使うほど育つ。「釜浅商店」が伝える“良理道具”とは? 【4代目店主・熊澤大介インタビュー】

2016.11.15 (火) 13:32

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「釜浅商店」4代目店主・熊澤大介さん

「釜浅商店」4代目店主・熊澤大介さん

フライパンや包丁、鉄鍋など、「釜浅商店」に並ぶ商品は、一見すると昔からどの家庭にもあるような、シンプルなデザインのものばかり。にも関わらず、同店が扱う道具は、プロの料理人はもちろん、一般のお客さんや外国人観光客からも、熱烈な支持を集めている。

「良い道具には『理(ことわり)』がある」との思いから、自らが扱う商品を「良理道具」と呼ぶ4代目店主の熊澤大介さんに、「違い」について話を聞いた。

道具を「育てる」とは使い込んで自分に馴染ませること

――「釜浅商店」さんについて教えてください。

1908年の創業から108年、日本一の料理道具専門店街と呼ばれる東京・合羽橋で、信頼できる職人さんが作る「理由のある良い道具」と、オリジナル商品を扱っています。2004年に僕が4代目店主に就任した後、2011年に全面的なリブランディングを行い、「良理道具」の魅力を多くの人に発信すべく、国内外で道具と使い手とをつなぐ場を提供してきました。

――熊澤さんは、ご著書『創業明治41年 釜浅商店の「料理道具」案内』の中で、「道具との関係は、『育てる』ことから始まる」とお書きになられていますが、道具を育てるとは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

うちが扱っている商品には鉄のものが多くて、どうしても重いとか、焦げるとか、錆びるといったイメージがあるから、なかなか手に取ってもらいにくいんですよね。

釜浅商店の南部鉄器

釜浅商店の南部鉄器

でも、うちの道具はちゃんと育っていくんです。例えば、良質な鉄分が料理や湯に加わって効果的に摂取できたり、使い込んで馴染んでいけば、焦げ付きにくくなったりというように。つまり、商品を買った時っていうのはゼロの状態なんですね。

――釜浅商店さんでは、メンテナンスもすごく大事にされていますよね。

売ったら売りっぱなしではダメで、むしろ買ってもらった時からお客さんとの関係性が始まると思っているんです。日本の包丁の品質の高さは海外でもみんな知っていて、パリのレストランの厨房に行くと、「俺日本の包丁持ってるんだよ」って見せてくれるんだけど、「これ今でも使ってるの」って聞くと、「切れなくなっちゃったから使っていない」って。

やっぱり包丁を売るときには、研ぐっていうことも合わせて伝えないと不十分なわけですよね。研げばまだ使えるのに、下手したら捨てちゃう人もいる。それってやっぱり道具屋としてはすごく悲しいことなんです。売ることだけを考えるんじゃなくて、その後の事までちゃんと考えないと。それが売る側の責任でもあるわけだから。

熊澤大介インタビュー
熊澤大介インタビュー

本質を理解して理想を追い求める釜浅商店のものづくり

――最近では似たようなシンプルなデザインのものが安価で手に入ったりもしますが、そういったものと釜浅商店さんで扱う商品にはどのような違いがあると思われますか。

やっぱり物の本質をちゃんと理解しているかどうかと言うところだと思うんですよね。なぜこういうデザインなのかっていうことを理解して売っているのと、よくわからずに売っているのとでは、全然伝わり方も違うし、作る上でもこれが売れているから真似してこういうのを作ってみましたっていうだけでは、本質的な部分をちゃんと拾えないと思うんです。

代々「釜浅商店」では自信を持って人に薦められないものは店に置いてこなかったし、商品や仕事に対してプライドがありましたよね。目の前の人が欲しているものを薦める。ないものは一緒に考えて作る。子供の頃からそういう親父の背中を見て育ってきてるから、それこそがうちの店らしさなんだと思っていました。

――物の本質を熊澤さんが理解するきっかけとなるような出来事はあったのでしょうか。

20年位前に、「炭火焼をやりたいから専用の焼き台を作ってくれ」って熱心に言ってくる料理人さんがいたんです。親父が料理人と一緒になって、炭の芯の温度と肉の焼き加減の関係を一生懸命研究しているのを、僕もずっとそばで見ていて。

熊澤大介インタビュー

炭火焼専用の焼き台。

耐火レンガでしっかり作った焼き台は、手間はかかるし重量も重くなるんだけれども、保温性が高いということは、逃げる熱が少ないから火力も安定するし、炭も無駄に燃えないから長持ちするとか、すべてがきちっと理にかなっていて。良い道具はちゃんと理由があって、こういう形になっているんだという原理のようなものを、その時実感したんですよね。

――熊澤さんも、渋谷の「炭火焼ゆうじ」の店主・樋口裕師さんと、厨房機器メーカー「照姫」専務の植大(うえ・ひろし)さんと炭火焼ロースター「YK-T」を開発されましたよね。

