名店「一幸庵」店主・水上力✕『料理通信』編集長が語る、世界へ羽ばたく和菓子の未来

2016.3.29 (火) 07:00

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一幸庵

2016年3月8日(火)。代官山 蔦屋書店にて、老舗和菓子店「一幸庵」店主の水上 力さんと雑誌「料理通信」編集長の君島佐和子さんの対談イベントが催された。イベント会場はたくさんのゲストたちで埋め尽くされ、和菓子の今に警笛を鳴らす職人と、一度は職人を目指したこともあるという根っからの和菓子好きジャーナリストの、豊かな発想力と数々の言葉に、一心に耳をかたむけた。

和菓子という言葉は、“差別用語”!?

司会(クリエイティブディレクター南木隆助さん):日本から世界へと和菓子を発信すべく、たくさんの海外プロモーションをされていますが、実際、外国の方々の反応はいかがですか?

一幸庵

水上力さん(以下、水上):彼らにとって、和菓子は見たことも触ったこともないもの。たとえば練りきりを形にしていく工程は、手品みたいに見えるそうですよ!

君島佐和子さん(以下、君島):和菓子を知っている外国人は、パティシエや料理人など、何らかの形で関わっている限られた人ではないでしょうか。旅先で見かけることもほとんどありませんし……。結局、だれも和菓子を海外に伝えていない現状が見えてきますね。今までの取材のなかで、こういう言葉に出会ったことがありました。「フランス人は自国の文化をスタンダードだと考える。日本人は日本文化を特殊であると考える」。日本文化はわかりにくい、と自ら遠慮して伝えてこなかったのでは、と思います。

水上:そもそも、和菓子という言葉は差別用語なんです。明治維新以降にできた言葉で、欧米のものがいいと日本の職人は切り捨てられてきた。とくに菓子の世界では、和菓子は周回遅れです。ですから海外のシェフに和菓子を伝えるしかない、と。日本人には当たり前でも、海外に認められたら、日本人の意識も変わるはずです。


『料理通信』2014年12月号

『料理通信』2014年12月号

君島:こういう試みをしている職人は、他にいないと思います。「料理通信」では、2年前に初めて和菓子特集をしました。「和菓子屋さんに弟子入り」という企画で、食のプロを和菓子屋さんのキッチンに招き、そこでのやりとりをレポートするというもの。でも取材依頼を始めてみると、ことごとく断られたんですね。和菓子の世界は閉鎖的だ、と痛感しました。このままでは職人の仕事が伝わらず、憧れる人がいなくなるのでは?と。そんななか唯一OKを出した稀有な存在が、水上さん。すべて包み隠さず教えてくれて、「いいんですか?」と聞いたら、「だって、教えても作れないでしょう?」と(笑)。

水上:レシピを見せても同じようには絶対にできないと思います。たとえ江戸時代のレシピを引き継いだとしても、原料の質や味も違いますから、当時と同じ味を作れるわけもない。また、瞬間的なひらめきで作ることも多く、自分でも同じものを作れないことも。だから雑誌も本もそうですが、そのときの一幸庵を残せれば、と考えたんです。

海外はライバルではなく、日本を見つめ直すチャンスをくれる場所

一幸庵

君島:代々伝わるデザインが決められていたり、様式を再現する店が多かったりと、個人の表現として和菓子を作る職人が少ないように感じます。

水上:職人は感性の切り売りだから、枯渇したらどうしようもない。私は、和菓子以外からインスピレーションを受けることが多いですね。とくにパリはワンダーランド! 「フォション」のショーウィンドウのピンク使いは永遠のテーマです。でも、そんな洗礼を受けつつ、改めて和菓子のすごさも感じました。「ヴァローナ」とのコラボ依頼があったときも、「チョコレートとあんことで喧嘩してみようじゃねーか」と取り組みましたが、やっぱり俺のあんこは負けないなと確信(笑)。外国は、ライバルというより日本を見つめ直すためのチャンスをくれる場所です。だからもっと発信していかないと。

君島:和菓子は、“銘”があると変幻自在に変わる。たとえば同じピンクの饅頭でも、桃の花にもなれば、桜咲く春山にもなる。おいしさだけでなく、“銘”ひとつでイメージのやりとりができる日本人はすごい! それが海外に伝えていくべき日本のセンスでは、と思いました。

