日本文化がテーマの中国雑誌『知日』インタビュー。中国のメディアの今と、最新号「桜特集」について

2017.4.10 (月) 07:00

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日本文化がテーマの中国雑誌『知日』インタビュー。中国のメディアの今と、最新号「桜特集」について

『知日』桜特集

中国語雑誌の『知日』は2011年の創刊以来、「猫」「断捨離」「暴走族」「太宰治」「鉄道」などユニークな切り口で日本を紹介し、毎号平均5万冊を売り上げる人気雑誌として注目されている。3月に発売された最新号は「桜花入魂‐桜の全て」と題する桜特集で、売れ行きも好調だ。今回は、桜特集を担当した北京在住編集者の原口純子さんと『知日』の蘇静編集長に同誌の楽しみ方やコンセプト、紙メディアの将来などについて伺った。

『知日』は日本の“今”をどのように切り取っている?

――蘇編集長、『知日』の個性は何といってもユニークなテーマ選定にあると思いますが、これらのテーマは毎回どうやって決めているのですか?

蘇静編集長(以下、蘇):僕の関心です。僕は日本語ができませんから、僕自身が一般の読者の視点に立ち、僕のために作る、というのがこの雑誌を始めて以来続けているやり方です。僕が面白いと思うことは読者も面白いはずだと。2つ目はメインになる取材対象のインタビューなどリソースの確保が可能かどうかです。村上春樹は僕も大ファンなので、ずうっとテーマに取り上げたいと思っていますが、インタビューが取れないのでまだ特集は出ていません。

蘇静編集長

蘇静編集長。

――蘇静編集長は「『知日』は単なる紙メディアではない」と他のインタビューで言われていますが、これはどういうことですか?

蘇:僕たちはコンテンツ会社であり、『知日』はコンテンツブランドだという意味です。コンテンツ自体が僕らの競争力です。紙だけではなくて、(中国版フェイスブックの)微博、(中国版ラインの)We Chat(「微信」)、別冊特集号、動画、イベントなど多角的にコンテンツを発信しています。さらに、最近は、スマホで動画と音声番組を両方楽しめる新型アプリの開発も検討しています。

――今、『知日』の公式We Chatアカウントの登録ユーザーはどのくらいいますか?

蘇:約40万人です。『知日』から派生した姉妹雑誌の『日和手帖』が約20万人、『食帖』が30万人超です。フードを専門に扱っている『食帖』は今、急速に伸びています。

「『紙は遅れている』は嘘」

――知日はこんなにニューメディアを駆使して立体的に展開しているということは、やはり紙メディアだけではやっていけないというお考えからですか?

蘇:全くその逆です。僕は「紙メディアは遅れている」というイメージを打破したいと思ってこの雑誌をだしています。デジタル化が進んだから「紙はダメ」と言う人には本当に書籍を最近、読んだかと聞いてみたいです。新しいメディアが出たから、紙は古いと宣告するのは、ちょっと慌て過ぎです。僕自身デジタルお宅で、デジタル化は大歓迎です。しかし、デジタルを積極的に利用することと、紙メディアがデジタルに淘汰されるということは別のことです。そもそも、デジタル化などメディアの多様化は、情報の伝達をより良いものにしていくために起きているはずです。紙はデジタルの敵ではなく、相互補完し合えるものです。そして、まだまだ紙にしかできない役目があります。

ソーシャルメディアは速くて便利ですが、弱みもあります。情報は、断片化され、刺激的に加工されるため、人々は扇動されやすくなっています。単なるニュースではなく、じっくりと物事を考えるための書籍やそのコンテンツは必要です。書籍は時空を経てゆっくりと繰り返し読み返すこともできます。そもそも、本を読むというライフスタイル自体に魅力があると思います。

『知日』の中でも特に人気が高かった「太宰治」特集。

昨年は『知日』の手法で中国のテーマに迫る新しい雑誌『知中』も創刊。約5万部を販売し、好調なスタートを切った。

実際、中国では去年から蔦屋書店のような個性的な書店が急速に人気を呼んでいます。ネット書店が普及し始めた約10年前には実店舗の書店がどんどんつぶれ、もう実店舗の書店に未来はないかのように言われました。しかし、これは間違いでした。今の中国の大都市の消費者は本を楽しみながら買い、読書を楽しむというライフスタイルを重視し始めています。それは、モノの大量消費にはもう満足し、それ以上のものを求めるようになっているからでしょう。ネット書店の強みだった書籍の価格に対する感度も以前ほど高くはありません。モノは家に既にたくさんあるので、休日の外出も、単なるショッピングでは物足りない。それよりカフェのある気の利いた書店で本と過ごす時間を選ぶようになっています。

――ちなみに蘇編集長は日本の『BRUTUS』が好きと言っていましたが、『BRUTUS』と『知日』の似ている所、違うところはどこですか?

