【レポート】菅付雅信連続トーク「これからのライフ」第4回 建築家・伊東豊雄:日本の建築界は混乱期。目指すはコミュニティのための建築

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せんだいメディアテーク(提供:仙台市観光課)

『物欲なき世界』の著者である編集者・菅付雅信さんがホストを務める対談トークシリーズ「これからのライフ」。

2016年12月15日に開催した第4回は、世界的な建築家・伊東豊雄さんが登場。これからの建築と社会について語った。

内外の大型プロジェクトを手掛けるだけではなく、これからの都市、地域の在り方にも積極的に提案、発言し、「建築とはコミュニティにかたちを与えること」と宣言されている伊東さんが考える答えとは。その一部をお届けする。

伊東豊雄さん

伊東豊雄建築の「軽やかさ」「透明性」が生まれた理由

菅付雅信(以下、菅付):伊東さんの建築を語る上で、「軽やかさ」や「透明性」といったキーワードがよく出てきますね。この概念は、どこから出てきたものなんですか?

伊東豊雄(以下、伊東):80年代という時代ですね。暗い70年代のトンネルを突き抜けていったときに、80年代から日本はバブルに突入するわけですね。あの頃は本当に夢の中に生きている――実体のある空間の中にいないような感じでした。そういうことを建築としてどう考えたらいいんだろうと。重さのない建築とか、ひたすら透明で、映像のような建築とか、そういう建築ってあり得るんだろうかと考えていた時代もありました。

一番典型的なのは、1986年に手がけた、六本木のレストランバー・ノマド。結局、1年半でなくなったんですけどね。

こういうことはざらで、1年半あったっていうのは、まだいいほう。当時は、一度も使われないまま、消えてしまった建築もありましたよ。もっと土地が高く売れれば、建築ごと売ってしまうっていう、そういう恐ろしい時代でしたね。そんな中で、軽さとか実体感のなさとかということを、一時期やっていましたね。

菅付:では、軽やかさや透明性というのは、わりと批評的なとこから出てきたわけですね。それがポジティブに展開されているのが、まさに「せんだいメディアテーク」だと思うんですけれども。ここはほとんど壁がなく、透明で、いわゆる柱らしい柱がないという造りですよね。

せんだいメディアテーク

伊東:壁があるということは、部屋に分かれるってことですよね。その部屋を、できるだけ造りたくない。お年寄りは、側で子どもが走ってくれてるほうがうれしいんですよ。(メディアテークが)でき上がって1年たったとき中の人に、お年寄りのファッションが変わりましたねって言われて。それくらい学生さんと隣り合っているということがお年寄りを元気にする。ここでは13本のチューブと呼んでいる太い柱が立っていて、それが壁の代わりなんです。ちょうど自然の中の公園の中にいるように、陰になったり、奥まで見えたり、いろんな場所ができてきて。

せんだいメディアテーク

せんだいメディアテーク

菅付:それをやろうと思った理由は?

伊東:日本の木造の建築って、基本的に壁という概念がないんですよね。障子、ふすまを開ければ、全部つながる。そうすると、臨機応変に、季節とか時間とか活動に応じて場所を変えることができる。

いろんな場所を用意しておくということが日本の建築の本質なんですね。それと同じことをずっとやりたいと思っているんです。

ヨーロッパの建築は、逆に閉じて、閉じて、自然からも閉じられて。建築の内部も閉じて、機能という概念で決められてしまうわけですが。それが一番、自分にとってはつらいこと。

菅付:人が集まるかどうかということですね。集まる人が、いろんな使い方を考えていく。

伊東:ただ、人が集まりやすい場所と、やっぱり素通りしていく場所っていうのがある。いかに来てほしい場所を造り得るか。人間はつまるところ動物ですから、ここにはいたくないとか、ここにはいたいとか、いろんな要素の組み合わせで、本能的に決めているんですよ。だから、建築はそれをうまく用意しないと。

世界的に見た、日本の建築家の最大のテーマは?

