雑誌『CREA Traveller』の倉林編集長が語る/旅の醍醐味は「謎解き」にあり

2015.1.9 (金) 07:00

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『CREA Traveller(クレアトラベラー)』(文藝春秋 刊)
編集長 倉林里実さん(くらばやし・さとみ)

立教大学経済学部経済学科卒業。証券会社国際金融部を経て、米ハーバード大学へ短期留学。2004年より出版業界に転身、ライフスタイル誌に携わる。2008年よりデスクとしてCREA編集部に所属し、2010年CREA編集長へ。2013年8月より『CREA Traveller』編集長に就任。

雑誌とは世間や時代を映すものであり、その雑誌自身と言えるのが編集長という存在。編集長が変われば雑誌のメッセージやカラーもガラリと変わる。編集長を知ることは、雑誌の楽しみを知ることとイコールと言えるだろう。

そんな主張のもと、今注目すべき雑誌の裏側を紹介したいと思う。今回インタビューするのは、旅情を誘う美しいビジュアルで「旅する女性に寛ぎと驚きを」をテーマにした旅をつづる雑誌『CREA Traveller(クレアトラベラー)』(文藝春秋)の倉林里実編集長だ。

「現地にしかない情報がたくさんある。『知らない』のが『おもしろい』」

『CREA Traveller』は、姉妹雑誌『CREA』と同じく20代後半~40代の知的好奇心旺盛な女性をターゲットとして2006年に創刊された。旅行ガイドブック、ネットなどで情報があふれた「旅行情報の戦国時代」真っ只中。そこから倉林編集長が編集長のバトンを受け取ったのが、2013年8月だった。

当時から編集部は倉林編集長を含め三人のみ。しかもワンシーズンに一度行う特集は100ページ。その半分を自身が担当しているという。通常、雑誌の特集というと多くは30、40ページ。100ページというボリュームが生み出す最大の武器は「情報の深さ」。

「現地に行った際にそこのジャーナリストやコーディネーターに、その土地の流行やおもしろいものを聞くんです。そうすると、私たちがまったく知らないものが出てくるんですよ。日本人と視点が全然違うので、とても興味深い。そして、本などで得た知識の集大成。ここを読者に見てもらうのが、『CREA Traveller』の醍醐味のひとつだと思っています」

知的好奇心が刺激されるかどうか。そのアンテナが向くままに、まだ見ぬ旅の情報を探求する。その舵をとるのが倉林編集長の役目だ。

「特集会議はいつも『禅問答』『謎解き』の連続です」

ここ5年ほどは、人々のライフスタイルだけでなく、旅行スタイルも特に多様化しているという。従来は旅行先に選ばれる場所と言えばヨーロッパが圧倒的だったが、最近ではその限りではない。SNSの発達により、「みんなが写真を撮りやすい、行きやすい」場所ではなく、「他の人が行かないところに行く」ことが一種のステータスに。倉林編集長が就任した時期は、ちょうどこのような転換期だった。

「日本の旅行は、従来の定番をなぞらえるだけでは満足できない段階に来ていると思うんです。現地の歴史的な背景やエピソード、人を知ること。こういった、何かを『昇華した』という実感が不可欠なんです。私たちはこのような、土地や物事のエピソードや意味ひとつひとつを紐解くことを『謎解き』と呼んでいるんですけれど。特集を組む際には、おもしろい『謎解き』ができるかどうかを大事にしています。そのためには禅問答のように悩みますね。その国についての本を読んだりして感じた『おもしろい!』から広がっていくことが多いでしょうか」

2015年冬号 P74-75

2015年冬号 P76-77

「ジェフリ-・バワ 世界現代住宅全集7」(二川由夫 著、エーディーエ・エディタ・トーキョー 刊)

「ジェフリ-・バワ 世界現代住宅全集7」(二川由夫 著、エーディーエ・エディタ・トーキョー 刊)

