「気持ちをぶつけるって、決して簡単なことじゃない」―映画『トイレのピエタ』野田洋次郎(RADWIMPS)×松永大司監督インタビュー

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松永大司監督、野田洋次郎(RADWIMPS)

松永大司監督、野田洋次郎(RADWIMPS)

引き寄せられる人がいる。引き寄せられる映画がある。引き寄せられてずっと心に残る人と映画がある──『トイレのピエタ』という何とも興味深いこのタイトルの向こう側には、生きること、死と向き合うこと、愛すること、シンプルで強烈で純粋な普遍的なものが描かれている。手塚治虫が病床で書いた日記の最後のページに遺されていた“トイレのピエタ”のアイデアに引き寄せられた松永大司監督、さらにそこに引き寄せられた野田洋次郎。そして私たちは、彼らに引き寄せられる──。

──松永監督にとってこの『トイレのピエタ』は初の長編劇映画監督作であり、「RADWIMPS(ラッドウィンプス)」として音楽活動をする野田さんにとっては俳優デビュー作となりました。監督は恋愛観や生死観を歌い続けている野田さんに園田宏を演じてほしかったとオファーしたそうですね。

松永:この映画の主人公の園田は絵を描いてきたという設定です。そういう役の場合、芝居で嘘をつけないというか、描いている姿に説得力のない人をキャスティングしても映画として違うなと思っていたんです。園田は絵でしか表現することができない男、それ以外はぶっきらぼうに生きている男、それは演出ではどうにもならないと思った。なので(俳優としてではなく)日々、表現をしている人は誰か……と考えたときに思い浮かんだのがミュージシャンでした。いろんな方のライブ映像を見るなかで「RADWIMPS」で歌っている野田さんの歌詞や言葉がとても魅力的で胸に迫るものがありました。「この人のこのパワーはいったい何なんだ!?」って驚かされたんです。

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

──それまでお2人に接点は?

野田:なかったですね。これまでにも演技のオファーがなかったわけじゃないんですが「なんでこの役が俺なんだ?」っていうものばかりで……。映画の曲を作ってほしいというオファーをもらうこともあったけれど、脚本を読んでも自分にとって面白いと判断できたことがあまりなかった。それが、今回の脚本はただただ面白かった。設定もストーリーもすごく面白くて。だから脚本も書いている松永監督に会いたいと思ったし、監督がどういう人なのか知りたいとも思った。で、なぜ僕なのかということを聞きたかったんです。

──今はすっかり意気投合している同志のように見えますが、はじめて会ったときのお互いの印象はどうだったのでしょう。

松永:それが、そんなに簡単なことではなかったんです。最初に会ったときは、園田役がなぜ野田さんなのかという説明と、なぜこの映画を作りたいのか、その理由を話しました。まだシナリオを渡していなかったし、ほんの少し話をしただけでしたね。

野田:そう、でしたね。監督がどんなオーラをまとっている人なのか楽しみにしていたんですけど、会ってみたら、でかい人だなぁ、前髪がななめだなぁ、姿勢がいいなぁっていう印象で(笑)。しかも会ったのがうちの事務所のかなり狭い部屋だったので……。

松永:僕もでかいですけど、洋次郎もかなりでかいからね(笑)。

野田:なんだか異様な空間でしたよね(笑)。その後、メールで文通的なやりとりをして、この人なら信じられるなって。僕は、最終的には直感を信じるタイプなんです。というのも、自分が直感を信じて選択してきたことの上に今の自分が立っていて、その“今の自分”が好きだから今回も自分の直感を信じてみようと思いました。ただ、映画に出るということは少し大きな一歩でしたけど。監督には「最後の最後まで諦めないでください」と、お願いをして「はい、分かりました」という言葉が返ってきました。やりとりはメールでしたが、それはまるでお互いが正座をして「よろしくお願いします」と言っているかのような感じでしたね。

松永:彼の決意のこもったメールをもらったとき、すごく嬉しかったんです。物作りって、想いの強い人たちによって作り上げられていくと思うんですね。僕にとってこの映画は長編劇映画デビュー作でもあるので、なおさらそれを感じていて……。主役と呼ばれる人の覚悟は間違いなく作品に影響を与えるので、この人はこんなにもすごい覚悟でこの映画に臨んでくれるのかと、すごく嬉しかった。その時のメールは今も僕の支えです。ちょっとやそっとでは諦めない、自分が納得のいくまで諦めない──「最後まで諦めないでください」という彼の言葉があったからこそやってこれた、と言っても大袈裟じゃないですね。

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

──出会いと直感、人が発する力とそれを感じるとる力ってすごいんですね。

野田:だと思います。監督と出会ってから──カメラマンが決まりました、キャストが決まりました、○○が決まりましたって、いろんなことがひとつずつ決まって積み重なってくのを1年かけて見てきたんですけど、まるで引力に引っぱられるかのように1人、また1人決まっていくんです。

松永:この映画が意思を持っているのかもしれないって、そう思うことも多々ありましたね。これだけは譲れないとか、映画が自分に必要なものを選んでいるというか。もちろん園田宏を野田洋次郎がやることを含めてです。そんな目に見えない力を僕は信じたい。

野田:それは僕にとっても同じで、しかも貴重な経験でした。途中、これはやばいぞっていう瞬間もたくさんありましたけど、それを含めて愛おしくて仕方ない作品になりましたから。

松永:そうだね。やばいぞという瞬間にぶち当たったからこそ、お互いの想いを確かめられたというのもあります。いろんな理由でやばい状況になって、このままだと洋次郎のスケジュール調整ができないかもしれないってなったとき「俺は洋次郎としかやらない! 彼とじゃなければこの映画はやらない!」って声を大にして言ったら、プロデューサーも「そうだよね、野田くんと一緒じゃないと意味がないよな」って。そのとき、映画を成立させることと良い映画を作るということは似て非なるもので、どんな問題が起きてもこの人たちと一緒に映画を撮りたいと思ったんです。

──引力で集まった人たちの力というのは強いんですね。野田さんに関して、この人に園田を演じてほしいという想いが、この人で間違いなかったという確信に変わったのはどのタイミングでしたか?

