ずっと飾っておきたい。美しい「ものがたり」のある、映画のお菓子たち

2015.8.3 (月) 13:09

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思わず見とれてしまう、存在感――。

これらは、実は砂糖のお菓子。ハーブや花が標本されているかのように、透明な砂糖の中に閉じ込められている。一見するとお菓子とは思えないほど美しいその標本たちは、食べるのがもったいなくてそのまま飾っておきたくなる。もはやお菓子というよりもアートだ。

甘いお菓子の背景にはいつも“ものがたり”がある

cineca『herbarium 甘い標本』

cineca『herbarium 甘い標本』

『herbarium 甘い標本』という名の、これほどにまで神秘的で見ているだけでも楽しめるお菓子は、とある映画のワンシーンからインスピレーションを受けて作られている。その映画とは、『シルビアのいる街で』。スペインとフランスの合作映画で、セリフはほとんどない。青年が過去に思いを寄せていた女性に似た人物を見つけ、街中を追いかけるというなかなか変わった内容の作品だ。

「映像がとてもキレイな作品なんです。この映画のなかのワンシーンに、主人公の青年がガラス越しに過去に出会った女性(に似た人物)を見つけるシーンがあります。このシーンからインスピレーションを受けて、『herbarium』はできました。彼が自分の中にあるカプセルに、その美しい女性を閉じ込めておきたいと思うのではないか。彼が持っている幻影を表現してみたんです」と、制作者であるcinecaの土谷みおさんは話す。

彼女が創り出すお菓子はどれも映画を見て、キーポイントとなる部分や物語全体を彼女自身のフィルターを通して膨らませ、作品となって世に送り出される。そのため一見すると映画とお菓子との接点は見受けられないが、経緯を聞くとその作品との繋がりが浮き彫りになってくるのだ。まるでお菓子のように、味わい深い“ものがたり”がそこにはある。

お菓子づくりという仕事をするようになった経緯

cinecaは2012年に創業した。もともとはデザイナーとして働いていた土谷さんだったが、多忙な日々を送るなかで、心のよりどころが気付けば“食”になっていたという。実際にデザイナーとして仕事をしていくうちに、自分のやりたかったことと目の前にある仕事の違いを感じるようになっていった。

「小さい頃からお菓子づくりは好きでよく作っていたこともあり、自分のやっているデザインの仕事とお菓子を繋げたら何かできないかな?と思っていました。だから仕事をやめてからは、お菓子の学校へ通ったんです。そんなときに、お手伝いをさせていただいていたサイト『ilove.cat』の一周年記念イベントがあり、何かを発表するいい機会だからということで『kalikali』という商品を販売したのが、cinecaのスタートになりました」。

cineca『kalikali ネコ気分なクッキー』

『kalikali ネコ気分なクッキー』は、ひと粒が直径1cmほどの小さなクッキー。まるでキャットフードのような見た目と、カリカリとした歯ごたえを楽しめる。猫好きにはたまらない、自分自身が猫になれるようなお菓子である。

お菓子たちの物語を紡ぎ出す映画たち

冒頭で触れたように、cinecaのお菓子はどれも映画からインスピレーションを受けて創り出されている。土谷さん自身、中学生の頃に観た『時計じかけのオレンジ』に感銘を受け、過去には年間400〜500本ほどの映画を観ていた時期もあるほどの映画好きだ。気が付くと1日4〜5本の映画を観てしまうこともあるという。そのため、映画から着想を得てお菓子づくりをするようになったというのは、必然的な出来事のようにも思えてくる。 では実際に、cinecaお菓子はどのような作品から生まれたのだろうか?

『kalikali ネコ気分なクッキー』

『kalikali ネコ気分なクッキー』
『kalikali ネコ気分なクッキー』

フランスのコメディ映画『メルシィ!人生』のワンシーンから着想を得て作られたお菓子だ。大学時代から幾度となく観てきた作品だったが、劇中でふと気付いた仔猫の存在をもとに『kalikali』という商品が創り出されたのだ。

「10年以上前に作られた映画だから、このシーンに出てきた猫はもうずいぶん大人になっているんだろうな〜、と思いながら『kalikali』を作ったんです」。

『kalikali』はcinecaの中で、最も問い合わせの多い商品。ひと粒ひと粒を手で抜いてクッキーを作っていて時間も労力もかかるため、一度の販売戸数は限られているが、イベント出店販売時は必ず持っていくお菓子だとか。また、同ブランドのオンラインショップでも不定期で販売をしている。


