ナガオカケンメイのロングライフデザインの考え方。「イケてる」「らしさ」とは何か? 【『d design travel』イベントレポート】

2017.8.17 (木) 07:00

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D&DEPARTMENT PROJECTが制作する、47都道府県の観光をデザインの視点から案内するデザイントラベルガイド『d design travel 東京』『d design travel 静岡』改訂版が発売。これを記念し、編集長・ナガオカケンメイさんの登場するトークイベントが2017年7月27日に銀座 蔦屋書店で開催された。

テーマは「その土地らしいデザインの見つけかた、伝えかた」。”らしさ”とは何か?、編集長自ら紹介する『d design travel』の編集手法とは? その一部をお届け。

「D&DEPARTMENT」で“イケてる”ロングライフデザインを体現する

ナガオカケンメイ(以下、ナガオカ):“イケてる人”というと、みなさん、“頭からつま先まで最新のオシャレで、流行に敏感な人”と思いがちですが、僕はそう思わなくて。“イケてる人”とは、定番の服に最新の何かを組み合わせる、センスの良い人じゃないかな、と思います。

ナガオカケンメイさんイベントの様子
ナガオカケンメイさん

ナガオカケンメイさん

言葉を変えると、“いつの時代も変わらない価値を大切にしながら、時代に合うスタイルを作っていく”というようなこと。イケてる会社や国も一緒で、いつの時代も変わらない価値を大切にしながら、時代に合ったスタイルを作っていく。つまり、変わっちゃいけないものを知っていることだと思うのです。

僕は「ロングライフデザイン」という“いつの時代も変わらない価値”をテーマにしていますが、新しいものをバランス良く取り入れていくことはすごく好きです。

この“新しい”には2種類あると思っています。一つは、“ただ新しい”もの。もう一つは、“自分らしく新しい”もの。この“自分らしく新しい”の言葉を変えると、“原点と革新”。その原点と革新をいつの時代も常に並走して置ける人たちを、ブランドと呼ぶのではないでしょうか。

ブランディングの仕事を通じて、「原点商品というものがメーカーには必ずあって、それは新しいものを作っていくための大切な基礎になるのでは」と感じました。例えば、車のポルシェ。初代のポルシェを基礎に、新しいものを積み上げていく。こういうものがブランド中のブランドです。僕がやっている“60(ロクマル)ビジョン”というリブランディングのプロジェクトでは、次々と新しい商品にしてしまいがちなメーカーの商品開発サイクルを見直し、その会社の原点商品を見極めて、企業に「原点商品を廃番にせずに、60(ロクマル)という名前のシリーズとして復刻して、それを見ながら新しい商品を開発してみては」と呼びかけます。

“自分らしく新しい”、これがなかなか難しいんです。“新しい”が何かを知っていないといけないし、“自分らしさ”を知っていないといけない。そうした意識の高いメーカーの原点商品は、ロングライフデザインとも言えます。日本中の家具や生活道具の販売店が、そういう意識の高い思いを伝えるべきだと思って、自分でも「D&DEPARTMENT」というお店をつくりました。

「その土地らしい」をひたすら探し出す『d design travel』

『d design travel』

『d design travel』

ナガオカ:それから、展覧会の形式で来場者の反応をみながら、今の日本の真価を俯瞰で眺めてみたいと思い、47都道府県区切りでその土地の個性をデザインの視点で並べてみる企画を作りました。それが“DESIGN BUSSAN NIPPON”という2008年の企画です。並べたものは5つ、「1、その土地にある伝統産業・地場産業」「2、1+DESIGN」「3、その土地の食品+DESIGN」「4、その土地になかった新しいもの、こと」「5、その土地から生れた雑誌+DESIGN」。47×5つずつ、県ごとにそれらを集めて、47台の展示台で見せる展示をしました。さらに、この展示会の公式書籍には「その土地らしさを訪ねる旅+DESIGN」を書き加え、6つの切り口で各地の特有のデザインを紹介しました。

この展覧会を通じて、47のそれぞれの個性から日本という個性は出来上がっていくこと、活性化の種はその土地らしさにつきる、ということを学びました。日本中に誠実なものづくりやその土地らしさがある一方で、地方活性化として、どこかでヒットした物産デザインやイベントの祭りが、その土地らしい未来を邪魔しているようにも思うことがあります。例えば「よさこい」。高知のお祭りなのに日本中でやっていて、今や元祖はどこだ?という話題まで目にするようになりました。

ダイナミックにその土地らしさを感じてもらうには、観光の意識を変えなければいけないなと思いました。そのための参考書、“その土地らしい”をひたすら探し出すのが『d design travel』です。各都道府県に1冊ずつ、年に3冊出していて、これまでに21冊できています。あと8,9年かけて、47冊つくります。