水上:和菓子は草食の食べ物で、同じ素材で12ヶ月の菓子を作り、味わえる。その食の感覚の鋭さを磨いていくのが大事。


右脳と体に働く、動物的においしい洋菓子 VS 左脳と心に訴える、草食系の和菓子

「千両」は春の訪れを感じさせてくれる。

「千両」は春の訪れを感じさせてくれる。

水上:ピエール・ガニエールにいたパティシエが帰国前に修行にきて、まず「どこに包丁を置きますか?」と聞くんです。河童橋で買ってきた包丁でした。それで、「包丁は使わねーよ」と言ったんです。それから彼は8日間、毎日興奮しきりで、夜も寝られなかったそうです。和菓子は、遺産じゃなくて資産。現実のものとして残していかなきゃいけない。フランス人ももっとびっくりさせなきゃいけないし(笑)。

君島:食べる側が意識するべき部分もありますね。というのも、洋菓子は動物的においしいから。「おいしいものは糖と脂肪でできている」というCMもありますよね。卵とミルク、バターと砂糖、すなわち脂肪と糖分は体が勝手においしいと思うもの。反対に和菓子は、圧倒的に草食。生きていくための必要栄養素レベルもぐっとさがる。ではそれを乗り越えるには? それは“経験”だと思うんです。子供の頃から和菓子を食べているかどうか。動物としては勝てなくても、文化的には勝てる。“銘”によってイメージ交換ができる心理的影響の強い特質がある日本人だからこそ。右脳と体に働く洋菓子と、左脳と心に訴える和菓子。情感や見た目の美しさがある“そそる”和菓子を作っていけるかどうかが勝負の別れ道になるのでは。

旨いまずいは、手先と感覚が判断する。そんな職人になりたかった

君島:「一幸庵」のわらびもちは、極限としかいいようのないもちの柔らかさに包まれるあんを味わえる菓子。理屈を超えて感覚に訴えかけてくる味です。

水上:今年は、民俗学者がもう絶えたと言っていた“高山のわらび粉”が復活したというので、使命感にかられて配合しています。九州産は有名ですが、高山産は原点といってもいいわらび粉。昨年より味がよくなっていると思いますよ。

水上さんがわらびもち作りに使用しているヘラ。激しい仕事で木製のヘラがすり減っている。

水上さんがわらびもち作りに使用しているヘラ。激しい仕事で木製のヘラがすり減っている。

君島:もちを手の上でのばして、上にあんを乗せるとき、「あんが乗ったと思ったら、それはあんが硬すぎるというサイン」とおっしゃっているシーンをTV「情熱大陸」で見ました。もち越しにあんの状態を手のひらで感じる感覚もさることながら、言葉にできるところがすごい。感覚的に把握して言語化できるのが、水上さんの素晴らしいところだと思います。

水上:昔の職人がいたら、そんな感覚は当たり前というでしょうね。逆に珍しいことになってしまったのは、職人の問題。職人は体で覚えるものです。痴呆の父に「練りきりで桜を作って」とたのんでも、作れるんですから。レシピや頭ではなくて、体に技術が染みついているんです。

参加者:旨さの基準は千差万別ですが、その基準は何ですか?

水上:修業時代に、もうちょっと火をいれろ、もっと練れよ、卵白をたてろよ、と旦那から毎日言われてきた菓子があります。それは「花びら餅」に使う“羽二重餅”なんですが、毎日同じことをしていても、何かが違ったんでしょうね。でも10年たったある日突然、「これが言いたかったのか」、と納得した瞬間があった。それ以来、その感覚が私の基準です。旨いまずいは、そこが原点。手先の感覚が判断しています。


職人としての40年の歴史を経て培った菓子作りの知識と技術、菓子に対する思い、そして何より菓子のもつチカラを感じてきたという水上さん。広く開かれた心と愛にあふれた試みで、和菓子を世界の菓子へと昇華させるべく、日々、精進を続けている。

(文:関智水)

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水上 力(みずかみ・ちから)

1948年東京生まれ。京都、名古屋での修行を経て1977年に「一幸庵」を創業。「エコール・ヴァローナ東京」や「ジャン・シャルル・ロシュー」など大手メーカーやショコラティエとコラボ、イタリアの食の展示会「イデンティタ・ゴローゼ」やトップパティシエが集まる「ルレ・デセール・インターナショナル」でのデモンストレーションなど、国境を越えて和菓子の魅力を伝えている。


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