写真家・宮澤正明氏インタビュー 伊勢神宮~神話の時代から続く人と森との関係~

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『うみやまあひだ』

『うみやまあひだ』

広告・ファッションの業界から写真界を先導してきた宮澤正明氏は、2004年の新嘗祭から継続して伊勢神宮の撮影を行い、2005年には第62回伊勢神宮式年遷宮の正式な撮影許諾を受けた写真家だ。自らのテーマで作品を撮り、発表することを認められた数少ない写真家として、これまでの10年間で奉納した写真の点数は約6万点にも上る。そして2015年、その集大成として3月には第62回神宮式年遷宮を記録した全記録写真集『遷宮』が発売され、さらには日本初となる「4K」で撮影されたドキュメンタリー映画『うみやまあひだ』も公開される。広告やファッションの世界と、深い森に囲まれた伊勢神宮とは対照的にも思えるが、宮澤氏はどのような経緯で、伊勢神宮の撮影を始めることになったのだろうか。

赤外線から入った

学生時代から赤外線撮影に興味があった

赤外線写真がライフワーク

「大学の写真学科に入学した頃から、目に見えない光で撮影できる赤外線写真に興味を持ち、それ以来ライフワークとして赤外線写真を用いた作品の制作を続けてきました。僕が30代の頃、熊野三山をテーマにした作品を撮影して展示を行ったことがあるのですが、そのときに知り合ったライターの方から伊勢神宮の方を紹介してもらったのが最初の出会いです。伊勢神宮は深夜の祭りが多いため、赤外線写真の撮影技法が必要でした。僕は2004年の神嘗祭で初めて撮影に呼んでいただき、その後に第62回式年遷宮の撮影を相談され、正式な神宮の写真家としての活動が始まりました。

ただし、僕はもともと伊勢神宮や神道に対して特別な興味を持っていたわけではないんです。ですが伊勢神宮に関わるうちに、人間の叡智を超えたものとして感じられてきました。二千年もの間、人間と森が共存関係を築いてきたということが伊勢神宮のバックボーン。山を育て、森を育て、人と自然の関係が続いていくもの。伊勢神宮は循環再生型の文明そのものなんです」

神職の人々と同じ姿勢で撮影に臨む

伊勢神宮は誰にでも撮影できるものではない。となれば、撮影の際にはやはり何らかの特別な意識が働くのではないだろうか。伊勢神宮にレンズを向けようという際、宮澤氏は何を考え、その胸中にどのような思いを抱いているのか。

「伊勢神宮は1000年以上前とほとんど変わらない風景を今も見せてくれます。僕はその伊勢の神話を旅しているわけで、それらを単なる“記録”ではなく自分の“記憶”として残したい。自分の視点を持ちながら伊勢を歩き、神話の時代を想像しながら撮影しています。それに伊勢神宮を撮影するということは気軽にできるものではありませんから、独特の緊張感もあります。例えば僕自身は神職ではないものの、撮影の前夜には四足の動物の肉を食べないなど、神職の方々と同じことを自主的に行って撮影に臨むようにしています。やはり自分の中で姿勢を正すことは必要です。そうしないと何か不思議なトラブルが起こらないとも限らない。そう思わせるような緊張感が伊勢神宮にはあるのです。

実際に不思議というか、超常的な感覚を覚えたことはあります。以前の第61回式年遷宮の夜には、息を呑むほど星が美しかったと聞きますが、僕が立ち会った今回の第62回の式年遷宮では、感動するような清々しい風が吹きました。言葉で伝えるのは難しいのですが、その場にいた誰もが息を呑むような優しい、清らかな風が僕たちに向かって吹き降りてくる。神様が降りてくるようだったと、僕と同じ感想を抱いた人も多かったようです」