『herbarium 甘い標本』

『herbarium 甘い標本』

今年3月に販売された伊勢丹 新宿店のオリジナル限定商品

『herbarium 甘い標本』
『herbarium 甘い標本』

最初に触れたように、映画『シルビアのいる街で』をもとに作られた砂糖菓子。これはパッケージデザインもこだわり抜かれた商品だ。標本がテーマのお菓子だからこそ、最初は桐箱に入れて販売をしていた。しかし、2015年3月に商品パッケージをリニューアルしている。

「標本ってトレーシングペーパーのような薄い紙が使われているイメージがあったんです。それに近づけたくて、普通の業者さんでは扱ってくれない薄手の紙を箱にのり付けしてくれる業者さんを探し、何度もサンプルを作って今のデザインに落ち着きました」一つ一つ丁寧に物作りをしているのが感じられるエピソードだ。

夏期は商品が溶けてしまうため、一時販売を停止している。再開後は、香川県直島にある『ベネッセハウス ミュージアムショップ』や「レクトホール恵比寿店」(9月下旬から)などで取り扱う。


『a piece of 時間を溶かす静かのラムネ』

『a piece of 時間を溶かす静かのラムネ』
『a piece of 時間を溶かす静かのラムネ』
『a piece of 時間を溶かす静かのラムネ』

フランス映画『潜水服は蝶の夢を見る』という作品から生まれたラムネ菓子。元『ELLE』の編集長であった男性が交通事故により音は聞こえるが、言葉を発することはできない状態になった。左目以外の全身の運動機能を失った彼の左目を通して映し出される映像作品である。

「彼は左目のまばたきで会話をします。それを見ていると、言葉の力をすごく感じたんです。そして、こんなにも言葉って変わっていくんだと思った作品でした。映画の中で海に行くシーンがあるのですが、そこに広がる砂浜を見ていたときに『a piece of』を思いつきました。上流から流れてきた石がどんどんくだけて砂になる、その変化が作中の言葉の変化と結びついたんです」

ラムネの型はオリジナルで作ったもの。現在は不定期でオンラインショップを通じて販売をしている。


人に見てもらいたい映画こそお菓子に

cinecaのお菓子のもとになっている映画は、映画好きは知っている作品でも一般的にはなじみの薄いものが多い。けれど、土谷さんはあえてそういった作品を選んでいるという。

「私が好きな映画は、ドイツやポーランド、イギリスの映画が多いです。特にナチスを題材に作られた作品は、辛い歴史ではあるけれど、独裁国家だからこそ生まれた文化をいろいろな視点から表現されていて、観ていると活力が湧いてくるものがいくつもあります。そういった名作だけれども、そこまで多くの人に観られていない作品で、なおかつ自分自身も好きな映画を選んでいますね」。


  • 『eda』

  • 『eda』

  • 『eda』

  • 『leaf』

  • 『palette』

  • 『palette Xmas』

今後作ってみたい作品について伺うと、意外にも「SF」という答えが返ってきた。

「SFはもともと好きでずっとお菓子を作りたいな〜と思ってはいるんです。最近の作品ではなく、『メトロポリス』など昔の作品で、今の人にはそんなになじみのないようなものを取り上げたいな、と。けれどSFって美術へのこだわりがすごいため、表現の余地がない。私自身、直球表現は苦手なのでSFからインスピレーションを得ると思うと、なかなか難しいんです。でもいずれは、宇宙系のものを何か作りたいなとは思っています」


贈り物としても喜ばれるお菓子たち。そのストーリーをもっと味わうためにも、映画と一緒にプレゼントすることをお薦めしたい。

(文:戸塚真琴)


土谷みお(つちや・みお)

美術大学を卒業後、デザイナーとして事務所勤務。2012年『cineca』を立ち上げる。独創的な商品は人気を集め、オンラインストアでは発売後すぐに完売してしまうほど。8月には伊勢丹 新宿店で『palette きょうをいろどるジンジャークッキー』などの販売を予定している。12月に「UTRECHT(ユトレヒト)」(東京・渋谷)で個展を予定中。

『cineca』


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