「それでも、いい恋愛だったと、いつか言える日のために」―『ナラタージュ』行定勲監督インタビュー

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行定勲監督

行定勲監督

映画『ナラタージュ』。控え目に言って、これは最良の有村架純である。

「彼女の『ビリギャル』や幾つかの連ドラを観ていると、ちゃんと誠実にそれぞれの役に向き合ってる印象があって。しかも毎回違う。この役は彼女自身のアイデンティティとは違うと思うけど、どこかで自分のアイデンティティを絞り出さないといけない役。わからなくても、どこかで共感しないと演じられないし、乗り越えられない役。だから彼女はほんとうに苦しかったんじゃないかな。(いわゆる)憑依しているとか、そういうものでもないから。これ、別な人が演じたら、絶対別のものになるだろうなと。彼女が演じたらどんな感じになるのかなと思ったんです。非常に生々しくやってくれた。目線、まなざしがすごく良くて。いちばん望みだったのは、(相手役の)松本(潤)君は設定では33、34歳なんですけど、彼の年齢より、ときに上に見えることだったんです」

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

行定勲監督はそう語る。確かに。ポイントはそこかもしれない。

「あるでしょ。ふたり並んでいても女のほうが(年上に見える)。僕は男の感覚で演出しているから。たとえば僕が10歳、20歳下の女性スタッフとメシを食ってても、ときに上に見えたりするんですよね。女って(男とは違ったかたちで)成熟するっていうか」

物語はいたってシンプルだ。高校時代、自分を救ってくれた恩師。女生徒は彼に教師以上の想いを抱いていた。いまは大学生となった彼女に、その人から連絡がくる。再燃する彼女は、思わぬ道に踏み出していく。

『ナラタージュ』は、観る者の恋愛体験を引き摺り出し、そこに語りかけてくる映画である。それぞれの女性観、男性観が試され浮き彫りになる。

監督へのインタビューも、つい恋愛話になってしまう。悩ましい誘惑をはらんだ映画なのである。

女性は精神年齢が高い。そして、関係性によって成立する恋愛においてはそのことが顕著になる。

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

「男はどこかでやんちゃな自分というものを追い求めてるっていうか。19歳頃の自分を理想としてないですか? あの頃のオレは無敵だと」

追いかけている(笑)。

「全然ダメ(笑)。そういう部分で成熟しきれていない男たちが、何かを履き違えて女の人と触れ合って、女の人を傷つけていく。それに(女性のほうが)気づいたときは大抵遅くて。もう謝り続けるしかない」

松本扮する教師は、かつての自分の幻影を追っている。つまり煮え切らない男。そして、謝り続ける。

「たぶん、あるときから何も変わってないんですよ。だけど現実だけはのしかかってくる。そもそも社会的な責任を負わせるのは男には向いてないですよ。女のほうが向いている。僕はそう思うんです。女の人のほうが、感情だけではないところで動いてるんじゃないですか。女のほうが感情的に見えるけれども。どこかで冷静になって、事の整理がちゃんとできている。なおかつ誇張しない。綺麗事じゃない自分を受けとめている。男は困ったことを忘れていこうとする(笑)」

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

男には、向き合いたくないことには向き合わない性質がある。

「これは、そういう映画だろうなと。実は男の人のほうが立ち直りがはやいと思うんです。よく女の人は立ち直りが早いというけど。ほんとは女の人のほうが自分が傷ついたことはずっと憶えてる。で、男のひとは傷つけたことを忘れてしまう。それは、びっくりするくらい。自分でも思うことですね。男も傷つきはするんだろうけど……でも、すぐ立ち直るんだろうな。向き合い方は女の人のほうが深い。それでも、いい恋愛だった、といつか言えるかもしれない。『ナラタージュ』ならそれができるかもしれないと思ったんです」

女と男では、同じ恋愛をしているにせよ、それぞれに流れている時間はまったく違う。ヒロインに寄り添う作品の筆致が、そのことに気づかせる。

「そういう意味では、いかに松本潤という存在がカッコよく見えないようにするか。でも、カッコ悪いのはダメなんだよね。だって、彼女はどこか惹かれたわけだから。清潔感はあるんだけれども、喪失感が漂っていて、輪郭がボケている。それがよくわからないから惹かれるということはある。かつて恋愛でヘマを犯した人は、自分をそこに見ると思います。自分はこうじゃなかったよ、と思いつつも(笑)。あんまりそういう恋愛映画を最近観てないなと」

