映画『エゴン・シーレ 死と乙女』―女性たちが夢中になる、とてつもない愛され力を持った男の生涯【連載コラムVol.18】

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映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第18回目は、若くしてこの世を去った天才画家・エゴン・シーレの生涯を描く『エゴン・シーレ 死と乙女』。彼の存在が“記憶に残る”理由が本作を通じて見えてくる―。


(C) Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH

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エゴン・シーレの名画「死と乙女」を初めて見たときに抱いたのは、美しいのに何て怖くて哀しい絵なのだろう……とても複雑な感情だった。その名画が生まれる瞬間を含め、エゴン・シーレとはどんな画家だったのかを事実にほぼ忠実に描いているという映画『エゴン・シーレ 死と乙女』を観て、なぜ“美しいのに怖くて哀しい”と感じたのか、その理由が分かった。

芸術家はモテる。エゴン・シーレももちろんモテ人生を歩んだ人だ。28歳で早逝した天才画家という以外に“美男のプレイボーイ”としてもその名を歴史に刻んでいる。数多くのモデルと浮き名を流したと言われているが、彼の人生のなかでとりわけ大きな存在となった女性との日々をこの映画では描いている。1人はシーレの妹のゲルティ。敬愛する兄のために若くして絵のモデルを務め、シーレが息を引き取る最期まで献身的に支え続けた。もう1人はシーレの公私にわたるパートナーでありミューズであり続けたヴァリ。「死と乙女」に描かれている女性はこのヴァリだ。

(C) Novotny & Novotny Filmproduktion GmbH

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ヴァリはシーレの生涯のミューズとして数多くの絵のモデルとなったが、ミューズであっても妻にはなれなかった。現代であれば2人は結婚していたかもしれない。でも約100年前の時代では叶えられなかった。当時ヴァリのようなモデルは軽蔑される職業とされ、シーレは結婚相手として中産階級の娘エディットを選んだ。そういう時代だったからとはいえ、身も心も捧げたヴァリをあっさり捨ててしまうなんて……女性なら誰もがシーレの選択に怒りを覚えるはずだ。それでも最終的には魅力ある芸術家として記憶に残ってしまうのは何故なのか。

それは、美しい女性をただ美しく描く画家ではなかったから。映画のなかでシーレが「僕は内面を描く」とクリムトに語っていたように、女性たちがシーレに夢中になり、愛し、全てを捧げたのは、自分の本当の姿=内面を描いてくれたからなのではないだろうか。ただ哀しいことに、シーレは内面を描くことはできても女性の愛(=本心)を捉えることはできなかった。ヴァリがどんな想いで結婚を求めなかったのか、どんな想いでシーレの元を去ったのか、その想いに気づいたときは“時すでに遅し”だったわけだが、ヴァリへの精一杯の愛の証があの絵だと思えるからこそ、普通に考えたら最低の男ではあるけれど、とてつもない愛され力を持った魅力的な男性として記憶される。

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そんなシーレの愛され力をみごとに表現したのは、オーストリア出身の新人ノア・サーベトラだ。おそらくほとんどの人がこの映画で彼を知ることになると思うが、どうやって彼はシーレ役に選ばれたのか? ディーター・ベルナー監督いわく「シーレと同じような人を惹きつけるエネルギーを感じたから」。写真モデルとしての経験はあったが俳優としてはまだまだだったノア・サーベトラを監督は1年以上かけて指導したという。美しい俳優としてだけでなく、天才画家を演じた演技派の新人として今後ますます注目されるだろうし、注目していきたい俳優となった。

この映画を観終わってふと読み返したくなったのは、アンデルセンの童話のひとつ「人魚姫」だった。監督とともに脚本を担当したヒルデ・ベルガーが「ヴァリの姿(=生き方)は私に人魚姫の物語を思い出させます」と語っていることもあるが、確かに、愛した人をどこまでも愛し続けるヴァリの生き方は、人魚姫の悲恋に通じるものがある。幼い頃に読んだ童話を大人になった今でも鮮明に覚えているように、『エゴン・シーレ 死と乙女』も記憶に残り続ける映画になるだろう。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『エゴン・シーレ 死と乙女』
公開中

監督:ディーター・ベルナー
出演:ノア・サーベトラ、マレシ・リーグナー、ファレリエ・ペヒナー、ラリッサ・アイミー・ブレイドバッハ
原題:EGON SCHIELE ‒ DEATH AND THE MAIDEN
オーストリア・ルクセンブルク作品 109 分 シネマスコープ
提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム

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