博報堂の名物雑誌『広告』がリニューアル。なぜ木原編集長は時代を逆行するのか【インタビュー】

2017.2.25 (土) 07:00

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大手広告会社の博報堂が、1948年から雑誌を発刊していることをご存知だろうか。数年ごとに社員の中から編集長が選出され、それぞれの感性で作り上げるというユニークな季刊誌『広告』は、リニューアルの度に大きな話題を呼んできた。

2017年1月から指揮を執るのは、同社シニアPRディレクターの木原龍太郎さん。「野生の直感を大切にするアナログ発想マガジン」をテーマに、今後どのように展開していくのか。木原さんに話を聞いた。

新編集長は、博報堂きっての“冒険野郎”

新編集長の木原龍一郎さん。

野性味あふれる新編集長の木原龍太郎さん。

――かなりインパクトのあるビジュアルとテーマにリニューアルされましたね。そもそも木原編集長はどんなご経歴をお持ちなんですか? 「博報堂きっての冒険野郎」という話を小耳にはさんだのですが。

学生時代、「探検部」に入っていました。犬ぞりで北極圏を目指したり、洞窟の探査に行ったり、大学の4年間はそればかり。

――北極圏まで!

シベリアから目指して……結局行けなかったんですけどね。入社当時は、犬を12匹飼っていたんです。北海道の富良野に調教施設があって、扶養家族に「犬12匹」って書いたら、人事に怒られました。「僕にとっては家族なんです!」って訴えてみたりして(笑)。

会社に入ってもそういうのを続けていて、有給休暇の消化ペースが速いタイプでしたね。世界中のいろいろなところに行くことがライフワークで、そっちが本業、仕事がサブ、くらいに思っている時代もあったんですよ(笑)。

今は1カ月間も会社を休むなんてできないので、たまに岩登りや激流下りとかに行く程度です。

今もプライベートでも冒険を続ける木原編集長。

今回の巻頭特集で取材させてもらった本田亮さんが率いる「サラリーマン転覆隊」という電通さんのカヌーチームがあるんですけど、僕はこの方が昔からずっと好きだったんです。大学生時代、「(本田さんが)大手広告会社に所属している」って書いてある本を見たことがあったので、「大手広告会社に入ったら、カヌーができるんだ!」と思っていたら、入る会社を間違えた(笑)。取材時に本田さんにそのお話しをしたら、大爆笑されましたよ。

答えを探す過程にこそ、価値がある

――「野生の直感を大切にするアナログ発想マガジン」というのは、アナログ体験豊富な木原編集長だからこその発想ですね。それがテーマの決め手となった、具体的なきっかけはあったのでしょうか。

僕は別に、デジタルを否定していないんです。ただ、ここ数年で、ものすごく朝の風景が変わったと感じています。山手線に乗って出勤するんですが、みんなスマホに目を落としている風景が当たり前になっている。これって何か、すごいことなんじゃないかなって思って。

大人たちが下を向いて生きていることを、今の子どもたちは見ている。その先で子どもたちが「大人になることって、おもしろいのかな」って思うんじゃないか、と考えたことがあって。

――その解決の答えが「アナログ」だった?

今って、ものすごく「答えに行き着くことを急いでいる時代」ですよね。ネットで検索したら、何か答えが出てきて、答えがあるのが当たり前という時代だと思います。

そんな中で、「『答えを探す過程』というのが一番おもしろいんだよ」ということを伝えたくなった。もし答えが見つからなくても、汗をかいて見つけようとしたけど探せなかった、ということも特別な情報なのではないか、そう思ったんです。

この時代にあえて雑誌を出すのだから、雑誌ができることを追求しなくてはいけないと思うんですね。だから、「答えを探している過程を見せていく雑誌にしよう」というのがポイントの一つです。

もう一つのポイントは、ちゃんと自分たちが顔を出していくことで、「誰が、何を感じて作っているか」を見せていくことです。「情報がどんどん匿名化している」時代でもあるからこそ。

ど素人が雑誌を作っていますが「これから答え探しに全力を尽くしていきます」と宣言すると同時に、「感じたことを主語、一人称、自分の言葉として表現することが重要だよね」と話をしています。

選ばれし“迷っている”編集部員たち。編集部は「大人のクラブ活動」

――そうすると、編集メンバーも重要になってきますね。どのような方々が選ばれたのですか?

