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映画『空飛ぶタイヤ』原作者・池井戸潤×監督・本木克英インタビュー。池井戸「美しい短編小説のような映画」

2018.5.28 (月) 07:00

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(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

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2018年6月15日(金)に公開される映画『空飛ぶタイヤ』。原作は累計170万部を突破し、第136回直木賞候補にもなった池井戸潤同名小説だ。

ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故をめぐり、トレーラーの持ち主である運送会社の社長・赤松徳郎(長瀬智也)と、トレーラーの製造元である大手企業・ホープ自動車の沢田悠太(ディーン・フジオカ)、そしてグループ会社であるホープ銀行の井崎一亮(高橋一生)が、それぞれの立場で真実を追求していく。彼らが突き止めた先にあったのは、大企業の“リコール隠し”だった。男たちは巨大企業に対し、どう闘うのか――。

池井戸作品ならではの白熱したドラマを映像化したのは『超高速!参勤交代』シリーズの本木克英監督。共に1963年生まれの“バブル入社組”だという二人に、この作品の創作・撮影秘話を聞いた。

登場人物を、実際に生きている人としてリスペクトして書きました(池井戸)

左から、原作者・池井戸潤さん、本木克英監督

左から、原作者・池井戸潤さん、本木克英監督

本木克英(以下、本木):私にも社会人経験がありますが、池井戸さんの原作には、一般企業で働く人たちの人間像が、非常に深く書き込まれていますね。映画ではいろいろなことを削ぎ落としながら、エキスだけを抽出した感じです。

池井戸潤(以下、池井戸):骨格のいいところだけを取り出して、本当にコンパクトにまとめていただいたなと思います。それまでの小説は、基本的にプロットに沿って書いていたんです。『空飛ぶタイヤ』もプロットがないわけではないのですが、ちょっと小説観を変えたんですね。登場人物ひとりひとりを実際に生きている人たちとして、リスペクトして書こうと。それをひとつのテーマにしていたんです。

本木:映画にも同じぐらい出てきますが、70人近くの登場人物が描かれていますよね。

池井戸:そうですね。70人それぞれの人生が、小説の始まりから終わりまで、輪切りにされているようなイメージで書きました。小説はプロットに沿って書いていくと、主人公目線ではなんとなくうまくいくのですが、敵役だとか、少しだけ出てきて手がかりを残していく人、そういう人の視点から見ると無理があったりするんですよ。物語を運ぶために、その人物が意図的な動きをしたり、台詞を言うことになって、不自然になってしまう。小説の最も重大なミスは「こんなヤツいるわけないよ」と思われてしまうこと。それを絶対になくそうと思いました。

――書き方については、これまでと違うところはありましたか?

池井戸:この小説だけ、写真付きの登場人物一覧表を作ったんです。最初に登場人物を書いて、経済誌に載っている人たちの顔写真から、イメージに合った人のものを切り抜いて。

本木:それ、見たかったですね(笑)。

池井戸:ただ、これには1点ミスがあって、写真だけ切り抜いたので、誰の写真かわからないんです。後から、悪役の常務用に使った写真が、大企業の社長さんだとわかったこともありました(笑)。

美しい短編小説のような映画にしていただきました(池井戸)

――小説を映画にされるうえで、どんなことを意識されましたか?

本木:70人近い人物の中から誰を選んで、その人の背景をどこまで描けるか。そこを考えながら脚本を作っていきました。短時間で端的に描ける台詞や行動にしなければいけないので、俳優さんの力量も問われるんです。曖昧な人間像は出せないところが、難しくもあり、面白いところでもありました。

――原作と違うところも、いくつかありましたね。

本木:そうなんです、沢田(ディーン・フジオカ)を独身にしてみたり。小説を読ませていただいて、こういう夫婦関係で、こういう性格なら、沢田はいずれ離婚してもおかしくないなと(笑)。あとは赤松さんのお子さんのPTAの話もいいところなのですが、映画の時間軸の中では、少し本筋から逸れてしまうので外させていただきました。

(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

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池井戸:変な例えかもしれませんが、美しい短編小説のようにまとめていただいたなと思っています。短編って難しいんです。破綻なく、上げ下げして見せて、読者を納得させるのが。その完成度の高さを感じました。外し方ですね。骨格がうまく残っているんです。

本木:そうですか!

池井戸:PTAや沢田の妻の部分は、小説でも省略できることがわかっていて、実は省略することも検討した部分なんです。そこを小説は、読み味やボリューム感を考えて追加しましたが、映画はカットしたということですよね。小説の書き手と同じ目線で見てくれているなと思いました。

本木:そう言っていただけて、光栄です。今回、プロデューサー陣と話していたのは、かつて野村芳太郎監督が作っていたような社会派エンターテイメントなんですね(『砂の器』(74)『疑惑』(82)といった松本清張作品など)。最近、こういう映画がないし、こういうタッチの映画を今、作ったらどういうものになるんだろうと。映画でしかできないことですから。これまで僕はコメディが多かったのですが、社会派の作品はやってみたかったので、このタイミングでできてよかったですね。

池井戸作品の映像化に良作が多い理由

――そもそも『空飛ぶタイヤ』の映画化が、今になったのはどんな経緯なんですか?

池井戸:意図的に今にしたわけではないんです。映画化のお話も色々頂きますが、こういうのって本当に縁だと思います。早くお話をいただいた方にOKを出すということでもないですし。その制作チームが、これまでどんな作品を作ってきたか、どういう風に今回、作りたいと思っているのか、そういうコミュニケーションをとりながら、この方ならきっといいものを作ってくださるなと思える方にお願いしています。だから、これまでの映像化作品もうまくいってきたのかなと思っています。

――映画のキャストはいかがでしたか?

