本屋にしかできない、売れる本を作る。京都の名物書店・ホホホ座が挑む「本が売れない時代」へのアンチテーゼ

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山下賢二さん(左)、松本伸哉さん(右)

山下賢二さん(左)、松本伸哉さん(右)

全国的に“街の本屋の危機”が叫ばれる反面、京都では本屋の未来を感じさせるニュースが続く。なかでも京都の名物書店「ガケ書房」が2015年4月に「ホホホ座」として再スタートを切ったことは、本好きたちの注目の的となった。

「ホホホ座」は、「ガケ書房」店主・山下賢二さん、古本・雑貨を扱う「コトバヨネット」店主・松本伸哉さんが中心となった書店であり、編集企画グループでもある。1階は新刊書、2階は古書や作家ものの雑貨を中心に、陶器などの生活雑貨、文房具、衣類といったものが、二人の個性として所狭しと並んでいる。

2016年4月1日で、オープンから1周年を迎える。「ホホホ座」の原点と、この1年、そしてこれからとは。山下さんと松本さんに話を聞いた。

  

1階は新刊書を扱うスペース。  

  

2階は古書や作家ものの雑貨を中心に、陶器などの生活雑貨、文房具、衣類などが並ぶ。  

本屋はエンドユーザーが見える、最高の出版環境

――お二人の出会いはどのようなものだったのですか?

山下賢二さん

山下賢二さん

山下賢二(以下、山下):お互いに別の店をやっていた時から顔見知りだったんですけど、親しく話すようになったのは、「ガケ書房」の企画がきっかけですね。レジにカメラを仕掛けてUstream中継をして、買い物をしたり差し入れを持って来たりしたら、そのお客さんがカメラに向かってアピールできるっていう。お客さんが来るまでは、僕たち二人でダラダラしゃべっているのを流していたんですね。


松本伸哉さん

松本伸哉さん

松本伸哉(以下、松本):それからは、お互い本好きやし、いろんなイベントや打ち上げで「こういう本あったらええな」とか、「最近こういう本ばっかりやな」とか、そういう話をよくしてて。なんかの流れで「本作ろうか」みたいな話になったんですよ。まあ、酒の席でのことなんで、すぐに流れたんですけど。

山下:僕が個人的にカフェ本(『わたしがカフェをはじめた日。』)を企画したら、松本さんが乗ってきてくれて。


――「ホホホ座」誕生のきっかけは?

山下:最初は松本さんの冗談やったんですよ。(今「ホホホ座」が入っている)ここのビル1階がずっと空いてるから、店やってみる?みたいなことを半笑いで話して。僕も半笑いで、またまたぁ(笑)って。でも一回見たらね、意外と悪なかったんですよね。

  

「ガケ書房」はもっと広かったんですけど、自分の本屋としてももう少し小回りが利く感じにしたかったし、やるんやったら「ホホホ座」っていう名前でやったらどうやって話になって。

それと、エンドユーザーの見える編集企画グループとして動いていこうかなってひらめきまして。

本屋というエンドユーザーがいる場所で本の編集ができるとなると、何が売れるか、どういう本が最近出ているか、もしくはそれを見て、どう相対化して自分達の本を売るかっていうのが見えるので、本を作るということに対してのフィードバックをしていきやすいんですよ。

「ホホホ座」最初の本として『わたしがカフェをはじめた日。』を出したのも、“カフェ”というテーマが「ガケ書房」の売れ線のひとつだったということが背景にあります。

  

デビュー作にしてヒット作となった『わたしがカフェをはじめた日。』(ホホホ座文と絵・小学館 刊)。中身も手描きのイラストや店主自らの手書き文字を効果的に使うなど、「デザインとかの時流に逆らったやり方」を試みている。

ホホホ座が作る本は「自己満足な作品」ではなく「ビジネスとしての商品」であるべき

――確かに、本を手に取る人の顔が見える場所で本を作る、ということは理にかなっていますね。

山下:本に限らず、雑貨も置いているし、イベントも店の中でやったりするんで、そこに対してのリアクションは見えやすい。作り手と売り手を兼ねてやっていくほうが強みになると思ったんですよ。自分たちで作って自分たちの店に置くなら、みんな買いに来るわけです。ここにしか売ってへんから。利益も出しやすいし、こんなオイシイのないぞ(笑)と。

もともと書店という言葉の語源は、出版も販売も兼ねたもの。こういう時代だからこそ、そうしたほうがええんちゃうかと。どこでもモノが買える時代だからこそ、そこにしかないものを作るほうが強いなって。

松本:古本と新刊をやっているのも強みですね。2階は古本を扱ってるんで、「昔の本の雰囲気がハードコアでかっこいい」とか、昔の本をすぐに出してきてデザインの参考にできたりするっていう。

――本をセレクトする時、本を作る時に一番大切にしていることは?

山下:どちらの基準も「売れること」。本の仕入れについても、僕の趣味は一切入れてないです。要は、ちゃんとうちのお客さんが買ってくれるニーズを読み取って仕入れているっていうのが基本ですね。作った本も“作品”ではなく“商品”。もちろん好みがテイストに出るかもしれないですけど、いい大人がお金かけて出して自己満足しても仕方がない、ちゃんとビジネスとしてやっていきたいと思っているので。

僕は「ガケ書房」オープン時、それで失敗したんですよ。俺を見てくれ!みたいな感じの、自分の色を出しすぎた品ぞろえにしてしまって。そしたら一方通行でキャッチボールができてない店になったんですね。とにかく自分のことばっかりしゃべるやつ、みたいな。そんなんて嫌じゃないですか。

そこで気付かされたんですね、現実として。ダメだって分かったから、すぐシフトチェンジしました。

ただ、僕らが本を出版社から出す場合と自社レーベルで出すときの決定的な違いはあります。もちろんニーズを読むことは根底にあって、出版社から出す場合は一般層にも売れる本という視点を持ちますし、自社レーベルで作る場合は「ガケ書房」や「ホホホ座」が好きな人の目線に近いかもしれない。マスコミとミニコミの違いというか。

「ホホホ座」が売るのは、「本屋に行くという体験」

――今後はどのような展望をお持ちですか?

