『Arne(アルネ)』が7年ぶりに“1回限り”で復活。大橋歩さんが「もう1回」作った理由は?【イベントレポート】

2016.10.25 (火) 16:12

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2002年に創刊し2009年まで続いた大橋歩さんの手作り雑誌『Arne(アルネ)』が、7年ぶりに『アルネ・もう一回』として特別に発刊された。2016年9月30日には代官山 蔦屋書店にて、大橋さんを招いてのトークイベントを開催した。司会は、元・代官山 蔦屋書店コンシェルジュの勝屋なつみ氏。

当時の雑誌づくりのあれこれや、今回特別に出された理由など、飛び出したお話の一部をお届けする。

「面白い仕事をしたい」。61歳でつくった雑誌『アルネ』

『平凡パンチ』の表紙をはじめ、イラストレーターとして活躍されてきた大橋さんが『アルネ』を作ったのは、今から14年前。それから7年間、大橋さん自身で企画を立て、取材交渉をし、取材も写真も文章も、もちろんイラストまで全部を担当し、30号まで続けてきた。

  

壇上左/大橋歩さん、右/勝屋なつみ氏   

勝屋なつみ氏(以下、勝屋):大橋さんが『アルネ』を出されたのが61歳のとき。面白い仕事をしたいなと思って、始めたのですよね。

大橋歩さん(以下、大橋):昔、『平凡パンチ』の仕事をしていて。編集部に出入りしているうちに、雑誌って面白そうだなって、思うようになって。それで、イラストの仕事が少なくなった時、「自分で雑誌を作ってみたい」と思ったんだと、思います。

木滑(良久)編集長の時ですが、必要な仕事であればなんでも木滑さん自身がおやりになっていましたね。そうしないと、自分の好きなこれと思う雑誌は作れない、ということだったと思うんです。「良いと思うことは、あくまでも、良い」と貫き通すというか。そこが面白くて、買っている読者もたくさんいたんだと思います。

勝屋:『アルネ』というタイトルはどこから?

大橋:アルネ・ヤコブセンのカトラリーのシンプルさがすごく好きで。そこから、「アルネ」をちょっと頂戴しました。「アルネにしたいな」って言ったら、周りの人は「ああ、『ないね』よりいいね」って言ったんです(笑)。

復刊のきっかけは、出会いと再会

イベントでは、来場者に「御菓子丸」の和菓子「甘い石」が振る舞われた。この和菓子を作った杉山早陽子さんとの出会いも、『アルネ』を復刊した理由の1つであったそう。

京都の「御菓子丸」杉山さんの和菓子〔甘い石〕の振る舞いも。

京都の「御菓子丸」杉山さんの和菓子〔甘い石〕の振る舞いも。

  

勝屋:なぜ、7年ぶりにアルネを「もう一回だけ」出されたんですか?

大橋:最初は、表紙にもなっているダニエラグレジスのマヨルカ島で作っているバッグの「カタログのようなものを作りたい」というような、なんとなくの打診があったんです。でもその時は、とんでもありません、作れませんってお断りをしました。

その後で、今日のお饅頭の杉山さん。あるイベントの時に頂いた杉山さんのお菓子が、すごく優雅で、白いたんぽぽみたいなお菓子で。食べてみたら、「なにこれ!」ってお味だったんです。たぶんお料理に使うような、スパイスが入っていて。こういうものを作る人ってすごいなって、それでファンに。どうしてこんな若い人が和菓子をつくりたいんだろうか、ってすごく興味が湧いたんです。昔だったら『アルネ』っぽいよねって。そんな気がしました。

勝屋:「アルネっぽい」って、どういう感じでしょうか?

大橋:お仕事も含めて、私が興味をもって『アルネ』という本に作りたくなるような方だな、と言うか。そうこうしているうちに、「CABANE de ZUCCa WATCHが20周年なんだよ」というお話があり。もう、この3つがあったら『アルネ』が作れるって、勝手に思ったんです。

失敗あり、ハプニングあり。7年間の『アルネ』制作秘話

深澤直人さんや、村上春樹さん、川久保玲さんなど、個人雑誌とは思えない、著名な人々が登場する『アルネ』。かと思えば、普通の雑誌ではみられないような、一般にあまり知られていない人が登場することも。大橋さん自身の「興味がある人のところに行く」という姿勢が貫かれているゆえの、ユニークなラインナップだ。

これまでの『アルネ』の表紙と目次から、当時の取材の様子などを振り返っていった。

1号目

1号目

勝屋:1号目には、どうしても出ていただきたい人がいたんですよね。

大橋:たしか2001年の暮れくらいから、柳宗理さんにアタックを始めているんです。断られても断られても、何遍でもめんめんと手紙を出して。そうしたら、あるとき奥さまが、個人的にお会いしましょうって言って下さったんです。それが、この時の取材です。「柳宗理さんに取材をさてもらえなかったら、アルネはない」と思っていたので、ちょっと必死でした。

勝屋:1号目を作ってみて、楽しかったですか?