菅付:伊東さんは、「せんだいメディアテーク」以降、かなり海外の案件がすごく増えましたよね。

僕にとってすごく響いた伊東さんの言葉に、「ヨーロッパ社会によって形成されてきた芸術や知性をこれからも建築が求め続けるのかということに対して、現代建築の評価はその問いに対する答えが分かれ道になる気がする」というものがあります。

基本的に現代建築、グローバリズム建築って、大体ヨーロッパで造られたもので、そこをどう乗り越えるかっていうことが多分、今、特に日本とかアジアの建築家の最大のテーマですよね。

伊東:そうですね。『だれも知らない建築のはなし』(監督:石山友美)という映画で何人かの建築家がインタビューされていて、欧米の批評家や建築家が言っていることは、相変わらずヨーロッパ目線だなということをすごく感じたんですね。

そのことは、まさしく建築のコンペティションをやっても、相変わらずそういう目線で判断されているケースが多くて。われわれには日本の木造の家屋の生活があって、そういうことは僕らの中に入っているわけだから、それを現代建築にどういうふうに再生できるのかということのほうが圧倒的に面白い問題で、そのことはアジアではある程度、通じる場合があると。

ヨーロッパでは、まだまだそれは理解されにくいなという印象がありますね。ただ、僕はそこでもっとそこを開拓していきたいとそう思っています。

伊東さんが目指すのは「コミュニティのための建築」

菅付:最近、伊東さんは「コミュニティのために建築を造る」ということを積極的に発言されていますね。これは東北大震災のときに手掛けられた「みんなの家」というものですね。熊本の地震の後もやられていますね。

南相馬 みんなの遊び場

南相馬 みんなの遊び場

伊東:(東北大震災の後に)仮設住宅の中を中心に、気が抜けるというか、そういう場所を造りたいなと思って。住んでいる人と一緒に考えながら、一緒に壁を塗ったりしながら、半分、セルフビルド的に造りました。

菅付:大三島には今治伊東豊雄建築ミュージアムがありますが、伊東さんは大三島に通っていて、かなり地元の人と密接に付き合っているそうですね。

伊東:大三島に私の建築ミュージアムを今治市が造ってくださって。あと、東京に伊東建築塾という塾をつくったことが縁になりまして。

今は、大三島に若い人に来てもらう取り組みを、塾生たちとやろうとしています。ワイナリーなどを造ったり、「みんなの家」を空き家を借りて手づくりで造ったり。美しい風景のなかで、明日のライフスタイルみたいなものを考える。そういうことをね。

菅付:これは、台中のオペラハウスですね。

伊東:11年かかってオープンしました。大きな公園の中にありまして。オペラハウスと思えないような、サンダル履きのカジュアルな感じで。

菅付:伊東さんは、よく広場のような建築を造りたいとおっしゃっていますが、かなり実現できているのでは。

伊東:そうですね。言ってみれば、人間の体のような建築を造りたい。人間は、口とか鼻とか耳とか、いろいろチューブによって自然と結ばれているから生きていられる。そういうことを建築でやってみたいなと。

建築の中まで道の延長、広場の延長のようになっていて、屋上でも、階段の脇でも、小さなイベントがいつでも行われている。

なぜコミュニティ感にこだわるのか

菅付:伊東さんが「コミュニティ感」にこだわるのは何故ですか?

伊東:基本的に、一人のための建築というのはあり得ないと思っていて。そうすると、人が集まる場所をいかに形にするかが、われわれのやることだと思っているんです。

だから、「せんだいメディアテーク」にしろ「ぎふメディアコスモス」にしろ、図書館が中心だとはいっても、本を読みに来るわけじゃないんです。そこに行くと、誰か知っている人がいる。

市立中央図書館内観 写真提供:みんなの森 ぎふメディアコスモス

現代の人って、話すのは嫌だけど、一緒にいるということは求めている。そういう関係が新しいコミュニケーションというか、コミュニティみたいなもので、それをどういうふうに居心地よく造るかということは問われてるような気がします。

菅付:個人主義が問われているということですか?

