料理家・栗原はるみさんの小さなことを楽しむ暮らし/代官山 蔦屋書店3rd Anniversary「WE RESPECT...」

2014.12.19 (金) 12:00

シェア

代官山 蔦屋書店の3周年を記念し、12月6日、栗原さんにライフスタイルについて聞いたトークイベントが開催された。幅広い年齢層のファンが集まり、あっという間に完売御礼。会場では、参加者全員に手作りのチーズケーキが振る舞われた。「材料を混ぜて焼くだけ。絶対失敗しないレシピなんです」と栗原さん。

インタビュアーは、栗原さんのライフスタイルを紹介するパーソナルマガジン『haru_mi』編集長の鈴木伸子さんと、女性誌元編集長で代官山蔦屋書店料理コンシェルジュの勝屋なつみさん。栗原さんの歩んできた道から、毎日を生き生きと楽しむ暮らしの秘密に迫った。

どうしたら喜んでもらえるか、考えている時が一番楽しい

料理家として、20年以上もの間、第一線を走り続けている栗原はるみさん。著書の発行部数は、1992年に発売された『ごちそうさまが、ききたくて。』(文化出版局)がミリオンセラーになったのを筆頭に、累計2400万部を突破。そんなカリスマ料理家の素顔は、いつも弾けるような笑顔で、まわりにいる人を喜ばせることが大好きで、どんなことでも楽しみに変えてしまう、その小さな体からは信じられないほどのパワーの持ち主だ。

専業主婦がプロの料理家になるまで

鈴木 そもそものきっかけはシフォンケーキですよね?

「そうなんです。人生を変えるくらい、本当に作りたいと思ったのが、専業主婦だった当時、30歳頃だったでしょうか、ドイツ人の宣教師の奥さんに教わったシフォンケーキ。しかも、まだ日本にキャラウェイシードなど手に入らない時代に、スパイスシフォンケーキを習って、これだけは自分のものにしたいと夢中になりました」

鈴木 そのシフォンケーキが評判になって、フジテレビの料理番組『夕食ばんざい』(1985~2000年)の仕事に結びつきました。

「うちは主人(元キャスターで、株式会社ゆとりの空間会長の栗原玲児さん)のお客様がいらっしゃることが多く、栗原さんの奥さんは料理が好きそうという話から番組に出演されるタレントさんの裏方として料理を作らないかという仕事をいただいたんです。それまでアルバイトもしたことがない専業主婦の私でしたから驚きましたけれど、主人に『君は世の中を見たほうがいい』と勧められたこともあって、わけも分からず飛び込みました」

鈴木 最初は裏方、影の存在だったのですか?

「とにかく私はタレントさんの料理を再現するのが役目だったから、皆さんのお宅やテレビ局に行って取材をして作るという繰り返しでした。仕事なんてしたこともなかったのに突然取材なんて不思議でしょう?番組のスタッフは若い人ばかり。収録も長丁場で、少しでも喜んでもらおうといつもシフォンケーキを焼いて持って行っていました。でも、その時、どんなに一生懸命やっても裏方である以上、『料理担当の栗原です』と名乗ることはなかった。料理家になりたいなんてこれっぽっちも思っていなかったけれど、ほのかに残念な気持ちがあったんですね」

勝屋 そんな経験を経て、料理家になられたのですね。

「人の縁ってすごいなと思います。1982年に集英社の『LEE』が創刊され、その2年ほど前に娘のひな祭りの料理を取材してもらった編集者から突然電話で『あなたに16頁お願いしたい』と言われて。びっくりしたけれどすぐお受けして。のんきな私ですから、カメラマンに『どこまでお皿に盛りつけたらいいですか?』なんて質問して笑われていました」

ミリオンセラーはこうして生まれた

勝屋 1992年に発売されたミリオンセラー書籍『ごちそうさまが、ききたくて。』の裏話も教えていただけますか?

「このタイトル、最初は大反対されたんです。日本では、こういう料理エッセー自体初めてだったからだと思います。でも、料理家という仕事を続けているうちにレシピ屋みたいな自分に疑問を感じ、楽しくなくなっていました。自分の料理を自分の器で自分の布を使って表現したいと考えて書いたのがこの本。うまくいかなかったらやめようと覚悟していました」

勝屋 著書が20数年で2400万部というのは出版人の夢。もっとすごいのは、『すてきレシピ』『haru_mi』というたった一人のプライベートマガジンを19年間も続けていることです。

「最初は、アメリカで人気のライフコーディネーター、マーサ・スチュワートの日本版を作りたいという話でした。自分の暮らしを普通に表現できるなんてすごいと思いました。最初は一人で始めた仕事だったけれど、本当にいい仲間を育てないと自分の先がないと気づき、気心の知れたフリーの編集者、カメラマン、スタイリストと組んでチームを作ったのもこの頃。そのチームは今も誰一人変わっていなくて、独身だったカメラマンは今、子どもが成人しています。好きになった仲間は絶対変えたくないというのが私なんですね」

一つひとつを少しだけていねいに

勝屋 19年間、アイデアを出し続けられるのが素晴らしいですよね。

鈴木 本当にそうです。たとえば今の季節の大根の話をしていただけますか?

