【レポート】菅付雅信連続トーク「これからのライフ」第7回「News Picks」編集長・佐々木紀彦:これからのメディアの行方

お気に入りに追加

物欲なき世界』の著者である編集者・菅付雅信さんがホストを務める対談トークシリーズ「これからのライフ」。

2017年3月29日に開催した第7回のゲストは、「東洋経済オンライン」の元編集長で、「News Picks」現編集長の佐々木紀彦さん。『日本3.0』などの著書の内容も引用しながら、メディアの行末や可能性、これからのメディア人としての課題などが語られた。

「News Picks」編集長・佐々木紀彦さん

メディアには8つの稼ぎ方がある

はじめに、佐々木さんが編集長を務める「NewsPicks」とメディアを取り巻く状況のお話からスタートした今回のトーク。続いて話題は、約3年前に上梓された佐々木さんの著書『5年後、メディアは稼げるか』へ。佐々木さんが本の中で予見してきたキーワードについて詳しく語られた。

菅付雅信さん(以下、菅付):本の中で、「これからメディアの稼ぎ方は8つある」と佐々木さんはおっしゃっています。「広告」「有料課金」「イベント」「ゲーム」「物販」「データ販売」「教育」「マーケティング支援」。7番目の「教育」はメディアの中でも伸びているものと言えますよね。

佐々木紀彦さん(以下、佐々木):「教育」はかなり本命かもしれません。メディアはそもそも「大人の学校」、メディアを通してどのように大人の考え方を変えていくのかが大事だと思っていて。それを社会人教育や子供の教育に応用すればいいので、とても相性が良いと思います。

菅付:そもそも、ヨーロッパでは教会が学校であり図書館でもある、教育の機関だったわけですよね。近代的な大学の多くは教会の派生として出てきたものだし、やはり教育とメディアは密接に繋がっているものだと思いますね。

これからのメディア人に必要なものとは?

菅付:佐々木さんは、5年後はこういうメディア人が食えて、こういうメディア人が食えない、と言っています。「記者の価値が下がり、編集者たちの価値が上がる」とはどういうことですか?

佐々木:記者の中でも速報を書くタイプですね。そういう方々が今増えていてますし、速報系の記事の価値は今後落ちていくので、記者の価値も下がるということです。

新聞社には本物の編集者がほとんどいない。言い過ぎかもしれないけど、そのくらい世の中に編集者は少ないと思います。これからの時代は、動画、音、写真もできれば、イベントもできるという風に選択肢が無数にあり、かつ分野の枠がどんどん溶け始めていて、いろんな分野を繋げることができる。これだけ繋げる材料がそろっている時代に一番大事なのは「編集者=シェフ」なんですよね。でもシェフの数は少なく、切る専門、焼く専門、という風に職人に分かれてしまったので、編集者の価値は飛躍的に上がるだろう。――そう考えたのは3年半前で、今もこの意見は変わっていないですね。

菅付:この3年間の実感としては、どうですか?

佐々木:編集者の価値が上がったとは思うんですが、編集者の方もビジネスまで繋げられないと、やっぱり人に使われる立場で終わるなあ、と。収入的にも、影響力的にも、編集×ビジネスは最強だと思います。

菅付:欧米の場合、(『モノクル』編集長)タイラー・ブリュレ氏のように、編集者であり、クリエティブ・ディレクターであり、経営者であり、っていう人は結構多くて、ヨーロッパだと当たり前に近いビジネスモデルですよね。

そういう中で大事なのは、教養があること。教養は今、一番問われているとおっしゃっていますね。中でも「古典を読むことがウェブメディアの編集者には大事だ」と。これは特にアメリカで感じたことですか? 向こうの名門大学って、課題の量がすごいんですよね。

佐々木:推定ですが、1年に120冊くらいは堅い本を確実に読まされるということで、それが知的体力、筋力になっている面は大いにありますね。日本の昔の偉人も同じだと思います。福沢諭吉も、漢文などをしっかり学んだ上で西洋の学問も学んだので、やはり土台がしっかりしているんですね。

なぜ古典を読むべきか。一番わかりやすい例では、『君の名は。』の川村元気さん。彼にヒットの理由を訊くと、非常にシンプルに説明してくれて。何かというと「普遍性×時代性」なんですよね。彼はお父さんが映画人で、小さい頃から過去の名作映画ばかりを観ていたそうです。映画の教養みたいなものが詰まった、過去の名作には普遍性があるわけですよね。その上で、彼は時代性を追うために徹底的にリサーチもしています。古典を読む一方で新しいものを取り入れる、その両極端を持っている人が、おそらくどんな時代になっても、ずっと成功し続けると思います。

「インターネットとソーシャルメディアは閉じていく」時代に?

