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台湾と日本のものづくり、雑誌の違いとは? 雑誌『M.MAG』発行人、セン氏インタビュー

2015.5.18 (月) 15:25

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日本からも毎年数多くの観光客が訪れる人気の観光地である台湾。台北には24時間営業の大型書店があるなど書店文化が根付き、書店では日本の雑誌が販売されていたり日本の雑誌の台湾版が売られていたりと、日本の雑誌が日常に溶け込んでいる国としても知られる。

そんな台湾発の雑誌・書籍が、日本の大型書店やセレクトショップで熱い注目を集めている。その雑誌が『M.MAG』、そして、NIKEの名作スニーカー・AIR JORDANのスニーカーブック『the origin of BASKETBALL CULTURE in ASIA』である。これらの雑誌・書籍を出版しているのがMPXという出版社。MPXの社長であり、『M.MAG』の編集長であるセン氏に話を聞いた。

エディトリアルデザイナーから編集、印刷業へ

セン編集長

もともと日本の雑誌や古書店が大好きで、日本の専門学校でグラフィックデザインを学んだ後、日本の出版社のエディトリアルデザイナーとして勤務していたというセン氏。デザイナーだった彼女は、自然の流れで編集をするようになったという。

「専門学校を卒業して、日本の出版社で雑誌の勉強をさせてもらいました。私が日本語を話せることもあって、『記者として日本と台湾の架け橋をしませんか?』というお話をいただいたんです。台湾への帰国を検討していた時期だったのですが、ちょうどバブルが崩壊して。台湾の印刷費は日本の5割程度の価格でできることもあって、日本の出版社が台湾での印刷を検討していたんですね。季刊誌なら日本の雑誌を台湾で印刷することもできるから、モリサワなどのフォントを日本で買って、エンジニアを日本に連れて行って、台湾で日本の雑誌を印刷できるようなシステムを構築したんです。それで、私も帰国して、日本の雑誌のDTPの発注をもらって、台湾で印刷業をすることになりました。その後、少し売り上げが上がってきたので、会社を作ることにしたんです。当時は社員が少なかったので、雑誌の請負仕事でプランニングやエディターをしたり、広告代理店をしたり、いろいろやっていましたね」

セン氏の会社・MPXのポリシーは「私や社員がやりたいことを全部やること」。それが、自らのメディアを持つことにも繋がっていく。

雑誌の制作をしている関係で、台湾のカジュアルメーカーのカタログなどの制作をしたりと、仕事の幅が広がりました。ある時、お付き合いのあるカジュアルメーカーから『かっこいい雑誌やカタログも作っているなら、ファッション誌を作ったらいいのに』と言われたことがきっかけとなり、『M.MAG』を作ろうと思ったんです」

ルールのない雑誌『M.MAG』の創刊

『M.MAG』を創刊したのが2010年。創刊号ではLevi’sの特集をしたり、最近ではスタイリスト・写真家の熊谷隆志の特集をしたりと、独自のスタンスを持つ特集がSNSなどの口コミで話題となり、台湾のみならず日本、香港、シンガポールなど各国で販売するまでになった。『M.MAG』創刊時の編集方針は、どのようなものだったのだろうか。

「台湾の雑誌は広告寄りになってしまって、編集の意識が少なくなっている。『M.MAG』にはルールがないから、情報よりも写真で勝負しようと思っています。表紙も広告として売らないことにしているので、クオリティが担保できているんじゃないかなと思います。広告ページもありますが、クライアントからタイアップじゃないタイアップ、フィーチャーをしてほしいというオーダーがほとんどなので、自由にやらせてもらっているんです。クオリティを信頼していただけているんだと思います」


ヒットの秘訣は“愛情”と“スピード”

『M.MAG』などMPXの書籍のクオリティの高さが注目を集めるなか、昨年大きな話題を呼んだのが、『the origin of BASKETBALL CULTURE in ASIA』だ。2015年4月現在で7刷までいったというこの書籍のヒットの裏側には、“愛情”と“スピード”があるとセン氏は語る。

「新商品発売の関係もあり、やるなら11月に発売しないといけなかった。その時、どうしようもなく忙しかったのでやるかどうか迷っていたのですが、スタッフが深夜に、『社長、この本すごいやりたいです。絶対にやれるから信じてください』と言われて。それで、やることにしたんです。時間のない中でこのクオリティの書籍ができたのは、スタッフの情熱に他ならないと思っています。