大橋:楽しかった……かな? そうそう、大変な事件があって、楽しいどころじゃなかったんです。柳宗理さんのお名前を、「理」ではなく「里」と間違えたまま出してしまった。それを、すごく親切にしていただいた、柳さんの奥さまが見つけられて。

勝屋:校正者はいなかったんですか?

大橋:いなかったんです。それで、1文字を修正するために、上からシールを貼っていきました。

3号目

3号目

勝屋:3号目には、イラストレーターの安西水丸さんが出られていて。素敵な方でしたよね。

大橋:安西さんはすごくオシャレな方なので。事務所に伺って、洋服の写真を撮らせてもらうんですけど、どうやって撮っていいかわからなくて。デスクがあったので、こっそりとその上に乗って、俯瞰で撮りました。後からバレたと思うんですけど(笑)。

勝屋:許可を得ずに。怒られませんでした?

大橋:全然、怒られませんでした。

10号目

10号目

勝屋:そして10号には、普通だったら絶対取材させてもらえないだろう、「村上春樹さんのお家にお邪魔しました」っていうのがありましたね。

大橋:村上さんに、連載を書いてもらえませんかって、図々しいことをお願いしたら、「連載は無理だけど、他に何かない?」とおっしゃったので。それでいろいろ考えて、「お家、ちょっと拝見させていただけます?」。そうしたら、大磯の方にどうぞ来てくださいって。

私はすごく緊張するタイプなので、もうその時は本当に大変でした。お昼ご飯も用意してくださったんですけど、あんまり緊張しているので、食べられないんです。それは恥ずかしい思いをしました。いっぱいいっぱいに緊張があって、もう、早く帰りたい。すみません、もう帰りますって(笑)。

17号目

17号目

勝屋:17号は、松浦弥太郎さんですね。

大橋:その頃、中目黒の通りにCOWBOOKSはできていたと思います。「追っかけをさせてもらいたい」と言ったら、「仙台へ車で行く」と言うので、後ろから運転して付いて行ったんです。そうしたら、途中で松浦さんの車のタイヤがバーストして。びっくりして、大変でした。

30号目

30号目

勝屋:最後の30号には、糸井重里さんが。30号で止めようと思ったのは、なぜですか?

大橋:私、それよりちょっと前に体調を崩していたんです。その前までは、1年間4冊分、年間購読でお金を頂いていて。年間購読を受けなければ、30号で止めて問題ないだろうと。

勝屋: 61歳の時に第1号を出されて、それから7年間続けられて。本当にすごいことだなって、驚きます。

大橋:そんなに年齢のことを考えたことがなくて、でも今はさすがにやっぱり、疲れちゃう。前の日は緊張して眠れないですし。だから逆に言うと、よくやってこられたな、良かったなって、思います。

勝屋:もう出さないんですか?

大橋:『アルネ』はね、これが最後です。

大橋歩さんの自画像

大橋歩さんの自画像


質疑応答での「アルネのような、魅力的な文章を書く秘訣は?」という質問に対しては、「素人だからこそ、会いたい人にお会いできたっていう気持ちが、ズバッと出ているのかもしれません。とにかく一生懸命に、ただ伝えたいことを書くしかないんです」と答えられた大橋さん。『アルネ』と大橋さん自身の人柄の魅力が、会場いっぱいに伝わる一夜となった。

(文:岩間淳美)

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大橋 歩(おおはし あゆみ)
1940年三重県生まれ。多摩美術大学油絵学科卒。'64年「平凡パンチ」の創刊号から7年半表紙の絵を担当。以後、広告、雑誌などの仕事をする。2002年に季刊誌「Arne」を創刊。2010年秋から大人の洋服「a.」を製造・販売。主な著書に「日々が大 切」(集英社)「わたしのお買物」、「大人のおしゃれ」(アルネBooks)など。

杉山早陽子(御菓子丸)
1983年三重県生まれ。食べたら無くなる当たり前のことに着眼、表現方法としての和菓子に可能性を感じ、京都の老舗和菓子店にて和菓子を学ぶ。鑑賞から食べるまでの行為を一つの作品として捉え、記憶に残る一瞬を和菓子に込めて制作する。10年間、和菓子ユニット「日菓」として活躍し、現在は「御菓子丸」を主宰しながら和菓子を制作、展示、販売している。


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