宮澤正明氏

宮澤正明氏

4Kだから実現した深山幽谷の表現

ある時、宮澤氏に転機が訪れる。それは、第62回の式年遷宮の際にプロデューサーから声をかけられた映画制作の誘いだった。「現代に生きる神話」という一つのテーマで長年にわたり伊勢神宮を撮影してきた宮澤氏は、一方で「リアリティの枯渇」も感じていたという。宮澤氏にとって、映画の撮影は新たな世界に挑戦できる格好のチャンスだった。そこで宮澤氏は、森をテーマにしたドキュメンタリー映画の撮影に乗り出す。

「一眼レフでの動画撮影が可能になった時代とは言え、写真家はあくまでも写真家。自分にできるものでないと撮りたくはない。何より本職の映画監督に失礼にならないものを作りたかったんです。そこで、写真家が映画を撮るならドキュメンタリーだろうと。そして森の表情を本当に表現しようとするならば、4Kで撮るしかありません」

4Kとは、フルハイビジョンを凌駕する高画質の映像のこと。日本ではまだ、4Kでドキュメンタリー作品が撮られた例はない。宮澤氏は5~6人という少数の撮影チームを組み、機動性に優れた撮影機材を持って、山へ、鎮守の森へと深く潜っていく。神宮の神域林、木曽の大檜林、白神山地といった神話の世界の奥深くまで分け入り、その表情を4Kのカメラに収めていく。宮澤氏は「4Kによって、森を隅々まで鮮明に表現することができた」と手応えを語る。

「森に関わるさまざまな人にインタビューをしたのですが、その際にもナレーションを入れることなく、語り手の人たちの言葉をそのまま伝えたかった。1年間の撮影期間で、神職の方や漁師の方、宮大工の棟梁の方などに話を聞きに行きましたが、自然について質問すれば皆さん積極的に話をしてくれました。リアリティとして、写真とはまた違う世界を表現できたと思います」

日本人にとって伊勢神宮とは何なのか

日本には伊勢神宮があり、そこには二千年にわたり続いている歴史がある。日本人にとって伊勢神宮とは一体何なのだろうか。10年以上にわたって伊勢神宮を見つめ続けてきた宮澤氏は、自身の“記憶”を通じて語る。

「世の中には閉塞感が漂い、自分探しという言葉も流行っていますが、自分たちのアイデンティティを失い、彷徨っている人たちが多いのかもしれません。しかし、伊勢神宮では二千年もの間、人と自然との関係が循環しており、その文化や伝統が変わらずに続いているということは素晴らしいこと。伊勢神宮は日本人の心であり、原点。そのような伊勢神宮の存在を日本人として誇りに思って欲しいと思います」

人と森との豊かな関係が神話の時代から現代まで生き続け、今も循環と再生を続けている稀有な場所。それが伊勢神宮という存在である。宮澤氏の撮影した写真とドキュメンタリー映画は、伊勢神宮を知り、その裏にある途方も無い文化の厚みと、現代に生きる神話の肌触りを感じる手助けとなるに違いない。

(文:玉田光史郎)

写真家
宮澤正明◎みやざわまさあき

1960 年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、赤外写真作品『夢十夜』にて写真界のアカデミー賞とも言われるICP(国際写真センター 本部:ニューヨーク) 第1回新人賞を受賞。帰国後はファッション・広告など幅広い分野で撮影を行う。一方で日本の原風景の撮影をライフワークとし、赤富士をモチーフとした作品『Red Dragon』は上海での写真展(2012年)で好評を博した。

宮澤正明オフィシャルサイト 

代官山T-SITE 写真展「宮澤正明 伊勢神話への旅

1月21日(水)~2月7日(土) 会場◎代官山 蔦屋書店2号館1F ギャラリー
2月3日(火)~2月22日(日) 会場◎代官山 蔦屋書店2号館2F Anjin

2015年2月5日(木) 「伊勢神話への旅」開催記念 宮澤正明トークショー

特別ゲスト:阿川佐和子さん

2月5日(木) 開場:18時30分 開演:19時

会場:代官山 蔦屋書店2号館2階Anjin

詳細はイベントページにてご確認ください。

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