【インタビュー】最果タヒ「詩は初めてロックを聴いた時のような感覚だった」。メディア化続々、注目を集める詩人のルーツ

2017.8.22 (火) 07:00

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最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつも最高密度の青色だ』『愛の縫い目はここ』三部作

最果タヒ『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつも最高密度の青色だ』『愛の縫い目はここ』三部作

彼女の作品で、現代詩に興味を持ったという人も少なくないだろう。現代詩の世界では異例とも言える部数を売上げ、雑誌やインターネット上などさまざまな場所でのびやかに表現し続ける詩人・最果タヒ

最新作『愛の縫い目はここ』は、『死んでしまう系のぼくらに』『夜空はいつも最高密度の青色だ』に連なる三部作の完結編。発売後すぐに重版がかかるなど、早くも多くの反響を呼んでいる作品だ。『夜空はいつも最高密度の青色だ』が映画化(監督:石井裕也/主演:石橋静河池松壮亮)され、彼女自身も意欲的に作品を発表し続けるなど歩みを止めない彼女に、本作のこと、影響を受けた作品について話を聞いた。

タイトルを中心に自然とまとまっていった作品『愛の縫い目はここ』

――今作は、「想像していなかったところに着地した」とブログに書かれていましたね。

そうです。今回の詩集は、中身を決める前にデザインなどを進める必要があって、タイトルを先の段階で決めたんです。それでいろいろ考えていたとき、ちょうどぬいぐるみを洗濯していて。縫い目がなかなか乾かなくて困っていた時に、このタイトルを思いつきました(笑)。

そのときはそれくらい軽い感じだったんですけど、詩をまとめたり新しく書いたりしていていくうちに、糸であったり、表紙デザインが波っぽいなと思って見直したら、海の詩がいっぱいあったりと、タイトルを中心に詩が勝手にまとまっていく感じがしたんです。そういうのははじめてのことだったので、おもしろいなと思いながら作っていました。

だから詩集を作ろうと決めた時には想像もしていなかった形になったように思います。あとがきも最初からこういうことを書こうと決めていたわけではなかったんですけど、できてみたら三部作の最後らしいあとがきになったんです。

やりたかったことは、作品が読者それぞれのものになること

――三部作の作品を経るにつれ、最果さんの環境も大きく変化していったと思います。映画『夜空はいつも最高密度の青色だ』、テレビ番組『さいはてれび』(フジテレビ)など最果さんの作品が映像化され、最果さん自身も雑誌などで多くの作品を発表されていました。そういったことは、今回の作品に何か影響は与えましたか?

『死んでしまう系のぼくらに』が出たときに、「あ、読んでくれる人がいるんだ」と思ったんですね。本を出す前は、これが誰にも読まれなかったら私は今後一生詩集を出せないだろう、と思い詰めていましたし、だから、まずそのことが嬉しかったですし驚きもしました。

詩集って本の中でも特に売れないから、出してもらえるという時点ですごくありがたいんです。でも、やっぱり読んでもらえるかどうかっていう本当のところは私にはわからないことだし、出すまでは誰も読んでくれなかったらどうしようっていう怖さでいっぱいでしたね。

けれど書店回りのときに本屋さんが並べてくれているのを見て、「わ、本当に(読者に)届くんだな」と思ったんです。詩は届くんだ、という実感を教えてくれたのが『死んでしまう系のぼくらに』でした。そこからいろんな人から感想をもらって、みんなばらばらの解釈をしているんだな、っていうのを目の当たりにしました。

『夜空はいつも最高密度の青色だ』はそれを経て、それぞれの人にとって受け止め方が違うからこそ、だからこそ、それぞれの人の生活に溶け込んでいくようなものを作ろうと思いました。

詩を読んだ人が、その人だけの解釈をして、やっと詩は完成するような気がしていたんです。私一人で作っているものではない、というか。だから、映像化されるというのは、最初はびっくりしましたけれど、でもすごくしっくりもきました。自分の作品が映像になる、というよりは、詩をきっかけに、まったく新しい作品が生まれていく、という感覚でした。映画は石井裕也監督の作品として、『さいはてれび』はそれぞれの監督の作品として。

これまで詩の感想をもらって、「みんな解釈はばらばらだけど、でもみんな、詩を自分のものにしてくれているなあ、うれしいなあ」と思っていたけれど、でもやっぱりそれは私側ではなく読者側で起きていることだったので、どうしても私にははっきりは見えてこなくて。それが映像化によって、目に見えるものになったというのが、私にとっては新鮮でした。

あと、『死んでしまう系のぼくらに』を出した後ぐらいから、雑誌の仕事が増えて、テーマをもらって詩を書くことが多くなりました。最初はテーマにあわせて書くというのに抵抗があったんですけど、今はすごくそれが楽しい。テーマは自分にとっては異物なので、そこから自分が予想していないものがポンッとでてくることがあって、まだ知らない言葉に出会える感じがして楽しいです。また、テーマは私の外側にある言葉なので、言葉がそこから開かれていく感じもしました。それはすごく作品にも出ているように思います。

詩との出会いは、学校の教科書

――最果さんはブログがきっかけで詩を書くようになったそうですが、もともと詩は好きだったんですか?