池井戸:映像化について言えば、原作は単なる原作に過ぎません。だから、「最優秀原作賞」ってないでしょう(笑)。キャストについては、絶対に原作者が口出ししてはいけないところだと思っています。監督が画(え)をイメージされているわけで、そこへ作者が「この役は誰がいい」なんて言うことは、監督のクリエイティブな領域に土足で踏み込むことになりますから。

――では本木監督に、メイン・キャストの3人について伺えますか?

ディーン・フジオカと長瀬智也

ディーン・フジオカ(左)と長瀬智也(右)

高橋一生(写真最左)

高橋一生(写真最左)

本木:赤松役の長瀬さんは、70人余りの登場人物の中で、主軸を張って最後まで引っ張れる人ということでお願いしました。苦悩する姿が非常に美しいんですよ。本人にも、高倉健さん亡き後、彼のような俳優になってほしいという話をしました。沢田役のディーンさんは、ご自身はすごくいい方ですが、沢田はどこか危うい性格の人物。大企業にいて、一般人を上から目線で見る瞬間もあり、女性関係もちょっとどうかと(笑)。そういう感じをうまく出してくれました。井崎役の高橋一生さんは、どんな役柄も対応できてしまう俳優さん。なんとかスケジュールがとれて、非常に短い時間でしたが、時間のない中で仕上げてもらいました。キャスティング、うまくいったなと思っています。

大人が楽しめる映画がなくなっている今、この映画を作れてよかった(本木)

――ご自身の小説が映像化されることの多い池井戸先生ですが、普段はどんな映画をご覧になるのですか?

池井戸:まずね、暗い映画はダメなんです(笑)。軽く観られるものが好きですね。『アイアンマン』とか『インディ・ジョーンズ』とか。最近は『ダンケルク』を観ました。これは時間軸が複雑に行き来する映画なので、頭の中で再構成しながら観ていました(笑)。

――いま、エンターテイメント映画のタイトルが出ましたが、『空飛ぶタイヤ』などの池井戸作品は、現実離れした娯楽作とはまた違った、サラリーマン世代の人たちがリアルに励まされるエンターテイメントだと思うんです。エンターテイメントの世界に身を置かれているお二人にとって、今の日本のエンターテイメントに求められていることや、ご自身が大切にされていることは?

池井戸:僕が小説を書く基準は3つあって、まず新しいか、次にオリジナリティが出せて僕が書く意味があるか、そして豊穣な物語になるか。その3つを踏まえたうえで、自分が面白いと思えるものを書きたいと思っています。エンターテイメントのありようとして、僕がよく受ける批判は、いつも同じ展開じゃないかということ。でも、それでいいんですよ。それが大事なんです。変に構造をひねって、奇をてらったものは絶対にうまくいかないですから。追い詰められた者が逆転して、観た人がスカッとするストーリーであってほしいし、そういう小説を書き続けたい。それで皆さんに面白いと思っていただける間は、作家でいようかなと思います。

本木:今、池井戸さんの話で共感したのが、奇をてらったことをしないということですね。時制を変えて混乱させたりせず(笑)、この映画は何を言いたかったのか、はっきり伝わる映画を作っていきたいなと思っています。今の映画界は大きく分けると、高校生向けのラブストーリーとシニア向けの作品に2極化している傾向があって、その中間のサラリーマン世代の大人が観て楽しめる映画が少ないんです。そういう時期に『空飛ぶタイヤ』を映画化できたのは喜ばしいことですね。あと、他に大事にしているのは、今なぜこの映画を作るかということ。今の人たちにちゃんと伝わる映画を作りたいと思います。

池井戸:それにしても、監督と同じ歳とは知りませんでしたね(笑)。

本木:ええ、さっき知ったのですが(笑)。池井戸さんは慶応で、僕は早稲田で、なんか不思議なご縁ですね。僕もバブル入社組で、同じ時期に社会人になっているはずだし。どの小説も、ほぼ全部読んできましたからね。『オレたち花のバブル組』なんて、わかるなぁと思いましたし、『民王』も共感しました。

――今後、映画化したい池井戸作品はあるんですか?

本木:毎回、話に上がるんですよ。でも、いつもドラマ化の方が早いんです(笑)。

池井戸:では、次の作品で……なんて(笑)。

本木:そうか……ここで言っておこうかな(笑)。

池井戸さんと本木監督

(インタビュー・文:多賀谷浩子)

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■公開情報

空飛ぶタイヤ
6月15日(金)全国公開

原作:池井戸潤『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫/実業之日本社文庫)
監督:本木克英
出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生ほか
(C)2018「空飛ぶタイヤ」製作委員会

公式サイト

池井戸潤(いけいど・じゅん)

1963年生まれ、岐阜県出身。慶應義塾大学卒業。98年、江戸川乱歩賞を受賞した『果つる底なき』で作家デビュー。その後、『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞。ドラマが大ヒットし、社会現象にもなった半沢直樹シリーズをはじめ、花咲舞シリーズ、『ルーズヴェルト・ゲーム』『七つの会議』『ようこそ、わが家へ』『民王』『陸王』『アキラとあきら』など映像化作品多数。

本木克英(もとき・かつひで)

1963年生まれ、富山県出身。早稲田大学卒業後、松竹に助監督入社。森崎東、木下恵介、勅使河原宏など錚々たる監督に師事し、98年『てなもんや商社』で監督デビュー。その後、『釣りバカ日誌』シリーズ11~13(00~02)をはじめ多数の松竹作品を手掛け、2014年の『超高速!参勤交代』で第57回ブルーリボン賞作品賞、第38回日本アカデミー賞優秀監督賞受賞。16年には続編の『超高速!参勤交代:リターンズ』も公開された。


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