『いぬやしき』漫画家・奥浩哉インタビュー。「この世と物語がどこかで繋がっているんじゃないかという錯覚を起こさせたい」【アニメ・実写映画化記念】

2017.11.16 (木) 07:00

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奥浩哉先生の仕事場にて

奥浩哉先生の仕事場にて

「俺が悪役で…じじいがヒーローか…!」。

主人公・犬屋敷壱郎は、会社からも家族からも疎外される初老のサラリーマン。冴えない人生を送っていた彼だが、突如として機械の身体となり、人助けに目覚める。一方で、時を同じくして機械の身体になったイケメン高校生・獅子神皓は犬屋敷の正義の前に立ちはだかる――。

漫画1ページ目から前代未聞の試みを突きつけた『いぬやしき』は、『』『GANTZ』等の奥浩哉作品に親しんだファンならずとも読む者すべての度肝を抜いた。7月に衝撃の最終回を迎えてなお、アニメ化、実写映画化に沸く本作。改めて魅力と裏側に迫るべく、TSUTAYAの名物マンガ通書店員「仕掛け番長」こと栗俣力也氏が、奥浩哉先生に話を聞いた。

かっこよさの本質を追求したら、見た目のかっこよさは嘘くさくなる

TSUTAYA仕掛け番長 栗俣力也氏(以下、栗俣):『いぬやしき』は、先生の過去作品と比べても人間そのものや内面の描写がすごくリアルで、時にはページがめくれなくなってしまうくらい、すごく感情移入してしまいました。最後は僕、どんだけ泣いちゃうんだろうって……。『いぬやしき』は本当に、泣かせにくるんですよね。

「壱郎が何度も口にする『僕が生まれてきた理由』というセリフ、壱郎の号泣する表情は、読むたびに鳥肌がたちます」(栗俣)

「壱郎が何度も口にする『僕が生まれてきた理由』というセリフ、壱郎の号泣する表情は、読むたびに鳥肌がたちます」(栗俣)

奥浩哉先生(以下、奥):ヒーローがかっこいいっていう話だから、やっぱり、泣かせないとだめだろうって。かっこいい時って泣いちゃうんで、僕は。

『いぬやしき』では、僕なりのヒーローものを描いてみたかったんです。ヒーローっていうと、見た目もかっこよくって、ポーズを決めたりするケレン味みたいなのがあるのが普通ですよね。でも、僕がやるとしたら、そういうのはあまり意味がないなと思って。本当にかっこいいものは何か。それは、精神的な行為そのもの、英雄的な行為そのものであって、逆に見た目のかっこよさというものが嘘くさくなるんじゃないかと。それで、そういうものを排除して、わざとかっこ悪いおじいさんを主役にしたんですよね。そんな主人公が活躍するからこそ、ヒーローの英雄的行為がすごく引き立つんじゃないかなって。

栗俣:僕もはじめ、そこに衝撃を受けました。正直、最初の方はかっこ悪いんですよね。でも最後の読後感は「すっごくかっこいいヒーロー譚」になる。皓(ひろ)というキャラクターとの対比も印象的でした。

犬屋敷壱郎が表紙を飾る『いぬやしき』1巻

犬屋敷壱郎が表紙を飾る『いぬやしき』1巻(講談社 刊)

2巻は獅子神皓が表紙

2巻は獅子神皓が表紙

奥:おじいさんが主役でヒーローなら、対比として一番映えるのはイケメンの男子高校生だろうと。戦って燃える展開になるのは、やっぱり、女の子ではなくイケメン男子。本来ならこっちが主人公っぽい見た目をしている、なのに実は極悪の悪役という。ただ、薄っぺらいキャラクターにはしたくなかったので、自分の周りの人だけにはすごく思いやりがあるという一面も持たせて。実際人間って、わりと本当にそういうことはあると思うんですよ。それで、そういう人間味みたいなのを入れた悪役像を作ったんです。

栗俣:最初のうちは壱郎に感情移入して読んでいたんですが、最後のあるシーンで、初めてすごく、皓に感情移入しちゃったんです。その時にふと、もしかしたら壱郎よりも皓と同じような考えを持っている人も多いんじゃないかなと思いました。若い人ならばなおのこと。いま思い出しながら、ちょっと泣きそうになっています……。

奥:最初は嫌われ者だけど、エピソードが語られるごとに、ちょっとずつ皓も「思ったより憎めないやつだな」と思えるようにはしていきましたね。友達は多くないけれど、その友達のために……というのが彼のいいところ、という感じです。

