映画『3月のライオン』大友啓史監督インタビュー「これはライオンたちの物語、闘っている人たちの物語」

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大友啓史監督

大友啓史監督

原作漫画もアニメも実写映画も『3月のライオン』に心を揺さぶられるのは、登場人物たちが、悩むことも、苦しむことも、好きなことにも、ちゃんと向きあって闘って生きているからだ。すべての始まりは、原作者である羽海野チカさんから生まれたキャラクターであり物語ではあるけれど、俳優が、生身の人間が演じることによって得られる感動もある。後編のインタビューで大友啓史監督がくり返し口にした「これはライオンたちの物語、闘っている人たちの物語」──その真相を探っていく。

──後編は、桐山零をはじめそれぞれが決断を迎えますが、前編と後編において、描き方の違いや工夫はあったのでしょうか。

この映画は〈前編・後編〉になっていますが、続編というよりも〈パート1〉〈パート2〉それぞれ1本の映画として成立させるつもりで作っています。パート1(前編)では、零くんが新人王になり、自分の生き方は他の誰でもない自分で見つけなければならないんだ、という結論に至る。その先に何か物語が始まるような予感を匂わせていますが、決して「続く」ではないんです。パート2(後編)は、新人王をとってからのお話で、零くんが以前よりも少し前向きになり、将棋が好きで、将棋で生きていくことを決断する、という結論です。そしてパート2の終わりも始まりを匂わせています。どちらもそれは意識していたこと。また、何度見ても発見があるように工夫もあります。たとえば装飾でいうと、川本家のあかりさんの部屋にある「I’M FAT」と書いてあるポスターや相撲の人形からは、彼女が“ふくふく”なタイプ(太めな人)が好きであることがわかりますが、それをこれ見よがしにアップで撮るのではなく、さりげなく置いておけば誰かが見つけてくれる。そういう遊びの部分も含め、細部の作り込みを丁寧に、手を抜かずにちゃんと作る、それに尽きると思います。

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

──たしかに、そういう個所に気づく発見も楽しいですね。二度、三度、観たくなります。後編では、桐山が香子や歩、義父の柾近と向きあう姿から成長を感じます。

零くんは、いろんなものを犠牲にして生きてきましたが、香子が言うように、幸田家にやって来て家族をめちゃくちゃにしてしまった。本人が望んだことではないにしても、彼の勝負師としての才能がめちゃくちゃにしたのは事実なんです。だから、零くんだけが報われるのではなく、幸田家の香子も歩も、義父の柾近にも手を差し伸べたいと思いました。本当は幸田家では、お母さんが一番大変だったんじゃないかなかぁとも思うんですけど(苦笑)。今回は将棋に関わる人物という括りにしています。

──香子の描き方に関しては、原作よりも少し大人になっていますね。

原作では気性が激しく棘のあるキャラクターですが、映画では後藤のバックグラウンドをより深く描いているので、香子はそのバックグラウンドを含めた後藤を受け入れてつき合っている。少し大人の設定ではあります。ただ、大人になりたいけれど大人になりきれない苛立ちもあって、その苛立ちを誰かにぶつけないとやりきれなくて、その矛先が零くん。香子は「将棋に人生を奪われた」と言っていますが、実は誰よりも将棋を愛している。だから香子も歩も、救われてほしいと思っています。

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

──その救い、伝わってきました。一方、川本家においては、父親の誠二郎が現れることで一波乱おきます。あかりさんも大きな決断をしますね。

あかりさんは母性的で美人で、誰もが甘えたくなるような女性です。でも、決して菩薩ではない。では、なぜいつも笑顔なのか──それは、あかりさんの中にもライオンはいて、修羅を抱えて生きているけれど、その修羅を、ネガティブな感情を押し隠して生きるために必死なんだと思う。後編の彼女のセリフにもありますが、自分がひなたとモモの親代わりにならなくてはならないから、泣き顔や困った顔を見せられないわけです。ひなたもモモもどんどん成長していくことで、親代わりとして彼女たちと向きあわなくてはならなくなってくる。そんなときに、いいタイミングで誠二郎が現れるわけです(苦笑)。