蘇:違い?それは勿論、『BRUTUS』のほうが僕らのより良いということでしょう(笑)。内容のカバーする範囲に関しては、『BRUTUS』の方が総合的で、『知日』は日本だけに絞っていますから細分化されていると思います。あと、『知日』は広告を取らずに書籍販売だけでまかなっていますので、そこも違います。

最新号・桜特集の楽しみ方。蜷川実花や辻村深月、幅允孝らも参加

最新号は桜がテーマ。日本、中国の活きのイイ人がてんこ盛りで寄稿しており、こんなコラボが可能だったか、と思わずにはいられない。まず、表紙は蜷川実花氏の作品、そして、巨匠アラーキーの桜コレクションの作品集を初公開。さらに、平成の人気小説家の辻村深月氏が桜について語り、書選家の幅允孝氏がお勧めの桜関係の本を紹介し、中国の映画専門家が岩井俊二監督の『四月物語』や新海誠監督の『秒速5センチメートル』などを紹介している。さらに、中国の国際的アーティストで、横浜市立美術館でも大々的な個展をもった蔡国強氏が巻頭を飾っている。

『知日』桜特集

『知日』桜特集

『知日』桜特集

『知日』桜特集

――北京在住編集者の原口純子さんは今回の桜特集の多くの部分の編集を手掛けていらっしゃいますが、日本の読者にとって、今特集の魅力はどの辺にあるのでしょうか?

原口純子さん:ご覧いただければお分かりだと思いますが、ここでは、日本のフード、アート、歴史、植物学など日本の雑誌では通常、棲み分けができているコンテンツが領域を横断して構成されています。桜をテーマにしたアートと桜餅の記事が並んでいるなど、日本人が読者対象の雑誌ではあまりないような取り合わせを新鮮に思っていただけたら嬉しいです。

また、今回の特集では、日本人の書き手と中国人の書き手が並びますし、インタビュー対象者にも中国の方も日本の方もいます。政治でも経済でもない、「桜」のような話題で、中国の人と日本の人が並んで登場する場は、これまで実はあまりなかったのではと思います。マスメディアの報道ではどうしても中国の特異性にスポットがあたりますが、水面下の市民の暮らし方はかつてなかったほど、近づいているというのが実感です。実はふたつの国の市民が共有できる話題は少なくないのでは。特集からそんな時代の動きも感じていただけたらと願っています。

――桜特集での見どころは?

蘇:僕は個人的にはビジュアルが好きなので、クリエーターの部分、特に蔡国強氏、荒木経惟氏、蜷川実花氏の部分が好きです。また、桜などのきれいな花や紅葉など自然を愛でる文化は世界中にあるけれど、日本の桜は人々の魂に入り込み、日本文化に溶け込んでいると言う点がすごくユニークで面白いと思います。「桜花入魂」というタイトルは、はその点を強調したくて、僕が付けたんです。

――読者の反応はどうですか?

蘇:この特集はとても売れています。アマゾン中国の書籍総合ランキングでも約100位、ジャンル別ではトップにもなっています。我々の雑誌はムックで資料性も高いので、ゆっくりまだまだ売れていくと思います。

内容的に関しては、これまでは、中国では、日本の桜というとぱっと咲いてぱっと散る武士道の象徴という一面的な理解しかありませんでした。今回の本でもっと多面的に理解してもらえたのではないでしょうか。読者からは「内容が豊富」で「多元的」、「この一冊で一気に桜のことが分かる」などと言う声が寄せられています。


以前の「中国」のイメージをことごとく打ち砕く『知日』。新しい中国に出会う窓としても、外国人が見る日本の鏡としても、活きのいい紙としても、一度は手にしてみたい世界の雑誌だ。

(文:斎藤淳子 from中国)

■取材国:中国
斎藤 淳子(さいとう じゅんこ)

米国で修士号取得後、中国に国費留学。在北京のジャイカ(JICA)や日本大使館を経て、中国全般に関し執筆。読売新聞、時事速報、オルタナ、中国誌などに寄稿。共著編に『在中国日本人108人のそれでも私たちが中国に住む理由』など。グローバルプレス会員。

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『知日』は、2011年1月に北京で創刊された、日本文化やライフスタイルを紹介する月刊誌。毎号テーマを絞り、日本のありのままの姿を紹介する。これまで取り上げてきたのは、「制服」「森ガール」「明治維新」「暴走族」「妖怪」「鉄道」「断捨離」「禅」「犬」「日本食」「手帳」「礼儀」など、日本人もびっくりの計24タイトル(2014年12月現在)。中でも「猫」や「漫画」は10万部を突破するなど、日中関係が冷え込むなかで、メディアを始めとして日中両国で大きな話題を呼んできた。そんな『知日』のすべてがわかるダイジェスト版が、ついに日本初上陸!

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