『夜廻り猫』漫画家・深谷かほるインタビュー「登場するのは私が心を理解できる人たちだけ」。Twitterから広がる涙の物語

2017.9.12 (火) 15:20

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深谷かほるさんと愛猫のマリさん。

深谷かほるさんと愛猫のマリさん。

「泣く子はいねが〜〜」と、夜になると見回りにでる猫の遠藤平蔵。実際に泣いている人はもちろん、心で泣いている人を見つけては、静かに話を聞いたり、励ましたり、一緒に泣いたり……。そんな風に人々(時に猫や犬)の寂しさや辛さに寄り添ってくれる猫を描いた漫画『夜廻り猫』は、ツイッターから始まった物語だ。

それがいつしか話題となり、単行本が出版され、さらに人気に。「第21回手塚治虫文化賞」短編賞に続き、「第5回ブクログ大賞」マンガ部門大賞も受賞。その著者は、テレビドラマ化でも話題の『カンナさーん!』(集英社)や根強い人気を誇る『エデンの東北』(竹書房)を手がけてきた深谷かほるさん。話を聞くべく、仕事場兼ご自宅へ伺った。

1枚の猫の絵から始まった物語

玄関から一歩入った瞬間から、もうそこは深谷さんの世界だった。壁にはリスやウサギ、猫などの絵が飾られ、階段の途中に置かれた椅子の座面にも、ほっぺたを膨らませたかわいらしいリスが描かれている。よく見れば『夜廻り猫』に登場している猫たちもいる。通されたダイニングテーブルの飲み物の前には自作のポップがあり、主人公の遠藤さんが「ご自由におめしあがりくだされ」と言ってくれている。そして、ふと足元を見れば、飼い猫のマリさんもいる。そんなたくさんの動物に見守られて、お話を聞くことになった。

──もともとは、ツイッターから始まったお話ですが、そのきっかけは息子さんからの要望だったそうですね。

はい、そうなんです。息子が入院している時期で、退屈なんじゃないかと思って「4コマ漫画でも書いたら気晴らしなる?」って聞いたら「なると思うよ」と言われて。聞いておきながらも、じつは私、4コマ漫画が下手で……どうしようかなと思っていたら、息子が「あの猫のお話が読みたい」と。それがそこの壁にある絵なんです。

右端に飾られているのが、きっかけとなった絵

右端に飾られているのが、きっかけとなった絵。

──この絵は個展か何かのために描かれたものですか?

いえいえ、まったくの趣味です。かわいくない顔の猫を描いてみたくなって描いてみたんですが、「うまくいかなかったな、失敗」と思って放り出していたんですね。息子はそれを気に入っていたようで。

で、たいして考えることもなく、手近にあったコピー用紙に定規も使わずに書いたのが始まりでした。

──4コマではなく、8コマにされたのはどうしてですか?

持っていたコピー用紙がB5サイズで、ちょうどおさまりが良かったのが8コマだったんです(笑)。8コマ漫画って最小単位のストーリーものなので、4コマ漫画が苦手な私にも描けました。

──逆に、8コマという制限が難しくなることもあるのでしょうか? どれももっと長く描けそうなお話だなと思うのですが。

あはは、そうですね。基本的にどのお話も6ページくらいの漫画になると思います。最初はそれぞれをショートコミックにして、30本たまったらどこかに持ち込みしようかな、なんて考えていました。

8コマが完成形だと思ったり、何か考えがあったりしてたわけじゃないんです。とりあえず、お話のネタに対しての大枠を描いておこうかな、というような感じのものがそのままになっちゃいました。

でも、携帯で読んでいただくには、8コマだけ、1枚だけですむっていうのがいいみたいですね。それはまあ後付けになるんですけど(笑)。

ただ、何年も前から、話の前後を省いて大事なところだけを短く書くっていうことがあってもいいんじゃないかとは思っていたんです。

──そう思っていたのは、長編を描かれている時にですか?

そうですね。そう思うことは何度もありました。でも、いちばん大変なのはやっぱりアイデアを出すことなので、難しいんです。

たとえば長編なら、1本の話分のアイデアを出して、あとは書くだけという時がいちばんホッとするんです。ネタが出たらあとは1カ月間くらいひたすら原稿を書こう、と。毎朝起きて頑張って描きさえすれば毎日の仕事が進んでいくから。勤勉に単調に積み重ねていく安心感とか気持ち良さみたいなものがあるんです。

でも、こういう短いものの場合はそれがすぐ終わっちゃうんで、そういう安心感はありません(笑)。明日はまたゼロからだ、と。実際のところは、なかなかネタが出なくて大変なことになる時もあります。

ツイッターという場から生まれた話も

──お話のネタに詰まることもあるんですね。

描きたい話はいろいろあるんですが、悲しいお話は描かないようにしています。というのも、ツイッターにアップしていると、ありがたいことにリプをたくさんいただくんですが「これを読んだから気分よく寝れるぞ」って書いてくださる方がたくさんいらっしゃって。だから、あまり悲しいお話や続きが心配になるようなお話は描かないようにしよう、と。それでも連続もののお話もあるので、その場合は必ず次の晩に描くようにしてきました。お待たせしないようにしたくて。

ぬいぐるみは深谷さんの手作りのものも。

ぬいぐるみは深谷さんの手作りのものも。

──なるほど。ツイッターならではのお話ですね。リプライはよく読まれているんですね。

はい。すべて読んでいます。反応をいただけるのはありがたいですし、励みになっていますし、そのおかげでまだ続けられているという感じです。大事な思い出を書いてくださる方もいますし、考えたことをきちんとした意見として140字にまとめて書いてくださる方もいるので、さーっと読むのは申し訳なくて、戻って読み直すこともあります。

──そういうなかから生まれたお話はありますか?

