちょうどよくて、自分が日々健やかに生きていくためにどれくらいがちょうどいいのかを、なんとなくではなくてひとつのスタイルとして伝えていきたいとずっと思っています」と語った。50歳を目前に異業界へと転職し、学びや発見の絶えない日々に、松浦氏は「楽しい」と笑う。素直に、貪欲に、新境地を開拓している最中の松浦氏の今後に、ますます目が離せない。

(文:岡崎咲子)

松浦弥太郎(まつうら・やたろう)

松浦弥太郎(まつうら・やたろう)

1965年、東京生まれ。文筆家、『COW BOOKS』代表。雑誌『暮しの手帖』編集長を長く務めたあと、2015年春よりクック・パッドに移籍。著書に、『[よりぬき]あたらしいあたりまえ。BEST101』(PHP研究所)、『正直』(河出書房新社)、『100の基本 松浦弥太郎のベーシックノート』『くいしんぼう』『松浦弥太郎の「男の一流品カタログ」』(以上マガジンハウス)など。

くらしのきほん

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