奥浩哉先生

『いぬやしき』では“巨乳”を完全封印。世界観の臨場感にこだわった

栗俣:あの、気になっていることがひとつありまして。『いぬやしき』って、今までの先生の作品には必ずといってもいいくらい登場していた“巨乳キャラ”が出てこないですよね。

奥:そうですね。作品の質的に入れたくなかったんです。僕の中でこの漫画には、エッチな感じは入れたくないなって思って。主人公がおじいさんで、全体的にストイックな話なので。描きたい欲は全然あるんですけど、今回は完全封印しました。

栗俣:先生は、作品ごとの雰囲気をすごく大事にされていますよね。それを特に思ったのが、『GANTZ』と同時並行で連載されていた『め~てるの気持ち』。両者でタッチが全然違うなって思ったんですよ。

奥:そうですね。短編集でも作品ごとに絵柄とタッチを全部変えて描いていました。映画って、監督さんは作品ごとに作風を変えていくことが多いですよね。自分もそうしたいなと思って。連載でも毎回、作品の全体的な雰囲気にあわせて絵作りやエピソード作りをして臨んでいます。

栗俣:背景の作り方も今までとちょっと違いますね。

奥:全部3Dで作るのではなく、写真もトレスして使っています。よく出てくる部屋やメカは全部3Dで作って、それ以外は写真で。その写真を使った雰囲気が、僕はすごく気に入っているんです。手で描くと、どうしても架空のファンタジー要素が入ってきてしまう。生々しさが出ないんですよ。だからできるだけ写真を使って、実際にこの世界が、この日本のどこかにあるんじゃないかという臨場感、雰囲気を出したい。たぶん『いぬやしき』以降は、そこは新連載をやっても変わらないと思います。今、これが自分の一番気に入った作り方だなと感じています。

『01 ZERO ONE』から3DCGを使った手法が取り入れられ、『GANTZ』を経て『いぬやしき』ではさらに進化。

01 ZERO ONE』から3DCGを使った手法が取り入れられ、『GANTZ』を経て『いぬやしき』ではさらに進化。

栗俣:ストーリーもすごく現実感があります。トランプ米大統領が登場して、彼っぽいことを言うという(笑)。

奥:そうなんですよ。実際にある固有名詞やブランドなどをできるだけ出して、そういうところでも物語がこの世とどこかで繋がっているんじゃないかという錯覚を起こさせたいんです。結構無茶なことも言っているんですけど、そういうところにはこだわっていきたい。編集さんに許可をとってもらいつつ、その辺はやっています。

栗俣:この世との地続き感、わかります。物語の中にいる自分を想像して、自分だったらどうするだろうと自然と考えてしまう。そういうおもしろさが『いぬやしき』にはあります。

原作のDNAそのままのアニメ、高クオリティの実写映画。『いぬやしき』は本当に恵まれている

栗俣:今放送されているアニメ、1話を観た瞬間に「これだよ!」って興奮しました! アニメは『GANTZ:O』も好きなんですが、その高クオリティでアニメ『いぬやしき』も始まって。

奥:僕の理想のGANTZ像が『GANTZ:O』のアニメではできていましたね。あれはすっごく嬉しかった。本当に、漫画家をやっていてよかったって思いましたね。『いぬやしき』も毎週が楽しみです。

栗俣:コミックスはジャスト10巻で完結していますが、最初からラストは決めていたんですか?

奥:そうです。最初から最後まで決めて取りかかりました。アニメ化の話は1巻の終わりくらいに来たから、アニメの制作チームには「最後こうなります」って。伝えたら、みんなシーン……みたいな(笑)。

映画化とアニメ化の話は『GANTZ』より断然早かったです。各テレビ局、各映画会社から、それはもう、大量の企画書が送られてきて。おお、こんなこと初めてだなってビックリ。運がいいなって、恵まれていると思いましたね、『いぬやしき』は。本当に。

栗俣:アニメがめちゃくちゃいい感じなので、映画にもすごく期待しています。

奥:アニメは、僕が原作でこだわった「実際に出せるものは出していこう」という姿勢を汲んでくれて、戦いながら作ってくれています。

実写映画も楽しみでしょうがないです。佐藤信介監督は、『GANTZ』『アイアムアヒーロー』でのCGも全体のクオリティもすごく高いので。木梨憲武さんや佐藤健くんたちが演じてくれることで、さらにキャラクターが上乗せされて、面白みが足されていくと思います。

