映画『シング・ストリート 未来へのうた』は心をやさしくかき乱してくれる作品【連載コラム Vol.8】

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映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第8回目は「この監督が創り出す世界観が好き」だという、ジョン・カーニーが手がけた『シング・ストリート 未来へのうた』。注目すべきはなんといっても、元バンドマンでもある彼ならではのセンスや手腕。そこには…


(C)2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

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この俳優が好きだから、この人の出ている映画で気になるものを観てみよう──。映画に興味を持ったばかりの頃は、俳優つながりで映画を観ていた。そして、自分の好きな俳優で選んでいくと、社会派ドラマ、歴史もの、ラブストーリー、コメディ、サスペンス……自分がどのジャンルが特に好きなのかも分かってきて、次はジャンルで観るようになった。

私の場合、仕事柄どんなジャンルも観るけれど、個人的に一番好きなのはラブストーリーとかラブコメディ。十代の頃はまだネットのない時代。レンタルビデオショップの棚に並ぶタイトルをたよりに、“愛”とか“恋”とかそれっぽいものを片っ端から観たり。そうやって自分なりに映画の面白さを広げてきた。そのうち“監督”で選ぶようになった。自分が面白いと思った監督の作品を観ることで、今度は知らなかった俳優を知り、またそこから好きな俳優を見つけて、その人の作品を……私の映画鑑賞のルーティーンだ。

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何故そんな話を持ち出したかというと『シング・ストリート~』は、この監督が創り出す世界観が好きで、ずっとずっと追いかけていきたいと思っているからだ。監督は、アイルランドのダブリンを拠点に活動する脚本家で映画監督のジョン・カーニー。彼が発表している作品は『ONCE ダブリンの街角で』(2006)、『はじまりのうた』(2013)、新作の『シング・ストリート 未来へのうた』の3本だが、いずれも「好き! 大好きだ!」と惚れてしまうものばかり。共通するのは音楽ものであること。彼自身がもともとアイルランドのロックバンド「ザ・フレイムス」のベーシストで、その経験を活かしている。音楽のセンス、バランスがとてもいい。

音楽映画はときに、音楽ツウの人にしか響かないようなマニアックさが強かったり……という作品も少なくない。ジョン・カーニーが世に送り出してきた3本にも音楽の専門的要素は取り入れられているが、さりげなさと入れ込むバランスがとてもいい。そして、音楽に重きを置いているようでいて、実は人間ドラマ、青春ドラマであること。これが、響く。前2作も含めて言えることだが、ジョン・カーニーが紡ぎ出す物語には哀愁がある。思うように生きられない厳しい暮らしだったり、愛する人に受け入れてもらえない行き場のない想いだったり、何かをなくした人、何かを手放した人だけが伝えることのできる哀愁。そのなかで音楽を通して人生の光を描いていく。だから響く。

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今回の『シング・ストリート~』は1985年の大不況のダブリンが舞台。主人公は14歳のコナー。父親の失業で荒れた学校に転校、いじめのターゲットになり、家では両親のケンカが絶えず家庭崩壊寸前。そのなかでコナーは年上のモデルを目指す女の子と出会い、彼女にふり向いてほしくて、彼女と仲良くなりたくて、バンドを始める。音楽狂の兄の手助けもあって、バンドメンバーたちのスキルはどんどん上達し、気づけば音楽が彼の夢になっていた──。人の心を動かすのは人の心。コナーや彼をとりまく人たちの心情がきれいごとではないものとして描かれているから、彼らの音楽に感動する。

とはいっても、人によって作品の感じ方はさまざま。自分だったら別の俳優をキャスティングしたなぁとか、このエンディングは納得いかないなぁとか、会話がスッと入ってこなかったなぁとか……小さな違和感を持ってしまうことは少なからずあるものだ。しかし、個人的に「好き」だからなのかもしれないが、ジョン・カーニーの作品にはそういった違和感がこれっぽっちもない。私のなかでは完璧に面白い映画。

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すでに『ONCE ダブリンの街角で』と『はじまりのうた』を観ている人は『シング・ストリート~』もチェック済みのはず。まだジョン・カーニー作品を観たことがない人で、たとえば漫画原作の映画化は飽きた、映像でしか勝負していないハリウッド映画も飽きた、何か面白い映画はないかなぁと探しているのなら、ぜひこの映画を。きっと、青春といわれる時期に自分も抱いていたさまざまな感情がじわぁっとあふれてくる。こんなにも心をやさしくかき乱してくれる映画は滅多に出会わないだろう。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『シング・ストリート 未来へのうた』
公開中

監督・脚本:ジョン・カーニー『ONCE ダブリンの街角で』、『はじまりのうた』
出演:フェルディア・ウォルシュ=ピーロ、エイダン・ギレン、マリア・ドイル・ケネディ、ジャック・レイナー、ルーシー・ボーイントン
配給:ギャガ

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