松永:ヒロインの真衣役を決めるオーディションでした。「見ているだけでいいのでオーディションに来ませんか?」と洋次郎に声をかけたんです。最初はただ座って見てもらっていたんですが、一人目が杉咲花で、彼女と洋次郎の2人だとどんな反応が生まれるのか見たくなって、つい「ちょっと杉咲の隣に座ってもらっていいですか?」と、エチュード(即興劇)をやってもらったんです。

野田:それが分かっていたらオーディションに行ってなかったですけどね(笑)。僕、わりと空気を察知できるほうなので、事前に「行ってもいいですけど、何もしないですよ」って釘を刺していたんです。それなのに……。

松永:(苦笑)でも、そのエチュードの2人の化学反応がものすごくて。そのとき、この映画は「大丈夫だ」と思いました。あと、撮影中に僕がいちばん心ゆれ動いたのは、園田が実家に帰って森のなかに立ち尽くすというシーン。とても大好きなシーンです。洋次郎が森の中に立って鼻歌を歌っている、ただそれだけのシーンですが、何とも言えない園田の苦しみを彼は体現してくれた。ラストカットだったんですけど、その姿を見ながら僕、泣いていました。

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

──演じている野田さん自身は、どんな気持ちで園田としてその場に居たのでしょう。

野田:あのシーンはクランクアップ予定の次の日に撮ったんです。なので、僕にとっては“ピエタ”の世界を全て通過してきて「ああ、これで終わってしまうんだな……」という感慨もありました。しかも撮影の終盤はつねに園田宏100%になっていたので、自分が宏として生きてきた月日を思い返してあの場に立っていというか。ただ、もろもろの事情で、当初あのシーンはセットで撮ってから森の背景をCG合成するって言われて……監督に「それはちょっとできないです。あのシーンの演技をブルーバックで演じることができたら、俺、逆に気持ち悪くないですか。森の中じゃないと感情は何も出てこないです」と言って撮ったシーンなんです。

──園田本人の苦しさとは対照的な夏の爽やかさと美しさ、死に向かっていく者と生命力みなぎる太陽の光と木々の緑、悲しくも美しいシーンでした。

野田:実は撮影スケジュールが変更になったおかげで夏だったんです。当初は10月の撮影予定だった。秋だとあのシーンの意味も変わってくるし、プールのシーンも難しかったですよね、監督。

松永:あ、その場合は室内の温水プールかなって考えていたんだよね。

野田:それはそっちの方が良かった……ですね(苦笑)。というのは、夏だけど夜になると何だかんだ言っても寒い。水のなかにいると歯がガタガタ鳴るほど寒いんです。でも、真衣(杉咲)はそんなのおかまいなしって感じでケロッとしてそこにいるし、こっちは男だし、年上だし「寒くなんかねぇよ、何でもねぇよ、平気だよ」って顔はしてましたけど、相当寒かったです。

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

──(笑)プールのシーンは真衣が感情を思いっきりぶつけてくる、生きるって何なんだ? 死ぬってどういうことだ? という感情をものすごく突きつけられたシーンでした。

野田:であるのに、そのプールに飛びこむシーンをはじめ、撮影直前に脚本がガラッと変わる出来事があったんです。基本、僕は思ったことはその場でぜんぶ言うので、よく監督ともケンカしました。プールのシーンに関しては、プールのなかでの2人のやりとりによって園田の感情が動く、とても重要なシーンなのに、それがなくなるのは納得がいかなくて。しかも撮影の2〜3週間前のいきなりの変更。監督は監督でいろんな人との板挟みになったり大変な立場だとは思うんですけど「1年かけて準備してきましたが、これじゃ俺できません。脚本がここまで変わるなら主役も変えていいと思います」って伝えました。そしたら監督もプロデューサーもバタバタバタッてなって、話し合いになって、みんなで泣きながら会議したのを覚えています。

松永:そうだったね。でも、そうやって洋次郎が怒りをぶつけてくれるのはすごく良いことだと僕は思っているんです。100%自分の意見が正しいと思っていないし、かといってみんなの意見を何でもかんでも聞き入れるわけではないんですが、ここまでずっと一緒にやってきたなかで、いっぱい会話してきたなかで「違う」と言う人がいる。それに対しては「そうか、違うのか」と思える。そういう信頼関係ができていた。ぜんぜん関係ない人から「違う」と言われても「別に」って返すけれど、僕らの場合はそうじゃない。そもそも気持ちをぶつけるって、決して簡単なことじゃないですからね。そういういろんなことを含めて、野田洋次郎という人と映画を作れて良かった。本当に良かった。

人との出会いには意味がある。園田が死の直前に真衣と出会ったように、松永大司監督が野田洋次郎と出会ったように、『トイレのピエタ』と出会った人はきっとこの出会いを大切にしたくなる。

(取材・文:新谷里映)


映画『トイレのピエタ』
6月6日(土)新宿ピカデリー他全国公開

原案:手塚治虫
脚本・監督:松永大司
主題歌:RADWIMPS「ピクニック」(ユニバーサルミュージック)
出演:野田洋次郎/杉咲花、リリー・フランキー、市川紗椰、古舘寛治、森下能幸、澤田陸、MEGUMI、岩松了/大竹しのぶ(友情出演)/宮沢りえ
配給:松竹メディア事業部
(C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

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