やるにあたって、今までジョーダンブックとどう差別化できるかをすごく考えたんです。それで、今までのジョーダンブックにはオリジナルのすべてのジョーダンシューズが出ている本がないことに気づいたんです。この本をやるなら他の人ができないことをしようと思って、香港、日本、台湾のコレクターに協力してもらって、すべてのオリジナルのジョーダンスニーカーを集めたんです」

日本と台湾の雑誌作りの違い

セン氏の手掛ける雑誌・書籍がヒット作を多発できるのは、彼女自身が日本、台湾双方の出版事情を理解し、台湾のみならず日本、香港などアジア圏での販売も視野に入れているということも大きいだろう。

「日本はいろいろ細かく詰めていかないと出版するまでに至りませんが、台湾はやると決まったらすぐやる。『the origin of BASKETBALL CULTURE in ASIA』の10月に出版を決めて、11月に発売するというスケジュールは、日本ではありえないですよね。

あと、台湾はそんなに役割が細分化されていないんです。台湾の雑誌はスタイリストという概念がないので、編集がスタイリストを兼ねるなど、少人数のスタッフで作ってしまうんですよ。ただ、それがいいとは思っていなくて。台湾の編集者は、日本の雑誌づくりも勉強すべきだと思っているんです。例えば、日本ではラフを書くのは編集の仕事ですけど、台湾だと編集がラフを書かず、デザイナーが写真を選んでレイアウトをする。それだと、結果いいレイアウトやいい雑誌を作れないんです。

ただ、台湾も雑誌がそれほど売れないから、人の手配も難しい。その難しい中でも、日本の若いスタイリストを台湾に連れて行って、台湾のスタッフと一緒に作ろうとしたり、少しずつ若い人たちを新しいやり方で育てていきたいと思っています。台湾と日本の雑誌の作り方がミックスしたら、お互いのいい点と悪い点がぶつかりあって、いいものを作れるんじゃないかなと思っているんです。

あと、台湾のいいところは、日本で雑誌を作るにはある程度のコネクションがないと作れないけど、台湾の若い人たちは独立心が旺盛だから、新しい人、話題になりそうな人であればすぐにチャンスを与えてくれます」

セン編集長の働くオフィスの様子

オフィス前の風景

目標は“オリジナルを作ること”

「やりたいことをやる」。シンプルだけど一番難しくもあるこのテーマを信じてものづくりを続けているセン氏の今後のビジョンとは何だろうか。

「『M.MAG』は最近リニューアルしました。女性の読者も増えてきたので、対象をメンズからユニセックスにして、ロゴも変えました。テーマは“You & Me, He & Her”。ライフスタイル寄りのものにして、女性、男性どちらでも違和感がなく、もっと消費者寄りの雑誌にしようと思っています。会社としては、台湾で、台湾と日本の若いクリエイターを紹介するプレスルームを作ろうと思っています。世界的に活躍する人を集めて、みんながやりたいことをやってもらえるような場所にしたいんです。カルチャーが違うと色も違う。それがぶつかって化学反応を生むような場所になったらいいなと思います。ケンカをしてもいいから、オリジナルのものを作っていきたいんです」


ものづくりに対する愛情を持ちながら、手段や方法すらも自らの手で開拓してきたセン氏。経営者として冷静な視点とインディペンデントの皮膚感覚のバランスこそが、『M.MAG』や『the origin of BASKETBALL CULTURE in ASIA』などのヒット作を生み出す一因としてあるのだろう。彼女が今後提示していく、消費者に寄り添った雑誌とはどのようなものになるのだろうか。今後の動向にも期待したい。

(文:岡崎咲子)

◆あわせて読みたい
アジアのエネルギーが凝縮! 注目すべき台湾の書籍・雑誌2選
代官山蔦屋書店×M.MAG 台湾フェア KIZUNA

錢 翠雯 tsui wen chien

MPXco.,Ltd.「很有文化股份有限公司」代表。1996年 MPXco.,Ltd.「很有文化股份有限公司」設立。 日本の印刷技術を台湾に導入、印刷代行業及び、広告カタログ制作を行う。 2010年からライフスタイルマガジン「M.MAG」を発行開始。 自社でクリエーターを持つからこそできるイベントの発案企画から運営を行う。 更に日本との活動を広げ、地場産業や様々な台湾でのコーディネーション、ディストリビューションを行う。 常に台湾で新しい文化を作り続ける。


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