現代の茶人「日本茶アーティスト」が考える、今の“煎茶道”とは

2015.5.30 (土) 18:21

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日本で昔から愛されてきた飲み物といえば緑茶。しかし、コーヒーブームが沸き起こり、コンビニにはペットボトルに入ったお茶が数多く販売されている昨今、自宅で緑茶を淹れるという機会は減っているように思う。そんな中、今までの煎茶の概念にとらわれず、2015年の“いま”を生きる人たちに向けての煎茶のあり方を提示しつづけているのが、日本茶アーティストの茂木雅世だ。彼女が考える現代の煎茶道とは? 新茶の季節に、彼女に話を聞いた。

茶人はクリエイティブ

東京を中心に、「JAPANESE TEA PARTY」と銘打ったイベントを精力的に行っている茂木。一方、新茶の季節には、地方の茶産地にも足を運ぶことも忘れない。

「お茶は東京以外で作られることが多いので、実際に茶畑に行って、葉に触れてみた上でイメージをブラッシュアップしていくんです。私は東京で活動している人を対象にすることが多いので、茶産地での体験をいかに切り取って、東京の生活の中に取り入れてもらうかが大事だと思っています」

『おいしいお茶のいれかたのうた』というCDをリリースしたり、急須をモチーフとしたアパレルブランドを展開したりと、茂木のその活動の幅は広い。その根底にあるのは、「茶人はクリエイティブである」というポリシーだ。

「何をどう茶室に取り入れるとか、お茶の時間に何を取り入れるとか、茶人は昔から自分流でアレンジしていく、クリエイティブな人達なんです。例えば、床の間にお花を飾るところに奥さんを座らせる茶人もいたり。他にもたくさんの茶人がおもしろいことをたくさんやっているんですよね。それを知ると、お茶の世界でもっと楽しくてオリジナリティ溢れるものができるんじゃないかと思うんです。

事務所にて

「憂鬱な彼女の茶室」

イベントの様子

例えば、昨秋のお茶のイベントで、20個くらい白いケーキの箱を用意して、ゲストはお茶を飲む前に、その箱の中身をすべて確認しなければいけないというルールを作ったんです。箱の中はほぼ空き箱なんですが、ひとつの箱にだけ、きれいな花を一輪入れておいたんですね。花が飾られているのも、もちろんきれいなのですが、いろいろ探した上でやっと見つけた花の美しさってちょっと違う。そういうお花の美しさに気づいた上でお茶をいただくという空間を作りたいなと思ったんです。それは、私流のおもてなしなんです。すべてが整っていて、緊張しながら飲むのだけがおもてなしではない。おもてなしもいろいろな方法がある。そういったところを私は掘り下げて、現代の人にあった、ワクワクするようなお茶の空間を作って行きたいとずっと思っています」


放送作家から日本茶アーティストへ。きっかけはお茶で泣いたこと

茂木愛用、常滑うまれの急須

茂木のトレードマーク

茂木のトレードマーク

今は日本茶アーティストとして活躍する彼女だが、以前はラジオの放送作家だったとか。

「小さい頃からラジオ好きで、ラジオばっかり聴いていたんですよ。自分の書いたものが伝わっている感覚がいいなと思っていたんです。大学卒業後、ラジオの企画の仕事についたのですが、数年ほど で体調を崩してしまったこともあり、仕事から離れることになりました。それまで立ち止まることってあまりなかったんですけど、よくも悪くもその期間にいろいろなことを考えたんですね。私の家は母と私の二人暮らしで、母はお花の先生もやっていたので、お茶を淹れるということに厳しくて。あまり褒められることはなかったんですけど、お茶を褒められるとすごくうれしくて、褒めてもらえるようにおいしいお茶を淹れようというのが常にあったんです。そういったことをふと思い出したんです。