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

──桐山が誠二郎をやり込めるシーンもありますが、それでも誠二郎を憎めないキャラクターにしたのは何故ですか。

彼は本当に酷い男ですが、生身の人間が演じることによって、家族を捨てたけれど誠二郎は本当に酷い男なのか? というテーマも投げかけています。というのは、3姉妹の母親が選んだ人であり、少なくともあかりとひなたは、彼が“お父さん”であった時期を知っているわけです。でも、愛する妻を失ったことで、彼のなかで何かが壊れてしまったとしたら──生身の人間が演じることで、そんな想像もできる。世間から非常識だと思われたとしても、もしかすると1%ぐらいは誠二郎の気持ちがわかる人がいるかもしれない。それを感じさせてくれるのは、3姉妹の表情や演技、誠二郎との別れのシーンの彼女たちが滲み出しているものです。そして、零くんが将棋で生きていくと決めるように、あかりさんは川本家の主人になることを決める。それぞれがそれぞれの置かれた環境でプロフェッショナルになる瞬間は、選択の瞬間、決断の瞬間、そして始まりの瞬間でもあるんです。人生はまだまだ続いていく。だからパート1も2もどちらもリスタートの地点にみんなを立たせて終わらせたかった。

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

──大友監督にとってのプロフェッショナルになる決断の瞬間はいつだったのでしょうか。

僕の場合はNHK時代、ハリウッドから帰国した辺りです。技術というよりもメンタリティーの変化でした。どこにも拠りかからず、一人のプロフェッショナルとして食べていくとはどういうことなのかと考え始めた。この人のためなら──と、情を持つことや情に動かされることも大切ですが、映画作りにおいては、誰かのためではなく、この作品のために一生懸命にやりたい、そういう人たちと仕事がしたいと。結局僕は、個人主義というものにどこか理想を追い求めているのだと思います。個人であろうとすることには、不安も孤独もつきものです。でも、それらもすべて抱え込みながら、自分の足だけで立つ、凜として立とうとしている人が好き。それは俳優にもスタッフにも言えることです。「よーい、スタート」の後は、僕は俳優を助けてあげることはできないですから……。なかには助け船を出さないと不安になる俳優もいます。でも、神木隆之介は違った。彼は幼い頃から“カメラの前に立ったら誰も助けてくれない”ことを身に染みて育ってきた。だから神木くんの「僕は芝居だけできればいいです」という欲望は、他の人の欲とはちょっと違う気がする。おそらくこうやって分析みたいなことをされるのもイヤなはずで(苦笑)、それが彼の自分の守り方、闘い方なんじゃないかな。どこかでこの映画の“ありよう”に通じるんですよね。

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

──本当にハマり役だったわけですね。その成長した桐山に刺激を受け、宗谷冬司がどういう道を歩んでいくのかも気になります。

零くんは嵐のなかで舟を漕いでいて、これからほんの少しの間は、凪のなかを渡っていくのかもしれない。一方、宗谷は彼が抱えている秘密も含めて、嵐にみえる凪のなかにいる。強靭な精神力で嵐を凪に変えて生きているんです。そう捉えると、後編のエンディングのその先、宗谷がどうなっていくのかを考えるのも楽しいはずです。この映画を撮って思うのは、本当のクリエイティブは、安寧秩序のなかからしか生まれないのかもしれない、ということです。棋士の場合、睡眠時間が5時間だとして、残りの19時間は、将棋のことを考えていて、さらに将棋を指していない時間をどう過ごすのかが勝負を決めるのではないかと、将棋の棋譜も棋士としての生き方も決まってくるのではないかと思うんです。ひふみんの愛称で知られる棋士の加藤一二三九段は敬けんなクリスチャンですが、彼がドキュメンタリーで祈っている姿を見て、ふとそう思いました。そして(ひふみんも)零くんも宗谷も誰もが心のなかにライオン=修羅を抱えている。ライオンたちの物語だから“獅子王戦”なんです。でも、ライオンだって戦ってばかりではなく穏やかになるときがあって、それを“ひつじ”と例えていますが、その中で、あるものは静かに祈りながら、またある者は愛する者との時間を過ごしながら、また戦うための力を蓄えていく。そうして、またすぐにライオンに戻らなければならない。いつでも吠える準備、闘う準備をしなくてはならないわけです。そもそもなぜ闘うのか? それは穏やかなとき、豊穣のときを迎えたいからであって、生きていくということはその繰り返し。だからこそ、この『3月のライオン』というタイトルは秀逸であり、その物語は人々の心に残っていくのだと思う。この映画のラストには零くんが豊穣の時を迎える、豊かなシーンを目にできると思います。

(取材・文:新谷里映)


映画『3月のライオン』
2017年 【前編】大ヒット上映中
【後編】 4月22日(土)全国ロードショー

監督:大友啓史
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 清原果耶
佐々木蔵之介 加瀬亮
前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏
伊藤英明 / 豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース

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