アカデミー賞監督がどうしても描きたかったのは“紛争”ではなく“人間そのもの”―『あの日の声を探して』ミシェル・アザナヴィシウス監督インタビュー

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ミシェル・アザナヴィシウス監督

ミシェル・アザナヴィシウス監督

「つねに人々をあっと驚かせる映画を作りたい」と、テレビ界から映画界へと活躍の場を広げてきたフランスのミシェル・アザナヴィシウス監督。その言葉のとおり3年前、白黒のサイレント映画『アーティスト』を作り、2011年度のアカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など5部門を受賞。世界中を驚かせた。

そのアザナヴィシウス監督が「どうしても描きたい」と願い続け、次に取り組んだ題材はチェチェン紛争だった。『アーティスト』は甘く切ない愛を描くことで心を揺さぶったのに対し、新作『あの日の声を探して』は戦争のなかで懸命に生き抜く人々の姿を描くことでふたたび私たちの心を揺さぶる。なぜ、チェチェン紛争を題材にしたのか、何を伝えたかったのか──。

(c) La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

(c) La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

「僕はいつも8〜10本くらいの企画を温めているんです。実はこの映画の企画は『アーティスト』の企画と同時期に考えていたものですが、スケールも大きく資金集めが大変だったこともあって先に『アーティスト』を撮りました。アカデミー賞5冠を得たことは映画制作においてすごく大きかったですね。そのおかげで『あの日の声を探して』に取りかかれることになったんですから」と語るように、舞台設定は1999年にロシアに侵攻された紛争地チェチェン。両親を目の前で殺され声を失った少年ハジ、彼を救おうとするけれど自分の無力さに絶望するEU職員のキャロル、ロシア軍に強制入隊させられた青年コーリャ、この3人のヒューマンドラマを軸に、戦争がもたらすものをあぶり出していく。とてもリアルに。

「チェチェン紛争を題材に選んだ理由は、現代戦争の代表的なものだと思ったからです。20〜30万人にもおよぶたくさんの民間人が殺戮されたのに、その紛争に関して国際社会の無能さを呈してしまった。現代の紛争を語るには適していると思いましたし、チェチェンの人々は虐殺されているのにテロリストだと言われている、そのことに関してももの申したかったんです」。原案である「山河遙かなり」(フレッド・ジンネマン著)をはじめ、数多くの関連書物を読み、記録映像を見て、戦争を体験した人たちを取材して情報を集めていったそうだが、監督のなかには戦争映画を作るという気持ちはなかったと言う。描きたかったのは、人間そのもの。

(c) La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

(c) La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

「戦争という誰にでも起こりうる危機的な状況のなかで人間はどう行動するのか、自分の生活の変化、他者との関係性、人間の総合的な危機的状況を描きたかった。というのも、戦争の犠牲者になった人たちはどういう人たちなんだろうと疑問を抱いたとしてもニュースから彼らの実状は見えてはこない。だから、その実像を追いかけてみたかったんです」

戦争は一瞬にして人間を非人間にし、それまで信じていたものが一変に崩壊する。戦争に巻き込まれた人々を描くことによって見えてくる現実は衝撃的であり、監督がこだわった手持ちカメラによって映し出される映像から伝わってくる臨場感は圧倒的だ。そして、戦争下では「すべての人が被害者」ではあるけれど、そこには善し悪しがあると伝える。

「危機的な状況に置かれることで、人間の良い面も悪い面も浮き彫りになっていくんです。生きるか死ぬかのギリギリの状況だからこそ、ふだんとは比較にならないほどの勇気が出ることもあるでしょうし、連帯感が生まれたりすることもある。また、卑怯で残虐な人間の闇の部分が出てくるかもしれない。言えることは、どんな状況でも人間は順応できる生き物だということです。この映画のハジもそうです。声を失うほどの悲しみを味わっても、どんなに過酷であっても順応して生き延びていこうとします。一方、コーリャの場合は音楽と自由を謳歌していたごく普通の青年が殺人兵器と化していく姿は見ていて背筋が凍りますが、それもまた生きるということなんです」

(c) La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

(c) La Petite Reine / La Classe Américaine / Roger Arpajou

物語の結末は「黒でもないし、白でもない。それでもわずかな希望を感じられる」と監督が言葉を残すように、この映画を観たあとは言いようのないズシリと重たいものが心を占領し、否応なしに考えるだろう。生きること、生きようとすることについて。その重みがあるからこそ、一生忘れない映画として刻まれるのかもしれない。

(取材・文:新谷里映)


映画『あの日の声を探して』
4月24日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国順次公開

<STORY>
1999年、チェチェンに暮らす9歳のハジは、両親を銃殺されたショックで声を失ってしまう。姉も殺されたと思い、まだ赤ん坊の弟を見知らぬ人の家の前に捨て、一人放浪するハジ。彼のような子供さえも、ロシア軍は容赦なく攻撃していた。ロシア軍から逃げ、街へたどり着いたハジは、フランスから調査に来たEU職員のキャロルに拾われる。自分の手では何も世界を変えられないと知ったキャロルは、せめて目の前の小さな命を守りたいと願い始める。ハジがどうしても伝えたかったこととは?生き別れた姉弟と再び会うことができるのか―?

監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス(『アーティスト』)
出演:ベレニス・ベジョ(『アーティスト』)、アネット・ベニング(『キッズ・オールライト』)、アブドゥル・カリム・ママツイエフ、マキシム・エメリヤノフ
原題:THE SEARCH/2014年/フランス・グルジア合作/135分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/字幕翻訳訳:寺尾次郎
原案:フレッド・ジンネマン『山河遥かなり』
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
配給:ギャガ

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