菅付:いま、21世紀の大都市で「情報の躁状態」の中で生きています。カルフォルニア大学のピーター・ホワイトブロー所長は「コンピューターは電子のコカインである」と指摘していますね。

佐々木:おっしゃる通りです。そういうもののデトックスとして、紙の本の価値は最近見直されていますね。

菅付:あと、ネットにつながらない場所に、より価値がありますよね。最近アメリカのオシャレなカフェなどには、ほとんどWi-Fiがないですから。そういったところでラップトップを広げているのは逆に格好悪い、「ここは遮断する場所」という感じになってきている。

これからのメディアはどうなるのでしょうか。ここでマイクロソフトの未来予想動画『MICROSOFT FUTURE VISION』を見てみましょう。このように、デジタルとアナログ、編集と広告の融合もますます進んでいくでしょう。これはデジタル的なツールが増えることに拠っていることは間違いない。けれども、マイクロソフトの予想する未来も想定範囲内の未来で、扱っているのは文字やグラフィックであって、コンテンツ自体は変わっていないような気もしている。「あまり未来恐るべからず」という感じがします。

佐々木:そうですね。やっぱり、インターネットがどうなっているのかは大きいかもしれませんね。最近、自分が凄いなあと思っている人と話ていると、共通して「インターネットとソーシャルメディアは閉じていく」という話になります。例えば、東浩紀さんがおっしゃっていたことは、YouTubeに投稿しさえすれば小学生の作った動画が世界中に広がったりするわけですが、それって人類の歴史上で言ったらすごく異常なことですよね。普通の子供が作った動画がアフリカの人に届くことは必要だったのか。ツイートが世界中に届く必要があるのか。いろんな人に届くことによって炎上が起きたり、人と感情にさざなみが起きたり、問題が起きたりするわけで、何かインターネット、ソーシャルメディアによって不安定になっている気がするんですね。

菅付:それは凄く分かります。

佐々木:Wi-Fi断ちの話もそうですけど、不安定になりすぎてしまって疲れてきているので、より自然な形に回帰していくかなという気はします。ウェブの世界でも無料のオープンなメディアから有料のクローズなメディアにシフトしつつあるじゃないですか。それもその一つの所作なのでしょう。

これからのメディアはどうあるべきか?

課税、有料課金、サブスクリプション……。メディアが生き残るためには?

菅付:フランスの経済学者/歴史家学者・ジャック・アタリの名著『21世紀の歴史』の中で、メディアの未来に関して「出版とテレビとニューメディアは、区別する意味合いは薄れ、メディアの生き残りをかけて、無料参加型の超パーソナルな方向に向かわざるを得ない」と言ってますが、どう思いますか?

佐々木:アタリは無料派ですね。「区別する意味合い〜」については、アメリカはそういう段階ですね。

菅付:まだ日本は区別されていますよね。元『ワイヤード』創刊編集者のケヴィン・ケリーは、「2050年に最も大きく最速で成長し、一番稼いでいる会社は今はまだ目にも見えず、評価されていない、新しいシェアの形を見つける会社だろう」と。ジャック・アタリやケヴィン・ケリーの言葉を見ていると、「マネタイズしない方向に実はメディアは向かっている」ということが彼らの一つの予言なんじゃないかと思うんです。

佐々木:そもそもメディア自体がマネタイズと相性がいいものではないですよね。教会や、学校的なものを考えると、ほとんど国家がやってきたわけですから。もしくは大富豪が、儲けなくてもいいのでやる、というものなのでしょうか。

