これからのファッションの伝え方/『STUDY』長畑宏明×坂田真彦×有賀裕一郎トークイベントレポート

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2014年末、長畑宏明氏によりインディペンデントで創刊されたファッション誌『STUDY』。代官山 蔦屋書店では、1月31日に長畑氏が学生時代から交流を持っているという編集者の有賀裕一郎氏(株式会社ハースト婦人画報社)と坂田真彦氏(アーカイブ&スタイル)を迎えたトークイベントが開催された。

ファッション雑誌がかつてのような求心力を失いつつある現在、これから求められるファッションの伝え方とは。そしてこれからの雑誌の在り方とは。3人の会話から答えを読み解いていきたい。

若手編集長の思いと、先輩二人の感想

『STUDY』

長畑:『STUDY』を創刊する際、真っ先に相談させていただいたのがお二人でした。会社を辞めたとき、坂田さんに「何やりたいの?」って聞かれて「リアルな雑誌を作りたいんです」と答えたら、「それはアイディアとは違う」と一蹴されてヘコみましたね。

坂田:今でもそう答えると思うけど(笑)。あの時は「今の雑誌が面白くないんです」と息巻いているのを聞いて、自分の若い頃を思い出したね。

有賀:雑誌をやったことがないのにやるっていうから、正直、思いとどまってくれないかなって(笑)。でも雑誌の感想を先に言っちゃうと、ここまでのものができるかって驚いた。レイアウトも斬新で構成も面白い。

長畑:ありがとうございます。でも創刊祝いでお二人にご飯に連れて行ってもらったとき、1ページずつめくりながら「この撮り方はいいね」「ここはよくない」とか目の前で感想言われるのは地獄のような時間でした(笑)。

坂田:『STUDY』に対する僕の感想は、長畑くんのパーソナリティがよく出てるなと。これは自分の半径50m以内で作ったなって思った。デザイナーのデビューコレクションでも「自分のワードローブから作りました」みたいな人は多いけど、その人の背景が見えるのはリアリティをぶつけている感じで良いと思う。

長畑:それはかなり意識してました。紙にして伝えるのは読み手に対してものすごい責任があるから、自分が知ってる範囲で作るしかないって思ってました。

作り手と読み手は、どれだけ寄り添うべきか

長畑:『STUDY』のコンセプトを読み手が完璧に理解することなんて不可能だし、そんな必要もないと思っています。ある場所に100人が来て、5人が気に入って、でも次も来てくれるのは1人。そういう感覚でモノづくりすべきというのは、村上春樹の小説を呼んで学んだことです。でも『STUDY』を読んだ人が何かしら行動に移してくれたら嬉しいですね。洋服に対して今以上に愛情を持つ、なんてことでもいいので。

坂田:僕は今三つのブランドをディレクションしているけど、たしかに物だけが一人歩きする感覚はあるね。それでも、僕は自分が作った物の一番のファンは自分だと思っている。その自分が見て、自分の軸で納得できることが大切。みんなが喜んでくれても自分が納得できなかったら意味がない。

有賀:マーケティングの話をすると長畑くんは嫌がると思うけれど(笑)、「Excelは何でも知っている」という編集長もいるし、説得力としてそういうものが役に立つのは確かだと思います。しかも、長年培ってきた編集者の肌感覚があれば、大きく狙いが外れるということはあまりない。いまは少人数でやっているから問題ないけれど、会社として社員を養うとなるとターゲットを外すわけにはいかないからね。

長畑:マーケティングが好きか嫌いかと言われれば嫌いですが(笑)、でもとても大事な話だと思います。そういう意味で、僕は自分が良いサンプルだと思っているんです。ミーハーな性格ですから、自分が気になることなら、そこには何かあるんだろうと。写真の話をすると「今っぽい写真」って間違いなくあるんですが、そういう写真だけ選ぶと逆に今っぽくなくなるから、主観を入れないといけない。写真同様、雑誌に自分の主観をどれだけ入れるかというさじ加減は難しいですね。

写真に写らない部分に宿るもの

鈴木親さんによる写真の誌面

長畑:『STUDY』の巻末ファッションストーリーでは写真家の作家性を一番大事にしたいと思って、鈴木親さんにお願いしました。鈴木さんは撮影がすごく早くて、現場ではふんわりとした指示だったのに、上がってきたポジフィルムを見ると全カットがストーリーとして完全に成立してたんです。格好良くて泣きそうになりました。そこでまたお二人に質問したいんですが、良いファッションストーリーって何だと思われますか?

