「過去が書き替えられていくことが、そのひとの成長になっていく」―『海街diary』是枝裕和監督インタビュー

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是枝裕和監督

是枝裕和監督

「これ、誰か撮るよな。撮られたくない、と思いました」

吉田秋生の漫画「海街diary」を読み、ある場面に遭遇したとき、是枝裕和監督はまずそう思った。そして、映像が浮かんだのだという。

「漫画なんだけど、ここ、カメラ、確実にクレーンアップだよなと。すごく映像的に出来上がってる。音も含めて。あれは絶対、映像にしてほしいという画になってる。映画になるために描かれてある、と思った。絶対、誰か『やる』と言うはずだと思い、その前に手をあげました」

かくして映画化の提案は受諾され、素晴らしい映画『海街diary』が完成した。

「想いのたけをぶつけてみようと思いました。吉田さんは何を考えて、こういうシーンにしたんだろうか。ひとつひとつ読み解いていく。こんなに他人(ひと)の作品を繰り返し読んだことはなかった。吉田さんのなかに“潜っていく”ことからスタートしていますよ。それがわからないと映画にできない。わかりたい、と思いました」

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

鎌倉の三姉妹が、父親の死をきっかけに、腹違いの妹と出逢い、彼女を四女として引き取る。そうして始まる物語は、歳時記として紡がれ、目には見えないなにかを追いかけていく。それは、この世にはもういない誰かであり、朧げな記憶であり、いままさに去り行こうとしている時間でもある。

「漫画、読んでいたときも感じていたんだけど、吉田さんとお会いして話して、この原作は、登場してこない人間がすごく重要な役割を果たす物語なんだなと、あらためて思って。読み直してみると、キーになるひとが姿を現していない。結局、そのひとたちを意識しながら、みんなは生きている。出てこない人間を回想で出さずに、どう生きている人間に重ね合わせながら描いていくか。すごくアクロバティックなことを要求されているんだなと。動作を、誰かから誰かに受け継いでいくとか、反復するとか、そういうことの積み重ねで、どう“いない”ひとを感じるか。それをやれるだけやろう。その覚悟は決めていましたね」

同時に、キャラクター単体の心情だけでなく、関係性そのものが見つめられる。とりわけ、四姉妹ものであることは大きい。日本にも『細雪』や『阿修羅のごとく』など、四姉妹ものの名作は多いが、なぜ、女性4人が主人公なのかという熟考の果てに、画面が構成されている。

「3対1で進んでいたものが、あるとき4になる。だからこそ、そこまでは、4にせずに、どれだけ3対1で撮っていくか。そこは意識してやっています。3人がすず(四女)を見る。すずが3人を見る。そこは原作者と話してないけど、昔の『若草物語』(1933)、キャサリン・ヘプバーンが出ていたあの映画を観たりすると、ひとりを3人が取り囲んで見ているとか、そういう構図で作られていく。もしかしたら、吉田さんはそれを意識されているのかなと。4人をどう配置するか。面白かったですけど、難しかったですね」

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

4人だからこその風通しの良さ、4人だからこその優しさが、映画に漂う。漫画にはないオリジナル場面も加えられたが、それらも親密な世界をかたちづくっている。

「原作のキャラクターを踏まえた上で、この4人を頭のなかで動かせるようになったので、そこからはオリジナルなのか、原作(通り)なのか、自分ではわからないまま動かせているんです。違和感なく描けていて、原作ファンに怒られるかもしれないけど、いま映画を観て、あれ?ここ、原作にあったかな? なかったかな?という感じだから、たぶん“移植”はうまくいっているんだと思います」

静の綾瀬はるか。動の長澤まさみ。「このふたりに影響されずに自分の時間を生きている」夏帆。大竹しのぶ相手に、当日いきなりふたり芝居をすることになっても「緊張しない」広瀬すず。絶妙なバランスのキャスティングも、「その先」を捉える映画の力になった。

「この原作は、少女漫画という枠を超えて、すごく大きなものを描こうとしている。それは、人間よりも、街だったり、時間だったり。だから『海街diary』なんだと思う、『鎌倉四姉妹物語』ではなくて。その大きさ。人に(向かって作品が)閉じていかない話にするにはどうしたらいいか。これは叙事詩的な作品だと思うから、そこはちゃんとやりたかったんですよね。読み込んだから、この作品が大きなものに辿り着こうとしている話なんだとわかったんです」

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

(C) 2015 吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

是枝監督自身、大きな個人的シンパシーを、この作品には抱いている。

「吉田さんの『櫻の園』(1990年に映画化もされている)は、過ぎ去った時間は二度と戻ってこないという素晴らしくも残酷な漫画だった。でも『海街diary』は、過ぎ去った時間が、ときとともに自分のなかで、かたちを変えていく話だと思う。過去が書き替えられていくことが、そのひとの成長になっていく。その時間が彼女のなかでどう変化するかは見えない。そこが、この原作のいちばんの豊かさ。そこをなんとか描きたかった。僕自身父親が亡くなって15年ぐらい経ちますが、父親になったことで、自分の父親のことを思い返している自分がいる。いまの自分の年齢のとき、父親はああだったよな、とか。父親とは疎遠だったんだけど、その父親が自分のなかで、ちょっとかたちを変えてるわけ。自分も似ているところあるなとか。自分が父親として子供に接しているなかで、同じようなことが自分に起きている。この物語にはシンパシーを感じていました」

そう、やはり、この映画は、目には見えないものを描いているのである。

(取材・文:相田冬二)


映画『海街diary』
6月13日(土)全国ロードショー

鎌倉で暮らす三姉妹、幸、佳乃、千佳の元に、15年前家を出ていった父の訃報が届いた。長い間会ってもいなかった父の葬儀のため山形に向かった三人はそこで異母妹すずと初めて会う。身寄りのなくなった彼女が、葬儀の場でどうしようもない大人たちの中で毅然とふるまう姿に、長女・幸は別れ際とっさに口にする。「すずちゃん…鎌倉にこない? いっしょに暮らさない? 4人で」。そうして鎌倉での4姉妹の生活が始まる―。

原作:吉田秋生(小学館「月刊フラワーズ」連載)
監督・脚本:是枝裕和『そして父になる』
出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、加瀬亮、鈴木亮平、池田貴史、坂口健太郎、前田旺志郎、キムラ緑子、樹木希林、リリー・フランキー、風吹ジュン、堤真一、大竹しのぶ
製作:フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
配給:東宝 ギャガ

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吉田秋生

生年月日1956年8月12日(60歳)
星座しし座
出生地東京都渋谷区

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