母が幼少期に淹れてくれていたお茶が山口県のかりがね茶というお茶なんですけど、休職していたある日、かりがね茶を普段通りに急須で淹れたらおいしすぎて、めっちゃ泣いた日があったんです。私はすごくいい映画や音楽に出会ったとき、感動して泣くことがあるんですけど、それと同じ感覚だったんです。その時に、そういえば小さい頃からお茶を淹れることが大好きで、家族の会話にもお茶があって、すべての瞬間にお茶が一緒にいてくれたなと気づいて。今後の自分の人生を考えたときにお茶で仕事がしたいなと思ったんです。そうなったら、気になってお茶屋さんや日本茶カフェにリサーチしに行くようになったのですが、自分にフィットする感覚でお茶が売っていなくて。ないってことは私が発信してみたらおもしろいかもと思ったんです。

けれど、お茶に助けられたという気持ちや、お茶で仕事をするという決意は、なかなか家族や友人に共感してもらえなかった。めちゃくちゃ考えた挙げ句出した答えなのに誰にも認めてもらえないのが悔しくて、認めてもらうまでやってやる~!と思ったんです。それくらい価値のあるものだと思ったんですよ。私があれだけ感動したんだから絶対におもしろいお茶の世界が作れるという自信があったんです」

お茶の魅力は“ゆらぐこと”

ハングリー精神を持って、新たな煎茶の道を開拓し続ける茂木が感じる、日本茶の魅力とは何だろうか。

「私の場合、茶葉の量やお湯の温度など、気分でお茶の味が変わることもしばしば。でも、それでいいかなとも思うんです。日本人は完璧を求めがちですよね。かつて、『絶対に失敗しないお茶の入れ方を教えてください』という依頼があったのですが、『急須でいれるお茶はいつも一定じゃなくて、時には失敗するのも楽しいんじゃないかな?』と個人的に は思うんです。ペットボトルのお茶はもちろん一定ですが、そうではないゆらぎ――おいしい/おいしくないとか、そういうライブ感、生っぽさがいいと思うんです。煎茶は装飾は少ないですが、内側のディティールが細かくて広がっている。そこが魅力的なんだと思います」


2015年の“いま”を生きている人たちにお茶を伝えたい

日本茶の新たな価値観を提示し続ける茂木。彼女の今後のヴィジョンとは?

「最終的には、自分の人生をいかに充実させていくか。自分の人生で感じたことがどういう形で発信していくかということに繋がってくるから、そこを常に整えて行きたいと思っています。私は日本茶でサプライズをしたいなという感覚があるので、いい意味で驚かせたり、エンターテイメントであったりする空間を作りたい。急須で入れるお茶っていいなと思ってもらえるような、今までお茶に携わった人たちが気づかなかった2015年の“いま”に生きている私たちに響く方法と表現を自分で見つけられたらいいなと思います。

あとはEテレに出たいですね(笑)。お茶って食、道徳、教育、おもてなしなどいろいろな切り口があるので、そういうことを子どもたちに伝えていきたいと思っています」


日本茶アーティストという職業は、おそらく彼女以外はいないだろう。その唯一無二の肩書きを背負えるのも、彼女が日本茶を愛し、日本茶に救われたという、日本茶の底力を体感しているからだ。2015年6月12日(金)にはTOKYO CULTURE CULTUREで「利き茶ナイト vol5」を開催予定。このイベントにも、彼女はサプライズを用意しているとか。ぜひイベントに足を運んで、“いま”だから味わえる日本茶の新たな価値観に出会いたい。

(文:岡崎咲子)

◆あわせて読みたい

>緑茶をもっとおいしく味わえる意外な方法を、日本茶アーティスト・茂木雅世が伝授!

茂木雅世

ソニーミュージックアーティスツ所属の日本茶アーティスト。茶育指導士であり、煎茶道東阿部流師範。2008年頃から若い人に急須で淹れるお煎茶の楽しさに気づいてもらいたいという想いから、イベントなどでお茶を淹れ続けている。書籍『やまとなでしこお茶はじめ』を監修したほか、「お茶と音楽」に焦点をあてたイベントや発信、FMヨコハマにてレギュラー番組「NIPPONCHA・茶・CHA」でパーソナリティー、自由大学「日本茶コトはじめ」教授を務めるなどしている。『JAPANESE TEA PARTY』『急須girl』プロデューサー。

公式サイト


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