【レポート】NewsPicks佐々木紀彦×中瀬ゆかり×『新潮』矢野優が文芸を語る。TSUTAYAトークイベント「本3.0」

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(左から)NewsPicks編集長・佐々木紀彦さん、新潮社出版部部長・中瀬ゆかりさん、文芸誌『新潮』編集長・矢野優さん

(左から)NewsPicks編集長・佐々木紀彦さん、新潮社出版部部長・中瀬ゆかりさん、文芸誌『新潮』編集長・矢野優さん

NewsPicks編集長・佐々木紀彦さんがモデレーターを務め、TSUTAYAと共同で本の創り方や売り方に最前線で挑戦し続けるリーダーをゲストに迎える連続イベント「本3.0」。紙と電子とウェブ、そしてリアルな体験が融合した時代「本3.0」になると言われる今後、本の形はどう変わっていくのだろうか。本の持つ普遍的な価値とは、本を中心とするメディアビジネスはどう変わるのか?

2017年6月7日(水)に開催したシリーズ第2弾イベントのテーマは「文芸と教養」。1904年創刊の文芸誌『新潮』編集長・矢野優さんと、新潮社出版部部長・中瀬ゆかりさんがゲストとして登場し、文芸を読むこと、そして文芸を取り巻く状況について語った。また、ふたりがお勧めする本を5冊ずつ紹介する場面もあり。

編集長歴10年になる矢野さん、TV番組『5時に夢中!』のレギュラーでもある中瀬さんによる軽妙なトークで度々笑いにも包まれた本イベント。その内容の一部をお届けする。

今の時代と文芸

佐々木紀彦さん

佐々木紀彦さん

佐々木紀彦さん(以下、佐々木):ふたりは今、日本の文芸界の中心にいると思うのですが、文芸にとって今はどういう時代なのでしょうか?

中瀬ゆかりさん(以下、中瀬): 30年新潮社にいて思うことは、物語の本質って近代小説が誕生した時からそんなに変わっていないんです。でも、特にインターネットができて以降、ケータイ、スマートフォンとか、コミュニケーションを描く上でそういうものが欠かせなくなってきて。新しい面に入っているなっていうのは、読みながら思います。

私も矢野くんに聞きたかったんですけど、新潮新人賞って、面白いことに、応募原稿が年々増えているんですよね。その最先端のものを読んでいる矢野くんに、応募されてくるもののテーマだとかで感じることを聞きたいんですが、どうですか?

矢野優さん(以下、矢野):2,000通くらいが毎年送られてくるんですよね。最近気がついたことでは、戦争小説が増えました。これは露骨でしたね。あとは、作品世界に閉塞感が強いものが多いことは否定できないですね。主人公が、すごく展望のない状態で、自分の部屋にうずくまっているようなものとかですね。

佐々木:クオリティ、という意味ではどうですか?

中瀬:やっぱり日常的にTwitterでも、ブログ、Facebookでも書くことに慣れているので、とにかく昔より書けるようになっています。逆に、全体が上がっているんだけど、突出したものがなくなってきているというか。

あと、もうほとんどパソコンで打ったものになっていますので、ある程度それらしく見えちゃう。でも、それに幻惑されてはいけなくて。たとえば原稿用紙に書かれているのがどんな汚い文字であろうが、そこに綴られているものの本質を見抜ける力が、やっぱり編集者にはいつも必要なんです。それが、試され続けている感じはすごくありますね。

矢野:芥川賞を取られた田中慎弥さんは新潮新人賞でデビューされた時からずっと手書きなんですよね。新人賞2,000通分のどこかに、うすい鉛筆の字で小声でささやくように書いてあるものを、ある編集者が的確に見つけ出すことができたんですよね。それで実際に活字に組んで読んでみたら、どれだけそれが良く書かれていたものかが分かるんです。気を抜けないですね。

ワイルド型からコツコツ型へ?

中瀬:異業種からの参入みたいなことって、例えば町田康さんとか、辻仁成さん、今でも又吉さんが賞を取って「お笑い芸人が芥川賞を取った」とか言われたりするんですけど。それでも、みんなが寛容になって、そういうのが当たり前になりつつあります。

みみずくは黄昏に飛びたつ』という本の中で、村上春樹さんは、自分は異業種から参入大歓迎だ、と。なぜかというと、職業作家として10年書き続けることがどれだけ難しいかを自分は知っているので、どうぞやってみてください、みたいな気持ちで受け入れているって話をしていて。それは私もこの仕事やってきて一番感じますね。原稿料も、ほとんどこの何十年も変わってないから、作家で食べていくっていうことはすごく大変だし。ネットで公開して読まれても、それをお金にすることは難しい。なかなか生活に直結できなくなると、「それは職業作家といえるのか?」みたいな問題もあったりして。作家と名乗るのは簡単なんですよ。誰でも名乗れる分、もっと厳しくなっているっていうかね。