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

ときめいたり、ハッピーになったりするラブストーリーは多い。が、上手くいかなかったり、失敗する恋愛劇はあまりお目にかかれなくなっている。

「冷や汗をかく映画にしようと。爽やかな汗を流して彼女のために献身的に尽くす男じゃなくて。真逆にすればいいんだと。主人公が非常にひたむきに彼のためを思って決断することが、逆に逆にいってしまう。これも恋愛のひとつの在り方なんじゃないかと」

ままならないこと。うまくいかないこと。それらも映画は肯定しようとする。

「むしろ、そっちのほうが多いんじゃないかと思って。タレントも政治家も脇が甘くてボロ(不倫など)が出たりしてますよね。でも、それって、すごく人間らしくていいと思うんですよ。なんでそれを肯定しないだろう。みんな、多かれ少なかれボロはあるでしょ。恋愛って、愚かな行為をしがちじゃないですか。エゴが出てきちゃうんで。どんなに好きでも、いらついたり、ケンカになったりね」

監督はあらためて言う。

「いちばんは、謝ってばかりで(自分を)変えようとしない男に対する戒め」

耳が痛い話である。

「それは原作読んでいちばん思ったことですね。そこを(映画だからと言って)カッコよくしたくないなと。割り切れない部分を描くものだから、演じるほうは難しいですよね。どういう結果になるかわからない感情。でも,そういうもののほうが面白いだろうなって。どういう気持ちでいるんだろう? と役者が自分の中で作っていく。みんな、よくやってくれました」

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

(C)2017「ナラタージュ」製作委員会

割り切れない話を監督は長い時間かけて映画にした。島本理生の小説『ナラタージュ』に着手したのは10年前のことである。

『パレード』は8年。『真夜中の五分前』は7年かかってます。僕は仕込んでから出来上がるまで、なぜか時間がかかるんですよ(笑)」

だからなのだろう。いいワインのような熟成がここにはある。熟成は映画を香り高き普遍性へと到達させる。

「普遍的なものを目指したら、もう終わりだよ。この前、ある人がそう書いてたんです。つまり、それは、新しいものを過激に作り続けろ、ってことなんだけど。僕はそうじゃなくて、結果的に、10年、20年、先の人が観ても古びてないものが普遍だと思う。男と女の関係はとどのつまり、在り方が変わったとしても――草食男子、肉食女子になっても――こうなんじゃないかなと。ただ、女が強い時代にはなった。10年前なら、男の身勝手に振り回されているように見えたかもしれないこの物語が、10年経ってみて女の芯の強さが見えるようになった。10年前と脚本は変わってないですよ。でも、可哀想な女には見えない。男のほうがダメ。そこに生々しさが加わる。そういう意味では、この物語の普遍性がいまの時代にフィットしたのだと思います」

(取材・文:相田冬二)


映画『ナラタージュ』
10月7日(土) 全国ロードショー

【ストーリー】 壊れるくらい、あなたが好きでした。
大学2年生の春。泉のもとに高校の演劇部の顧問教師・葉山から、後輩の為に卒業公演に参加してくれないかと、誘いの電話がくる。葉山は、高校時代、学校に馴染めずにいた泉を救ってくれた教師だった。卒業式の日の誰にも言えない葉山との思い出を胸にしまっていた泉だったが、再会により気持ちが募っていく。二人の想いが重なりかけたとき、泉は葉山から離婚の成立していない妻の存在を告げられる。葉山の告白を聞き、彼を忘れようとする泉だったが、ある事件が起こる――。

松本 潤 有村架純 
坂口健太郎 大西礼芳 古舘佑太郎 神岡実希 駒木根隆介 金子大地/市川実日子 瀬戸康史
監督:行定勲 
原作:島本理生(「ナラタージュ」角川文庫刊) 
脚本:堀泉杏
音楽:めいなCo.
主題歌:「ナラタージュ」adieu(ソニー・ミュージックレコーズ)/作詞・作曲:野田洋次郎
配給:東宝=アスミック・エース

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島本理生

生年月日1983年5月18日(34歳)
星座おうし座
出生地東京都板橋区

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