世界の最先端を届ける情報誌『モノクル(MONOCLE)』タイラー・ブリュレ編集長インタビュー。彼が「日本に注目する理由」とは?

2016.6.4 (土) 07:00

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英国発の情報誌『MONOCLE』は、今や世界的評価の高い情報誌として、雑誌不況時代に成功を収めている稀有な存在だ。元ジャーナリストであるタイラー・ブリュレ編集長が求める、政治や経済とデザインやファッションといったライフスタイルコンテンツが同等に並列するこの雑誌は、創刊以来他の雑誌とは一線を画した趣で、ますます注目が集まっている。

今回、新刊の『How To Make a Nation : A Monocle Guide』の刊行にあたり、代官山 蔦屋書店(東京・猿楽町)で開かれたサイン会直前、ブリュレ編集長へ直撃インタビューを敢行した。

340ページという分厚いこのガイドには、より良い国会をつくるためのアイデアや、子どもや老人ケアのためのソーシャルキャピタルを作る方法など、「ハッピーで、活気があり、成功している国家」を作るために必要な情報が満載だ。大小様々な事柄を取り上げ、誰もが「ホーム」と言えるより良い国家をつくるために必要な情報を、幅広い分野の専門家のコメントと写真でまとめている。そんな力作を前に、日本/東京通のブリュレ編集長に日本や東京の「今」、そして「MONOCLE」の未来について聞いてみた。

日本らしさは、その「純潔性」にある

――世界中を飛び回っているブリュレ編集長ですが、東京は毎月訪れる街だそうですね。その変化も常に目にしていらっしゃると思いますが、今、あなたにとって「東京」や「日本」の何が一番面白いと感じますか?

タイラー・ブリュレ編集長

タイラー・ブリュレ編集長

私にとって日本はとても活気がある”バブリー”な場所で、世界の他と比べても、独自の世界を持っている場所です。日本は移民を受け入れないことや、多様性がないといったことで、常に批判にさらされていますが、私はそれこそが日本を日本らしくしているんだと思うんです。そして、この多様性の欠如というものは、日本に実はとても利益を生んでいると私は思います。なぜなら日本にはそれにより純潔性が備わっていると思うのです。それはとても興味深いことです。

世界はどんどんグローバル化し、それによってどこでも同じことが経験できる時代になっている中、日本にはまだここでしか経験できないものや(そこで生まれた)オーセンティックなものが存在する。私にとって、それこそが日本の一番面白いと思うところです。日本が長い間鎖国をしていたという経緯が大きな影響を及ぼしていると思いますし、日本は常に世界とどうやって付き合っていこうか自問自答してきた結果だと思います

――多様性ということについて、来る東京オリンピックで海外へ目を向ける、あるいは目が向けられる機会がますます増えると思いますが、そのことが何か影響を与えると思いますか?

あまり変わらないと思いますね。日本を訪れるビジター(訪問者)が増えても、そこに住む人が増えるのではないですから、そういう意味で大きな変化はないと思います

――さて日本の非多様性は、日本にとってはプラスとおっしゃっていましたが、より良い社会、コミュニティー作りを考えた時、日本が変わらなくてはいけないと思われることは何でしょうか?

スピード感ですね。いつも「もう少し時間が必要です」と言われるんです。この”ちょっと待って”カルチャーは、もちろん正確で、きちんとしたものを生み出せることと両天秤のこともありますが、日本人は時として、ただ結論を出したくないから”考える”という傾向があるように思えるんです。

日本はもっとYES/NOの決断力を持つべきだと思います。ちょっと待ってと言って、2ヶ月も待たせるといった感覚では、現代社会には合わないと思います。


世界の都市の中で、トラベルガイド『MONOCLEガイド』の「東京版」が、一番売れている!?

――日本にこんなに着目している編集長に、私はとても驚いているのですが。

(笑)最初にお話しした通り、日本はとても他と違っているのに、それでいて馴染みやすく、過ごしやすい。さらにとても特色がある国だと思いますから。世界がどんどん統一化している中で、特殊なところは魅力的です。

私たちは、現在3人の編集者が東京オフィスに張り付いていて、MONOCLEにとっては、ロンドンに続いて2番目に大きなオフィスです。ですので、日本の情報はいつも「東京」の情報が多くなりがちですが、彼らは九州、北海道、沖縄など、日本中を飛び回って情報収集しています。私たちはそうできている状況を非常に嬉しく思っていますね。

モノクル・ショップ東京店

モノクル・ショップ東京店

ちなみに私たちが発行しているトラベルガイドに関しては、実は「東京版」が一番売れ行きがよく、昨年6月に発行して以来、すでに7万部売れています。次は「京都」を特集したものを作ろうと思っています。その次はおそらく、幾つかの日本の都市を紹介する例えば「大阪、福岡、札幌」など3つの都市を一冊に凝縮したものを作ることになると思います。

『THE MONOCLE TRAVEL GUIDE, TOKYO』

『THE MONOCLE TRAVEL GUIDE, TOKYO』

『THE MONOCLE TRAVEL GUIDE, TOKYO』
『THE MONOCLE TRAVEL GUIDE, TOKYO』

――編集長が今注目している都市を他に教えて頂けますか?