僕は社内でも屈指の「迷っている奴ら」を集めました。もちろんそれぞれ仕事のポジションは持っているんですが、興味関心事が定まっていないというか、あれもこれも面白そうだな、と思ってしまうタイプで、何がおもしろいのかをまだ見つけられていない、っていう。いろいろなことに怖いもの見たさで出かけていけるタイプの奴らですね。

だから一向に格好良くないんですね。広告会社っていうと、スーツ着て、格好いい人たちが、横文字使って「時代は~」といった話をして、何かと「まとめたがる」人が多い印象を持っている人もいると思うんです。

そんな人間が、「これは違うんじゃないか?」「ツラい!」とか言って迷っているシーンを見せるのも、面白いのではないかなと。

1号目のタイトル「全力迷走の世界」は、そういう意味で「全面的に迷っていきます!」という宣言です。

――誌面では部員の方々が文字通り大迷走しているわけですが。編集長である木原さんの「弾丸!上司パシリ旅」は本当にびっくり企画でした。

編集部員が飲む味噌汁を作るために“食材をとりに行かされる”木原編集長。一体何が起きたのか……。(本誌より)

完膚なきまでに「編集長」のイメージを覆しました(笑)。普通、編集長と編集部員はピラミッド型だと思うんですが、この企画ではその構造を逆にしてみようという発想から始まったんですね。

編集長が汗まみれで働く逆三角形構造をやっていくと、何かしらおもしろいことが起きていくし、僕が率先して汗をかいて何かをやったら、多分、次号あたりから「これもやっちゃえ」とアクセルの踏むこみ方が大きくなるのではないかなあ、と期待しているところですね。

雪吹きすさぶ北海道へ……。

――どんな風に雑誌作りを進めているのですか?

全員、通常業務とかけ持ちで誌面作りをしているんですよ。感覚的にはサラリーマンが草野球チームに入っているような、クラブ活動的な位置付け。なので、だいたい夕方から集まって進めていく感じですね。

編集長を中心にして企画を発表するといった編集会議をやっていないんですね。編集部員を二人ずつ組ませる「コンビ制」をとっています。こうすることで、ひとつのテーマを投げた時に、コンビごとに違った解釈のコンテンツが出てくるんですよ。

例えば今号の「迷走」というテーマについて、「援交(援助交際)ですよね」と言う人がいたり、「僕が走らないとダメですよね」という人がいたり。その違う解釈を集めると、雑誌らしい「雑多なものが集まった」感じになるんですよ。

ページをめくるごとにストーリーが繋がらない、一枚岩になっていないのがいいなと思っていて。メロディーラインが繋がらない、アシッドジャズな世界に近づけられたらいいなと思っています。

この「とっちらかった感」は是正することはなく、むしろ加速させるのが僕の編集長としての務めです。

少年誌のような温度感の参考は、明治時代の雑誌!?

――雑誌のつくりが、昔読んだ少年誌を思い出します。

そうですね、大人の読む少年・少女誌みたいなイメージはあります。僕は雑誌の持つ「温度感」って、すごく、すごく大切だと思っているんです。誌面を格好良く、クールに仕立てることはいくらでもできる。僕たちの作っている雑誌は、文字数も多くて読みにくい。でも逆に、すごい熱量があって、それが伝わっていくのかなと思うんですよね。

最近、参考に読んでいる本があるんです。明治時代の雑誌「団団珍聞(まるまるちんぶん)」と「驥尾団子(きびだんご)」について描かれている『「団団珍聞」「驥尾団子」がゆく』(木本至 著、白泉社 刊)という本なんですけれど、すごいんですよ、この時代の雑誌のエネルギーって。すごい熱量があるんですよ。

