料理家・土井善晴『一汁一菜でよいという提案』。日本人の原点への初期化とは?【代官山 蔦屋書店トークイベントレポート】

2017.1.25 (水) 14:59

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料理家・土井善晴『一汁一菜でよいという提案』【代官山 蔦屋書店トークイベントレポート】

代官山 蔦屋書店5周年記念イベントとして、2016年12月9日(金)、料理研究家・土井善晴さんのトーク&サイン会が行われた。

トークショーでは、新刊『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社 刊)の背景や、日常で一汁一菜を実践するための考え方などが語られた。聞き手は蔦屋書店 料理コンシェルジュ 勝屋なつみ氏。

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『一汁一菜でよいという提案』は、「良く食べることは、良く生きること」という考えのもと、土井さんが「一汁一菜を通して暮らしに秩序を持つこと」や「家庭料理に本来の意味を取り戻すこと」「和食の本質を次世代に伝えること」などを説いた一冊。

料理の“約束事”が、必ずしも正しいとは限らない

勝屋なつみ氏(以下、勝屋):代官山 蔦屋書店の料理フロアは、「医食同源」をフロアコンセプトに掲げて、食べるということについてもう一度、真面目に楽しく考えたい、とスタートしました。今日は、もっともそのテーマにふさわしい方、土井善晴さんに来ていただきました。

まず、本に掲載されている写真の方から。これは一汁一菜でいうところの一汁、つまり味噌汁。煮干しは、頭もお腹も取っていないんですね。

土井善晴​さん(以下、土井):取らないとダメだという約束事があるとしたら、それはなんでや、ということですよね。取らなくても美味しく食べられたらいい。

なぜ取るの?と言ったら、昔から言われていることだから。頭と腸を一緒に取ったら臭みが出ない、その方が品が良くなる……とまあ、お料理というものは、上の方を目指して基礎が作られているんですよね。でも、食べられるものを捨てるなんて発想を、普通は持たないはずじゃないですか。我々は“もったいない”という感性を持っているわけですよね。

料理屋で仕事をしていたら、大根おろしは皮をむくのが一般的なセオリーになっているかもしれないけれど、田舎に行ったら、目の粗い鬼おろしで皮ごとおろすのが当たり前。そして今では、そうした家庭料理的なお料理を、料理屋さんの方で出すようになっています。家庭料理がだんだんなくなってきているのです。

土井善晴さん

一汁一菜には、人間の原初的な大切なことが込められている

勝屋:今回初の長編書き下ろしということですが、挑戦されようと思ったのは、それだけ伝えたいことがあったからでしょうか?

土井:いまの人たちは、「晩御飯、何作ろう」っていうことが悩みやと聞いたんです。

女性たちが外の仕事を持った。(外の仕事と家の仕事の)両方いうのは、ありえないぐらいに、負担がおっきい。その事を周りに理解してもらえないまま(両方)やるっていうのは、非常に辛いことだと思うんですね。

(そういうとき)私やったらこないするっていうのが、自分の中にはあったんです。手抜きとか、時短とか、インスタントとか、冷凍食品とか、加工食品を使わなくっても、作れるお料理っていうのが実はたくさんあるんですよ。

味噌汁というのは、本当に自由自在なんです。例えば、大根を茹でるにしても、お豆腐温めるにしても、そこに昆布を一枚入れておいたら美味しくなります。(さらに)お出汁になるわけだから、そのお出汁をお椀にもって、味噌を上に載せて、食べている間に少しずつ溶いたら、自動的に味噌汁になる、という。これ、釜揚げ式って私は呼んでいるんですけど。味噌汁の一椀の中で、いくらでも勝負ができる、いろんなやり方があるんですよ。

忙しくておかず作られんやないかとなったら、味噌汁の中に(具材を)全部いれてしまって、沸騰したら味噌を溶けばできあがり。おかずを兼ねたものになっているわけですよね。さらに、ボリュームがないと思ったら、そこに小麦粉を練ってポンと落としたらすいとんになるし、そうめん茹でたのが冷蔵庫に残っていたら一緒に煮込んでしまえばいい。という風に、一椀の中で一汁一菜が完成しますよね。

お椀の中には、日本人の健康の要である味噌を中心とした、必要な栄養素はみんなあるわけですね。ご飯一膳と、具だくさんの味噌汁。これで足らんかったら、おかわりしたらよろしい。

それにね、「作る」ということに意味があるんです。それを説明したいがゆえに、書き始めたんです。

全ての生物は食べるために動くんですよ。動物が動く理由は、食料を得るため。そして、食料を得るために動くというこの行為の中に、我々にとって大切なものがあるということは、おそらく間違いない。それが、「買ってきたものでいい」ということになったら、人間が動くこととその目的は、 “仕事”“お金もうけ”というような人工的な行為となってしまう。そちらの方に時間を費やしていたら、食事をつくるという行為が持っている、生きるために必要なことを教えてくれる教育的機能が失われるんじゃないか、と考えつく。

料理をするうえで私達に身につくことを、「原生的幸福感」と呼んでいます。造語ですけどね。もともとのところにある幸福。競争社会の中にあっても、それ以前の幸福になる術を、私たちは既に知っているはず。人工的な幸福感ばっかりを求めたら、肝心の生きる方向をなくしてしまう。何が幸せやねんて、ちょっとこの頃みなさんが気づき始めているような時代かなという気がしています。その幸福感を感じ取ることができるというのが、料理の力なんです。

みんなで自然の花を観てきれいだと思うということ、これがものすごく大事。人間の中のうちなる自然と本当の大自然とが共鳴している時に、我々が幸福感を感じるということがあると思う。