あります。えーっと、151話(第2巻に収録)がそうです。これは、ツイッターを読んでくださっていた方のお話なんです。お母さまは足が悪いのに見送ってくれようとするから、急いで自転車をこぐ、というリプをいただいたんです。で、私から描いていいですか?とお聞きしたら快諾してくださって。なので、こちらで前後のお話を想像でつけたして描きました。ご迷惑になっていないといいんですけど……。

自分が書いていて、楽しめる作品を

──そうだったんですね。その方は嬉しかったでしょうね。このお話もそうですが、『夜廻り猫』には優しい人がたくさん登場していて、なおかつ、その優しさが押し付けがましくないところがすごくいいなと思うんです。その加減が絶妙で。

ありがとうございます。でも、意識せずに自然に描いているだけです。受け止め方は人それぞれなようで、人情過多と思う人もいると思いますし、逆にどこがいいかわからないって言われることもありますよ。でもそういうことは気にせずに、自分が書いて楽しめればよし、としています。誰が読んでもおもしろいものを、なんて考え出したらすぐに描けなくなってしまいますから。

ダイニングテーブルに置かれた直筆のポップ。深谷さんの優しさがあふれている。

ダイニングテーブルに置かれた直筆のポップ。深谷さんの優しさがあふれている。

「簡単でいい、簡単でいい」ってなるべく自分に言い聞かせながら描いています。つい、自分でダメ出しをしてしまうタイプなんです。出てきたアイデアのほとんどに自分でつまんないってダメ出ししてしまうんです。でも、それも勘違いかもしれないから、なるべく簡単にって言い聞かせるようにしています。

──実際に起きた身の回りのできごとをネタにされることもありますか?

たとえば、片目でも生きていけるという意味では、重郎はうちのマリをモデルにしています。でも、マリは強気な性格なので、そこはまた別です。

猫をどこまで擬人化するかというのは難しいですが、自分が見聞きしたことは描いちゃいますね。

愛猫マリさん。16歳。カメラを向けるときちんと立ち止まってくれる。

愛猫マリさん。16歳。カメラを向けるときちんと立ち止まってくれる。

以前住んでいた家が、いろんな猫が通る場所だったんです。雨の日にトントンって窓を叩いて「開けて」ってやる猫がいたり。でもいつも夜の8時になるといなくなってて、外を見ると庭で子猫と待ち合わせしていたんですよ。不思議でしたね。その猫はある日痩せた黒猫を連れてきたこともありました。まるで「面倒を見てくれ」って言っているみたいな感じで。だから、そういう現実にあったラインまでの話は描いています。

基本的に嘘は書かないようにしているというか、分不相応なことというか、立派すぎることは書かないというか……。あ、でも立派すぎることを描いていることもあるかもしれませんけど。

──猫以外に、人間の場合は大学生からお年寄りまで幅広い人の気持ちを描いていますよね。

そうですね。でも、描けないタイプの人も少なくないんですよ。強気な人とか、自分の中に要素がないキャラクターは描けないです。共感できるかどうかとか、良し悪しとかではなく、単に理解できる人かどうかなんだと思うんです。理解できる、わかる人のことは描けているんだと思います。

──作品のきっかけとなった息子さんの反応はどうですか?

息子は結構全部褒めてくれるんです。っていっても、褒めないと私がいつまでも悩んでて、ご飯ができないからなんですけどね(笑)。


最後に母の顔をちらりと見せてくれた深谷さん。作中に登場するご飯やおつまみは実際にご自身が今まで作ってきたもので、『夜廻り猫』にまつわる食をあつめた書籍も2017年11月22日(水)に発売予定だそう。

レシピ本に登場する予定の器。深谷さん自ら絵付けをしている最中。

本に登場する予定の器。深谷さん自ら絵付けをしている最中。

ちなみに、今までに影響を受けた作品を聞くと、たくさんあって選べないといいながらもムーミンの世界が好きだと教えてくれた。食器棚にはムーミン柄のマグカップがいくつも並んでいる。ムーミンもまた、弱い人や悲しい人がいて、それを見守る人たちがいるお話だ。「悲しい人や弱い人って、そのままではよくないとは思うんです。ただ、それでも、そこにいられることのできる作品世界っていうのが好きなんです」と。

『夜廻り猫』にも、失恋をした女の子、親に対する感謝をうまく言葉にできない青年、職を失ってしまった男性と、さまざまな人が登場し、それを見守る猫や周囲の人のさりげない愛情が描かれている。深谷さんの作品には、優しさという一言では表現しきれない大きな肯定感がある。それに励まされ、安心できる人によって、これからも愛され続けていくのだろう。

(インタビュー・文:晴山香織、写真:MASA(PHOEBE))

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深谷かほる

漫画家。福島県出身。武蔵野美術大学卒業。漫画誌を中心に活躍中で、代表作『エデンの東北』(竹書房)や『ハガネの女』、『カンナさーん!』(共に集英社)などがある。絵本やエッセイなどの著作も多数あり。2015年10月、ツイッターにて『夜廻り猫』の連載を開始。ほぼ毎晩更新を続け、読者の共感を得て人気に。単行本1、2巻(講談社)は発売中。3巻が11月22日(水)に発売予定。

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