【インタビュー】中田英寿が日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK」を開催する理由。「僕が“しなければいけない”ではなく、“したいこと”なだけ」

2017.4.14 (金) 20:23

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サッカーから日本文化の発信へとフィールドを移して活躍中の中田英寿さん。手づくりのもの、ハンドメイド精神によって生まれたクラフトに一貫して興味があるという中田さんが注目しているのが“クラフトとしての日本酒”だ。原料となる米や水はもちろんのことだが、最終的に酒の味を支配するのはつくり手の考え方だともいわれる。人々の暮らしのために、人が手づくりするという意味で、酒もまたクラフトなのだ。

今年2回目となる「CRAFT SAKE WEEK」は、日本全国300蔵以上の酒蔵へ足を運んだ中田英寿さんが全面的にプロデュースする、日本酒の魅力を味わい尽くせるイベントだ。昨年は10日間の開催期間中に76,000人を集客したビッグイベント。今年は2017年3月21日~26日に開催された「CRAFT SAKE WEEK in 博多」からバトンを受け取るカタチで、4月7日(金)~16日(日)に「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS」として開催中。今年もまた話題を沸騰させている。

全国の100蔵が六本木ヒルズに集まる

「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS」で紹介される日本酒のつくり手は全国各地の100蔵。10日間の会期中、毎日異なるテーマのもとに10蔵ずつが、我が子のように育んだ酒を繰り出す。初回となる昨年は東京のみでの開催だったが、今年は福岡・博多でも東京に先んじて開催された。すでに開催を終えた博多会場で、中田さんはどのような手応えを得たのだろうか?

「九州というとやはり焼酎の文化が強いと思っていたのですが、期待以上に日本酒を楽しむ文化も広まっていて「多くのお客さんに来ていただいたな」という印象を受けました。ただ、昨年は東京のみで開催したため、九州での開催は今年が初めて。やはり東京とは生活文化もマーケットも異なるため、九州は九州なりのやり方というものがあるようにも感じています。会場設計や食べ物の設定に至るまで、地域に合わせた調整も必要だということもわかりました」

おそらく今後毎年開催されるであろう「CRAFT SAKE WEEK」。このイベントを継続させていくにあたって、中田さんはどんな課題感を持って臨んでいるのだろうか?

日本酒の銘柄、いくつ覚えていますか?

「このイベントを続けていく理由は「美味しいお酒を知ってもらいたいから」ではないんですね。今はお酒のイベントはどこでも盛んに行われていますし、皆さん美味しいお酒をたくさん飲んでいると思うんです。

日本酒の人気が上がって、イベントもたくさん開催されているにも関わらず、お酒の銘柄を覚えている人は少ないのではないでしょうか? それはやっぱり、飲んで美味しい!楽しい!という雰囲気の中で(銘柄の名前を)忘れてしまうからではないかと思うのです。きちんとした文化や市場をつくるためには、みんなにどれだけ覚えてもらえるか? が大切だと思います」

「そのためにどうすればいいのか?そこで「CRAFT SAKE WEEK」では毎日10蔵ずつに絞って紹介しています。そして、日本酒は(他のお酒に比べて)安価なイメージで捉えられることも少なくないように思うのですが、これだけの数の、日本でもトップクラスのレストランに出店してもらうことで、そのクラス感にひけをとらない日本酒がたくさんあるんだなということを知っていただく機会にもしたいと思っています。

また「日本酒は和食」というようにどうしても思われがちですが、ワインが和食にも合うのに、日本酒がフレンチやイタリアンに合わないという理由はありません。(日本酒が)お刺身には合うのにカルパッチョには合わないわけがありません。そのような思い込みを取り除くために「CRAFT SAKE WEEK」では、フレンチやイタリアンだけでなくスイーツも日本酒と合わせるために用意しています」

日本酒に合わせるために会場で用意されている料理は、どれも一流レストランによる特別な逸品。六本木会場では、ミシュランガイド2017でも2つ星を獲得し、現代的な本格フレンチを提供する「レフェルヴェソンス」を始めとして「京味」で修行した店主が腕をふるう日本料理「車力門 ちゃわんぶ」なども、日本酒に寄り添うアテを繰り出す。

「日本酒の安すぎる値段設定や、凝り固まってしまったイメージを変えるためには、会場も華やかでなくてはなりません。日本酒好きだけが集まる場所ではなく、さまざまなことに興味のある人が集りたくなる場所にしなければ、“今まで”を変えることはできない。そう思います。そこで、会場のインスタレーションの企画・製作には、現在建築界をリードする話題の建築家・藤本壮介さんと、思いのままに植物を操るプラントハンターの西畠清順さんに担当していただきました」

「今は日本酒のイベントには20〜30代の女性が多く集まるようにもなっています。若い世代が日本酒の世界に入って来ているこのタイミングで、新しいイメージを作り上げる必要があると思うんですよね。日本酒ってやっぱり“文化”だし、かっこよくて面白いよねと感じる人を増やすためのイメージや概念を作っていくための施策が「CRAFT SAKE WEEK」なんです」

今までの日本酒のイメージを変え、新しく作っていきたいという中田さんの課題感は、中田さんが全国を巡って出会ったさまざまな酒蔵のニーズとも重なる部分があるのだろうか?