「この前、レシピの数を調べたら、かぼちゃだけでも78あったのよ。だから大根もすごいわけで、最新の『haru_mi』2015月1月号にも新しいレシピを載せたのだけれど、実はこれは人間ドックのPET検査の安静タイムの時に考えたものなんです。横になって静かにしなくちゃいけないのに頭の中は大根でいっぱい(笑)。その時、大根を大きく半分に切って鶏肉と煮込んだらどうだろうと思いつきました」

鈴木 大根と鶏肉のスープ煮はどこにでもある料理ですが、大根を二分の一に切って使うことでしっかりと鶏肉のスープを吸い込むことができる。似たものであっても、常に進化していますよね。

「先日、料理家のコウケンテツくんが雑誌の企画でうちに来た時に、私がポテトサラダを出したら、今まで食べた中で一番おいしいと言ってくれて。主婦の皆さんは、ポテトサラダってお助けメニューで簡単な料理だと思っていませんか?でも、玉ねぎを水にさらす時間をきちんと決めたり、きゅうりをいつもより少し厚めに切って塩を少な目にしたりするだけで、旨みも香りも残ってパリッとする。ひとつずつを少しだけていねいにやると、今より絶対おいしくなる。私もそうやって進化してきたのだと思います」

イベント中、著書の累計2000万部突破を記念して扶桑社が制作した、はるみヒストリーの貴重なビデオも特別に上映。優しかった父、料理上手の母の写真が映し出されると、「本当に大好きで、いつも泣いちゃう」と涙をぬぐう栗原さんに会場もウルウル。

鈴木 まわりの人を喜ばせるのが大好きですね。

「どうやったら喜んでもらえるだろうって、考えている時が一番楽しいの。最初は私の料理なんて誰がおいしいと思うだろうって不安でしたが、『あなたが作った人参とツナのサラダを人参嫌いの夫が食べました』などとだんだん言われるようになって25年が経ちました。つい今朝も、子どもが巣立ってご主人と二人暮らしになった友達から、『あなたの本を読んでから、もう1回ていねいに料理を作ってみようと思った』と電話がかかってきました。こんなにうれしいことはないですよね。そんな気持ちを忘れてはいけないと思っています」

鈴木 そんなひたむきなところが“栗原はるみ”の魅力ですね。

「私はいつも今が旬だと思っているんです。どんな小さなことでも楽しんで、自分を楽しくするエネルギーを持ってほしい。だって人生は一回しかない。楽しいことを続けていれば、いつか自分の幸せの形が見つかると信じて生きています。だから、皆さんにも、いっぱい楽しいことを見つけて、素敵な人生を過ごしてほしいと願っています」

今の夢は、世界中の人に日本食を伝えることで、60歳を過ぎてから英語にチャレンジしているという栗原さん。レシピや暮らしのアイデアはもちろん、どんな苦労も肩肘はらずに笑顔で跳ね返して、楽しみに変えてしまう懐の深さがあるからこそ、私たちは彼女に憧れてやまないのだろう。

トークが終わり、拍手の中、栗原さんは一人ひとりに笑顔で挨拶をしながら会場を後にした。

(文:野間麻衣子)


◆コラム「栗原さんが大切にしている3つの作品」

トークショーでは、毎日を大切に、楽しむことや、暮らしのアイデアを教えてくれた栗原さん。実は本や映画も、大事な元気の源なのだとか。栗原さんの仕事、日常にパワーを与えてくれる作品を特別に聞いてみた。

洋書『Pure Style』(Jane Cumberbatch、Henry Bourne 著)

栗原さんの原点がこの洋書。シンプルでナチュラルなインタリア、デザインが詰まった本は専業主婦の頃から愛読し、今もリビングに置いてある。「自分の原点にいつも立たせてくれる本。皆さんも自分なりの一冊を見つけてみて」

顔も知らない両親に出会うため、施設を抜け出し大都会に出てきた少年が自らの音楽的才能を活かし、音楽の力で両親を見つける人間ドラマ。「切ないけれど、とても心温まる映画です」

英語ができず苦悩する主婦が一念発起して英会話学校に通い、コンプレックスを克服し生きがいを見いだしていく女性賛歌。「英語という小さなきっかけを通して人生の楽しさを見つけていくヒロインの物語で、まさに私自身なんです」

栗原はるみ(くりはら はるみ)

料理家。家庭料理を中心としたアイデアあふれるレシピが幅広い層から支持される。著書はミリオンセラーの『ごちそうさまが、ききたくて。』(文化出版局)をはじめ、累計発行部数2400万部超。パーソナルマガジン『haru_mi』(扶桑社)、レギュラー番組『Your Japanese Kitchen』(NHK WORLD TV)、料理番組『きょうの料理』(NHK Eテレ)などで活躍中。生活雑貨ショップやレストランのトータルプロデュースも手がける。

公式HP


関連記事

関連タグ

この記事をシェアしよう。

この記事が気に入ったら、
いいね!しよう。

You might Like

レコメンド

Read More

T-SITE LIFESTYLE TOPへ戻る

Access Ranking

ランキングをもっと見る

日本最大級ビアガーデン「ヒビヤガーデン2018」日比谷公園で5月18日から開催

  1. No.1 日本最大級ビアガーデン「ヒビヤガーデン2018」日比谷公園で5月18日から開催
  2. No.2 漫画『スラムダンク』新装再編版が6月1日より刊行開始! 井上雄彦がカバーイラスト描き下ろし
  3. No.3 ミニチュアアーティスト田中智の個展、銀座で4月27日から。指先サイズの世界にときめく
  4. No.4 花火×音楽のエンタメショー「STAR ISLAND 2018」、お台場で5月26日開催
  5. No.5 東京駅の新土産「PRESS BUTTER SAND(プレスバターサンド)」。行列必至の工房をレポート

ランキングをもっと見る

  • TSUTAYAマンガ通スタッフおすすめ

Event

イベントをもっと見る

イベントをもっと見る

Store

SNS/RSS

Facebook

Instagram

tsite_lifestyle
Instagram


T-SITE LIFESTYLE(RSS)