『団団珍聞』は、文章の大切なところが、全部「団団(〇〇)」となっている。「文章を読んだ人が、想像で言葉を当てはめていく雑誌。人によって解釈が違う、不完全なメディアっていうのがいい」

『団団珍聞』は、文章の大切なところが、全部「団団(〇〇)」となっている。「文章を読んだ人が、想像で言葉を当てはめていく雑誌。人によって解釈が違う、不完全なメディアっていうのがいい」

これを検閲が厳しい当時に発行してしまう、たくましさたるや。おもしろいことをやり続けている人っているんですよ。この雑誌を作った人たち、顔も名前も出していて、逃げも隠れもしていなくて、堂々としているんです。これを読むと「雑誌ってそういうことだったんだ」って気付かされますね。

実は江戸時代、明治時代の雑誌って、めっちゃくちゃおもしろいんです。今度は70、80年代もまた面白くなる。多分、時代の雰囲気を感じとったものになっているので、誌面の熱量が全然違うんでしょうね。

読者すら巻き込んで、全力で「遊んで」いく

――今後どんな誌面作りをしていきたいですか?

一番伝えたいことは、古代や縄文時代から、人間ってそんなに変わっていないと思うってことです。人が持つ興味などのことですが。

次号では「文字」の特集をします。古代人が最初に文字を作って伝えた瞬間というものがあると思うんですね。そういう昔から変わらないことを掘り下げていきたい、それを僕らも体験したいと思っていて。

あとは、昔からある「遊ぶ」ことに真剣に取り組んでみようと思っています。

取材交渉シーンや取材の記録の動画などがアップされたウェブもあわせてチェックしたい。広告マンが地元のおじいちゃん・おばあちゃんに頭を下げ続ける動画はシュール(笑)。(写真は公式HPの動画より)

――取材に同行したい、という読者も出てきそうですね。

実はちゃんと、取材ツアーを考えています。娯楽が目的のツアーじゃないですよ。例えば岩手県の遠野(妖怪伝説などの民俗伝承をまとめた『遠野物語』の舞台)ってあるじゃないですか。丑三つ時にロケバスでいろいろな場所に一人ずつ下ろしていって、朝まで過ごしてもらう、っていう。きっとみんな、いろいろな音を聞いて、何か感じて、そこに妖怪が見えると思うんです。そこでの体験をもとに、新しい妖怪を作ろう、みたいな(笑)。その新妖怪大百科は遠野市に贈呈します!

――なるほど(笑)。読者にも容赦がないですね! 木原さんの『広告』っぽさっていうのが、早くも見えてきました。

間違えてもサードウェーブコーヒー特集は(『広告』の特集に)出てこないと思います(笑)。

きっと、何号かやっていくと、僕らも「ぽさ」が出てくると思うんですけど、そうしたら全く違う方向に振って、どういう風になるかということもやっていきたいですね。

(取材/文:寺町 幸枝)

雑誌『広告』 | KOHKOKU
次号の『広告』は4月19日発売予定。

木原龍太郎(きはら・りゅうたろう)

77年生まれ。99年、博報堂に入社。マーケティング局、コーポレート・コミュニケーション局(現:PR戦略局)を経て、現在、同社統合プラニング局木原チームのシニアPRディレクター。
これまで官公庁、飲料、食品、家電、教育サービスなど、数多くの業務を歴任。企業PRや情報戦略などの業務を中心に、広告制作、メディア開発、商品開発までをフリースタイルで行い、同社の中でも「職種を説明するのに困る人材」として、安定的に不安定なポジションを築き上げている。仕事以外では、激流下りや沢登り、冬山登山をこよなく愛し、休日の携帯電話は常に圏外。山間部から直接出社することもあり、会社内にワイルドな臭いを放つ冒険野郎としても知られている。


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