『EYESCREAM』元編集長の稲田浩が『RiCE』を創刊した理由とは? カルチャー最先端は「食」【インタビュー】

2016.11.24 (木) 10:31

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クラフトビールにスペシャルティコーヒー、ビーントゥバー。最近、「食」によるライフスタイルやカルチャー領域への侵食が著しい。その象徴的な出来事といえるのが、“lifestyle for foodies”を掲げるフードカルチャー誌『RiCE』の創刊だろう。下田昌克氏によるおにぎりのイラストが潔い創刊号は、SNSを始め各所で話題を呼び、書店では売り切れが相次いでいる。

手がけるのは、自身が立ち上げたライフスタイル誌『EYESCREAM』の編集長を今年の4月に退いたばかりの稲田浩氏。彼が見据える新しい境地とは?

新しく雑誌をつくるということ

映画『モテキ』で長澤まさみ演じる松尾みゆきの上司としてカメオ出演もした稲田浩氏。学生時代『i-Djapan』『03』、『STUDIO VOICE』『POPEYE』『BRUTUS』『宝島』など偉大なカルチャー誌たちに影響を受けて編集者を志したとか。

映画『モテキ』長澤まさみ演じる松尾みゆきの上司としてカメオ出演もした稲田浩氏。学生時代『i-Djapan』『03』、『STUDIO VOICE』『POPEYE』『BRUTUS』『宝島』など偉大なカルチャー誌たちに影響を受けて編集者を志したとか。

――『RiCE』の構想はいつから?

ここ1、2年ですかね。雑誌の仕事で一番テンションが上がるのが創刊号を作る時だと思っていて。それは『EYESCREAM』の創刊前、ロッキング・オンでの10年間でいろいろな部署移動をして経験してきたことが、財産になっているかなって気がしています。そこから、自分なりのカルチャー観を世に問いたいというか、送り出したいと思ったんです。その経験をもとに自分でイチから作るとしたらどんな雑誌だろうってところから、構想が浮かんだんです。

――『EYESCREAM』にしても『RiCE』にしても、タイトルにひと遊びありますよね。やはりそこはこだわっているところですか?

まず名前ありきで始めることが多いかもしれません。タイトルがピシっ!ときてから「じゃあその雑誌ってどんな佇まいなんだろう」って考えるんです。

――我が子の命名みたいですね。こういう風に育ってほしいと願って名前をつける、みたいな。

そうですね。雑誌って名前で決まるんじゃないかって思うところもあります。『RiCE』の話でいうと、「ライスプレス」という今の僕の会社名から始まっているんです。

そのきっかけとなったのが、写真家の若木信吾さん。今回の創刊号でも撮ってもらっていますが、お互い20代のころから一緒に仕事をしていて、ある時『EYESCREAM』で彼を取材したことがあったんです。若木さんはカメラマンとしてもすごく売れっ子で忙しい方ですが、いろんなことをやっているんですよね。映画監督もするし、彼の地元・静岡県浜松市に「BOOKS AND PRINTS」っていう本屋も始めて、出版社もやって……。

生産して、在庫を減らして、儲ける、みたいな仕組みってどの職業にもありますよね。彼は、その仕組みを、自分の手の届く範囲で学ぶのが好きなんだと言っていました。出版社も初めは「どうやってつくるんだろう」って言っていて。その話を聞いたときに、それまで僕は、会社に属したり出資してもらったり、どこかの組織に依存して仕事をしていたんですけど、「あ、そうか。自分で(出版社を)やるって手もあるな」と。その取材の後で、初めて浮かんだんです。

若木さんの出版社の名前は「ヤングトゥリープレス」って言うんですよ。直訳すると……。じゃあ、俺はなんだろうってなって。

――(笑)。

「稲」だからライス。小さい出版社作るなら「ライスプレス」っていいじゃん、響きもいいしと思って、その名前を温めていたんです。それで「ライスプレス」で何を作りたいのかな、って考えた時に、フードカルチャーの雑誌をつくりたい、となった。

だから「ライスプレス」っていう名前が先。「ロッキング・オン」社における『ロッキング・オン』じゃないけれど、『RiCE』が会社にとっての基幹誌みたいなものになればという思いもありました。

――ライス、お米って日本の主食であり日本そのものを想起させるものですよね。バイリンガルにしているのは、インバウンドも見据えて?