坂田:思い出深かったファッションストーリーで答えさせてもらうけど、アーティスト集団「バッファロー(BUFFALO)」のバリー・ケイメンと15年前くらいに仕事をしたことがあって、スタイリングを組んだ後、最後に香水をかけたんだよね。この人にはこの香水がピッタリだ、というところまで考えていた。写真だから香水の香りは当然写らないんだけど、フレームに収まらないところにまでこだわっていたのは印象的だった。

有賀:紙の雑誌って、読者が最初にどのページを開くか分からないから全カット油断できない。見開きの1カットで成立していないといけない。それに良いファッションストーリーは、たとえドイツ語やフランス語など日本人が分からない言語のページでも、見ただけでテーマが伝わってくるものだね。テーマは説明するものじゃないから。

今、ファッション雑誌が存在する意義とは

長畑:雑誌って、今もファッションにおいてメインの媒体だと思います。個人的にファッション雑誌の目的って何だろうと考えることも多いのですが、雑誌が存在する意義についてお二人にも聞きたいです。

有賀:僕は16年『メンズクラブ』の編集をやってきて、女性誌『25ans(ヴァンサンカン)』の編集にも携わっていた時期があるけれど、男性誌と女性誌は違うよね。女性誌は見て美しい、麗しい、かわいい、というのが一番大事。逆に男性誌はテーマを取り上げた理由が重要視される。「なぜ今、そのアイテムなのか」まで必要。

長畑:有賀さんは雑誌編集を突き詰めていますよね。王道を知っている。だからこそ、ファッション雑誌のファンタジーについて聞きたいんです。たとえば砂漠でモデルに洋服を着せて遠くから撮影したら、当然ディテールはよく見えない。でも格好良い。それが機能するとしたら、どういうことなんでしょうか。仮にメゾンブランドを使ったルックを見て「格好良い」と思っても、実際に買うのは古着やユニクロだったいする。文化と消費のあいだに大きな隔たりがあるというか、ファンタジーが通じなくなっているんじゃないかと思うんです。

有賀:雑誌のビジュアルを見て、百貨店に電話で問い合わせる。そういう流れはたしかに80年代にはあった。でも今、ディテールや値段はネットで分かるよね。そんな時代だから、ファッション写真はファンタジーとしてのイメージ付けの要素の方が強くなっていると思う。

坂田:自分が雑誌やホームページ用に撮影するときは、逆にファンタジーを求めるよ。大事なのは、自分たちは何を伝えたくてシューティングするか。リアルだけじゃつまらないと思う。ファンタジーだけで終わってしまっても、ファッションはそんなものであってもいいのかもしれない。少なくとも僕は、ファンタジーで何かを感じてもらうために切磋琢磨しているのが好き。

長畑:僕は『HUGE』という雑誌が好きでした。『HUGE』という雑誌はある時からずっとファンタジーだったと思うんです。自分の生活感覚とは程遠い服やカルチャーを取り上げていましたし、僕は『HUGE』に掲載されていた服を買ったこともありません。それでも『HUGE』から教えてもらったスタイルは今の物選びに生きています。そういう意味で、ファンタジーが残る場所はもっとあってもいいんじゃないかと思います。僕が『STUDY』のファッションストーリーの撮影を鈴木親さんにお願いした理由は、いまの感覚でファンタジーを伝えたかったからです。ややこしい話ですが、僕にとってはそれがリアルなので。


ファッションと雑誌に関する濃密なトークは約2時間に及んだ。自らのパーソナルをベースに物事を熱く語る長畑氏の情熱は、その場に居合わせた来場者たちに少なからず伝播したことだろう。これからのファッションとは、雑誌とは。『STUDY』が切り拓いていく先に、その答えがあるのかもしれない。

(文:玉田光史郎)

◆長畑さんが影響を受けた書籍・音楽

長畑さんがイベント会場でディスプレーしていた、ファッションについて考える上で影響を受けた書籍・音楽。アツいコメント付きでご紹介!