全然です。詩集は開いたこともなかったと思います。でも、谷川俊太郎さんとか中原中也とか教科書に載っている詩はいいなと思っていました。詩の感想文を先生に褒められたりしていたので、詩にはいい印象を持っていたんですけど、自分が書くとかは考えたことがなくて。

ブログの記事自体が詩っぽいと言われて、よくわからないけどやってみようという感じで詩を書き始めたんです。そのあと、詩の雑誌に投稿してみたらどうかと言われたので、現代詩の雑誌を見たり、吉増剛造さんや伊藤比呂美さん、北園克衛さんの詩集を読んだりしたら、すごく驚いて。詩とはなんなんだろう、と思って読み始めたんですけど、そんなことちっともわからなくて。わからないんですけど、でもすごくかっこいいということだけがわかる! って思いました。なんていうか、はじめてロックを聴いたときみたいな感覚がありました。なにがいいのかということすらわからないのに、とにかくいいという感覚だけが残って。そうした詩のありかたに惹かれました。

最果タヒの詩のルーツは絵本とロック

――先ほど詩では谷川俊太郎さん、中原中也などの名前が挙がりましたが、文章を書く上で影響を受けた作家・作品はありますか?

絵本が好きですね。母親が毎日絵本の読み聞かせをして寝かしつける人で、家にいっぱい本があったんですよ。『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん 作、こぐま社 刊)、『わたしのワンピース』(にしまきかやこ 作、こぐま社 刊)、『くまさんにあげる』(神沢利子 著、平山英三 イラスト、童心社 刊)とかが好きで読んでいました。

絵本って意味がわからなくても子供が喜ぶように言葉が作られているので、音としてすごくきれいなんですよね。最近、(読者から私の詩を)声に出して読むといいですねと言われることが何度かあって、それまでは考えたこともなかったんですけど、でも、読み聞かせで本を読むというのが根付いているので、やはり私の言葉は声が前提にある言葉なのかなと思います。

――小説などではいかがですか?

SFが好きで。昔は『幼年期の終わり』(アーサー・C・クラーク 著、光文社 刊)などのオーソドックスな作品を読んでいました。文章が事務的というか物語を伝えるために抑えられているもの、もしくは、絵本くらい言葉を大事にしているものかどっちかがよくて。その間になるとふらふらしちゃうんですよね。『幼年期の終わり』はそれがすごく抑えられていて、言葉が一切残らずに物語だけ入ってくる感じがすごくおもしろくて。

あとは、高橋源一郎さんの『銀河鉄道の彼方に』(集英社文庫刊、2017年8月22日発売)の文庫化に際して巻末エッセイの依頼をいただいて読んだのですが、あれは大人の絵本だなと思いました。

くまのプーさん』も好きです。息子に聞かせるために作られたお話なので、息子の気が散らないように「むかしむかし、先週の金曜日〜」とか一行に一個くらいおもしろい言い方をしているんですよ。お話もあるんですが、言葉自体もおもしろいものになっているのが、すごく理想的だなあと思いました。言葉そのものに魅力があるとやっぱりどうしても惹かれます。

小さいころはお話より図鑑が好きだったので、お話を好きになるというよりはいろいろな要素の言葉を見ておもしろいなと思うことのほうが多かったです。想像力とか発想がはじけているような子供ではなかったんですけど、でもその分、現実の面白さみたいなものに興味津々でした。図鑑を見ていると、すごく気持ち悪い色をした動物とか、とんでもなく大きな土星とか、そういう新しい世界がどんどん出てくるんですよね。別世界を想像するというよりは、現実の新しい一面を追いかけていくのが好きでした。

――先ほどロックの話がでましたが、映画や音楽はどうですか?

音楽は10代になったらすごく好きになって、ほぼ音楽ばかり聴いていました。ブランキー・ジェット・シティとかナンバーガールとかが特に好きでした。

詩と同じで、当時は何がいいのかわからないけどとにかくかっこいい!と思っていました。なんでこんなに好きなのか、とか改めて考えたこともなかったかもしれないです。

しばらくして、過去の音楽を掘っていくうちにはっぴいえんどを聴くようになって、そのときに歌詞っておもしろいな、と思ったんですよね。もしかして私って日本語が好きなのかな?って。そのとき、今まで好きだった音楽を遡ったら、ああどれも歌詞がいいんだなあ、そこに惹かれていたんだなあ、と気づいたんです。

そのあたりから、日本語を書く仕事ができたら素敵だなと思い始めました。歌詞と絵本は私のなかですごく大きなきっかけを作ってくれたジャンルなので、作りたいとも強く思っているのですが、でも一方でとっても怖いジャンルだとも思っています。

――聖域のような感じなんですね。ほかに今後やってみたいことはありますか?

ずっと夢見ているのは、「街に詩がある状態」です。街中のポスターに詩が載っているとか、電子掲示板に詩が流れていくとか。詩って、読むぞって思って読むのもいいんですけど、不意打ちで出会うのもおもしろいんですよね。「なんだこれは?」って思いながら、でも読んでしまう、みたいな。そういうものが作れたらいいなと思っています。

サイン本では、心にしみるひと言を添えてくれる。贈る人によって違う言葉が書いてある。

サイン本では、心にしみるひと言を添えてくれる。贈る人によって違う言葉が書いてある。

(インタビュー・文:岡崎咲子)

詩人・小説家
最果タヒ(さいはて・たひ)

1986年生まれ。2006年現代詩手帖賞を受賞。2007年詩集『グッドモーニング』刊行、同作で中原中也賞受賞。2012年詩集『空が分裂する』、2014年詩集『死んでしまう系のぼくらに』刊行、後者で現代詩花椿賞受賞。2016年『夜空はいつでも最高密度の青色だ』刊行、2017年映画化され、話題となる。

小説家としても活躍、2015年『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』『星か獣になる季節』、2016年『渦森今日子は宇宙に期待しない。』『少女ABCDEFGHIJKLMN』、2017年『十代に共感する奴はみんな嘘つき』刊行。エッセイ集に2016年『きみの言い訳は最高の芸術』、共著『かけがえのないマグマ 大森靖子激白』。2017年8月25日(金)に『ことばの恐竜 最果タヒ対談集』(青土社)が発売される。

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