『家族』中村編集長が一年かけて雑誌に綴る、家族=小さな社会の物語で伝えたいこと

2015.6.12 (金) 19:49

シェア

近年、雑誌では、ライフスタイルの特集が多く見られる。それは、素敵な生活への単純な憧れだけではない。生活や働き方、社会との関わり方など、ひとりひとりが己の生き方を見つめ直している証に他ならない。そんな中、また生き方を見つめ直すきっかけを与えてくれるような雑誌が創刊された。家族と一年誌『家族』である。

家族再生のための物語

家族と一年誌『家族』は、夫がクリエイティブディレクター、妻が編集長というひとつの家族が、一年間かけてひとつの家族を追った、その名の通りの家族による家族のための雑誌である。編集長・中村暁野氏は、現役のミュージシャンでもあるという経歴の持ち主だが、出産という女性にとって大きな経験と東日本震災が、彼女の人生観を変えたという。

「大学在学時からPoPoyansというユニットをやっているのですが、4年前に出産をして、以前のようなペースでの音楽活動が難しくなってきたのと、出産を通して世の中に対しての興味を持つようになったんです。震災のときに子どもが5ヶ月で、子どもを守りたいという気持ちがあったのと同時に、こうなったのは自分のせいでもあるなと思って。世の中に対して傍観者を気取って生きてきて、無関心だったから、今こういうことになっているんだよなって。それで自分には何ができるのかなと思っても、別に実際できることなんてそんなにない。そのジレンマみたいなものがベースにあったんです」


ブログなどを通じて自身のメッセージを発信していたという中村氏は、「1年前まではこういう雑誌を作るとは思ってもいなかった」という。そんな彼女が雑誌を創刊することになったきっかけは、彼女自身の家族の問題であった。

「旦那さん(クリエイティブディレクター、中村俵太氏)とは10年間一緒にいるのですが、子どもが生まれてからふたりの関係がすごく難しくなってしまったんです。彼も私も、主語が“自分”の人。それぞれのやりたいことを応援はするけれど、責任は自分でとるみたいなスタンスが、子どもが生まれても変わらなくて。彼の仕事がとても忙しかったのもあるのですが、子供が生まれると私は生活を必然的に変えざるを得ない。子供を育てるって想像以上に大変で、その負担を1人で抱えているような状況に不満と不安と悲しさが募って。一年前に体調を崩してしまったんです。

溜まりに溜まったことが爆発して、旦那さんに『こんな状態が続くのはもう無理だよ』と話して。その時、当時会社に務めていた旦那さんが、独立、考えようかなと言って。今まで本当に時間がなかったので、独立したら家族で何かをやってみたいねという話になったんです。私たちはあまりにも未熟な家族だから、いろいろな家族に出会って、家族に学ぶっていうことを雑誌にしたら楽しくない?それが仕事になったらよくない?って。ただの夢ですね。そうしたら、実際に彼がその2ヶ月後に独立することになって、『じゃあ、あれやっちゃおうか?』みたいな感じで始まったんですよね」

すてきなところは一部分でしかない

編集経験のなかった中村一家の、ふとした思いつきからスタートすることになった家族と一年誌『家族』。中村俵太氏が全体のクリエイティブディレクションを務め、中村暁野氏がコンセプトメイキングを行ったという。その制作過程は手探りだったというが、編集経験がないからこその手触りと真摯な視点がある。

「自分の物語を語ることができる人って限られていると思うんです。例えば、成功者は自分の物語をインタビューで語れますよね。ただ、物語は成功者だけが持っているものではないと思っていて。家族ってどこまで行っても道半ばだと思うんですけど、関係性は常に変わっていくし、自分が死んでも誰かに受け継がれたりして終わりがないもの。だからこそ、家族の物語を知ることは、自分たちにとっても大切だと思ったんです。