トラベルガイド『d design travel』の作り方

ナガオカ:『d design travel』をつくるには、14の工程があります。その土地の人と一緒に作る地元のためのガイド、という感覚です。

その1、記事をスクラップする

まず、『商店建築』『Casa BRUTUS』など、いろんな雑誌のその土地らしい場所の記事を、47のファイルにスクラップしています。

雑誌のスクラップは渋谷ヒカリエ8Fのd47に保管してある

雑誌のスクラップは渋谷ヒカリエ8Fのd47に保管してある

その2、ワークショップを開く

テーマとなる土地の人たちに声をかけ、ワークショップ形式で自分の土地らしい場所や人を話し合い、発表してもらいます。観光、宿、キーパーソンなど、6つのカテゴリーに分かれて、「俺たちの県のキーになるのはあいつだよ」「違うよ俺だよ(笑)」、そういうやりとりをやりながら、取材候補地を挙げていく、公開編集会議です。

その3、選定のルールを共有する

そのワークショップでは、「その土地らしいこと」「その土地の大切なメッセージを伝えていること」「その土地の人がやっていること」「価格が妥当であること」「デザインの創意、工夫があること」といった取材対象選定のルールを共有して、みんなで、「県を代表するカフェって?」といったことを話し合います。地元の人同士で地元の魅力を話し合う。こんな機会そうそうないですから、すっごく盛り上がります。あげくそのまま飲みに行っちゃったりして、収拾がつかなくなってしまうこともあるくらいです(笑)。

ワークショップの様子(群馬号)

ワークショップの様子(群馬号)

その7、約2ヶ月その土地に住み、確信してから取材申し込みをする

スクラップブックとか、ワークショップ、リサーチなどで出たところ全てを訪問して、「この土地らしいかも」と思ったら、そこにひたすら通います。それで、「この土地らしい!」と確信したら、やっとここで取材申し込みをする。普通、雑誌って取材申し込みが一番最初なんです。でも、それだと最初からすごく良い状態でおもてなしをされてしまう。それでは本当の意味での取材にならないので、まずはフラットな状態で体験してから、自分が惚れ込んだところにだけ、取材を申し込みます。

その10、掲載した場所からものをお借りし、d47MUSEUMで立体的な展示を開催する

毎号、発売に合わせて、渋谷ヒカリエで約1カ月半の展示をします。取材させていただいた場所から、そこで実際に使われている仕事道具などを展示品として借りてきます。店の暖簾とか、貸して大丈夫なのかって思いますけど、とことん借りてきて、その取材先の魅力を再現しています。何の展示かぱっと見はよくわからない不思議な状態が出来上がるんですが、これが非常に好評です。

展示の様子(「d design travel SHIZUOKA EXHIBITION」)

展示の様子(「d design travel SHIZUOKA EXHIBITION」)

14、『d news』というタブロイド新聞を隔月刊で発行する

これまでに掲載した場所の最新情報をD&DEPARTMENT全スタッフで取材し、掲載、配布しています。これが一番大変。トラベル誌は発売を迎え、次の県への制作に行ってしまうとせっかく築いた濃密な関係を保つのが難しく、薄れてしまいがちでした。それを改善したくて、関係した人たちと常にコンタクトを取り合えるような新聞をつくっています。例えば、後ろのページには、今まで取り上げた21都道府県分の掲載地の最新情報を掲載しています。これを、全店で手分けしながら情報を集める。掲載したところへ、「◯◯さんお久しぶりです、今月どんなですか?」ということをやっています。

『d news』

『d news』

「その土地らしいデザインの見つけ方」とは?

ナガオカ:トラベル誌も商品の選定をする方法も一緒。“作り手のためになる⇒家業のためになる⇒産地のためになる⇒その県のためになる⇒日本のためになる⇒世界のためになる⇒地球のためになる”という展望を持っています。

例えば、栃木県にものすごく有名な焼き物の作家さんがいるとします。じゃあ、その人のものをピックアップするということは、家業のため、産地のため、日本のため、世界のためになっているのか?と考える。「産地のことはどうでもいい、自分はアーティストとして焼き物をやっているんだ」という作家も多くて、それではフューチャリングしてもその人が脚光を浴びるだけ。これでは僕たちの取り組みにおいては、取り上げられないんです。

なかでも“その県のためになるかどうか”この前後がすごく重要。これが今日のテーマの答えです。

(文:岩間淳美)

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・京都造形芸術大学教授・武蔵野美術大学客員教授。
すでに世の中に生まれたロングライフデザインから、これからのデザインの在り方を探る活動のベースとして、47の都道府県にデザインの道の駅「D&DEPARTMENT」を作り、地域と対話し、「らしさ」の整理、提案、運用をおこなっている。'09年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。'12年より東京渋谷ヒカリエ8/にて47都道府県の「らしさ」を常設展示する、日本初の地域デザインミュージアム「d47 MUSEUM」を発案、運営。'13年毎日デザイン賞受賞。

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