『Encyclopedia』

The Drums

「STUDY創刊号でインタビューを掲載したザ・ドラムスの最新作。相次ぐメンバーの脱退など紆余曲折を経て、自分たちのルーツと気分にとことん正直になった彼らが、ちょっぴりダークだけど温かみのあるポップアルバムを作ってくれました」

希望をくれる人に僕は会いたい

若木信吾 著、日本経済新聞出版社 刊

「色々な人たちに会って話をして写真を撮って変えるという行為の記録に、余計なデフォルメはなし。柔らかくもなく、堅くもない。僕も希望をくれる人に会いたいです」

『The Sartorialist』

スコット・シューマン 著、Penguin Books 刊

「大学生1年か2年の頃に初めて見たこのスナップサイトのおかげで、ファッションの多様性に気付くことができました。全ページ読んでいてドキドキが止まらない。日本人が欧米人と対等のスタイルを持っていると確信が持てたのもこの本のおかげ」

『もういちど村上春樹にご用心』

内田樹 著、アルテスパブリッシング 刊

「内田樹さんは、村上春樹の作品にある共通した『構造』について語ることで、いまを能動的に生きるためのヒントを読者に与えてくれている、と勝手に思っています」

『就職しないで生きるには』

レイモンド・マンゴー 著、晶文社 刊

「胡散臭いサクセスストーリーでもなく、”魔法の粉”のような自己啓発本でもなく、『就職しないで生きるには(どうしたら良いんだろうね)』という素敵な無責任さが読者に希望を与えてくれる、これぞ名著」

『THE SUKIMONO BOOK06 SUKIMONO MAP』

原田学 著、Mo-Green 刊

「いつまでも好奇心旺盛で、現場に執着する原田さんの姿勢は、僕たちの憧れです。細部に寄りすぎて何のこっちゃ分からない原田さんの絵こそ、愛だ。さあ、まずは高円寺から」

『SAKURA! 安藤サクラ写真集』

鈴木親 撮影、リトルモア 刊

「この写真週は僕の理解を越えて素晴らしい。でも、理解を越えているので、うまく言葉では説明できません。親さんのいまのモードをただ感じ取るだけです」

【プロフィール】

●STUDY編集人 長畑宏明/1987年大阪府生まれ。大学入学後まもなく音楽雑誌『Cookie Scene』のライターとして活動をスタートさせ、大学4年の時にスナップサイト『howtodancewithyou』を立ち上げる。また、当時『メンズクラブ』の編集者だった有賀さんを撮影したことがきっかけで、同誌でも一時期アルバイトとしてスナップページを担当。大学卒業後はファッション専門のウェブ会社に入社。2014年4月に退社したあとはフリーの編集/ライターとして活動する傍ら、『STUDY』の編集作業を行う。2014年12月に『STUDY』創刊。

●アーカイブ&スタイル代表 坂田真彦/<1970年和歌山県生まれ。高校卒業と同時に上京し、バンタンデザイン研究所に入学。卒業後、いくつかのコレクションブランドを渡り歩く。04年にはデザインスタジオ「アーカイブ & スタイル」を設立し、06年から13年までは青山でヴィンテージショップのオーナーでもあった。現在は、複数の人気ブランドのディレクションを手掛ける。国内外問わず、オリジナルの生地開発からプロダクトデザイン、空間ディレクションまで幅広く活躍中。

●株式会社ハースト婦人画報社 編集者 有賀裕一郎/1973年東京生まれ。大学卒業後、株式会社婦人画報社(現・株式会社ハースト婦人画報社)に入社。メンズクラブ編集部に配属され、ファッション、時計、アイウエアなどに関するページを担当。ヴァンサンカン・リシェス編集部を経て、現在企業出版部にて企業のカタログ、広報誌の制作に携わる。

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