京都の名物書店「恵文社 一乗寺店」の新世代の挑戦。“世界で一番美しい本屋”に選ばれた名店が描く未来とは

2016.5.27 (金) 17:30

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恵文社 一乗寺店

本屋好きなら京都の「恵文社 一乗寺店」を知らない人はいないだろう。イギリスのガーディアン紙が2010年に発表した「世界で一番美しい本屋10」に日本で唯一選ばれたことでも知られる同店。実は2015年末に新しい時代を迎えたことをご存知だろうか。

店の代名詞と言っても過言ではなかった名物店長・堀部篤史さんが勤務10年にピリオドを打ち、個人書店「誠光社」として再スタートを切った。一方、「恵文社 一乗寺店」で、堀部さんの偉業のイメージが特に色濃い「書店部門」を背負うことになったのは、同店で最年少24歳の鎌田裕樹さんだ。

創業1975年、40周年を迎えた「恵文社 一乗寺店」の現在と、“若い世代”がこれから作り上げる未来とは。鎌田さんに話を聞いた。

外観

「恵文社 一乗寺店」は「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」。本だけでなく、本の生活が豊かになるような雑貨や作家の作品を展示するギャラリー、イベントスペースも用意。

「僕で終わらせたら、本当に罪深いことだと思う」。プレッシャーと戦いながら、期待を受け止める日々

――「恵文社 一乗寺店」の前は、何をされていたんですか?

僕、去年の春ぐらいまで他の書店の店長をやっていたんです。すごく小さな期間限定のお店だったんですけど、一人で棚割りも選書も自由にしていいと言われて。周りには「あまり盛り上がらなかったよね」って言われたんですけど、僕の中ではすごく糧になりました。

この時、店に「恵文社」の社長が来てくれたんです。棚を見て、「若いな」って言われて。「やっぱ、あかんかったんや」って思ったんです。でも、「若いけどいい本を売ろうとしている姿勢が誠実に見られる棚だった」って評価していただいて。すごく嬉しかった。

――鎌田さんは今、何を担当されているんですか?

英米文学です。以前から堀部さんが手掛けていたこのジャンルが充実しているのが気に入っていて、足繁く通っていたんです。

  

――そうすると、堀部さんがやっていた海外文学の棚の後任ということで、いきなり大きなところを任されたわけですね。プレッシャーはありませんか?

それはありますよ。堀部さんは今の「恵文社 一乗寺店」のスタイルを築いた方ですから。特に文芸の本などは売りにくいジャンルだったりするんですけど、ここではそういう本がちゃんと売れるんです。そういう(文芸書への目が肥えた)お客さんが来てくれる店において、彼らが買ってくれるような本がないというのは、ダメというか……そこを僕で終わらせたら本当に罪深いことやと思うんで。

全国だけでなく、海外からもたくさんのお客さんがいらっしゃいます。ここで青春を過ごしたという人もたくさんいるわけです。正直、堀部さんが抜けた後に対する批判的な反応もありました。でも僕らも現場をやってきたわけなので、できるところを見せたい、という気持ちはあります。

  

でもそれは、モチベーションなんです。以前と同じことをしていても「やっぱり恵文社いいよね」とは言ってもらえない。「いいよね」って言ってもらうために、常に進んでいくしかないんです。

いろんな人に聞きながら、自分に何ができるかっていうのを下から見て学ばないといけない、っていうのが、僕が最近思っているところです。だからこそ今、店のみんなと相談しながらやれているということ、普段する読書から、映画を見に行くこと、音楽を聞くなど、僕がすることすべてがお店に活きてくるというのが、勉強になるし楽しい、と思って日々過ごしています。

――棚作り、選書で大切にしていることは?

堀部さんもおっしゃっていることですが、「編集する」という感覚ですね。

例えば、海外文学の棚にアメリカのサーカスの歴史を扱った本などを挿してみるんです。もともとサーカスというのは、インディアンと騎兵隊の戦いを扱った劇をやっていた人たちが始めたもので、娯楽が十分になかった時代に、たまに興行に来るわけです。一般庶民の人たちが見に行く娯楽として発達したという背景があるので、マーク・トウェインの小説などにも、少年が憧れる場として出てくる。そう考えると、サーカスの本が『トム・ソーヤーの冒険』の横にあったら面白いかなと。

やっぱり引き出しがいっぱいないと。僕なんか、まだまだ何も知らないんで、それこそインプットを増やさないと。今できることがそれくらいしかないというか。でも、がむしゃらになれるということが楽しいなと思っています。

鎌田さんが担当する海外文学の棚。

鎌田さんが担当する海外文学の棚。

新しい世代だからこそ、新しいつながりを作っていきたい

――選書される方の世代や年代によって作る本棚は違ってくると思うのですが、鎌田さんにしかできない本棚を作ってらっしゃる感じですね。

僕は、それを恵文社の歴史が生んだものの中で活かすためにやりたいと思っているんです。イチから作るというのは、僕が今ここでやる必要がありませんから。

今京都では、堀部さんが独立して「誠光社」を作られて、名物書店「ガケ書房」が「ホホホ座」になり。これらのお店の中心となっている40代前後の同世代の方々が、ここ10年以上、左京区というか京都の本屋シーンを引っ張ってきて、今なお牽引してらっしゃる。彼らが次のステップに進まれたということに、僕らみたいな若い世代もやる気をいただいています。「僕らにやれるだろうか、いや、やりたい」っていう。

――新しい世代ですね。

僕が言うと怒られるかもしれないですけど……。今まで名声や実績を積んでこられた方々が、次のステップに行かれるのであれば、僕らは彼らが残したものを、新しい形で引き継いでいけるんじゃないかと思っているんです。まだ全然追いつかないですけど(笑)。

――鎌田さんがお店に来てからのお客さんの反応はいかがですか?