それもあります。「ライスプレス」が事務所をかまえる下北沢もそうですけど、Airbnbなんかで外国人の方が多くなっているのは感じている。そういう人たちは当然日本のカルチャーに興味があるし、食にも興味を持ってくれている訳じゃないですか。僕たちだって海外に行ったらそこでしか食べられないものを食べようとするし、「食」ってプライオリティが高いもの。そんな時に、リアルな「食」を伝えられる雑誌にしたいって思いました。

あとは、海外に住んでいて日本に行きたいと思っている、だとか、日本の食文化に興味がある人に、こういうのがあるんだって伝えられたらいいと思って。

すべてのカルチャーが「食」に紐付いている

――「フード、来てるよね」という世の空気があると思いますが、稲田さんも身をもってフードの盛り上がりを実感している?

そうですね。食の映画が増えてきていて「ごはん映画祭」が開催されたり、かたやコーヒーブームで、どんどんスペシャルティコーヒーが浸透していたり。『EYESCREAM』時代に取材をしているなかでも、フードがカルチャーの中で盛り上がっているというのは、常々感じていました。

ファッションに関しても、セレクトショップを新しく始めるとなったら、食の力を借りないとシュリンク(市場縮小)していく傾向にある。コーヒースタンドなんかは当たり前で、“スペシャルティコーヒー+何か”が必要になってきている。そういうのを目の当たりにして、カルチャー全体が全部「食に紐付いている」と言えるんじゃないか、と。

――ファッションにはない、フードの強みはどんなところだと考えますか?

ファッションは人を分けて選別してくところがあるけれど、食はだれにでも開かれていて、関係をつなぐもの。初対面の人でも、食べ物の話をすると絶対に盛り上がりますよね。ファッション誌だと真っ先にセグメント分けしなきゃいけないけれど、食には年齢も性別も関係ない、なんなら国境も越えていい。それは食だからできることだと思うんです。

それに現状、ファッション誌は飽和状態だけど、フード誌はバリエーションと数が絶対的に少ない。(フード誌で)アラサーの人の気分に合うような雑誌は?と言われても、思いつかないですよね。

――確かに、フード誌と言って思いつくものは限られていますよね。

あとは、「フグレントウキョウ」だとか、“飲食をやっているかっこいい人”が増えているな、と。ライフスタイルまでスタイリッシュというか、15年前だとファッションデザイナーになっていたような人が、いまは飲食やっているような空気感があります。

もう一方で、フードジャーナリズム誌『LUCKY PEACH』やコーヒーカルチャー誌『DRIFT』といった、食のライフスタイルを扱った雑誌が海外で人気を得ているというのは知っていたので、日本はこれだけ「食」カルチャーが盛り上がっているのに、対応している雑誌がないと思ったのも『RiCE』を作ろうと思ったきっかけですね。

『LUCKY PEACH』

『LUCKY PEACH』

創刊号の見どころと、撮影小ばなし

――創刊号の中身について聞かせてください。創刊号に名を連ねているのは、必ずしも「食」のスペシャリストではないけれど、この人が語る「食」の話を聞いてみたいと思わせる人たちばかりですよね。人選はどのように?

キーワードがあるとしたら、“ご縁”というか。長年仕事をやってきたなかで知り合った関係だったり、家がご近所だったり、たまたま出会ったり。実は、全員知り合いと作っているっていう。

それってやっぱり、東京で仕事することの醍醐味でもあると思うんですよ。仲良い人と仕事できるのが一番いいというか。仕事をすることでさらに仲良くなるし、仕事していても楽しいじゃないですか。

――蜷川実花さんが撮り下す「男子丼」の第一回ゲストは、坂口健太郎さん。

せっかく食の雑誌だから、イケメンがご飯を食べるだけのページがあっても良いかなと思って。丼ものを男の子がかっ込んでいるのは見ていて気持ちがいいし、女性にとっては擬似デートみたいで楽しいじゃないですか。
「男子丼」は、英語にすると「BOYS ON RICE」。「おとこどん」って、僕のなかで読んでいます。親子丼、みたいな感じで。
坂口くんに、好きな食べ物を事前にヒアリングしたら「たまごとか肉とか、タンパク質系です」って男の子らしい回答があったから、じゃあ親子丼かなって。ちょうどお昼時で、本当に美味しそうに食べてくれて良かったです。