佐々木:そう考えると、中瀬さんが担当されている林真理子さんて怪物ですね。

中瀬:もう本当に、林さんのような作家がこれから生まれてこなきゃいけないと思うんですよね。貪欲で野心を持ってのし上がってきて、たくさん贅沢もして。お金も、全体的にみなさん使わなくなっているでしょう。渡辺淳一的な、銀座やゴルフ会で豪遊するみたいな、ああいう豪快な遊びをする作家も少なくなってきているんで、それはそれで寂しいなと思うんですよ。

矢野:村上春樹さんは、夜明け前に起きて、小説を書いて翻訳をして、ランニングをして、夜はちょっとワイン飲んで早く寝る、といったストイックなスタイルです。もしかしたら、林さんのような蕩尽型や太宰的な破滅型の作家は減っているのかもしれないですね。小説に限らず、黒澤明みたいな映画の作り方はもうできない、する人もいないっていうのかな。

中瀬:フィルムで撮っていた時代からデジタルになって、なんぼでも撮れるようになる。原稿用紙をクシャクシャって捨てるんじゃなくて、画面上で消せるっていうのと、なんとなく繋がっているというか。物質的な“もの”を捨てていくっていう感覚がなくなっていることが影響しているのかなって、時々思うんですけどね。

文芸を読むことは、人生を豊かにするのか?

佐々木:文芸を読むことの喜びについて伺いたいと思います。特に男性のビジネスパーソンには、とにかくビジネス本ばかりで小説を読まない方が多いんですよね。それってどう思いますか?

(左から)中瀬ゆかりさん、矢野優さん

(左から)中瀬ゆかりさん、矢野優さん

中瀬:私はもったいないなと思うんですよね。矢野も私も、ある種一冊の物語なり、書物に人生を変えられて、流れ流れてここにいるんですよ。物語の中の人間が悩み苦しんだりして。それをある言語表現で突き詰めて書かれた名作っていうのは、百の、万の体験がそこに詰まっていて、それを一冊で味わうことができるっていう、ものすごく贅沢なことができるんですよね。

最近、コミュニケーションを誰かから学ぼうと思って、人付き合いの本や、話し方の本、雑談力みたいなものを読んだりしていますけど、それよりも、一冊の小説の中から、得られるものの方が私は多いです。行間を読む、というか、書かれていなかった感情の動きを読む能力みたいなものが、どんどん研ぎ澄まされてくるので。

矢野:例えば、9.11の後にサスペンス小説が売れなくなったんですが、時代が激しく変化している時に人は、「一体何が起きているのか」を知りたいから、実用的な知を与えてくれるものに意識が向かうんだと思うんです。

何か有益な情報、それこそサバイブするための有益な情報を得るのと、小説を深く楽しむっていうのはだいぶ違って、やっぱり小説を楽しむのは贅沢というか、豊かというか。こんな本1冊に、壮大なドラマが文字だけで組み立てられていて、読んだ人の頭の中に鮮明に立ち上がるわけですよね。長編小説を味わい尽くすっていうのはある種、脳の成しうることとしては、最も豊かなことだと思います。

でも、今の時代は激動しているから、限られた時間の中でつい、実践的な情報とかそういうものを得たくなる。でも、激動の時にこそ、面白い小説が生まれるんですよ。やっぱり、イマジネーションが揺さぶられるからですかね。そういう意味では、こういう時代にこそ小説を読むといいんじゃないかなと僕は思います。

中瀬さん、矢野さんお勧めの5冊

トークの途中で、ふたりがお勧めの本をそれぞれ5冊ずつ披露した。選りすぐりの作品を、読みたくなること間違いなしのコメントとともに紹介する。

みみずくは黄昏に飛びたつ』(川上未映子/村上春樹 著、新潮社 刊)

中瀬:今日私は、まだこれを読んでない人がうらやましっいっていうものばかり持ってきました。さきほどの話にも出てきた、村上春樹さんに川上未映子さんが質問する『みみずくは黄昏に飛びたつ』という本は、作家同士が言葉という武器を駆使する剣豪小説を読んでいるみたい。川上未映子さんは大阪出身で、非常に柔らかい関西弁を話すんです。だからこそ、村上さんの胸元に短刀を突きつけるような質問をばんばん出しても、柔らかい関西弁によって許されるというか。作家同士の対話の、究極の形の一冊だと思っています。読み手書き手両方のヒントが詰まっている本だと思い、持ってきました。

人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?』(山本一成 著、ダイヤモンド社 刊)

矢野:僕は子供のころにすごく将棋が好きで、道場みたいなところに通ったりもしたんです。将棋は、僕にとっては“考えること”の原型であり、一番研ぎ澄まされた形というか。計算を超えたような、すごい知性の領域だと思っています。人工知能に関するいろんな本が出ていますが、この本は、将棋のプロを倒した、今のところ一番強い将棋のソフト「ボナンザ」を作ったプログラマーが、人工知能の力に自身も驚きながらも作り上げていった体験と、知能とは何かという彼なりのビジョンが書かれています。

佐々木:3年以内に「人工知能はどのようにして名作家を超えたのか」という本は出ると思いますか?