自分が担当した棚で、きちんと手を掛けたところから、ちゃんと見てくださっていると感じています。

あと、飲み屋でお客さんに「何してる人?」って聞かれて「恵文社で働いています」って言うと、「がんばれや!」って応援してもらえることが本当にたくさんあるんです。やっぱり、「恵文社 一乗寺店」の蓄積ってすごいな、ってしみじみ思います。僕が本屋の世界に入ったのが18歳の時で、書店員歴もまだ5,6年なので、おこがましいかもしれないのですが……。

今は、見守っていただきたいなと。自分自身、現状で満足してしまったら、どんな仕事も成長がないと思っています。もっとよくできるぞって。

  

「恵文社 一乗寺店」では、「思わぬ出会いにぶつかるような提案」や「読むだけでなく美しい本を眺める楽しみ方の提案」を心がけたセレクト&棚作りをしている。  

――京都には個性的な本屋さんが本当に多いですよね。この街で、実現してみたい夢はありますか。

京都では、ものすごい規模の古本市が春と秋と夏の年3回あるんですよ。街を歩けば古本屋があって、もちろん新刊書店も充実している。小さい本屋も、中規模のチェーン店も、大型書店も、どこもそれぞれにセレクトにカラーがある。でも、本屋同士でライバルという意識はないのかな、という感じがしています。どちらかというと、仲間というか。先日、「ホホホ座」の山下さんにお会いして、「一緒に頑張ろうぜ」って言っていただいたんです。そういう感覚がもっと広がればいいなって。

これからは、街の人や別の本屋さん、雑貨屋さん、喫茶店などが、お互いに協力できるような面白いイベントやコンテンツ、選書なんかもできるといいなと思います。場を作り、逆に僕も仲間に入れてもらえたら。そういうことを現場のことをやりながら意識していったら、今までと違う新しいステップに進めるんじゃないかなって。そのつながりをつくるためにも、僕が飲み歩くしかないですね(笑)。

――鎌田さん、本当に腰が低いですね。

僕はそれしか取り柄がないんで(笑)。

「恵文社 一乗寺店」鎌田さんがセレクトした「今の京都を知る」3書

最後に、「恵文社 一乗寺店」鎌田さんがセレクトした「“今の”京都のことをもっと知りたくなる本」を3冊ご紹介。

  

『有次と庖丁』(江弘穀 著)

錦市場に「世界の有次」と言われる包丁の超有名店があるんです。そこの歴史や物づくりのこだわりを書いた本です。ここには、ウナギを切る用の包丁や、何々用の包丁というのが400種類以上ある。買うと研ぎ方などもちゃんと教えてくれるんですよ。「使って初めてその人の手になる」ということをおっしゃっていて、それはとても大事なことだし、京都っぽいひと言ですよね。

『失われた感覚を求めて』(三島邦弘 著)

これはいわずもがな。全国でも知られている出版社「ミシマ社」さんの話です。東京のほかに京都でも拠点を作られているんです。出版社は東京に集中していますが、その限界を越えられるか、不況と言われている出版界を変えることができるのかを求めた実践録です。

『人生、行きがかりじょう』(バッキー井上 著)

バッキー井上さんという京都の超有名人です。漬物屋の店主で、かつ「百錬」という居酒屋のオーナー。その人の半生を語ったというだけの本なんですけど、これがすごく面白いんです。漬物屋の店長っていうからどんな人だろうと思って読んでみると、とんだ変態やった(笑、褒め言葉です!)。「ミシマ社」の社長・三島さんがつけたアダ名は「京都の妖怪」。ちなみに雑誌『Meets』でも4コマ漫画の連載を持ってるんです。

「恵文社 一乗寺店」公式サイト


  • こ、これは…!

  • 「カラーブックス」好きには垂涎モノ!

  • ZINEも種類豊富。ユニークなタイトルは見ているだけで楽しい。
  • かわいい豆本。
    かわいい豆本。

  • 珍しい本、懐かしの本、新刊と、さまざまな本に出合える。まるで宝探しのよう。

  • 絵本コーナー。

  • ディスプレイにもあたたかみがある。

  • 衣食住にまつわる書籍と、それにリンクする生活雑貨をセレクト・提案する「生活館」。

  • ミニギャラリーでは、作家・ショップ・ブランドなど、なかなか触れる機会がないアイテムを紹介。

  • ロウが垂れるキャンドル「COLOR DROP キャンドル」。色が積み重なって、自分好みの配色に育てられる。

  • 本と一緒のティータイムに、こんな器を使うと素敵かも。

  • 「ひなのや パン豆」。愛媛県東予地方、丹原町でポン菓子をつくる「ひなのや」。地元ではポン菓子は“パン豆”と呼ばれているとか。

  • 「Fontaine クレイ石鹸」。

  • 2015年12月まで配布され、ファンも多かった月刊フリーペーパー「一乗寺ガイドジャーナル」。手書きのほのぼのしたイラストで、店の1カ月のスケジュールを知らせてきた。店頭やサイト上でアーカイブが見られる

  • 体験を共有するスペース「COTTAGE(コテージ)」。イベントなどに利用できるレンタルスペース。

  • 雑貨の販売、ギャラリー展示を行う「enfer(アンフェール)」。

  • 実験道具シリーズ。子供の頃は理科の実験などで使ったアイテムを、大人になった今はどのように使おうか。

■プロフィール

「恵文社 一乗寺店」書店部門マネージャー
鎌田裕樹(かまた・ゆうき)

1991年生まれ、24歳。千葉県出身。18歳から別の書店でアルバイトをはじめ、店長経験を経て、恵文社に。主に同店の書店部門を担当し、同店イベントスペースCOTTAGEでのイベントも多数企画している。

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