――川島小鳥さんの撮り下ろしグラビアが、三浦貴大さんをモデルにした「御用聞き」ファッション特集というのが斬新です。

フードの雑誌でファッションページ特集ってあまりないじゃないですか。だからやってみたいなと思って。スタイリストの山口壮大くんと、お米の特集だから、サザエさんにおける三河屋さんのような「御用聞きファッション」はどうかって話になったんですよ。

御用聞きといえば、お勝手にお米を持ってくるような昭和なイメージですが、今風にアップデートするとしたらどんな感じになるかって考えて。いま御用聞きがいるとしたら初代ではなく、二代目とか三代目なので、そういうサラブレット感が欲しいなと三浦貴大さんをフィーチャーしました。

――DJみそしるとMCごはんさんなんかは、「フードカルチャー」を体現するひとですよね。

そうですね。彼女には連載コラムもやってもらっていますが、このページでは、ちょっと前に流行った“おにぎらず”を「にぎるか?にぎらないか?それが問題だ!」なんて、もっともらしくポップに取り上げました。

この撮影をしたのが、下北沢にある「サーモン&トラウト」というお店。このお店には、森枝(幹)くんってシェフがいるんですが、若くてやる気があって、クリエイティブな彼との出会いはこの雑誌をつくる大きなきっかけになりました。初めはたまたま気になって入ったお店なんですが、仲良くなって家に招かれて、そこで『LUCKY PEACH』を見せてもらったりしたんです。フードが盛り上がっている中で、こういう雰囲気の雑誌が日本にはないからと、ひとつのきっかけを与えてくれたのが森枝くんなんです。フードジャーナリストでもある「サーモン&トラウト」オーナーの柿崎(至恩)さんにはコントリビューティングエディターとして、今回、長い文章を2つ寄稿いただいています。

――そのお店がサロンのような存在になっているんですね。リアルイベントなども、ゆくゆくは考えられていますか?

そうですね。コアメンバーで週1で会議をしているので、なにか面白いアイデアがあれば実現できる環境だと思います。

『RiCE』のこれからについて

Web版の予定については「電子版は雑誌そのままの紙面で、webはぜんぜん違うものにしなくてはダメだなという風に思っています」と稲田氏。

Web版の予定については「電子版は雑誌そのままの紙面で、オンライン版はぜんぜん違うものにしたいという風に思っています」と稲田氏。

――次号以降の展開を教えてください。

第2号は「魚」の特集にしようかなと思っています。季節的に冬でちょうど旬だし、『築地ワンダーランド』なんて映画もあったりして、いろいろ盛り込んで掘り下げられそうだなと。

――今後、特定の食材にフォーカスした形に?

うーん。いろいろ考えているですけどね。ごはんってなんでも合うよねって意味でいろいろと紐づくところもあるし、肉や麺、パンの特集があってもいいと思うし。ビールやワイン、チーズだったり、秋にはきのこ特集なんかもありかもしれない。夏は、かき氷やアイスクリームといったスイーツだったり。いろいろ、ですね。

――「食」に関することさえであれば、完全にフリースタイルということですね。何を切り取ってもおもしろそうです。

そうですね。ネタは尽きないと思いますし、もし他と被ったとしても、内容で差別化できる気がしています。


カルチャー誌で長年培った嗅覚だろうか。「これからはフード」という確信が、米粒の形をしたカバーロゴの「R」を始め、誌面のあらゆるところから伝わって来た。これから季節ごとにどう展開していくのか。今後の『RiCE』もおいしくいただけそうだ。

(インタビュー・文:岸田祐佳)

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稲田浩

ライフスタイル誌『EYESCREAM』編集長を経て、出版社「ライスプレス」を設立。季刊誌『RiCE』のほかファッションジャーナリズム誌『SPADE』などを展開予定。

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モテキ

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