矢野:よく話題にするんですよ。今、星新一賞に人工知能で作った小説が応募してますよね。でもまず、圧倒的にマシンが機械学習できる素材が足りないんじゃないかと僕は思います。将棋の場合は、膨大な棋譜がデータ化されているけど、それでも足りないくらい。だから、星新一さんのすべてのテキストを読んでも、足りない。あと、星新一“っぽいもの”っていうのはたぶんできると思うんですよ。でもそれって、何の意味もない。面白いものが出てくるには、どうでしょうね。僕自身は、そういうことに関わってみたいくらいの興味があるんですけど。

その他、中瀬さん・矢野さんお勧めの本リスト

流転の海』(宮本輝 著、新潮社 刊)

「作者自身のお父様がモデルで、ひとりの人間の生き様を、その時代のとある家族のヒストリーをからめて書いています。普遍的なテーマを扱っているんですが、とにかく面白い。全9部で完結で、第1部を読んだらもうやめられなくなること間違いなしです」(中瀬さん)

あなたに似た人』(ロアルド・ダール 著、早川書房 刊)

「どの一編をとっても驚きがあってエンターテインメント性に満ちている、世界的に有名な短編集です。私が最初に小説の驚きっていうのを教えてもらった本です。これをまだ読んだことない人がいたら、羨ましい」(中瀬さん)

単純な脳、複雑な「私」』(池谷裕二 著、講談社 刊)

「脳の錯誤も含めて、人間ってすごいな、ということを、脳科学で書いています。非常に哲学的、文学的に語られていて、ユーモアもたっぷりある本です」(中瀬さん)

怖い絵』(中野京子 著、KADOKAWA 刊)

「綺麗な絵も、中野さんの解説を読んでからその絵に戻ると、全く様相が変わって見えます。これこそ、情報と知性と物語性がばっちり詰まった本で、もう何度も読み直しています」(中瀬さん)

サピエンス全史』(ユヴァル・ノア ハラリ 著、河出書房新社)

「人間が、虚構や想像を言葉を通じて複数の固体で共有するようになったことで、後戻りできない変化が起きたという話が、一番刺激的でした。それが大きくなると、国や宗教という概念になる。結局小説だって、ある種の究極の起源は、そういうところにあるんだろうなと思い、これはぜひ紹介したいと思いました」(矢野さん)

魂でもいいから、そばにいて』(奥野修司 著、新潮社)

「一見オカルト風の本だと思うかもしれませんが、人間のイマジネーションの切実な有様を調べた本だと僕は思っています。これも、物語がいかに人間にとって根源的なものなのかを教えてくれた本として、すごく大切です」(矢野さん)

ジニのパズル』(崔実 著、講談社 刊)

「ここ最近で一番元気のいいデビュー作だと、僕は思いました。言語とか国みたいなものの軋みを、無茶苦茶跳ねるゴムの球みたいなセンスで物語に紡いでみせています。こういう人と仕事したいなと思って、すごく期待している人です」(矢野さん)

坑夫』(夏目漱石 著、岩波書店 刊)

「読む度に発見がある本です。漱石は僕にとっては、バッハ的な原点でして、常に好きなもの。クラシックも入れておきたいなと思って入れました」(矢野さん)


最後は、「物語の世界に萌えてしまうっていうのは、究極の生きるっていうことだと思う」という中瀬さんの言葉が贈られ、トークは終了。その後、質疑応答と懇親会が行われた。はじまったばかりのイベントシリーズ、「本3.0」。これからどんなリーダーの話が聞けるだろうか、次回も楽しみだ。

(文:岩間淳美)

■プロフィール

矢野優(やの・ゆたか)
月刊文芸誌「新潮」編集長。1965年生まれ。
1989年、新潮社に入社。「ゼロサン」編集部、出版部(書籍編集)を経て、2003年より「新潮」編集長。

中瀬ゆかり(なかせ・ゆかり)
株式会社新潮社 出版部 部長。1964年和歌山県出身。
奈良女子大学文学部卒業。1987年新潮社入社。「新潮45」編集長等を経て、2011年4月より出版部部長。「5時に夢中!」(TOKYO MX)、「とくダネ!」(CX)などに出演中。

佐々木紀彦(ささき・のりひこ)
1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。リニューアルから4カ月で同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に導く。2014年7月から現職。最新著書に『日本3.0』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』の著作がある。

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