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「もう一度、旅立つあの高揚感を取り戻したい」。『TRANSIT』リニューアルに秘められた加藤編集長の原点

2016.3.17 (木) 09:00

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『TRANSIT』

『TRANSIT』31号「タイムトリップ!時空を超えて」

通な旅人たちから圧倒的な支持を得ているトラベルカルチャー誌『TRANSIT』が、今年3月18日発売の31号よりリニューアルをする。その前身であった『NEUTRAL』の2004年創刊から12年、”美しき◯◯”のキャッチコピーを扉に、各国の旅情あふれる写真と圧倒的な情報量でファンを離さなかった同誌が、その編集方針や取材のプロセスまでも変更するという。

『TRANSIT』の立ち上げ人であり、現・編集長の加藤直徳さんに、その背景を伺った。

雑誌ではなく国の魅力を売る“キーワード的な旅雑誌”の限界

――リニューアルがこのタイミングだったのは、どうしてでしょうか。

実は周りから「マンネリ化しているね」という声があって。自分でもそう思っていましたね。今、僕自身も気軽に旅に行くようになっていることもあって、あまり旅に新鮮味がなくなってしまった。昔は電車に乗って、空港に行って、そこから飛び立つ高揚感みたいなものが、たまらなかった。そのワクワク感みたいなものを、もう一度、誌面から出せればいいなと思っています。まずは自分達がワクワクしていないと、読者にも伝わらない。だから、「旅っておもしろい」って、自分達で思うための変更ですかね。

それから、「イタリア」とか「フランス」といったキーワードが付いていないと売れないという、旅雑誌の限界が来ていると感じていたんですね。そういう国や都市のキーワードが付いていれば、そこが好きなので何でも買う層がいて、旅雑誌はそれを繰り返してしまっていた。

でも、それって雑誌を買っているんじゃなくて、その国が出ているから買うんですよね。雑誌のファンを増やしたいので、「この雑誌が特集するならおもしろそうだから買おうか」というものにしたい。

ターゲットの年齢層が上がってきている、ということもありますね。始めたときから10年以上経って、今の僕自身が『TRANSIT』を読んだ時に、ちょっと子どもっぽく見えるようになってきてしまった。自分も世代とともに読者とともに成長したいので、当然興味もコンテンツも変わるのは必然だと思います。

――リニューアルでは、どんな点が変わったのですか。

リニューアル後の31号

リニューアル後の31号

リニューアルというより、"元に戻した"って感じなんですよね。『NEUTRAL』の頃に。カメラマンの決め方から取材の進め方まで、全部。今までは取材地が決まっていて、良い写真を撮ってくれそうなカメラマンに現地に行って、自由に撮ってもらっていた。そこから一歩進んで、まず編集者がテーマについてプロットを作って、それをより実現できるカメラマンを探して、編集者も旅しながら一緒に作り上げます。

例えば31号は「タイムトリップ」というテーマで、ローマ、奈良、それからミラノなどイタリア各地を取り上げています。「過去と現代」というロジックでシチュエーションをあらかじめ決めて、歴史的な建物に現代の人や飛行機が入り込んだ写真を撮りにいく。ミラノ撮影も、かつてローマだった場所だけを巡ります。地下鉄の構内にローマ時代の遺跡があって、それを観光客と一緒に撮るなど。

ローマ

ローマ

奈良

奈良

前より階層がひとつ増えています。編集者の頭のプラクティスが。「この国や建物を撮りましょう」じゃなくて、「なぜここを撮るのか」というところからの戦いを自分に強いる。だから記事の本数は減るのですが、現地に行く回数は増えていて、予算が跳ね上がってしまっているけど(笑)。

プロセスとしてはちょっと複雑になったので、「きれいな写真だね」っていうことより、何か「やられた」感があればいいな、と。

インドで“旅のバイブル”を捨てた日

――『旅っておもしろい』とご自身たちで思うための変更、とのことですが、加藤さんご自身の原点といいますか、旅雑誌を立ち上げたきっかけとは。

  

『TRANSIT』編集長・加藤直徳さん

昔から紙が身近にあったので、幼い頃から紙を扱う仕事がしたいと思っていました。父親が新聞社にいたことがあって、高いカメラを大事にしている人でした。印刷所にもよく連れていってもらって。母親は国語教師で、名作図書をひたすら読まされました。紙に触れる機会が多かったですね。