各酒蔵が銘柄の知名度を上げることが課題

「海外での和食の認知度も高まって来ているし、良い日本酒はどんどん増えてきていると思います。いっぽうで、海外の日本料理店には必ず日本酒が並んでいるのに、ラベルが日本語だと海外の人がブランド名すら読めませんから、注文できないので、結果的に飲まれないというケースもあります。日本の市場を見ても、日本酒に興味ある人は増えてきていますが、銘柄を知らないので注文できず、飲まない…という光景も目にします。

――確かにみんな興味はあるんです。「知られていないから飲まれない」のです。日本酒の銘柄を知ってもらう機会をどのようにしてつくるのか? という点が一番の課題だと考えています。日本酒が美味しくならなければいけないというフェイズではなく、美味しい日本酒が増えてきた中でそれをどのようにして伝えて行くかというフィールドに、僕たちは立っているのです。“伝える”という部分で、日本酒のつくり手の皆さんには手の回らないことの中に、僕らだからできることって何かあるんじゃないかなという思いで会社を立ち上げました」

「CRAFT SAKE WEEK」では、「若手で勢いのある酒蔵」「300年以上の歴史を持つ酒蔵」「つくり手が女性の酒蔵」など、日によって異なるテーマに基いて毎日10蔵ずつ酒蔵が紹介される。2009年から今まで国内の300以上の酒蔵を訪ね歩いた中田さんが、全国の酒蔵を編集した結果もまた「CRAFT SAKE WEEK」で味わえるというわけだ。

編集者・中田英寿による編集ワークを体験!?

「やはりテーマがあると飲み手の頭にも入りやすいんですね。そのようにして蔵元と飲み手をつなげてファンを作っていくことも大事です。確かに蔵元を編集してプレゼンテーションすることで伝わりやすさが増すとは思います。

そのためには、まずは自分がそれぞれの日本酒を飲み、自分が一番知らなければいけませんが、蔵元さんの思いと考えを知ったうえでやっていかなければならないことだ、とも思っています。このイベントでは僕は編集者ですね。自分が日本酒をつくっているわけではないからです。でも、カッコいい日本酒を伝えるために、自分なりに編集してみんなの前に出していく…という意味ではカッコいい雑誌を作る作業とも似ているのかもしれませんね。

そのため、ご紹介する酒蔵もただ単に美味しいお酒を作っているからとか有名な蔵だからという理由では選んでいません。やはり酒蔵やつくり手の思いや考え方を見ながらセレクトし、彼らの背景を汲み取ったうえでなければ編集作業はできませんね。自分の情報をアップデートするためにも酒蔵への訪問は続けますし、他の日本酒のイベントにも足を運びます」

原料の米まで遡れば、日本酒とは“農業”でもある。日本酒を楽しむための酒器にまで下れば、日本酒は“工芸”とも親和性が高い。実際、中田さんは酒米づくりの農業も幾度となく体験してきたというし、「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS」では、“うすはり”のグラスでも有名な都内のガラス工房「松徳硝子」のSHUKIシリーズのグラスをスターターセットとして提供、再入場のチケット代わりに使えるようにもしている。農業・工芸・飲食文化などを包括する日本酒を取り巻く世界とは、まさに日本文化そのものなのかもしれない。

最後にもうひとつ質問してみた。中田さんが日本の文化を発信しなければならないと感じた具体的なきっかけというのはあるのだろうか?

中田さんを突き動かすエンジンは、いったい何?

「ただ単純に自分が良いと思ったものごとを友達とシェアしたいと感じただけです。良いものはみんなとシェアしたいし、喜んでいる顔を見ていたいし、それは、面白いゲームや素晴らしいアートと出会った時に感じる気持ちと一緒です。日本文化を発信しなきゃいけないという危機感や守らなければいけないという義務感はありません。僕が何かをしなければいけないことというのはひとつも無いからです。守らなければならないのは当事者(日本酒でいえば蔵元)であって、僕らはそれが良いと思えば多くの人に伝えてそれをシェアするだけです。それは僕がしなければいけないことではなく、僕がしたいことなだけです」

インタビューの締めくくりで「僕は仕組みをつくるのが好きなので…」と語ってくれた中田さん。「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立し、ブランディングやマーケティングというポジションから日本酒の世界に新しいゴールを設定し、そのゴールをみんなで目指そうとする中田さんの背中を眺めていると、日本酒界のミッドフィールダーというような言葉が脳裏をかすめた。「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS」では、中田さんの日々のフィールドワークの結果を存分に味わえるだろう。

(文:小林淳一、撮影:MASA (PHOEBE) )

■開催情報

「CRAFT SAKE WEEK at ROPPONGI HILLS​」

開催日/2017年4月7日(金)~16日(日)
開催時間/12:00~21:00
会場名/六本木ヒルズアリーナ(東京都港区六本木6-11-1)
入場料/CRAFT SAKEスターターセット3,500円(税込) ※2回目以降の入場料は、イベントで配布したグラス持参で無料。平日12:00~16:00はハッピーアワーを実施し、スターターキットに加え飲み物専用コインを1枚プレゼントしている。
定休日/なし

CRAFT SAKE WEEK 公式サイト

中田英寿

元サッカー日本代表。引退後100以上の国や地域の旅を経験した後、2009年より日本国内47都道府県の旅を開始。これらの経験から日本の伝統文化、工芸等の新たな価値を見出し、その継承と発展を促すことを目的とした「Revalue NIPPON Project」や、お酒の素晴らしさや面白さ、魅力を多くの人々に知ってもらうことを目的に、2012年ロンドン五輪、2014年ブラジルW杯、2015年ミラノ万博と、日本文化や日本酒の魅力を世界で伝えるプロジェクトを実施。「株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立し、2016年2月に主催として「CRAFT SAKE WEEK@六本木ヒルズ屋台村」を実施。


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