菅付:極論を言ってしまうと、報道メディアを維持するには、報道メディア税を払って、新聞やジャーナリズムを維持するしかないのでは、と思います。

佐々木:有料課金はある種、国民によるクラウドファンディングとも言えますね。

菅付:語弊があるかもしれませんが、ニュースやコンテンツそのものに単価をつけてそれ単体で稼ごうとすることは、メディアとしてはかなり無理が出てくると思います。

佐々木:一般メディアは特にそうですね。経済メディアはどうにかなりそうな気がしますね。課金も成功しますし、法人需要もありますし。

菅付:税金かコミュニティ的なものから課税のようにお金を取っていく、というものでしょうか。それはどんなコミュニティがふさわしいのかはまだ分からないですが。

日本のメディア人が世界に対抗するためには

最後に、佐々木さんは最近『日本3.0』というかなり大きなテーマの本を書かれましたね。ネット時代にアメリカが先行している状態で、日本のメディア人はどういう風に対抗していけばいいと思いますか?

佐々木:技術的な面ではアメリカが勝っていますが、それは真似していけば成熟すると思うので、大きな問題ではないと思います。それよりジャーナリストやエディター、個々のプロフェッショナルの質や自立心、その人の問題に尽きると思います。メディア業界にいる方は基本的に優秀な方が多いんですが、サラリーマンになっているような感じがするんです。そこを変えていきたい。

それには、成功例を作ることだと思います。Newspicksはまだ50人、親会社含めて200人の会社ですが、人事制度も年功序列ではないですし、そういった企業がちゃんと成功して実例となれるかどうか。最初の一歩の成功が大事だと思います。


トーク後の質疑では、佐々木さんの情報収集の秘訣についてが語られる場面も見られた。次回「これからのライフ」では、作家・平野啓一郎さんを迎えての「これからの文学」を開催する予定。時代を予見させるトークが2時間余すところなく繰り広げられる本イベント、気になる人は会場へ足を運んでみては。

(文:岩間淳美)

佐々木 紀彦
1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月で同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に導く。2014年7月から現職。最新著書に『日本3.0』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』の著作がある。

菅付 雅信
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、出版からウェブ、広告、展覧会までを編集し、様々なプランニングを行う。書籍では朝日出版社「アイデアインク」シリーズ、「電通デザイントーク」シリーズ等を手掛ける。下北沢B&Bにて「編集スパルタ塾」を開講中。多摩美術大学非常勤講師。著書に『はじめての編集』『中身化する社会』『物欲なき世界』等。

グーテンベルクオーケストラ

フォトギャラリー

この記事が気に入ったら、
いいね!しよう。

Twitterでも最新記事をチェック!

あなたのインスピレーションを刺激する。今、最も“旬”なアート、デザイン、雑誌のトピックをななめ読み。「いつかは行きたい」「やってみたい」が見つかるライフスタイルWEBマガジン。

T-SITE LIFESTYLEの記事を見る

この記事を読んだ人におすすめの記事

こちらの記事もおすすめ

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

あなたへのおすすめ

  • デトロイト発のアメリカ最先端デザインブランド「SHINOLA」が日本上陸 [T-SITE]
  • あなたのT会員番号でTポイントが当たる!T-SITEナンバーくじ[T-SITE]
  • お仕事発見T-SITE 希望のアルバイト・パート情報が見つかる!

人気の画像

  • 【年末まで毎週「坂道の日」】2017年、乃木坂46と欅坂46がタッグで写真集発売! 若月佑美、新内真衣、堀未央奈、与田祐希ら続々発売決定
  • ベイビーレイズJAPAN・傳谷英里香、初グラビアを披露
  • AKB48、乃木坂46、欅坂46…人気アイドルのグラビア満載の『BUBKA』が電子書籍開始
  • ミス・ワールド2017日本代表の山下晴加さん、壮行会で決意あらわ
  • 【銭湯マニア必見】“至福のひととき”を無料で体験できるチャンス
  • キス顔動画が話題のグラドル・星島沙也加が2ndDVD『セカンドキス』をリリース
  • 壇蜜、谷間バッチリの最強コスプレ、“セクシーカウガール”姿を解禁!
  • 博多発のくびれ美ボディ神宮寺かなん「はじめてのDVDでドキドキ。見えちゃった」
  • 【フェチ必見】グアム撮り下ろし最新作!「ふとももカフェ」期間限定オープン

TSUTAYAランキング

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST

TSUTAYA映画通スタッフおすすめ

SNS・RSS