バルミューダの大ヒットトースターは「家電ではない」。社長が語るクリエイティブ哲学とは?

2015.9.15 (火) 18:17

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BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)

BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)

トースターでパンを焼く。たったこれだけのシンプルな行為が、2015年になって進化するとは誰が想像しただろうか。バルミューダという企業が開発した「BALMUDA The Toaster(バルミューダ ザ・トースター)」を使えば、食べ慣れていたはずのトーストが感動するほど美味しく焼けてしまう。一般的なトースターの相場よりもはるかに高い価格でありながら、発売以降品切れが続き、予約注文も止まらないのだという。

バルミューダは以前にも、自然の風を再現する新しい扇風機「GreenFan」(現行品はGreenFan Japan)でヒットを飛ばしている。それでいながら、バルミューダという企業は家電メーカーではない、といったら驚かれるだろうか。バルミューダ代表の寺尾玄氏は「家電という括り方は狭い。つまりは、道具なんです。何ができるかが大切」と語る。寺尾氏によれば、同社が売っているのはモノではなく、体験だという。その視点に立つと、モノが売れないと言われる時代において、バルミューダがヒット製品を生み出せる理由が少しずつ見えてきた。

開発の背景には、生活に根ざした“体験”があった

バルミューダ代表 寺尾玄氏

バルミューダ代表 寺尾玄氏

「昔からパンが好きだったんです。とはいっても、こだわっていたわけではなくて、家で普通のトースターで焼いているだけ。だけど絶対にもっと美味く焼ける方法はあるんだろうと考えていました。調理というのは、結局は化学反応ですから」

トースターを開発することになったきっかけについて、寺尾氏はこのように語った。テクノロジーに関わる仕事をしていることもあり、すべてを科学的に見る癖がついていたのだという。GreenFanが生まれた理由も、同様に寺尾氏の普段の生活の中にヒントがあった。

「扇風機も毎日使うものでしたが、扇風機の風がずっと当たっていると疲れます。気持ち良い風が、綺麗なところから吹いてくる、そんな“体験”を求めていたんです」

「良い体験を提供すること」、それが寺尾氏をはじめバルミューダが追求している理念だ。GreenFanとBALMUDA The Toasterのヒットを通じて、自分たちが提供すべきものは「体験」だと気付いたそうだ。寺尾氏によれば、「良い体験」とは、身体の五感を通じて、ある種の良さを感じることだという。


マーケティングから、本当に欲しい製品は生まれない

バルミューダ ザ・トースター

自分の体験を信じたからこそ、革新的なヒット製品は生まれた。自分を信じる姿勢は、クリエイターとしての寺尾氏の強みである。しかし、世の中には、自分自身のことを信じられない人もいるのではないだろうか。

「逆に、なぜ自分を信じられないのかと聞きたいですね。自分以外に信じられるインプットはない。人間は他の人にはなれない。おそらく、自分が信じられないから、世の中のメーカーはマーケティング調査に頼ってしまうのではないでしょうか」

メーカーが何らかのプロダクトを開発する際、市場調査などを実施するのが一般的だ。しかしバルミューダは、こうしたマーケティングを一切行わないのだという。それがバルミューダの開発スタイルだ。

「市場調査はやっても無駄です。人間って、何が欲しいと聞かれても答えられないもの。だから調査で答えは出ません。そこで、人が本当に欲しいものを実現するのがクリエイティブの仕事です。究極のチーズトーストが食べたいですか、と聞かれたら、みんな興味を持ちますよね。単純に私自身も、世界一のトーストが食べたいと思った。その渇望をテクノロジーで実現しただけ。マーケティング調査の入ってくる隙なんてありません」


少年時代に培った死生観が、バルミューダの源泉

寺尾氏が独自の哲学を形成した背景には、若い時期の経験から培った死生観があるそうだ。寺尾氏は若い頃に母を亡くし、高校2年で中退、17歳から1人でスペインに放浪の旅に出ている。少年から大人になろうとしている時期に、見知らぬ土地で1人で生きる。時に、人生を変えるほど強烈なほど美しい光景に出会う。10代の寺尾氏は、毎日興奮しながら時を過ごし、生きること・死ぬことについて考え続けた。

「心臓が、世界と近いところにあると感じていた日々でした。私は死ぬことが怖くて絶対に嫌なんですが、きっと人間が一番嫌なことって、死ぬことだと思うんです。そして考えたのは、じゃあ、嫌なことの反対が喜びなんじゃないかと。そう考えてみると、より良く健全に生きること以上に、楽しいことはないと思えたんです」

多様な価値観が存在する中で、多くの人が心地よい・美しい・美味しいと思うものがある。寺尾氏の考えでは、逆に多くの人が「嫌だ」と感じるものは、死に近いものだという。食べ物でいえば、腐っているものを「嫌だ、不味い」と思うのは、死に近いから。またひっくり返していえば、生きるために必要なものを、私たちは「美味しい」と思うのだ。

「味覚って、まさにこの考え方でできあがっていると思います。だからこそ、キッチンツールは面白い。The Toasterで踏み込んでみたら、すごく楽しい世界だったんです。美味しいものを食べられるのも嬉しいし、それを人に食べてもらって褒められるのも嬉しい。まさに“良い体験”を提供できるわけです。キッチンって、家の中で一番クリエイティブな場所ですからね」


家電メーカーを超えた、その先にあるもの

バルミューダ ザ・トースター

BALMUDA The Toasterを通じて、モノではなく体験を提供する会社へと進化したバルミューダ。製品ラインナップからは家電メーカーと捉えられがちだが、寺尾氏によればそうではない。

「モノよりも体験の方が大切。これまでは家電を作っているつもりだったんですが、どうやら違ったらしい、と気付きました。道具の先にある体験を提供しているわけですから。ですから、これからは何でもありですね。クリエイティブって、可能性そのものを指している言葉なんですよ。何でもできるという、可能性。バルミューダはこれから、クリエイティブとテクノロジーで、社会の役に立つ会社を目指しますよ」

(取材・文:玉田光史郎)

■プロフィール
寺尾 玄(てらお・げん)
1973年生まれ。17歳の時、高校を中退。スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いを放浪の旅をする。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルとの契約、またその破棄などの経験を経て、バンド活動に専念。2001年、バンド解散後、もの作りの道を志す。独学と工場への飛び込みにより、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザイン設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。同社代表取締役。

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