この本では、日本人の、世界でオリジナルの、大昔の人から受け継いでるような幸せの在り方というのを書いたつもりなんですよ。日本料理、家庭料理を残すということは、日本人を残す、日本の文化を残すことになると思っているんですね。

いいものを見抜く目は、研磨すれば極まるもの

土井:この本は、佐藤卓さんにデザインをお願いしたんです。今日、佐藤さんがいらしてくれているんですよ。

佐藤卓さんが飛び入りで登場して

佐藤卓さん(以下、佐藤):(表紙は)土井さんが書かれた字です。最初に土井さんが打ち合わせにいらっしゃった時に、手書きでささっと書かれたのが、何枚かあって。そこからはもう、自由にやってくださいって。それから案をいろいろ見ていただいて。

土井:帯の色は、佐藤さんが朝にね、味噌汁の写真を撮って、その色です。米味噌…信州味噌とか。そして背景の白いのがお米。そして、菜ですよね。(文字の)緑が、ほうれん草であるとか。表紙全体で一汁一菜を表現している。

佐藤:これが、案の中では一番デザイン的に見えなかったと思います。

勝屋:内容を読まれてからデザインを?

佐藤:もちろん、原稿を読ませていただいて。それを、そのままできるだけ形にしたいと思ったのが、この案ですね。

土井:佐藤さん自身が良いと思っている、というのも実はこれだったんですよね。私も、もうこれしかないと思ったんです。佐藤さんと私が、同じものを選ぶ。このことは実はとても重要で、和食を食べて大きくなったということがなければ、同じものを選ばないと思う。

例えばお茶碗がここに10個並んでて、どれがいいですかと言ったら、ある程度ものがわかっている人たちが選ぶのは、必ず一つです。良いものを研磨すれば、唯一になる。極まってくるんですね。

和食の背景には、自然があるでしょう? その中から我々が身に付けていることは、すごくあるんですね。想像力とか情緒とか。教育的な機能が食事の中にはあり、そこがなかったら、それぞれ違うものが良いということになってくるんじゃないかと思うんです。

いい匂いがしたら鼻を近づける、嫌な匂いがしたら鼻を遠ざける、という風に、口に入れる前に、既に我々は味覚以外の五感でほとんど判断しているわけですが、お刺身を食べるにしても、こっちのお刺身の方が美味しいよねなどといった選ぶ力が身に付く。工芸や美術の世界でも共通するものがあるということですね。違和感のないもの、心地よく感じるもの、きれいに感じるものを無意識に選んでいるのです。

日本の“きれい”というのは、清潔感という意味もあるでしょう。哲学の言葉で「真善美」というのがありますが、日本人は、真実で嘘偽りがない意味で“あの人はきれいな仕事をしはるよね”と言ったり、善良であるという意味で“あの人ええ人やな、きれいな人やな”と言ったりします。真善美を、日本では一言「きれい」っていう言葉で表す。美しいよりも「きれい」には大事なものが入っているんですよね。

無償の愛と幸福は一汁一菜から生まれる

勝屋:本に出てくるお料理の写真を見ると、器も本当に素敵で。

土井:器は使い勝手がよくて割れにくいのがよいですが、ポイントは高台なんです。(高台は裏にありますが、)裏には隠しようもない、その器のええ悪いが見えてしまう。裏は、表の舞台のためにあるから美しい。

お料理だって家族のためのもの。それはもう、無償の愛です。こんなん作ったら喜んでくれるかなっていう、与えることの凄さなんです。自分のためにあらず。人のためにしようと思うことで、自分が美しくなる。それが、人間ですよね。

勝屋:(本で)一汁一菜というのは、いわゆる「和食の初期化」とおっしゃっていますが、詳しく教えていただけますか?

土井:日本人は、米と三千年以上、味噌とは千百年以上の付き合いがある。日本の食文化を信じようということなんです。一汁一菜を原点にして、献立を考える。すると、10分もあったらご飯をつくれるようになります。

心やお金、時間に余裕がある時だけ、ハンバーグ作ろうかとか、今日こんなご馳走つくろうかって考えればいい。そこには、まったくの負担や義務感もなく、料理をすることで自分自身が幸福になれる。

一汁一菜という原点に戻ることは、ミニマリズム的に生活を縮小化することですね。自由時間がいっぱいできますよ。

自分がご機嫌でいられることを大事にして、ご機嫌のときにもっと楽しいことをしようという考えが生まれる。その楽しみまでが、初期化ということの提案ですね。

トークショー後にはサイン会が行われた。

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土井 善晴(どい・よしはる)

料理研究家/1957年、大阪生まれ。
スイス、フランスでフランス料理を学び、帰国後、大阪「味吉兆」で日本料理を修業。
土井勝料理学校講師を経て1992年に「おいしいもの研究所」を設立。
変化する食文化と周辺を考察し、命を作る仕事である家庭料理の本質と、持続可能な日本らしい食をメディアを通して提案する。
元早稲田大学非常勤講師、学習院女子大学講師。
1988年~「おかずのクッキング」(テレビ朝日系)レギュラー講師。
1987年~「きょうの料理」(Eテレ)講師。
著書多数。近著に『おいしいもののまわり』(グラフィック社刊)。


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一汁一菜でよいという提案

一汁一菜でよいという提案

食事はすべてのはじまり。大切なことは、一日一日、自分自身の心の置き場、心地よい場所に帰ってくる暮らしのリズムをつくること。その柱となるのが、一汁一菜という食事のスタイル。合理的な米の扱いと炊き方、具だくさんの味噌汁。

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