高校時代までは新聞記者になりたかったんですけど、日本って、入った大学で進路も決まっちゃうところがあったので、難しいかなと思っていて。それで大学生のときに、フリーペーパーを作り始めました。今見たら恥ずかしい感じなんですけど、好きな過去の作家の言葉を掘り起こして、自分で撮った写真を合わせる、ということをやっていました。500部くらい刷って、アルバイトをしていたレコード屋などで配っていました。

旅を始めたのも、この頃でした。自動車の教習所に通うために沖縄に行ったのがきっかけで、そのあとに国内、そこから海外に行くようになりました。当時は情報が本か雑誌しかなかったので、作家の紀行文に憧れて旅をする学生が多くて……自分もそうでしたね。『SWITCH』『COMPOSITE』などで、旅の写真家とかカルチャーリストみたいな人がバンバン紹介されていて。「知っておかなきゃいけない」という焦燥感に駆られて旅していました。

でも、藤原新也さんの『インド放浪』を持ってバラナシに行ったとき、愕然としたんですよ。「人間は犬に食われるほど自由だ」という有名な一文があるんですけど、実際に現地に行ってみると、そんなことを現地の人は思っているわけじゃない。そんな生半可なものじゃない、というか。もっと、祖先や自分の現世での償いといったことに意識を持っているわけで、犬に食われることが自由だなんて、彼らは思っていないんじゃないかと。自分のなかで旅に対して考え方が変わりました。もっと、現地の人がなぜそうしているのかを考えるようになりました。

31号にて2000年前のローマの街並を再現したマップ

31号にて2000年前のローマの街並を再現したマップ

31号にて、奈良とローマに共通する古からの美意識について迫る企画

31号にて、奈良とローマに共通する古からの美意識について迫る企画

それから出版社で旅の雑誌を作ったんです。読みたいものがなかったからですね。今って、読みたいものがないから自分でメディアを作る、っていう人が増えていますよね。当時、僕がやったプロセスと一緒ですね。出版社に雑誌を出してもらうことが目的じゃなくて、もともとは、ほしいものがないから作ったっていう。雑誌に引っ張られて自分の世代はやってきたので、自分たちもそうしたいなと思って作ってはいるんですけど、おもしろい流れになってきていると思いますね。

宗教を知らずに、旅先の風景に入ってはならない

――リニューアルしても変わらない『TRANSIT』の遺伝子とは。

『NEUTRAL』イスラーム特集

『NEUTRAL』イスラム特集

2004年創刊の『NEUTRAL』第1号の特集は「イスラム」がテーマだった。2015年には『TRANSIT』特別編集号として、再びイスラムを特集。10年間の変遷を追った。

旅雑誌って、見たら行きたくなるものがベストだと思うんですけど、その先にはやはり宗教だとか、その土地に染み付いているようなものがありますよね。やはりそのことについて考えて、知識を持ってからじゃないと、行くべきじゃないと僕は思っています。

インドとか聖地にはたくさん日本人が行きますし、何でも知ったような感じになってるんですけど、現地の人と密に交わっている人って、あまりいないですよね。もしインドに快楽を求めていくんだったら、全く表層的なものにしかならない。

なぜそこで祈っているのか。なぜこんな草があるのか。なぜこの人たちは熱心に水に入っているのか。それを知らないと、その風景に入ってはいけないと思うんです。それは学生時代、旅をしながら痛烈に思ったことなので、『TRANSIT』で伝え続けたいと思っています。


加藤さんの旅の原点に戻ったとも言える、新章『TRANSIT』。今、どのように世界を切り取り、私たちを未知なる旅へと駆り立て、何を考えさせてくれるのだろうか。海外の情報や写真、そして海外旅行が一層に身近になる今、従来のファン以外も注目したい。

なお、今年6月中旬発売予定の32号の特集テーマには、「神々の住まう島」が予定されている。

(文:山岸早瀬)

TRANSIT | トランジット

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■プロフィール

『TRANSIT』編集長
加藤直徳

1975年生まれ。編集者。euphoria FACTORY所属。白夜書房に勤務していた2004年、『TRANSIT』の前身となるトラベルカルチャー誌『NEUTRAL』を創刊。2008年、現在の『TRANSIT』に改名し、講談社より刊行。現在、編集長を務める。


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