炭火焼きロースターYK-T

ステンレス網と鉄板2枚を使い分けられる「炭火焼きロースターYK-T」。

あのロースターはステンレスの網と鋳物の網が使い分けられるっていうのが1番の特徴なんですよ。ホルモンはステンレスの網で無駄な油をしっかり切ったほうがいいいけど、赤いお肉は鋳物の網でジワッと火を入れたほうがおいしいって裕師さんと話していたのがきっかけで。そんな商品はないから「じゃあ作ってみましょう」っていう話から始まって。網が2種類あるということは、もちろん掃除の手間も2倍かかるし、オペレーションも大変なんだけど、やっぱり突き詰めている人はそこまでやっちゃうんですよね。

――まさに物事の本質を知っているからこそできることですよね。

裕師さんは本当に勉強熱心な人だから、そういう人と触れ合うことによってこちらもすごく刺激を受けますね。あとはもちろん、植さんみたいに僕らの要望に応えてくれる、信頼できる職人さんとの出会いも大きいですよね。


老舗ならではの経験に基づき考え抜かれた「良理道具」の機能美

――機能性を追求した道具こそが、熊澤さんの考える「良理道具」ということでしょうか。

結果として長年残ってきたということは、それこそが究極の形や素材であり、それを人は「かっこいい」と感じるんだと思います。料理道具は、料理をするのに適していればいいわけで、それ以上のものはいらないわけです。実際に毎日使っている料理人さんから聞く、「これはこういうところが良かったよ」とか、「ここをこうしたらもっと良くなるよ」といった日々のやりとりの蓄積こそが、「釜浅商店」の財産になっているんだと思いますね。

熊澤大介インタビュー

――手入れの手間や重さといったハードルを乗り越えるには、実際に自分で「違い」を体験することが一番効果的ですか。

体験することも一つのきっかけにはなるかもしれないですけど、やっぱり何事も自分に合った「使い勝手」をちゃんと考えるっていうことが大事だと思うんですよね。例えばお店を開店する人に、「どうしてこういう風に作るんですか」って聞くと、「前働いてた店はそうだったから」っていう答えが返ってくることが多くて。

――使い手が気づいていない「使い勝手」を提案できるのも、「釜浅商店」さんの特徴ですね。

使う人に、「こうしたほうがいいですよ」って言ってあげられるのが、僕ら専門店の強みだと思うんですよね。デパートの店員さんには絶対できないことだから。

――最後に、熊澤さんが、道具を通じて伝えていきたいこととはなんでしょうか?

やっぱり物との関係性ですよね。目の前にあるのは1つの料理道具ではあるんだけれども 背景にはそれを作っている産地や職人さんの存在がある。物を通してそういったところまでも伝えていけたらいいなと思っているんです。

――以前ギャラリー「KAMANI」で開催された包丁の写真展が、まさに象徴的でしたよね。実際にスタッフが職人さんの元を訪ねて、お話を伺い、写真を撮って、ギャラリーで写真と包丁を展示するという。

やっぱりああいうのを見ると、この包丁、もっと大事にしようって思えるじゃない? 作り手の顔が見えると、道具にも愛着が湧くんです。

(取材・文:渡邊玲子)

■お店の様子


  • 熊澤大介インタビュー
    「かっぱ橋道具街」にある釜浅商店の本店。
  • 熊澤大介インタビュー
    「かまど」と大小さまざまな「しゃもじ」。
  • 熊澤大介インタビュー
    世界のナイフマニアたちを虜にする岐阜県関市のヒロナイブズと釜浅商店が共同開発した「釜浅のステーキナイフ」。
  • 熊澤大介インタビュー
    ディスプレイされた道具。
  • 熊澤大介インタビュー
    熊澤さんのお父さんのコレクションだというレースカー。2階へ続く階段の壁に飾られている。
  • 熊澤大介インタビュー
    ご飯炊きにぴったりなサイズの羽釜。
  • 熊澤大介インタビュー
    上から見ると圧巻のディスプレイ。
  • 熊澤大介インタビュー
    お店の外には中華鍋が。
  • 熊澤大介インタビュー
    包丁は実際に手にして違いを体感できる。
  • 熊澤大介インタビュー
    鉄打出しフライパン。使えば使うほど油が馴染み、使いやすく育つ。
  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー
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  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー
  • 熊澤大介インタビュー

■店舗情報

「釜浅商店」
営業時間/10:00~17:30
定休日/年中無休(年末・年始を除く)
住所/料理道具フロア:東京都台東区松が谷 2-24-1、庖丁フロア:東京都台東区松が谷 2-23-9
TEL/料理道具フロア:03-3841-9355、庖丁フロア:03-3841-9357

公式サイト


熊澤大介(くまざわ・だいすけ)

1974年生まれ。アンティーク店や家具店を経て、1999年釜浅商店入社。2004年に4代目店主に就任後、2011年にリブランディングを行い、同店の扱う「良い理(ことわり)のある道具=『良理道具』」を多くの人に伝えるため、道具と人が出会うきっかけづくりに邁進している。


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