【連載】「湘南 蚤の市」アンティークストーリー 第5話:フランスのインク吸取紙

2017.3.29 (水) 07:00

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アンティークストーリー

世界の何処かで誰かが何十年、何百年も大切に使い続けた古道具やアクセサリー。新品にはない独特の味わいを持つだけでなく、使い継いだ人の数だけストーリーを語り出す。

「湘南 蚤の市」では、そんな愛しいアンティークたちとの出会いが待っている。素敵な物語の5ページ目は、「湘南 蚤の市」に出店している「BROCANTE PARIS 21e」を営むムッシュ徳岡こと、徳岡勉さんとフランスでBuvard(ビュバー)と呼ばれているインク吸取紙。

「BROCANTE PARIS 21e」の徳岡勉さん。

「BROCANTE PARIS 21e」の徳岡勉さん。

パリの蚤の市巡りで出会ったBuvard

多くの蚤の市出店者から「師匠」と仰がれるムッシュ徳岡。店舗は持たず、パリで買い付けてきた嗜好品のパイプや古い広告などを各地の蚤の市で売り歩きながら、日本とフランスを行き来している。

「湘南 蚤の市」での出店の様子。

「湘南 蚤の市」での出店の様子。

ムッシュは若い頃、東京・国分寺でコーヒーショップを営んでいた。「新しく作った古い店」というコンセプトのもと、インテリアに多くのアンティークを使ったお店だったそう。

その後、コーヒーショップを閉めることになると、心機一転、画商の仕事をはじめた。「初めてパリに行ったのは1991年。その当時の彼女がパリが好きだったんだよね」と最初のパリへの旅を振り返る。画商の仕事でよくパリに行くようになると、平日は絵画の買い付けをして、週末は蚤の市巡りをするようになった。そこで出会ったのがBuvard(インク吸取紙)だ。

有名イラストレーターも試行錯誤したBuvardのデザイン

「インク吸取紙」と聞いてもピンとくる人は少ないだろう。日本では昔から学校でノートを取るのに鉛筆が使われているが、フランスでは1960年代まで万年筆が主流だった。万年筆のインクは乾きにくいため、文字がにじんだり擦れたりしないよう、当て紙が使われていた。それがBuvardだ。

学生が毎日学校で使うという点に目をつけた多くの企業が、Buvardに広告を印刷して文房具店やデパートで無料で配布した。日本では広告が入ったティッシュが無料で配布されているが、その先駆的な存在がフランスのBuvardだったのだ。

寝具メーカー「シモンズ」の広告。

寝具メーカー「シモンズ」の広告。

ポップなキャラクターが目を引く。

ポップなキャラクターが目を引く。

「子どもが家に持ち帰ることで親の目に止まると考えて、より子ども受けするアメリカ風のポップなデザインが多く取り入れられていた。僕は純粋なフランスのデザインより、そういうちょっとアメリカの影響を受けたデザインに心を惹かれたんだよね。今で言う“ダサカワ”みたいな。

Buvardは自社のブランドを宣伝するための大切なアイテムだったので、当時からフランスで人気だったイラストレーターのレイモン・サヴィニャックやベルナール・ヴィユモなどのデザインもあったんだよ。どれも限られたスペースでいかに子どもに好まれるかを追求して、試行錯誤されたデザインばかり。

僕は写真も撮るので、モノの機能よりデザインにまず目がいくんだ。Buvardはインク吸取紙としての役割は終わったけれど、デザインは残ったんだ。すごいことだよね。

1991年当時のフランスでは誰もBuvardのデザインに目をつけていなかったんだけど、日本から行った僕と彼女と友人がこのポップなイラストの魅力の虜になって、フランス中を探し回ったよ(笑)」

ブロカントの魅力は「温故知新」

ムッシュはこの素敵なデザインを日本でも広めたいと思い、Buvardのイラストをそのままポストカードにして雑貨店に置いてもらった。独特なイラストに人気が高まり、全国から問い合わせがくるようになったそうだ。そんな日本での人気を受けて、フランスでもBuvardのブロカントとしての注目が高まっていったという。

ムッシュが作った、Buvardのポストカード。

ムッシュが作った、Buvardのポストカード。

「フランス人にとってはブロカントは生活の一部で、パリジェンヌの部屋の写真とかに普通に写り込んでいる。それを見た日本の若い世代の子たちも、日本人独特の感性でブロカントを上手に取り入れて、とてもおしゃれに楽しんでいるよね。