松本:僕ら、「ホホホ座」っていう名前を共有したいんです。

単に「ホホホ座」っていう名前やセンスを共有するだけで、フランチャイズではありません。すでに広島県尾道市と神奈川県真鶴町に「ホホホ座」があって、この春からは京都の下鴨と愛媛県今治市にも出来ます。あと2つ準備中で、業種や形態はそれぞれ全く違います。「ホホホ座」は八百屋でもコインランドリーでもバンドでも劇団でも、何でもいい。要は、お互いが対等に関わりあって何らかのメリットを見つけて行けばいいんです。まだ考えながらやっている状態なんですが、思ったよりメリットがあって、おもしろいです。

山下:あと、一番近い未来は「京都移住の本」を出すことです。他府県から京都に来られた、作家さんやお店をやってる人、メディアの人とか、何かしら社会と接点を持った仕事をしてる人に焦点を当てて「来てどうだったか」「何故来たか」「これからどうなのか」といった話を聞いて。それぞれの京都論があって面白いんですよ。これは他の出版社から出すものなのですが。

松本:出版社から出す本に関しては、僕らは地の利を活かすしかない。逆に言うと、東京の人が作れない本ですよね。そういうフィジカルな部分を大切にしたいんで、実際に歩いて行ける範囲だったり、自転車で行ける範囲の中で作れる本のほうがいいですね。壮大な何かよりも。ここだけで売る本では、「ホホホ座」周辺だけのガイドブックを作ろうと思っています。

あと、お土産屋としてもやっていこうと思ってるんです。本でなくても、記念に買って帰ってもらうもんっていう意味で。来るまでの道のりや、買った場所の思い出って、持って帰ったらやっぱりついてくるじゃないですか。これはここで買ったな、とか、あのとき彼女と喧嘩したな、とか。そういうのがネットショップにはないので。そこをお土産屋っていう風に言ってしまおうと思ってですね。本屋っていう風に言わんと。

今、本が売れないって言ってるわりに、“売りたい人”が増えている。それ風の本並べとけば自分のバックボーンに見えるんですよ。そういう表現として使う人も増えてきたし。もしかしたら、そことの相対化もしたいのかな、僕らは。

ここは必ずしも便利な場所ではないんで、せっかくここまで来てもらえたんやから、体験として面白く思ってもらえないと申し訳ない気分になるんですよね。

山下:「ホホホ座」の看板もアンチテーゼかもしれへん。今時、あんなに自分のとこの名前を大きく出してるところなんてないですよね。「ガケ書房」の時も、多くの人が車(※)の前で写真撮って帰らはったから、こういうのも体験として、来てもらう要素としては必要やと思ってるんです。

※ガケ書房の外壁の一部には車が半分埋まったオブジェがあり、お店のシンボルとして有名だった。

「ホホホ座」がセレクトしたオススメ3書

最後に、「ホホホ座」が選んだT-SITE読者へのオススメ3冊をご紹介。

倉敷意匠分室カタログ7『裸のある風景』

倉敷意匠分室 刊 1,404円(税込)

ハダカをテーマに、各作家が作品を作ったカタログ。松林誠さんの版画、吊り編みパンツ、二象舎 原田和明さんのオートマタなど。

この本を購入する

『わがや電力~12歳からとりかかる 太陽光発電の入門書』

テンダー 著、ヨホホ研究所 刊 1,944円(税込)

「小学6年生の理科知識があれば、家一軒の電力自給はできる」という信念のもと、完成した本。

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『わたしがカフェをはじめた日。』

ホホホ座 文と絵、小学館 刊 1,350円(税込)

話題の企画集団・ホホホ座による編集本第1弾が小学館から増補版として再発売。京都で一人でカフェを切り盛りする女性店主たちの開業までを男性目線から聞いた特殊インタビュー集。

この本を購入する


  • 『わたしがカフェをはじめた日。』の装丁は絵本をイメージ。細かいところにも遊び心が!

■店舗情報

「ホホホ座浄土寺本店」

所在地/京都府京都市左京区浄土寺馬場町71 ハイネストビル1階・2階
1階(書籍・雑貨)
11:00~20:00(無休)
TEL075-741-6501

2階(古書・雑貨)
11:30~19:00(不定休)
TEL 075-771-9833

「ホホホ座」公式サイト

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■プロフィール

山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都市生まれ。21歳のころ、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌部勤務、本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。目立つ外観と「ロマンティックとユーモアが同居する」品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。著書『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)。「ホホホ座」のオープン日でもある4月1日に『ガケ書房の頃』(夏葉社 刊・2016年)の発売を控える。

松本伸哉(まつもと・しんや)

1967年生。舞鶴市出身。テレビ局勤務、レンタルビデオ店、CD屋店長などを経て、20代後半から中古レコードと古本の店「MENSOUL RECORDS」を10年間経営。以降、映画のバイヤーや制作業務をしつつ、2011年に京都浄土寺にて古本・雑貨の店「コトバヨネット」を開店、編集企画グループホホホ座を立ち上げ『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)を出版。2015年にガケ書房と合併し、店名も「ホホホ座」に。アーティストのマネージメント業務なども手がける。

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