映画漬けの日々が、漫画人生を決定づけた

栗俣:そもそも、先生の作品の表現方法は映画的ですよね。絵でストーリーを見せていて、それが中学生の頃に『』を読んだ時、すごく特別に感じたんです。セリフなどの文字よりも絵から受ける情報量がすごく多いから、人によって受け取り方が変わる。それこそ映画を観たときのように。

奥:僕は『変』でデビューする前、映画を1日10本くらいレンタル屋で借りて観続けるという生活を送っていて、それが幸せでしょうがなかった。映画が大好きで大好きで、しょうがなかったんですね。その時に僕の中で、映画みたいな漫画を描きたいというのがいっぱい生まれてきて。そういうたまったものを、どんどん吐き出していったのがデビュー当時だったんです。そういう作風に自然となっちゃったという感じですね。

壁にはたくさんの映画のポスターが貼られている。

壁にはたくさんの映画のポスターが貼られている。

栗俣:漫画を描く上で、影響を受けた映画作品はあるんですか?

奥:好きな作品は、もう無限にあって。「この映画すごい!」っていう映画にはいくつも出会ってきたけれど……うーん、原体験に近いのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』と『ダイ・ハード』ですね。これによって、だいぶ僕の漫画がガラッと変わりましたね。僕の中で、作品の方向性を決定づけた作品です、この2本は。

僕の場合、映画を観ることがストレス解消になっているんです。良い映画を観るとすごく気分が良くなるので、探し回っています。今も。昨日も一昨日も、1本ずつ映画を観に行きました。

栗俣:注目の監督さんはいらっしゃいますか?

奥:好きな監督さんも、とにかくいすぎるんですけれど……『キングスマン』『キック・アス』のマシュー・ヴォーン。原作者の漫画家、マーク・ミラーとのコンビの悪ノリ感がすごく好きで。マシュー・ヴォーンが『いぬやしき』のハリウッド版を撮ってくれたらすごく嬉しい(笑)。

栗俣:それは観てみたいです(笑)。

さきほど、映画のように作品ごとに作風を変えているとおっしゃっていましたが、先生も映画監督のような意識を持っているんですか?

奥:そうですね。映画監督に近いですね、かなり。絵でキャラクターを動かすわけだから、監督兼役者という感覚かな。漫画の作り方も、写真をロケ地で撮ってきて、それをCGで加工して使っていたりするし、やっていることは実写映画とほとんど変わらない。

栗俣:映画監督になりたいと思ったことはありますか?

奥:僕は子供の頃から頭の中でアイデアがずっと溜まっている状態で、それをちょっとずつ吐き出しているんです。その中でひとつ、漫画では100%伝わらないっていうのがあって。二十歳くらいの頃に思いついたアイデアなんですけど、それだけは一本の映画にしたいな、とは思っています。漫画って、グロテスク表現、エロ表現とかは、わりと規制がゆるい面があるんですが、足りないところは、絵が動くっていうところ。絵が動いてないと伝わらないっていうのが、どうしてもあって。

とにかく、アイデアが生れたからには相応しい形で、形にしないと気が済まない体質なんですよ(笑)。まあ、夢ではありますけどね。

奥浩哉先生による直筆POP

奥浩哉先生による直筆POP

■作品詳細

漫画『いぬやしき』
奥浩哉 著、講談社 刊

この作品を購入する

アニメ『いぬやしき』
フジテレビ“ノイタミナ”で毎週木曜24:55~放送中(ほか各局でも放送)

公式サイト

この作品のDVD・Blu-rayを購入/レンタルする
※レンタル開始2017年12月27日(水)、販売開始2018年1月24日(水)

奥浩哉(おく・ひろや)

福岡県出身。1992年より『変 ~鈴木くんと佐藤くん~』を週刊ヤングジャンプにて連載スタート。1996年にはTVドラマ化されるほどのヒットを記録。2000年より同誌にてSFアクション『GANTZ』を連載。マンガの背景にコンピューターを使った制作(CG)を取り入れたりするなど、緻密な作画とスリルある壮大な展開で好評を博し、アニメ実写映画化など様々なメディアミックスがなされた。2014年から2017年まで『いぬやしき』(イブニング・講談社)を連載。アニメに続き、2018年に実写映画化を控える。2017年12月より新連載『GIGANT』(ビッグコミックスペリオール・小学館)がスタート。

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仕掛け番長

仕掛け番長

TSUTAYA三軒茶屋店で働く本屋さん。文庫プロデュースやコミックライブの企画、司会などいい作品をあらゆる方法でとことんオススメする事が生きがいです!
・100万人が選ぶWEBマンガ実行委員会委員長
・著書『マンガ担当書店員が全力で薦める本当にすごいマンガはこれだ!』

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