“1+1=2”にならないのがブロカントの世界。自分なりの答えが見つけられる、“プラスα”がある世界なんだよ。

ムッシュのお気に入りがつまった回転棚。

事務所には日常使いしているお気に入りのブロカントを集めた回転式の飾り棚がある。「また店を出したくなった時に、これ一台あれば始められるよ」(ムッシュ)

アンティークやブロカントを無駄遣いだと言う人もいるけれど、“古きをたずねて新しきを知る”、まさに『温故知新』がぼくらの生活には必要だと思う。そういう余裕とか自分なりの答えとかないと、生活に旨味が出ないと思うんだ。だから良いなと感じるブロカントやアンティークに出会ったら、ぜひ買ってみてほしいな」

ちなみに、Buvardがなぜフランスで使われなくなったかというと、ある文房具メーカーがボールペンを普及させるためにBuvardを使って大々的に宣伝したことがきっかけで、学生たちは万年筆より手軽なボールペンを使うようになったからだという。なんとも皮肉な話であるが、このようなストーリーを知ることもブロカントに触れるおもしろさのひとつだろう。

Buvardは蚤の市で販売される。ひとつひとつ異なるデザインを楽しみながら、Buvardが辿ってきた歴史に思いを馳せてみては。

(取材・文:宮坂雅都)

■ムッシュの事務所の様子

  • エッフェル塔コレクション。奥にはコーヒー豆が詰まったエッフェル塔も。
    エッフェル塔コレクション。奥にはコーヒー豆が詰まったエッフェル塔も。
  • エッフェル塔コレクション。奥にはコーヒー豆が詰まったエッフェル塔も。
    デザインがかわいい紙でできたバス。
  • 食器類もブロカント。お気に入りのお菓子をふるまってくれた。
    食器類もブロカント。お気に入りのお菓子をふるまってくれた。
  • 蚤の市でも販売しているパイプは、ムッシュには欠かせないアイテムのひとつ。
    蚤の市でも販売しているパイプは、ムッシュには欠かせないアイテムのひとつ。
  • パイプのコレクション。
    パイプのコレクション。
  • もうひとつ欠かせないのがコーヒーだ。
    もうひとつ欠かせないのがコーヒーだ。
  • お気に入りだというティーセット。
    お気に入りだというティーセット。
  • いたるところに素敵なデザインのポスターや広告が貼ってある。
    事務所のいたるところに素敵なデザインのポスターや広告が貼ってある。
  • コーヒーショップを営んでいた時に特集が掲載された雑誌も丁寧に保管されている。
    コーヒーショップを営んでいた時に特集が掲載された雑誌も丁寧に保管されている。
  • 昔のリプトンの紅茶缶は、なんと中身も入ったままで売られていたそう。
    昔のリプトンの紅茶缶は、なんと中身も入ったままで売られていたそう。
  • ムッシュが撮影した蚤の市で出会った人たちの写真。どの人も満面の笑みを浮かべているのが印象的だ。
    ムッシュが撮影した蚤の市で出会った人たちの写真。どの人も満面の笑みを浮かべているのが印象的だ。
  • ムッシュが営んでいたコーヒーショップで使用していたアンティークのイスとカップ&ソーサー。
    ムッシュが営んでいたコーヒーショップで使用していたアンティークのイスとカップ&ソーサー。

■「湘南 蚤の市」開催情報

開催日/毎月、第3火曜日
時間/9:00~16:00
場所/湘南T-SITE(神奈川県藤沢市辻堂元町6-20-1)
問い合わせ先/0466-31-1515(湘南T-SITE 代表)※電話受付時間 10:00~19:00
※上記は開催基本情報となります。最新情報は公式facebookを参照

湘南T-SITE

湘南 蚤の市 公式facebook

BROCANTE PARIS 21e(ブロカント パリ21区)
徳岡勉(とくおか・つとむ)

アンティークコレクターであり、店主であり、フォトグラファーでもあり、多くの人に愛され「ムッシュ」の愛称で親しまれている。独特な視点で切り取ったパリの写真は、個展も開催されるほど人気。

パリは20区までしかないが、いつでもムッシュのいる場所が「21区目のパリ」と言うのが店名の由来。湘南 蚤の市をはじめとした蚤の市に出店している。自らSNS等で発信はしていないので、ムッシュが出店するかは、湘南 蚤の市のFacebookで確認してほしい。


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