アジアだったらバンコクですね。そのエネルギッシュで、15年とか20年前くらいの日本のような感じです。ビジネス面ではバブルな雰囲気で、クリエイティブな業界に活気があり、人々はエネルギッシュで、世界に対しての好奇心の塊のような雰囲気が漂っているんです。特にバンコクに住む25-35歳くらい世代は非常に国際的で、外国で教育を受け、常に世界の動向に注目している、興味津々な世代だと感じます。彼らは米国、オーストラリア、英国など様々なところで学んでバンコクに戻ってきているので、世界中から集まっている感で溢れているところが面白いですね。

ヨーロッパでは、(オーストリアの)ウィーン。ちょっと忘れられていた感があるのに、かつての帝国らしさを残していて、さらに非常に成熟した職人文化があるところが魅力です。

あとは(ポルトガル)のリスボンですね。ポルトガル圏のことを忘れがちですが、実はポルトガル語は世界でも多くの国で話されている言葉で、ブラジル、モザンビーク、アンゴラなど世界中で話されている言語です。ポルトガルはそう言った意味でも非常に興味深いです。それにブラジルにしても、日本にしても、最初の外国語は、確かポルトガルですよね。そういう意味でも何かそこにつながりを感じます。

カフェ事業の世界展開を視野に入れて

――今後のMONOCLEの展開を教えてください

今年、12冊の雑誌の他に私たちは約20冊の本を出版します。この出版物は我々にとって非常に大きなビジネスですが、次の事業は小売業だと思っています。現在世界中に店があり、東京にはショップもカフェもあります。次は我々のフード&ドリンク事業をどうやって世界展開するかですね。最近ロンドンに「キオスカフェ(Kioskafe)」をオープンしたんですが、これをどうやって世界展開していくか、というのが次の狙いですかね。

「Kioskafe」

「Kioskafe」

それから、カンファレンス事業もです。つい先日ウィーンで第二回の「MONOCLE Quality of Life Conference」を開催しました。間もなく次の開催地について発表予定です。日本でも数年先になりそうですが、ぜひ開催したいですね。

――リアル展開のお話を伺いましたが、オンラインの立ち位置はどのようにお考えですか?MONOCLEは月刊誌とオンラインで情報発信をしていますね。オンラインの記事は雑誌からの焼き直しとのことですが、週6日の「デイリーニュースブルテン」の提供や「24時間オンラインラジオ」の放送など、ネット独自のコンテンツもあります。

私の感覚でいうと、MONOCLEの読者の99%は、紙の雑誌を読んでくれていると思います。そんな読者が、ある時東京に旅行に来ていて「あ、あの代官山にある本屋の名前ってなんだったっけ?」となった時に、ネットサーチができるようにしている、といった感じです。ですので、私にとっては、MONOCLEのオンラインサイトは、ある意味雑誌読者への「サービス」の一環として、参考資料を提供している感じですね。ですので、記事を丸々ネットで読むためのもの、として提供しているわけではないのです。

ボーダレスな世の中で「国家」を考える『How To Make a Nation : A Monocle Guide』

――最後に新刊『How To Make a Nation : A Monocle Guide』について教えてください。

こちらは、MONOCLEガイドシリーズ五部作の4冊目にあたります。MONOCLEはまもなく10年を迎え、我々はこれまで世界中の国々の取材に当たり、何が国を成功に導いて、何が失敗に追い込んでいるのかなどに迫ってきました。これまでのシリーズでは、1冊目に「より良い生き方」をテーマに選び、続いて「ビジネス」そして前回は「住居」と進めてきて、次は「国家」に着目すべきじゃないか、という結論に達したんです。「何が国というものを作るのか」をテーマに、例えば教育関連からインフラなど幅広い内容をカバーし、ある意味ワークブックのようなものにしました。

これをぜひ、選挙権のある人たちに読んで欲しいし、政府関係者にも買ってほしい。この本はたくさんのアイデアが詰まった一冊なので。政治家や市政府関係者は泥沼にハマっていると感じることがあると思いますが、でもこの本を読んで素晴らしいことをしている人たちがいることを改めて知ってほしいのです。それが世界のあちこちで、街や、州や、国レベルで起きていることを知ってほしいと思っています。かなり大きな野望ですけれどね。ですが、すでに(米国の)ホワイトハウスにも一冊送っています。他の州政府のリーダーたちに向けてももちろんお送りしてますよ。すでにこの本は色々注目を集めていて、私たちが世界に何を期待し、そして世界をどう見ているかがこの本を通じてわかると思いますよ。


この『How To Make a Nation : A Monocle Guide』は、教科書というよりまさにビジュアルブックだ。日本人は政治や経済についてあまり語らない民族だが、「日本人もこれを使えば、(政治や国家について)さらっと話すきっかけになるんじゃないか」と語るブリュレ編集長。10月には、MONOCLEガイドシリーズ最終巻「フード&ビバレッジ」を出す予定だそうで、文化を象徴するような「食」をテーマにした次の本も今から発行が楽しみだ。独自の視点で世界を見つめるMONOCLEワールドに、ますます魅了される人が増えることだろう。

(取材・文:寺町幸枝)

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Tyler Brûlé(タイラー・ブリュレ)

『Monocle』の創刊者であるほか、『Wallpaper』誌の創刊編集長、『Financial Times』紙のコラムニスト。元従軍記者でもある。雑誌のほか、ラジオの24時間ネット配信、ウェブサイトの運営、東京やロンドンにショップやカフェを展開している。

モノクル(MONOCLE) 公式サイト


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