例えば最近した「謎解き」は、最新号「アジアの美しき島」特集(2015年冬号)にて。スリランカを代表する建築家ジェフリー・バワに興味が湧いたことがきっかけだったという。もちろん、スリランカはこれからもっと来るという予感があったというが、トロピカル建築の権威として多くのホテル建設を手掛け、アジアンリゾートの基礎を作った彼についての本を読んだり話を聞いたりし、感銘を受けたことは大きかった。では、そもそもスリランカとはどのような国なのか、リゾート地としてどのような特徴があるのか、他とどう違うのか、どのようなストーリーがあるのか、ファッションは、食は、人々は…etc. 一人の人物から特集が広がっていく。

<倉林編集長に聞いた! 注目度上昇中のスリランカに、感動せずにはいられない理由3つ>

モロッコ、チェコのプラハなどのちょっと変わった場所から、イタリア、フランス、イギリスなどの王道まで特集テーマは幅広い。しかしどれも「他のメディアでは見たことのない、その国の側面」が映し出されている。

豪華なキャンプ「グランピング」のイメージ

豪華なキャンプ「グランピング」のイメージ

ちなみに今、倉林編集長が目を向けているキーワードは「ラグジュアリー」。とはいえ、「金銭的なぜいたく」だけではない。世界的に「大自然をいかに身近に楽しめるか」がラグジュアリーの基準にシフトしてきているという。

「スローフードやスローライフを取り入れているアメリカがそうですね。あとは、アフリカ。今、アフリカへ観光に訪れる方が実に多いのです。私は2014年にモロッコに行ってきたのですが、ブラジル人のアパレル会社社長夫妻やアメリカ人のご家族がヘリコプターをチャーターしてサハラ砂漠で『グランピング』(天蓋付きベッドを持ち込んだ贅沢なキャンプ)をしていたのには驚きました。これにはお金もかかっていますけどね(笑)」


「私にとっての旅は、自分を深め、そして忘れること」

最後に倉林編集長自身にとっての「旅」について尋ねると、「私自身も旅は好きなんです。だからこそ、本当を言うと仕事にしたくなかった(笑)」という意外な答え。

「深夜特急」(沢木耕太郎 著、新潮社 刊)

「深夜特急」(沢木耕太郎 著、新潮社 刊)

新卒で就職した証券会社を辞め、アメリカに短期留学した20代。もともと海外に興味があった彼女は、これを機に『深夜特急』(沢木耕太郎 著、新潮社 刊)を片手に、バックパックの旅に出る。当時はネットも未発達で情報も十分得られない中、ヨーロッパのバスを乗り継いでの女性一人旅。そんな非日常な旅の途中で、現地の人に言われた言葉が今も胸に残っている。

「You have nothing, but everything.(何もなくなった時に、本当のすべてが手に入る)」。

「私にとっての旅は、これに近いですね。旅は、自分を深めるために、そして日常の自分を一切忘れるために行くこと」

今までの自分を旅で”リセット”した倉林編集長が帰国後に手に入れたのは、編集者としての道だった。



倉林編集長が大切にし、大好きな旅だからこそ、『CREA Traveller』は単に旅行情報を載せた雑誌ではないのかもしれない。誌面を通じて読者を日常とは切り離された「旅」にいざない、発見を与え続ける。「旅は自分を深め、日常を忘れる」という自身が旅に求めるもの。その哲学を『CREA Traveller』の根底に見た気がした。

(文:高橋七重)

『CREA Traveller(クレアトラベラー)』(文藝春秋 刊)

「旅する女性に寛ぎと驚きを」をテーマにした、知的好奇心の強い20代後半~40代の女性に向けた旅行雑誌。最新号は「神々に愛されたアジアの美しき島 清らかなるスリランカ、奇跡のバリ」特集。
文藝春秋 発刊、季刊誌(3・6・9・12月の10日発売)

公式サイト


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