創刊号に登場してくれた谷本家はもともと知り合いで、知り合いだからこそいい部分がすごく見えるわけです。いつも楽しそうで、家族の絆があって、行動的で、全員才能があって……でも、絶対それだけではないはずで。3人の努力や家族で築いてきたものがあるからこそ、そういう3人でいられる。それを一歩踏み込んで知りたいと思ったんです。雑誌に載るようなものはすてきな部分しか見えにくいけどそれは一部分で、みんなきっと泣いたり怒ったりもしている。憧れで終わらない、自分も踏み出せるかもしれないと思えるものにしたかったし、何よりも自分自身もそう思いたかった。わたしも読者の方も、きっとわたしたちも自分自身の物語を生きられるはずだよ、ということを言いたかったんです。

家族を作るということは、ソーシャルデザインだと思うんです。自分が社会や世の中を変えることができるとは思わないけど、自分の暮らしが変わったら、少なくても自分の周辺の世界は動いたり変わったりする。だから、谷本家が作っている社会を取り上げたかったんです。ひとつの家族をとりあげることで、そこから見える社会を考えるものにしたかったんです」


コミュニティが広がることで世界は変わる

創刊して間もない家族と一年誌『家族』だが、中村家の想像を越えた反響があるという。ただ、まだこの雑誌の物語ははじまったばかりだ。小さな社会から大きな社会へ。その根底にあるメッセージは、この雑誌の未来も大きく広げている。

「中村家はみんなに暴走一家と呼ばれているんですけど(笑)、今雑誌が売れない中であえて雑誌を出して、そして、我が家の先行きも不透明ななかでこういう雑誌を作って……後戻りができなくなってから予算とか色々現実的な部分が見えたんですが(笑)、まだまだこれからだと思っています。

雑誌はシンボルとしてありつつ、手の届くものにしたい、繋がってきたものをさらに繋げていきたいという気持ちがあります。5月に原宿・VACANTで行ったイベント『家族とお祭り』のように、私たちと読者が出会える場、繋がりを持って能動的に動いていくきっかけとなるようなイベントなどを全国で仕掛けていこうと思っています。人や社会のつながりを感じることで、自分の活力となるじゃないですか。私たちもいろいろな人と出会いたいし、コミュニティが広がって行くことで世界も自分自身の人生も変わっていく。変えていくためのことをやっていきたいと思います。そういう思いを切り離さず、ビジネスとして成立できるかのチャレンジをはじめようと思っています」


「東京でも地方でもいい。子供がいたりいなかったり、同性だったり異性だったり。いろいろな家族の形を提示していきたい」と中村氏は語る。家族という、とても小さくて、難しく、尊い社会。その飽くなき挑戦は、終わりがない。中村家が描く家族の物語を引き続き見守っていきたい。

(文:岡崎咲子)

【プロフィール】中村暁野 氏

大学時代に映像音楽ユニット・PoPoyansを結成。ライブ活動のほか、中島哲也監督『告白』挿入歌など数々の映画音楽やCM音楽、PVなどの映像制作を手掛ける。出産を経て「家族」というテーマに関心を持つようになり、2015年に自らの家族と、家族と一年誌『家族』を創刊。

家族と一年誌『家族』


関連記事

関連タグ

この記事をシェアしよう。

この記事が気に入ったら、
いいね!しよう。

You might Like

レコメンド

Read More

T-SITE LIFESTYLE TOPへ戻る

Access Ranking

ランキングをもっと見る

日本最大級ビアガーデン「ヒビヤガーデン2018」日比谷公園で5月18日から開催

  1. No.1 日本最大級ビアガーデン「ヒビヤガーデン2018」日比谷公園で5月18日から開催
  2. No.2 漫画『スラムダンク』新装再編版が6月1日より刊行開始! 井上雄彦がカバーイラスト描き下ろし
  3. No.3 ミニチュアアーティスト田中智の個展、銀座で4月27日から。指先サイズの世界にときめく
  4. No.4 スタバ新作「加賀 棒ほうじ茶 フラペチーノ」5月30日から。インスタもスタート
  5. No.5 できたてモッツアレラチーズ食べ放題「グッドスプーン」横浜に3月19日オープン

ランキングをもっと見る

  • TSUTAYAマンガ通スタッフおすすめ

Event

イベントをもっと見る

イベントをもっと見る

Store

SNS/RSS

Facebook

Instagram

tsite_lifestyle
Instagram


T-SITE LIFESTYLE(RSS)