伊東:個っていうのは、建築でいうと、プライバシーとすごく関わっていて。個人のプライバシーを尊重することが大きな価値を持っていると、特に戦後は言われてきた。だから、どんなに小さくても何DKという言い方で集合住宅は呼ばれてきたわけですけれども、仮設住宅でも同じ使い方をしているんです。そういうプライバシーより、もっと別の意味があるということが問い直されるのかなと思っています。

これから建築はどこへ向かうか

菅付:これから建築はどこへ向かい、そして、伊東さんがやろうとしていることを伺いたいと思います。いま、建築家に求められていることが複雑になってきていますよね。

伊東:一人でできることみたいなことが非常に限られてしまっているということが見えてしまっている。いかに良いチームを組みながら、あるいは一緒にそれを使う人たちとも一緒になって考えるという、柔軟で緩いチームの中で考えていくということが、これからは大事になる。それを建築家が「俺がこれをやるんだ」みたいなポジションではなくて、うまくオーガナイズするポジションになっていかざるを得ないでしょうね。

菅付:これからの建築家に求められているものは?

伊東:柔軟であるということと、やっぱりモダニズムの思想からどれだけ脱皮できていくかということですね。

菅付:どうやったら日本は美しい国になるんでしょうか。

伊東:まだ美しいところ、たくさんありますよ。地方からどう、もう一度モダニズムの先に再興できるかっていうことは大きな夢としてありますね。

菅付:ある種、日本は建築物がたくさんできている建築天国みたいなところがありますが、街並みがあまりきれいにならないという矛盾がありますよね。

伊東:僕の母親は明治生まれの人間で、戦後はだいたい洋服を着ていたんですが、本当、趣味が悪いんだよね。それが和服にすると、子どもながらに、なかなか趣味がいいなって。畳で日本の家屋に住んできた人たちが、突然、生活を変えてきたのだから、まだ身体化されてないわけですよね。その混乱が日本の町に典型的に表れている気がするんです。いきなり美しくなるかと言われても、全部かやぶきにすりゃいいのという話でもないし、建築家としての僕らの力を圧倒的に超えたところにある。でも、その問題は日本の混乱の最大の要因だと思いますね。

菅付:この混乱はどうすればいいんですか。

伊東:僕は、地方にもう少し目を向けて、経済にはない別の豊かさを探すことから、生活の仕方、農業をもう一回見つめ直すこと、それから空き家を再生すること、そういう小さなことを積み上げて、そこから美しい日本をもう一回考え直すっていう、それしかないなと思っています。そうして大三島に通っています。

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■今後の菅付雅信連続トーク「これからのライフ」

第6回 2017年2月予定:デザイナー 原研哉氏「これからのデザイン」
※受付に関しましては、HPにて順次ご案内いたします。
※各回の予定につきましては、変更になる場合がございます。

代官山 T-SITE | 蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設

伊東豊雄
1941年生まれ。主な作品に「せんだいメディアテーク」、「多摩美術大学図書館(八王子)」 「台中国家歌劇院」(台湾)など。ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、王立英国建築家協会(RIBA) ロイヤルゴールドメダル、プリツカー建築賞など受賞。 2011年に私塾「伊東建築塾」を設立。児童対象の建築スクールや、 地方の島のまちづくりなど、これからのまちや建築を考える建築教育の場として様々な活動を行っている。

菅付雅信
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、出版からウェブ、広告、展覧会までを編集し、様々なプランニングを行う。書籍では朝日出版社「アイデアインク」シリーズ、「電通デザイントーク」シリーズ等を手掛ける。下北沢B&Bにて「編集スパルタ塾」を開講中。多摩美術大学非常勤講師。著書に『はじめての編集』『中身化する社会』『物欲なき世界』等。

公式サイト

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